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別れ

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おばあ様は私に魔力を与え、そして戻った時に魔法陣の効力を自分のものにする方法を教えてくれた。
つまり、魔法陣の中にある魔力を取り込む事が出来るようになるのだ。

「ナタリー、送ってあげるわ。」

「お願いします。」

戻る方法は自分の肉体との繋がりを探し出す事。細い糸のような繋がりを探す為に神経を集中させていく。

「ナタリー、、」

目を閉じて集中していると、おばあ様の声が聞こえてきた。目を開けてそちらを見ようとしたが、おばあ様はそのままでと念を押してくる。

「ピエール様から聞いたわ。あなた魔王様と付き合いしてるのね。」

お付き合い?果たしてあの関係をお付き合いと呼ぶのだろうか?
そしてピエール様がその事実を知っていると言う事にも驚いた。

「私が旦那様と結婚した時はそれはそれは周りから反対されたのよ。お互いの親族から、、嫌がらせも受けたし、結婚を諦めようとした事もあったわ。」

集中を切らす訳にいかず、私は目をつぶったまま黙って話しを聞いていた。

「今の世がどのような状態なのか分からないけれど、あなた達にもきっと障害があるわ。」

おばあ様がそう言いながら私の背中にそっと掌を当てる。それは優しく送り出すような仕草だった。

「でも、あなたなら大丈夫。私の孫なのだから。魔王様に沢山愛してもらいなさい。ナタリー、、幸せになってね。」

堪らず目を開けておばあ様に抱きつこうとした時、グンっと身体が何かに引っ張られる感覚がした。
肉体の繋がりを見つけ、魂が肉体に帰ろうとしているのだと分かった。

「おばあ様、、さようなら。」

目を開け、おばあ様を見ればおばあ様の瞳は涙で濡れそぼっていた。

「おばあ様、、、」

「ナタリー、、あのね、、」

そしてお別れの言葉の替わりにある事をおばあ様は私に伝えてきた。
それを聞いた私の顔は熟れたトマトの様に真っ赤に染まり、阿呆の様に口も開きっぱなしだった。
そんな阿呆な顔のまま私の魂は引きずられて行くのだった。



「行ってしまったわ。」

残されたマーガレットとピエールはしばらく居なくなったナタリーの方を見ていたが、マーガレットの異変に気付くとピエールは目を見開いた。

「マーガレット様!?お身体が!?」

マーガレットの身体が光り輝きながら少しずつ消えて行っていたのだ。
驚くピエールに対してマーガレットは穏やかな顔で微笑んだ。
困惑した顔でピエールは尋ねた。

「マーガレット様、、これは?」

震える手でピエールはマーガレットの消えゆく手を取った。普段なら勝手に身体に触れるといった行為など絶対しないが、そんなことを言っている場合ではない。

「ナタリーに力を与えればこうなる事は分かっていたわ。」

一度目を閉じててマーガレット諦めた様に顔を振った。

マーガレットはここで転生の準備をしていた。
死んだ魂は新たな肉体を持って生まれ変わる。死んだ者達はここへ来てそれを自ずと理解するのだ。
この不思議な空間で新たな生命に魂を宿す為に皆、力を蓄える。
マーガレットは近いうちに転生するはずだった。
しかし、その力を全てナタリーの為に使い、マーガレットにはもう自分の魂をここに留めておく力も残っていないのだ。

「私は悔いのない人生を送ったの。死ぬ瞬間、何の後悔も無かったわ。」

消え行く身体でマーガレットは最後の力を振り絞るようにピエールに語った。

「でも、、自分の子供が幸せに暮らしているのか。それだけは気がかりだったわ。魔族と人間が争い始めれば、結果は分かり切っているもの。いつか魔族と人間は衝突する、、そう思いながら愛しい家族を残して旅立つのは、、」

マーガレットの全身の光は目を瞑らなければいけないほど輝いた。
最後の瞬間彼女は満面の笑顔だった。

「でも孫に会えたわ。あぁ、何て幸、、、」

そして唐突に彼女は消えた。

「マーガレット様、、ありがとうございました。」

ピエールは深々と頭を下げた。彼ももう死んだ身だ。後はナタリーに任せる他ないだろう。

「人間はどうなるのだろうか、、」

そうポツリと囁いた彼の目にあり得ないものが目に映った。

「ッ!!!」

あまりの驚きに声も出ない。
手足が震え出すのを感じた。
しかし、一歩、一歩と確実にそのモノの方へと歩き始める。
そのモノの顔は見えない。
いつも豪華絢爛な装いをしていたモノが、今は粗末な装いをしているので本当にそのモノかどうか判断出来ない。
しかし、間違い無い。
自分の中から湧き上がる感情はそう告げていた。

