8 / 32
イベントよりも最推しが尊すぎて困ります。
しおりを挟む「……ど、うして……」
「は?なんか言ったか、馬鹿者」
んもう、馬鹿者とか辞めてよね!
考え事してるのに全然頭が働かないじゃない。
急に頭の中に降って湧いた考え。
これってもしかして終わった筈のフィリクス様ルート出会いイベントなんじゃないかって事。
しかし、覚えている出会いイベントと今回の出来事、最初から今に至るまで流れとしては殆ど異なる物で。
それでもつい先程感じた既視感、私とフィリクス様がローランド様を挟んで睨み合っている姿は、私がゲームの中で見た出会いイベントで出たスチルと完全に一致するものだった。
だけどユリオット様のお勉強イベントの時はスチルと一致する場面なんて一度も訪れなくて、流れも違ったけれど、それでも記憶に残るイベントのキッカケと、時期、大まかな筋までは脱線していなかった。
だからコレが本当の出会いイベントと言い切ることは出来ない。
ただこの機会を利用しない手はないでしょうと心の中の自分が告げていた。
だってイリア様同様、フィリクス様の次イベントでも土台となる印象を持たせておくに越した事は無いのだから。
フィリクス様の出会いイベント、それはヒロインが学院に登校する様になって1ヶ月経った頃に発生する。
クラスに親しい友人も出来ず、暇を持て余しているヒロインの日課は学院内を縄張りとしている野良猫と遊ぶ事。
その日もお気に入りの猫と戯れた後、疲れを感じたヒロインは少し休憩を取ろうと考えた。
学内でも死角になっている裏庭の芝生を陣取ると徐に横になり、暖かな日差しに包まれた心地良さに彼女はうっかり眠ってしまう。
そこに通りがかったのがフィリクス様。
彼は眠るヒロインを見て人が倒れているのだと勘違いし、駆け寄り声を掛けた。
しかし眠っていただけのヒロインは突然起こされた事に驚き、フィリクス様に文句を言ってしまう。
親切心から声を掛けただけのフィリクス様はその態度に腹を立て、ここでもまた女性に迷惑をかけられた事で女性嫌いが発動し、ヒロインについつい酷い事を言って応戦するの。
外で転がって寝るなんてはしたない、令嬢失格だ、とか親切で声を掛けたのになんて言い草だ、とかね。
まぁ、それに関しては実際言ってる事は間違って無いと思うし。
けれど、ヒロインもそんな事は分かっているとばかりに言い返してしまって、それで二人の言い合いはヒートアップしてしまうのよ。
そんなタイミングで現れるのがローランド様。
ローランド様はクラスに馴染めていないヒロインを案じていて(イリア様の事も心配していたしね)いつもフラリと姿を消すヒロインを探しに来ていたのだけど、偶然見つけたヒロインがフィリクス様と居るからびっくり。
ローランド様のお父様とフィリクス様のお父様は幼馴染で仲が良く、その関係からローランド様はフィリクス様のお父様に幼い頃から師事していて、俗に言う兄弟子と弟弟子みたいな関係性。
そして、フィリクス様をフィル兄と呼び、誰よりも強い彼を尊敬して懐いていたのだから。
『どうしたんだい二人とも』
そう声を掛けられた二人がバッ勢いよく振り向いて口々に起こった事をローランド様に言いつけるんだけど、お互い腹が立っているから言いたい放題。
互いの言い分を聞いて更に苛立ちを募らせた二人はローランド様を挟んで睨み合い、また言い合いを始める。
と、まぁそれがスチルになった場面で、現在の私達と立ち位置から状態まで酷似した場面なんだけど。
「なんだ馬鹿者、急に大人しくなって漸く反省したのか?それともローランドの前だから猫でも被りだしたか?」
あー、腹が立つ!
イベントの時はフィリクス様の言い分も納得出来る所があったから理解出来たけど、こんなのただの言い掛かりじゃないの。
猫?そりゃローランド様の前だったら被りたいに決まってるでしょ!私大好きなのよ、ローランド様が!
馬鹿者、馬鹿者って何回言えば気に済むのかしらこの人。
「猫なんか被って無いですわ。ただ、少し冷静になっただけです。ローランド様、お見苦しい所をお見せしてしまい申し訳ありません」
「いや、なんだかミシェルの新たな一面を見れて楽しかったよ」
ローランド様はいつもの様に爽やかな笑顔になられるとそう言って下さったけれど。
新たな一面って何ですか?
