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報告
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街に入ってしばらくすると、お父様の姿が見えた。私の姿に気付き、手を振りながら転げるように走って来るお父様を私はヴォルフから飛び降りギュッと抱きとめた。
「ナタリーどうしたんだ!?それにこの馬は一体!?」
お父様は目を白黒させていた。私は自慢気な顔でヴォルフの身体を撫でながら彼を紹介する。
「この子はヴォルフ。ここまで私を連れて来てくれたの。水を飲ましてあげたいのだけど、良い場所はあるかしら?」
「あぁ、それはもちろん。こちらへおいで。ナタリー、良く来たね。お前がここに居るのはハデス様は知っているのだろ?」
「はい。多分。」
「多分?」
私は聞き返されてチロリと舌を出す。
「イアンというメイドさんが伝えてくれると言ってくれたの。だから多分伝わっているはずなのだけど。お父様、イアンを知っている?」
「イアン、、嫌、分からないな。私達は城へ行く事が無いからね。街へ偵察に来る者しか分からないんだ。だが、今ハデス様の周りにいる者達は皆側近中の側近だろう?魔物の国の魔王城に沢山の従者達を残してきているだろうからね。そんな選ばれた方に頼んだのならちゃんとハデス様に伝えてくれてるさ。」
「イアンは側近だったのね。やるわね。」
「それで、ハデス様の印象はどうだったんだ?」
「ハデス様の?どうと言われても困りますけど、恐ろしい方でしたわ。」
私がそう答えると、カイエンが私の嘘を見破ったようにお父様も直ぐに私の頬が赤くなったのに気付き笑った。
「ハッハッハッ、そうかナタリーはハデス様の様な男が好きなのだね?」
「お、お父様!?そんな事は一言も!!」
しかし私の答えは聞かずに、お父様は機嫌良く笑いながら私の頭をポンポンと叩いた。
「父さんはアルベルト殿よりハデス様のの方が気に入っているのだがね。しかし、、実際は中々難しい恋路だろうね。人間と魔物との争いはお前達のお陰で表面上は治った。しかし、お互いに憎しみを抱き合っているままだ。本当の意味では治るはずないのだよ。」
「そうですね。って、ハデス様の事は良いのです。皆の話しを聞かせて下さい!」
「アッハッハッ、ナタリーは何歳になっても可愛いなぁ~。」
「もう!お父様!!」
真剣に怒る私の頭を愛しそうに撫でながら、お父様は私を家へと案内した。
ナタリーが街に着いた頃、イアンはハデス様の居る大広間へとやって来ていた。理由はナタリーが街へ出かけた事を伝える為ともう一つ、実はイアンは人質3人に逃亡や反逆の意思がないか探る為に彼らの側でいるのだ。
日に一度それを報告をするようハデスより仰せつかっていた。
『失礼致しますハデス様。』
ハデスは気だるそうに机に向かっていた。直前まで身体を鍛えていたのか、彼は上半身裸であり湯気が上がっているように見えた。
それを見たイアンの胸はドキリと跳ねる。
『ハァー、美しいですわ。盛り上がった胸筋も、太い二の腕も、綺麗に割れた腹筋も何もかも芸術のようです。』
イアンの心の声が漏れ出したので、ハデスは呆れたような顔をしている。
『ハデス様を見て汚れた言葉を吐くのはやめろ。』
そう冷たく言い放ったのはサイレーイスだ。
サイレーイスとイアンは元はハデスの率いていた軍に所属していたのだが、ハデスが先代魔王より魔王の称号を継いだ時に各々軍を抜けハデスの側近となった。
サイレーイスはハデスの右腕として常に側でサポートし、イアンはメイドとなって彼の心身を支えている。
お互いハデスを守りたいと思う気持ちは同じなのだが、2人はとても仲が悪い。旧友がゴツイおかまになってしまったのだから、サイレーイスの気持ちも皆理解出来たのだが、イアンは皆から慕われている。
性格に難のあるサイレーイスは皆から敬遠されているので、人気のあるイアンに彼は嫉妬もしていた。
要するに、サイレーイスのやっかみによる嫌味のせいで2人は仲が悪くなってしまったのだ。
『あら、美しい者を美しいと言って何が悪いわけ?あんたは天使みたいな見た目だけど、ホント腹が真っ黒よね。』
『うるさい!!報告に来たのだろうが!早く報告しろ!!』
『はいはい。って、あんたに報告しに来た訳じゃないわよ。チョット黙ってなさい!』
『何を!!!』
サイレーイスの美しい顔に青筋が立った。今にも掴みかかろうとする彼を、ハデスが気だるそうに、しかし威圧感たっぷりの声音で2人を止めた。
『サイレーイスやめろ。話しが進まん。イアン、報告を!』
彼にジロリと睨まれた2人は冷や汗をかきながら離れた。
イアンは一度礼をしてから話し始める。
