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令嬢の秘密

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マリアは自分の生い立ちをアルベルトに語った。

8歳の時にアルベルトを初めて見たマリアは彼に恋をした。
しかし公爵家の令嬢と婚約している事を知り、叶う事のない恋心だと幼いながらも悟り、憧れの人として心の隅に恋心を追いやった。

しかし、母親にだけはとその恋心を打ち明けた事があった。

「そしたら、お母様が私があなたをヒロインにしてあげるってそうおっしゃったの。」

マリアは夢見る少女のような顔でそう語った。

「ヒロイン?」

「そう、ヒロイン。」

マリアの母親には前世の記憶というモノがあった。日本という島国で生まれた彼女は30歳の時に事故で死にこの世界に生まれ変わったのだと言う。
その日本で彼女がハマっていたものが、乙女ゲームというものだった。

「お母様が言うには、この世界がその乙女ゲームの世界にとても酷似しているんですって。」

興奮して話すマリアの話しは分かりにくい上に内容も複雑だ。アルベルトは理解するのに必死だった。

「私はこの世界のヒロインではないのだけれど、お母様からヒロインの知識を余す事なく教えられたの。もしアルベルト様に出会う事が出来た時に、私がこの世界のヒロインになり変われるようにと。」

「むちゃくちゃな話しだな。ヒロインだのゲームだの、、」

「でも、お母様が言っていた方々は本当に学園に居ましたのよ?悪役令嬢や攻略対象者、そしてヒロインが。」

「その、この世界のヒロインとは誰なんだ?」

アルベルトの質問にマリアは得意そうに人差し指を掲げて言った。

「フローラ・レイバンス男爵令嬢です。でもなぜか彼女は悪役令嬢と仲良しこよしですし、光の魔法も発揮しなかったみたいですし。ヒロインらしき要素は私には見当たらないように思えましたわ。」

「そうすると悪役令嬢はナタリーか。」

「はい。」

マリアはキャルンッと音がしそうな程の笑顔でそう頷いた。

「多分ヒロインが何も頑張らなかった結果、お母様の言っていたバッドエンドとやらに進んで今の状況になったのだと思います。」

「バッドエンド?」

「魔物の達に国を占拠され追い出されたこの状態です。悪役令嬢も人質として投獄されましたし。なぜかヒロインも付いて行きましたけど。」

マリアは首を傾げながら、まぁ良いかと呟いた。

「それで悪魔と契約した経緯は?」

「えーっとですね。バッドエンドに進む前に悪魔と契約するっていう選択があるのですが、魔方陣と詠唱で悪魔を呼び出すのです。お母様はそのゲームを何度も何度も繰り返ししていたので、魔方陣の図柄も詠唱も一言も漏れずに覚えていたのです。」

マリアは自慢げに笑ったが、アルベルトは冷ややかな目で彼女を見た。ゲームとやらがハッキリ何か分からないが、仕事で無い事は確かだ。
それを見聞きしただけで魔方陣やら詠唱やらを覚えるなど、本当に何度も何度も繰り返しそれをしたのだろう。
暇だったのか?そう言いかけて彼は口を噤んだ。マリアの機嫌を損ねて情報を手に出来なくなるのは困る。

「それでヴェルディスを呼び出したのだな?」

「はい!」

悪魔と契約する際、願いに見合った対価を差し出さねばならない。その対価に見合わねば契約した者の魂を取られてしまうとマリアの母は言った。

「そこで私はナタリーの話しを出してみたんです。カイエン様と契約してるみたいですよって話しも出して。何かヴェルディス様ってお兄様達と上手くいってないんですって。だから、その話し出したら面白そうだって喜んで!」

興奮し出したマリアをいさめるように、アルベルトは片手を上げてマリアを落ち着ける。

「それでマリア、お前は何を願うつもりなんだ?」

マリアはその質問に笑顔でこう答えた。

「魔王様の命を奪ってってお願いするつもりですわ。」

「!!!」

「バゼルハイド王様がそうすればアルベルト様と結婚させてくれるって言ってくれたんです。」

「マリア!チョット待て!魔王だけを殺すなどと破滅するだけだ!今俺達が生きているのは魔王が人間をかばったからだ!忘れたのか!?」

「えー、でも、バゼルハイド王様に約束してしまいましたし。そっかぁー、じゃぁ、もう一度相談してみますね!」

人類の存続をかけた大切な話しをしているとは思えない程、軽い調子で話しを続けるマリアにアルベルトは目眩を起こしかける。

(俺の目を覚まさしてくれたナタリーが供物とされかかり、魔王の命が狙われ、魔王の弟が人間側に居て、、どれだけ問題が山積みなのだ。)

彼は自分の出来る事を必死で考えるのだった。


その日から2日後、ゴロランド王の処刑が執り行われた。
大勢の人が集まり、皆がゴロランド王に憎悪の念を向けた。
そして、バゼルハイド王がくれた復讐の機会に皆が歓喜し、そして感謝したのだった。

朝から始まった処刑は、昼を過ぎてもまだ終わらなかった。
まだ行列が出来ており、時折ゴロランド王の叫び声が聞こえている。

「この処刑方法なら、ここにいる全員が針で刺したとしてもゴロランド王は死んではいないでしょうね。小さな仕返しかもしれませんが、民は皆に復讐の機会をくれたあなたに感謝する事でしょう。」

ピエールが自慢の髭を撫でながらバゼルハイド王に語りかけた。

「それだけでない。私は清廉潔白な人間が嫌いだ。ここにはやましい事をせずに生きてきた心の綺麗な者達も中にはいるだろう。今は興奮してゴロランド王を刺した事を正義と思っているが、家に帰り冷静になれば必ず罪悪感が生まれる。私はそういう人間の方が好きだ。そういう奴らの方が操りやすいからな。」

そう言いながらニヤリと笑うバゼルハイド王を見ながらピエールは少し震えた。

「王よ、最近さらに冷酷になられましたな。」

ピエールのその言葉にバゼルハイド王は満足そうに頷く。

「褒め言葉として貰っておこう。」

そう言い残し去って行く途中、王は振り返りピエールに言い残す。

「終わっても尚奴が生きていれば、そのまま箱に詰めて魔王の元へ送れ。そいつが元凶だという書簡と共に。」

そう言い残し笑いながら王は去って行った。

「はい。」

ピエールは青い顔をしながらもうやうやしくお辞儀をしたのだった。
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