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同期

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イアンが大浴場を後にし廊下へと出た時、目の前を鬼のような形相をしたサイレーイスが通りかかった。

『チョット、何よその恐ろしい顔!あんた下手に顔が整ってるんだから、余計に怖いのよ!ニコニコしなさいよ!』

突如そんな風に怒鳴られたサイレーイスの機嫌はさらに悪化する。もうこれ以上無いという程眉間のシワが深くなるのだった。

『うるさい!お前こそスッピンなら男の服を着ろ!メイド服着てスッピンとかあり得んだろう!』

イアンは脱衣所で汗だくの服を脱ぎ捨て、お風呂から出た後、置いてあった綺麗なメイド服を着ていた。

『あら、前は私のメイド服があり得ないって言ってたくせに、何だかんだ言って認めてたのね?』

『グヌヌヌッ、口の減らないオカマめ!!!』

サイレーイスは真っ赤な顔になったが、気を落ち着かせる為に深呼吸を始めた。

『ハァー、私はこんな所で油を売っている暇はないんだ!!ナタリー様がウロウロするせいで私がハデス様の仕事までしなくてはならない。お前は良いな、身体を鍛えて風呂に入っていたのだろう?』

サイレーイスにジロリと睨まれたが、イアンはサイレーイスと同期である。多少の事で臆したりはしない。

『あら、それは仕方ないじゃない?ハデス様の右腕になってハデス様を支えたいと言ったのはあなたでしょ?』

『ウッ、、。そうだ。確かに私だ。分かってるさ。チョット愚痴っただけだろう?仕事に戻るさ。』

途端にサイレーイスから怒りの炎が消え去った。シュンッとして見るからに肩が落ちてしまったので、イアンは彼を慌てて追い掛けた。

『チョット、待ちなさいよ!』

『何だ?まだ何かあるのか?』

鬱陶しそうにしながらもサイレーイスは律儀に足を止める。
サイレーイスは一見紳士な男に見えるが、腹は真っ黒で策略家な男だ。腹の中で何を考えているか分からない。こんなにも素を見せて話すのはイアン相手の時だけだろう。

『ハデス様は一体いつフローラの事を好きになった訳?』

『あぁ、その話しか。それなら私も不思議に思っていた。フローラ様がここへ来てから、ハデス様と接触があったのは最初の挨拶だけだろう?あの時ハデス様がフローラ様を見る目は冷めていたように思ったのだが。』

サイレーイスの言葉にイアンは何度も頷く。

『ハデス様はフローラみたいな見た目が派手な令嬢は苦手でしょう?どうして好きになったのかしら?』

『ご執心な様子だったからな、、あんなハデス様を見たのは初めてだ。まぁでもしかし、今はそれどころでは無いだろう?ヴェルディス様の行方が分からなくなった上に、人間達とも停戦したというよりは冷戦状態。我々はやるべき事を山ほど抱えている。そうだろう?』

『分かってるわよ。でも、あんただってハデス様が恋をしているかもって知って興奮したんでしょう?小躍りしてた所を私の部下が見てたんだからね。』

冷静沈着を装っていたサイレーイスは、思いも見なかった攻撃に狼狽えた。

『グッ、、仕方ないだろう。これまでハデス様は女性に一切興味を示さなかったのだから。このままではハデス様は一生独身、、そうなれば子宝にも恵まれず、、グッ、、』

『チョット、泣かないでよ!悪かったわよ!そうね、継承者問題であなたはずっと頭を悩ませてたものね。今、ヴェルディス様のような反人間派や、弱い魔物を奴隷とする考えを持った者が魔王の座に着けば血の雨が降るものね。』

サイレーイスが情け無い顔で涙を流したのを見て、イアンは慌てて彼をフォローする言葉を並べる。
グスンッと鼻をすするとサイレーイスは自信を取り戻した顔に戻る。

『そうだ。それだけは防がねばならない。』

『でも意外ね。あなた人間嫌いで有名なのに。』

『確かに好きか嫌いかで言えば嫌いだ。だが、嫌いだから滅ぼしても良いとかそんな短絡的な考えをする連中と一緒にして欲しくは無い。お互いに言葉を学べば会話が出来るのだ。私は会話を通し分かり合う道を模索しようとしているハデス様の考えを支持している。』

『そうね。フフッ、あんたのそういう所好きよ。』

『、、うるさい。オカマに好かれても嬉しく無い。』

『、、そうゆう所は嫌ぁぁい!』

そんな話しをしていると、いつの間にかハデスが居る大広間までやって来ていた。中を覗けば彼はいつもの机で書類と睨めっこしているようだった。
しばらくその様子を遠くから眺めていたのだが、ハデスはその視線に気付き顔を上げた。書類を置いて気怠そうに頬杖をつくと口を開く。

『2人揃って現れるとは珍しいな。どうかしたのか?』

同期の2人は一瞬見つめ合うと、どちらから切り出すかを腕でつつき合いながら苦笑いするのだった。
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