気性の激しいヒステリー女にでも見えてしまったかしら。
もう!これはフィリクス様の所為なのに納得出来ない。
「あ、あの。普段はこんな風にはならないんですのよ?ただ……その、そこの人を馬鹿者呼ばわりする失礼な無礼者にカッとなってしまって」
「おい!無礼者とは何だ、この猫被りめ!無礼者はお前だろう!」
「なっ、猫被りなんかじゃありませんわ。コレが本当の私なんです!無礼者に礼儀を弁える必要なんて無いだけですわ!」
「ふん、だからそれが素だって事だろう。男の前だと良い顔ばかりして、これだから女と言うものは信用出来ないんだ」
「フィル兄、ちょっと言い過ぎだよ」
若干困った様な表情になられたローランド様。
それもそうだろう、フィリクス様はお父様の言いつけ通りに女性には表面上だけは親切に接する事を心掛けている。
だから普段女性にはこんな強い態度は取らないのだ。
フィリクス様が本心では女性嫌いである事を仲の良いローランド様は存じているけれど、面と向かって女性に対してここまで声を荒げているフィリクス様を彼は見たことがない筈。
「でも、フィル兄が羨ましいな。俺もミシェルには気を使わずフィル兄に対するみたいに言いたい事を言ってくれた方が仲良しみたいで嬉しいよ」
「ひゃっ⁉︎え、あ、あの、それは……」
「駄目?」
「でも、親しき仲にも礼儀ありと言いますし……」
「別に粗雑に扱ってくれって言ってる訳じゃ無いんだ。ただミシェルとは気を使わず、フランクな関係を築いていきたいなと思ってるだけで」
「そんな……ローランド様……」
「俺の両端で二人だけの空間を作ってイチャイチャするな!」
「「イチャイチャなんてしてない(ませんわ)!」」
ローランド様の優しいお言葉に感動で潤み始めていた瞳が、フィリクス様の無遠慮な突っ込みで一瞬にして落ち着いてしまった。
せっかく良い雰囲気だったのに邪魔しないでよね!
でも、ローランド様とハモってしまったわ……イチャイチャしてないってがっつり否定されてちょっと傷付いたけれど。
「もういい、俺は帰る!」
「じゃあ、俺も帰ろうかな?今日はフィル兄の家に行く日だったし。あ、ミシェル。俺フィル兄の父さんに剣術を習ってるんだ。それでフィル兄の父さんって言うのが」
「ローランド、父上が剣豪と呼ばれている事ならそこの女は知っているぞ」
「え、そうなのか?」
「え、ええ。グローバー公爵様とその息子であるフィリクス様の事は有名ですので」
私がフィリクス様の事を知っているのはゲームの情報があるからだけれども、ローランド様に言ったことも嘘ではない。
本当にフィリクス様とそのお父様はとても有名なのだ。
ただ普通のご令嬢は剣豪や剣術の事なんて余り興味は無いかもしれないけれど。
「ははは、そりゃそっか。と言う訳で今日はフィル兄と一緒に帰るよ。送ってやれなくて悪いな」
「いえ、今日は先日と違って明るいですし、お気になさらないで下さい。ローランド様こそお気をつけて、怪我などなさらぬ様」
「うーん、それは難しいかもな。そうだ、今度ミシェルも見においでよ。ご令嬢にはあんまり楽しくないかも知れないけど」
「行きます!是非見学させて頂きたいですわ!」
「おい、勝手に決めるな!俺はそんな女がうちに来ることを許してないぞ!」
「まぁまぁ、いいじゃないか。フィル兄がこんなに素で話してる女の子も珍しいし、案外気が合うかもよ?」
「それはない!」
私もフィリクス様と同意見だ、とは流石に言えず苦笑いを漏らした。
本当に彼と仲良くなって、その上彼を含めた逆ハーなんて作れるのかしら。
「一刀両断だな、フィル兄。ま、それならそれで俺は構わないけどね。それじゃミシェルまた明日」
「……?御機嫌ようローランド様…………と、フィリクス様。」
ローランド様の意味深な一言が気になったけれど深くは追求出来ず、そのままに挨拶を返した。
ついフィリクス様にはつっけんどんな言い方になってしまったけど、いいでしょう。
「何だ、その取ってつけた様な挨拶は!」
「はいはい、フィル兄落ち着いて。ミシェル明日からは俺にもフランクにね。楽しみにしてる!」
「えっ⁉︎あ……」
返答は聞かないとばかりに言い残して足早に去ってしまったローランド様を見送り、私はじわじわと顔を赤く染めた。
どうしましょう、ローランド様に仲良くしたいと言われてしまったわ。
フランク?フランクってどんな感じかしら……
『おはよう、ローランド!』
なんて言って肩を叩けばいいの?
いやいや、無理!それは無理!
でも……
『おはよ、ミシェル』
嬉しそうに振り向くローランド様までセットで想像してしまって、そのまま私は撃沈した。
素敵、素敵過ぎるー!