「、、、陛下。」

ピエールがそう声を出せば、膝立ちになりがくりと顔を下に落としていたそのモノはビクリと肩を震わせた。

「、、ピエールか?」

顔を持ち上げピエールの方を見たそのモノは、バゼルハイド王、その人だった。

「陛下、、なぜ?」

今戻ったばかりのナタリーに彼はうたれたのだろうか?向こうとは時間の進むスピードが違うのだろうか?
頭でグルグルと疑問が湧き上がる。

「、、ピエールよ、、わしは、殺されていたのだ。」

「殺されていた?」

バゼルハイド王はコクリと頷いた。彼はどこか心許ない子供の様な表情をしている。

「ゴロランドが処刑された後、、ヴェルディスの手により殺された。」

「!!!」

ピエールは目を見開き驚いた。ではあのバゼルハイドと思っていた男は誰だったのか。ピエールの中でどんどん疑問は増えるばかりだ。
しかし、彼の中で1つ憂いが無くなった瞬間でもあった。

「ブッ、、ブハッ!!アハハハハハ!!」

そう思えばピエールは笑うのを堪えられなかった。

「!!!」

次に驚いたのはバゼルハイドだった。彼の腹心がここまで笑った姿など生まれて初めて見たのだ。しかも彼にはピエールが笑う理由が分からなかった。

「ピエール、、?」

バゼルハイドは立ち上がったがそのまま茫然と立ち尽くす他無かった。

「すみません、、いや、、申し訳ありません陛下、、」

彼は謝りながらもまだ肩を震わし涙を流していた。

「、、泣くほどとは、、何がそんなに面白いのだ?」

バゼルハイドは少し口を尖らし、彼には珍しく拗ねた表情をしていた。

「、、ハハッ、、ハァー、、面白いのでは無いのです。」

ピエールは涙を拭った後、バゼルハイドに向き合うように立つと、深々とお辞儀をした。

「陛下、、私はあなたに殺されたわけではなかったのですね。」

「???」

バゼルハイドはピエールの言葉にキョトンとしたが、ピエールの言葉を繰り返し唱えるうちに意味が分かったらしい。

「そうか、お前はわしになりすましたヴェルディスに殺されたのだな?」

「、、はい。」

申し訳なさそいな顔をしたピエールに、バゼルハイドはかぶりを振った。

「お前がそんな顔をする必要は無い。わしだって簡単に殺されたのだ。」

「、、陛下。」

バゼルハイドは彼にしては優しい笑みをピエールに見せた。

「陛下?」

「ピエール、わしらはもう死んだ。」

その言葉にピエールは頷く。

「後は残されたモノに託すしか無いだろう。」

「、、そうですね。」

「ピエールよ、、」

「はい。」

「もう死んだのだ。腹を割って話しをせぬか?」

「話しですか?」

ピエールの顔には何の話しをするのだと書いてある。バゼルハイドはまた拗ねた顔になって言った。

「何でも良い。好きな女の話し、好きな食べ物の話し、嫌いな奴のこと、、何でもだ。わしはもう王でない。ピエール、お前とは野望や身分の隔たりがなければくだらん話が出来ただろうと思っていた。」

「、、陛下。」

「、、友に、、なれるかと、、」

真っ赤に染まりながらそう言ったバゼルハイドにもう王の威厳は無かった。
ピエールはそんな彼を微笑ましく見た後、意地悪な顔でこう言った。

「私も言いたかった事があります。」

「何だ?」

「フフッ、、この、、石頭の分からず屋!!」

「!!!」

ピエールの急な暴言にバゼルハイドは目を見開いたまま固まった。

「お前を一度ぶっ飛ばしてやりたかったんだ!!」

「なっ、、何を、、」

驚くバゼルハイドが見たのは悪戯小僧の笑み。ピエールは憎しみの気持ちからそう言っているのでは無いと悟ったバゼルハイドにも自然と笑みが浮かんだ。
しかしそれは優しい笑みとは程遠い、悪ガキの笑みだった。

しばらくして2人の殴り合う音がその場に響いたが、2人の顔は晴れやかだった。
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