『ナタリーとフローラに逃亡や反逆の意思は無いと言い切って良いでしょう。ミカエルは自身の現状を良しとは思っていないようですので分かりませんが。しかし正義感が強そうな男です。魔族だから、魔物だからという理由で剣を振るう事は無いように思います。』
『そうか。お前は3人とも気に入ったという事だな?』
ハデスの目がギラリと光った。疲れているせいだろう、いつもに増して恐ろしい雰囲気のハデスにさすがのイアンでさえビクッと肩を震わせてしまう。
『はい。そうです。』
『そんなに簡単に信じて良いのですか?ナタリー様は16歳にしては見た目が幼過ぎますし、ミカエル殿は近衛騎士団団長だったそうではないですか?つい最近まで剣を交えていたというのに、そんなに簡単に気持ちが変わるものでしょうか?』
イアンよりも反人間派の考え方をしているサイレーイスである。彼は簡単には心を許さない。
『ハァー、あんたの気持ちも分かるけど、こればっかりは話してみないと分からないわよ。あんたも腹割って話してみれば良いじゃない。』
イアンはサイレーイスに諭すように話しかけた。イアンにしては珍しく、優しくそれは母親のように。しかし、返って来た言葉はというと、
『うるさい!オカマは黙っておれ!』
だった。
イアンの顔が真っ赤になり、青筋が立ち、それから2人は取っ組み合いの喧嘩になりかけた所を、ハデスがサイレーイスの首根っこを掴み部屋から放り出してしまう。
『ハァー、いい加減にしろ。お前達は本当に仲が悪いな。』
ハデスが心底疲れた顔でため息を吐いた。
『申し訳ございません。アイツの顔を見るとイラッとしてしまって。』
『今は魔族の者達で揉めて良い時ではないぞ?気を付けろ。』
静かに怒るハデスの顔を見て、イアンはもう一度頭を下げた。
『それで報告は以上か?』
『いえ、ナタリーが街へ行くと言って朝から出かけました。』
『街へ?1人でか?』
『はい。』
『監視は?』
『カラスを一匹付けておりますが、先程無事街へ着いたと報告がありました。』
カラスと言っても魔物のカラスだ。犬ほどの大きさに足が三本生えている。気配を断つことが出来るので、偵察にうってつけの魔物なのだ。
『そうか。まぁ、出入りは制限しなかったから構わないが、自由な令嬢だな。人質の自覚はあるのか?』
『考えはしっかりした娘だとは思いますが、謎の多い娘ではありますね。』
『と言うと?』
『ナタリーが街に行くのに乗って行った馬はヴォルフです。』
『ヴォルフだと!?あの馬が娘を乗せたのか!?』
『はい。』
ハデスは目を見張った。
それもそのはずだ。
カイエンが姿を消してから、ヴォルフは誰も乗せなくなった。主人を失い落ち込んでいたヴォルフが心を開いたのはマートンだけだった。
しかし、マートンはケンタウロス、ヴォルフには乗る事は出来ないのでヴォルフは主人を失ったまま10年以上も誰も乗せていなかった。
『一体何者なんだ、、。』
ハデスは呆然と天を仰いだ。
そして、イアンはもう一つ、ナタリーが魔族の言葉を話せる事を報告するつもりだったのだが、イアンは何故かそうしなかった。
イアンはハデスに背いた事など一度も無い。ハデスへの忠誠心は本物で、彼の為に死ねと言われれば喜んで死ねるほど彼を愛している。
しかし、サイレーイスの態度を見て、イアンはそれを隠していた方がナタリーにとって有益な情報を手に入れる事が出来るだろうと判断したのだ。
昨日会ったばかりの人間の令嬢に自分がこれほど肩入れしている事にイアンは心の中で驚くのだった。
『では、私は仕事に戻ります。』
『あぁ、頼む。また何かあれば知らせてくれ。』
「はい!」
大広間を出たイアンは、ナタリーが魔族の言葉を話す事を知ったであろうマートンの元へ足早へ向かうのだった。
目的はもちろん口止めの為。
『口止め料には何が必要かしら?』
ちなみにマートンの想い人は何を隠そうこのゴツイおかまである。それを知っているイアンは口止め料に何が良いかなど最初から分かっていた。
しばらく経って、マートンは鼻歌を歌いながら機嫌良く仕事に励んでいた。
その頬には真っ赤なキスマークがあったのだが、もちろん誰も突っ込む事は出来い。
「ナタリーどうしたんだ!?それにこの馬は一体!?」
お父様は目を白黒させていた。私は自慢気な顔でヴォルフの身体を撫でながら彼を紹介する。
「この子はヴォルフ。ここまで私を連れて来てくれたの。水を飲ましてあげたいのだけど、良い場所はあるかしら?」
「あぁ、それはもちろん。こちらへおいで。ナタリー、良く来たね。お前がここに居るのはハデス様は知っているのだろ?」
「はい。多分。」
「多分?」
私は聞き返されてチロリと舌を出す。
「イアンというメイドさんが伝えてくれると言ってくれたの。だから多分伝わっているはずなのだけど。お父様、イアンを知っている?」
