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ザ、お猫様チャレンジ! です。
しおりを挟む「ここでもない、あそこでもない、どこなの?」
もう、本当に何処にいるのよー!
ローランド様と別れた後、私はイリア様を探して校内を歩き回っていた。
ゲーム内でイリア様が出没していた所は粗方探したのだけど、何処にもその姿は見当たらない。
もしかしたらもう帰ってしまわれたのかも、とも思ったのだけれどイリア様を探している途中、彼のお荷物が置いてあるのを発見してしまい。
けれど、当のイリア様のお姿が見当たらないままで途方にくれていた。
ーーにゃ……
そんな最中、何処からともなく甲高い猫の鳴き声が耳に飛び込んできて、私は誘われる様にその声の元に向かった。
猫と戯れたい下心とかではなく、もしかしたらそこにイリア様がいるかもしれないから。
いや、少しだけ下心もあるけれど。
「こっちから聞こえた気がしたのだけれど……やっぱりいらっしゃらないわね」
というか、猫の姿すら見えないのですが。
聞き間違いだったのかしら。
ーーうにゃー、にゃーん
「……? あら、やっぱりここら辺から聞こえるわ、でも何処に?」
やはり聞こえてきた鳴き声、しかし幾ら周囲を見回しても猫は見つからなくて。
「っ……どうしてそんな所に!」
そうしてやっと見つけた声の主は、遥か頭上。
木の枝の先だった。
まだ生まれて間もないだろうその子猫は、登れたは良いもののそこから降りられなくなってしまった様だ。
それも結構な高さだから、下手に落ちてしまえばいくら猫でも子供では受け身を上手く取れないかもしれない。
「あれは、イリア様……?」
そして幹の近くにはイリア様のお姿。
きっとイリア様もあの子猫を見つけて、助けようとそこまで迎えに行ったのだろう。
イリア様の身体能力なら木登りなんて目を瞑っていても熟せるもの。
しかし怯えきった子猫はイリア様に近寄る事が出来ずその場で震えていて、手をこまねいているようだった。
え、何! この下手な展開!
前世の少女漫画でも見たことないわよ、こんなコテコテのシチュエーションなんて。
「私は、どうすれば……あっ!」
一瞬の事だった。
私が夋巡している間に、何とか勇気を出したのか子猫が一歩を踏み出した。
しかし、踏み出した前脚はズルリと枝の上を外れて、子猫は体ごと枝から滑り落ちてしまう。
私は咄嗟に子猫の着地点まで走り寄り、受け止める様に両手を広げた。
「ぐふっ!」
次の瞬間には目の前が生暖かいモフモフに包まれ、衝撃を受け止めきれなかった私の体は後頭部から地面にこんにちは。
つまり両手を広げたにも関わらず、顔面キャッチしてしまった訳だ。
そうして私が後頭部の痛みに悶えている間に、子猫は顔の上から上手に地面に飛び降りて、そのまま姿を消してしまった。
「だっ大丈夫ですかっ!」
あぁ、イリア様と関わると何故かこんな目に遭ってばかり……猫難の相でもあるのかしら、私。
でも、顔面モフモフも悪くなかったわ。
少し口に毛が入ったけれども。
「大丈夫ですわ。イリア様」
「あ、貴方は……」
どうやら下にいたのが私だと気がついていなかったらしいイリア様は、枝の上から華麗に着地を決めた後、私の顔を確認すると一歩後ろに後ずさった。
ちょっと失礼じゃない?
私のイリア様にそんなに失礼な事した記憶ないんですけれど。
確かに若干ハンカチを人質……いや、物質? にしたかもしれないですが。
「面と向かってお話するのはお久しぶりですね、イリア様。お約束通りハンカチを返しに参りました」
満面の笑みを浮かべてあげれば、イリア様はヒクリと頰を引きつらせた。
まさか、私が本当にハンカチを返すと思っていなかった、とか?
いや幾ら何でも流石に借りた物は返しますよ、私だって。
「とりあえず……顔を、洗った方が……」
「……そうですわね」
さっきの一件で顔が猫の毛まみれですからね。
鼻の近くにくっついた毛がこそばゆくて、くしゃみが出そうだったのでイリア様の提案は有り難い限りです。
というか、やっぱりイリア様が心配するくらいには御令嬢として有るまじき状態ですよね、これ。
*********
「お待たせいたしました」
顔を洗っている間に逃げられてしまったらどうしようかと思ったのだけど、どうやら杞憂だったみたい。
律儀にその場で私の帰りを待っていて下さったイリア様。
しかもその足元には先程の子猫が!
近くで見ると、とても可愛いのですが!
「この子……さっき、ここまで戻ってきて……君、猫と仲良くなりたいって……言ってたから……」
「はっはい! とても、仲良くなりたいです! その子猫は触っても逃げませんか?」
「あっ、い、いきなり……手を出したら、びっくりしてしまうので……まずは、鼻の前に……こうやって、手を出して……」
イリア様の真似をして、鼻の前に指をそっと差し出すと、子猫は匂いを嗅ぐ様にその指に近寄ってきた。
かっ、可愛すぎるっ、夢が! 積年の夢の1つが!
「この子も、きっと……さっきの、お礼がしたいんだと、思うん……です」
「まぁ、何て良い子なの!」
私の上げた大きな声に子猫はビクリと体を震わせると、足早にイリア様の陰に隠れてしまった。
「あっ、驚かせてしまってごめんなさい……」
「大丈夫、怖くないよ」
イリア様はとても優しい声で子猫に話しかける。
私と話す時とは全く違った滑らかな話し方。
私ともそうやって話して欲しいものです、とは今はまだ言っても無駄よね。
「あっ……」
イリア様に促されて、おずおずと近寄ってきた子猫はもう一度私の匂いを確認すると、その体をそっと擦り寄せてきた。
どうしよう、このまま昇天してしまいそうなほど幸せだわ。
「君は、本当に……猫が、好きなんですね」
「え?」
「幸せそうな……顔を、して……ます」
え、幸せそうな顔って……私、だらし無い顔になってましたか?
だってもう顔面の筋肉が蕩けてしまいそうなんですもの!
「おかしいですか?」
「いえ……そういう、訳じゃ……」
ああ、もう私ったらいけないわ。
そうよね、確かに猫に触るのは私の長年の願いだったけれど、最優先すべきはイリア様との交流ですものね。
頑張ろうと決めた矢先にコレですもの。
本当、自分の意思の弱さに呆れるわ。
さぁ、イリア様と交流を始めましょう!
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