それからしばらくの間その場で悶え続けた私は、いつの間にか周囲が暗くなってしまった事に気がついて慌てて家路に着いたのだった。
0
お気に入りに追加
578
あなたにおすすめの小説
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
私の作った料理を食べているのに、浮気するなんてずいぶん度胸がおありなのね。さあ、何が入っているでしょう?
kieiku
恋愛
「毎日の苦しい訓練の中に、癒やしを求めてしまうのは騎士のさがなのだ。君も騎士の妻なら、わかってくれ」わかりませんわ?
「浮気なんて、とても度胸がおありなのね、旦那様。私が食事に何か入れてもおかしくないって、思いませんでしたの?」
まあ、もうかなり食べてらっしゃいますけど。
旦那様ったら、苦しそうねえ? 命乞いなんて。ふふっ。
私はあなたの正妻にはなりません。どうぞ愛する人とお幸せに。
火野村志紀
恋愛
王家の血を引くラクール公爵家。両家の取り決めにより、男爵令嬢のアリシアは、ラクール公爵子息のダミアンと婚約した。
しかし、この国では一夫多妻制が認められている。ある伯爵令嬢に一目惚れしたダミアンは、彼女とも結婚すると言い出した。公爵の忠告に聞く耳を持たず、ダミアンは伯爵令嬢を正妻として迎える。そしてアリシアは、側室という扱いを受けることになった。
数年後、公爵が病で亡くなり、生前書き残していた遺言書が開封された。そこに書かれていたのは、ダミアンにとって信じられない内容だった。
侯爵様と婚約したと自慢する幼馴染にうんざりしていたら、幸せが舞い込んできた。
和泉鷹央
恋愛
「私、ロアン侯爵様と婚約したのよ。貴方のような無能で下賤な女にはこんな良縁来ないわよね、残念ー!」
同じ十七歳。もう、結婚をしていい年齢だった。
幼馴染のユーリアはそう言ってアグネスのことを蔑み、憐れみを込めた目で見下して自分の婚約を報告してきた。
外見の良さにプロポーションの対比も、それぞれの実家の爵位も天と地ほどの差があってユーリアには、いくつもの高得点が挙げられる。
しかし、中身の汚さ、性格の悪さときたらそれは正反対になるかもしれない。
人間、似た物同士が夫婦になるという。
その通り、ユーリアとオランは似た物同士だった。その家族や親せきも。
ただ一つ違うところといえば、彼の従兄弟になるレスターは外見よりも中身を愛する人だったということだ。
そして、外見にばかりこだわるユーリアたちは転落人生を迎えることになる。
一方、アグネスにはレスターとの婚約という幸せが舞い込んでくるのだった。
他の投稿サイトにも掲載しています。
婚約破棄される悪役令嬢ですが実はワタクシ…男なんだわ
秋空花林
BL
「ヴィラトリア嬢、僕はこの場で君との婚約破棄を宣言する!」
ワタクシ、フラれてしまいました。
でも、これで良かったのです。
どのみち、結婚は無理でしたもの。
だってー。
実はワタクシ…男なんだわ。
だからオレは逃げ出した。
貴族令嬢の名を捨てて、1人の平民の男として生きると決めた。
なのにー。
「ずっと、君の事が好きだったんだ」
数年後。何故かオレは元婚約者に執着され、溺愛されていた…!?
この物語は、乙女ゲームの不憫な悪役令嬢(男)が元婚約者(もちろん男)に一途に追いかけられ、最後に幸せになる物語です。
幼少期からスタートするので、R 18まで長めです。
石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました
お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。
その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。
婚約破棄されなかった者たち
ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。
令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。
第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。
公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。
一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。
その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。
ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。
王子を助けたのは妹だと勘違いされた令嬢は人魚姫の嘆きを知る
リオール
恋愛
子供の頃に溺れてる子を助けたのは姉のフィリア。
けれど助けたのは妹メリッサだと勘違いされ、妹はその助けた相手の婚約者となるのだった。
助けた相手──第一王子へ生まれかけた恋心に蓋をして、フィリアは二人の幸せを願う。
真実を隠し続けた人魚姫はこんなにも苦しかったの?
知って欲しい、知って欲しくない。
相反する思いを胸に、フィリアはその思いを秘め続ける。
※最初の方は明るいですが、すぐにシリアスとなります。ギャグ無いです。
※全24話+プロローグ,エピローグ(執筆済み。順次UP予定)
※当初の予定と少し違う展開に、ここの紹介文を慌てて修正しました。色々ツッコミどころ満載だと思いますが、海のように広い心でスルーしてください(汗
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる