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次のイベントの計画を立てます。

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「まずは何をすれば良いかしら」
 それが問題だった。

  

  

  

 腹を括ったのはいい。
 もうやるしか無いのだから。
 でも、最初の出会いとなる筈のファーストイベントが全て終わってしまってるのが痛い。
もう少し早めに腹を括るべきだった……

「つべこべ言ってても仕方ないわね。とりあえず直近のイベントは?」

 確か公爵家の次男ユリオット様とのイベントだった筈。

 ユリオット様といえば……次男という立場から出来の良い跡取りの長男と何かと比べられ、両親からは出来損ないの烙印を押され冷遇を受けて育った。
 そこで捻くれてしまうかと思いきや、ユリオット様は実直に努力を重ねて着々と力をつけていく。
 お陰で同世代の中ではトップクラスの優秀な成績を納めることが出来るんだけど、それは同世代の中での話。
 常にトップだった兄にはどうしても勝てないままだった。

 拭いきれない劣等感を心の中に抱いていた彼は、入学後初めて行われるテストで入学から1ヶ月も姿を現さなかったポッと出のヒロインに成績を1位の座を奪われてしまう。
 その事でヒロインにも長男に抱いていたような劣等感を刺激されて、表面上には現さないけれど内心彼女を苦手に思い始める様になっていく。
 けれども、ある日彼女が遅くまで残って勉強している所に遭遇して、サポキャラのサポートもあり(つまりローランド様のお陰ね! )成り行きで一緒に勉強する事になり、その境遇や、考え方に触れることで心境に変化が起き始めて……と、こんなストーリーだった筈。

「しかも跡取りの長男は優秀だと思われてたけどめちゃくちゃ裏で不正しまくってた上に、影でユリオット様の足を引っ張ってたのよね。クソ野郎ってやつだわ」

 その不正を見つける足掛かりになるのもヒロイン。
 最終的には全て不正が暴かれた長男は両親から見放されて、公爵家からは追放。
 代わりにユリオット様が公爵家を継ぐんだけど、長い間ユリオット様を冷遇していた癖に真実を知った途端掌返しをするようにユリオット様にやさしくし始めた両親とユリオット様との溝は中々埋まらなくて、そんなユリオット様の心の傷を癒してあげるのもヒロインだったのよ。

 思い返してみてもいい話ね……

「確かにユリオット様は不憫だわ。血もにじむような努力をしているのに報われないなんて、しかもズルをした長男が優遇され続けるなんて許せない」

 つまりユリオット様ルートは悪役令嬢ならぬ悪役令息として長男が立ちはだかる訳だ。
 正直、女社会のドロドロとか面倒臭いなーと思っていた私的にはまず最初の足掛かりとして悪役令息と戦うのも悪く無いかな、なんて思う訳で。
 なんやかんやあった後、ユリオット様が公爵家の跡取りになるのは王国が救われた後だし、心の傷何ちゃら辺りは健全な一友人としてケアに当たって差し上げましょう、そうしましょう。


 うん、だって私にはローランド様が居るから!


「て、事で最初のイベントのテストは終わってしまってるから……」

 どう取っ掛かりをつけたら良いのかしら。
 図書館でお勉強イベントが1番近いのに、苦手意識を持たれてなくちゃ興味すら引けないじゃない。
 図書館でド平凡が遅くまで残って必死に勉強してたら、平凡のくせにがり勉か‼ って引かれるのが関の山だし。
 本来ならばサポートして下さるはずのローランド様とも私は御挨拶しかできない、つまり多分サポート対象外。
 どうしましょう。





「んん?………あ、そういえば私テストで1位取っちゃったんだったわ」

 ええ、そうです。
 私、1位取っちゃったんです。
 だって、何回もあのテスト受けたんだもん、ゲームの中で。
 乱世絢爛は各種ステータス上げも必要なゲームだったからお勉強もしっかり頑張りました。
 まさか、今回のテストがゲームで受けたテストと全く同じ内容だと思わなくて……嬉しくなって思わず覚えてる事全部書いちゃった、テヘ。

 こんなチートみたいな能力で勝たれたユリオット様可愛そう、とか言わないで欲しい。
 だって前世ではスムーズなゲームクリアの為に死ぬ程勉強したんだもの。
 前世だろうと、今世だろうと頑張ったことには変わりないんだから!

 兎に角、テストでユリオット様を抜いて1位を取っちゃったからには多少なりとも苦手意識を抱いて貰えてる筈。
 まぁ、ヒロインみたいに一か月遅れたりせず、最初から一緒に授業は受けてたから、ちょこっとインパクトは弱いかもしれないけれど。
 苦手意識までいかなくても印象には残ってる……よね、多分、きっと、そうだといいなぁ。
 ここでド平凡発揮して印象にすら残ってなかったら、どうしよう。

 そうは言っても、もう私にできる事はないわ!
 後は今日から数日間は図書館で遅くまで篭りきりでお勉強している……ふりでもすればイベントに漕ぎ着けるかしら。

  

 

「そうと決まれば、お父様に報告しなくちゃ」

 そう考えて、げんなりした。
 お父様は所謂娘溺愛系パパで、その溺愛されている張本人というのが私だ。
 だから、勉強で遅くなるなどと言おうものなら……


「勉強なら家でも出来るだろう? ミシェルは飛びぬけて可愛いんだ、遅くまで学内に残るなんて事をして不埒な輩に目をつけられでもしたらどうするんだい。それに、先日のテストでは1番だったじゃないか。これ以上頑張って体を壊しでもしたら大変だ。別にそんなに良い成績を取らなくても十分私は鼻が高いぞ? だから、それは許可できないな」

 やはり許してもらえなかった。
 どうにも親の欲目でお父様の目には私が超絶美少女に写っているらしく、幼い頃から過度な心配を寄せられている。
 まずドが付くほどの平凡な私を狙うような輩は殆どいないと思うが、それでなくても幼い頃から身を守る為、と護身術を一通り身につけさせられた私がそこら辺の男にそうそう簡単に負けるとは到底思えない。
 しかも行き帰りは執事が付き添ってくれているし、我が家の馬車に乗っての移動だ。
 一体これのどこに危険があると言うのだろうか。

「お父様、ミシェルはお父様が心配している程もう子供じゃないんですよ。家だけでは調べられる資料にも限界がありますし、学院に居れば難しい問題につまづいた時に素早く先生方に質問も出来ます。別に毎日ずっと遅くなると言っている訳じゃ無いんですのよ? まだ入学したばかりで授業のやり方にも慣れていないので、キチンと予習復習に力を入れたいんですの。それにある程度自分の身は自分で守れます。そんな事位お父様もご存知でしょう?」

 殊更にっこりと笑って言えば、グッと言葉を詰まらせるお父様。
 正論と笑顔攻撃に何とか反論の言葉を探していたようだけれども、結局起死回生の一手は見つからなかったらしくがっくりと項垂れてしまった。
 なんだかんだ言って、私の笑顔に弱いのよね。

「だが……」
「もちろん何かあれば直ぐにセバスに報告致します。お願い、お父様」

 セバスとは私の送り迎えをしてくれている執事の事で、普段はお父様のお世話に付いている。
 彼はとても有能なので、大抵の問題ならば相談しただけで速攻で解決してくれる頼もしい存在だ。
 だから、そのセバスに報告するという約束はお父様としてもそれなりの安心材料になる筈で。

「うううう、わかったよ。ミシェルには敵わないな」
「ありがとう!大好きよ、お父様」
「私も愛してるよ、ミシェル」

 漸く明確な承諾も取れて一安心の私は自室に帰ってため息をついた。
 だって、お父様の相手は疲れるのよ。
 記憶が戻る前は何気なく出来ていたお父様との会話も、今では羞恥心が先立ってしまい心の何処かで私何言ってるのかしら、と冷静に突っ込んでしまう自分がいる。
 だってあんな満面の笑みで大好きよ、お父様って……
 前世でお父さんにそんな事一回も行った事ないわ!
 勿論お父さんの事も好きだったけれども。

「はぁ……」

 羞恥心に火照る顔を冷やしながら、足早にベッドの傍まで近づくと、柔らかな布団目掛けてバフッと頭からダイブした。
 令嬢としてあるまじき行動だとはわかっているけれども、現在私の中の半分くらいは只の一般女子なんですもの。

「本音で言うとこの話し方だって結構恥ずかしいのよ! ですわ、とかですのよ、とか……」

 でも、明日からは一層気を付けないといけない。
 攻略対象達を目の前にして素なんて出そうものなら、好感度を上げるどころかドン引きされてしまう事必至。
 ただでさえド平凡な見た目なのにガサツで令嬢失格の女だと思われたりしたら……
 何よりもローランド様に知られた瞬間に私は羞恥心で死ねる自信がある! 

 しかもサポキャラとしてストーリーに深く関わってくるローランド様との接近率はこれまでの比じゃなくなる筈だから、ド平凡な見た目はどうにもならないけれど明日からは学院内全てで本気で令嬢の猫を被り切って見せましょうじゃないの。
 目指すは完璧令嬢!


 それにしても、ローランド様とご挨拶以外にお話しできるかもしれないなんて……

  


「幸せ過ぎる―‼」

 妄想にキャアと叫び声を上げながら、バタバタと足をばたつかせる私に完璧令嬢の道はまだまだ遠いみたい?






  
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