「イアン、、嫌、分からないな。私達は城へ行く事が無いからね。街へ偵察に来る者しか分からないんだ。だが、今ハデス様の周りにいる者達は皆側近中の側近だろう?魔物の国の魔王城に沢山の従者達を残してきているだろうからね。そんな選ばれた方に頼んだのならちゃんとハデス様に伝えてくれてるさ。」
「イアンは側近だったのね。やるわね。」
「それで、ハデス様の印象はどうだったんだ?」
「ハデス様の?どうと言われても困りますけど、恐ろしい方でしたわ。」
私がそう答えると、カイエンが私の嘘を見破ったようにお父様も直ぐに私の頬が赤くなったのに気付き笑った。
「ハッハッハッ、そうかナタリーはハデス様の様な男が好きなのだね?」
「お、お父様!?そんな事は一言も!!」
しかし私の答えは聞かずに、お父様は機嫌良く笑いながら私の頭をポンポンと叩いた。
「父さんはアルベルト殿よりハデス様のの方が気に入っているのだがね。しかし、、実際は中々難しい恋路だろうね。人間と魔物との争いはお前達のお陰で表面上は治った。しかし、お互いに憎しみを抱き合っているままだ。本当の意味では治るはずないのだよ。」
「そうですね。って、ハデス様の事は良いのです。皆の話しを聞かせて下さい!」
「アッハッハッ、ナタリーは何歳になっても可愛いなぁ~。」
「もう!お父様!!」
真剣に怒る私の頭を愛しそうに撫でながら、お父様は私を家へと案内した。
ナタリーが街に着いた頃、イアンはハデス様の居る大広間へとやって来ていた。理由はナタリーが街へ出かけた事を伝える為ともう一つ、実はイアンは人質3人に逃亡や反逆の意思がないか探る為に彼らの側でいるのだ。
日に一度それを報告をするようハデスより仰せつかっていた。
『失礼致しますハデス様。』
ハデスは気だるそうに机に向かっていた。直前まで身体を鍛えていたのか、彼は上半身裸であり湯気が上がっているように見えた。
それを見たイアンの胸はドキリと跳ねる。
『ハァー、美しいですわ。盛り上がった胸筋も、太い二の腕も、綺麗に割れた腹筋も何もかも芸術のようです。』
イアンの心の声が漏れ出したので、ハデスは呆れたような顔をしている。
『ハデス様を見て汚れた言葉を吐くのはやめろ。』
そう冷たく言い放ったのはサイレーイスだ。
サイレーイスとイアンは元はハデスの率いていた軍に所属していたのだが、ハデスが先代魔王より魔王の称号を継いだ時に各々軍を抜けハデスの側近となった。
サイレーイスはハデスの右腕として常に側でサポートし、イアンはメイドとなって彼の心身を支えている。
お互いハデスを守りたいと思う気持ちは同じなのだが、2人はとても仲が悪い。旧友がゴツイおかまになってしまったのだから、サイレーイスの気持ちも皆理解出来たのだが、イアンは皆から慕われている。
性格に難のあるサイレーイスは皆から敬遠されているので、人気のあるイアンに彼は嫉妬もしていた。
要するに、サイレーイスのやっかみによる嫌味のせいで2人は仲が悪くなってしまったのだ。
『あら、美しい者を美しいと言って何が悪いわけ?あんたは天使みたいな見た目だけど、ホント腹が真っ黒よね。』
『うるさい!!報告に来たのだろうが!早く報告しろ!!』
『はいはい。って、あんたに報告しに来た訳じゃないわよ。チョット黙ってなさい!』
『何を!!!』
サイレーイスの美しい顔に青筋が立った。今にも掴みかかろうとする彼を、ハデスが気だるそうに、しかし威圧感たっぷりの声音で2人を止めた。
『サイレーイスやめろ。話しが進まん。イアン、報告を!』
彼にジロリと睨まれた2人は冷や汗をかきながら離れた。
イアンは一度礼をしてから話し始める。
『ナタリーとフローラに逃亡や反逆の意思は無いと言い切って良いでしょう。ミカエルは自身の現状を良しとは思っていないようですので分かりませんが。しかし正義感が強そうな男です。魔族だから、魔物だからという理由で剣を振るう事は無いように思います。』
『そうか。お前は3人とも気に入ったという事だな?』
ハデスの目がギラリと光った。疲れているせいだろう、いつもに増して恐ろしい雰囲気のハデスにさすがのイアンでさえビクッと肩を震わせてしまう。
『はい。そうです。』
『そんなに簡単に信じて良いのですか?ナタリー様は16歳にしては見た目が幼過ぎますし、ミカエル殿は近衛騎士団団長だったそうではないですか?つい最近まで剣を交えていたというのに、そんなに簡単に気持ちが変わるものでしょうか?』
イアンよりも反人間派の考え方をしているサイレーイスである。彼は簡単には心を許さない。
『ハァー、あんたの気持ちも分かるけど、こればっかりは話してみないと分からないわよ。あんたも腹割って話してみれば良いじゃない。』
イアンはサイレーイスに諭すように話しかけた。イアンにしては珍しく、優しくそれは母親のように。しかし、返って来た言葉はというと、
『うるさい!オカマは黙っておれ!』
だった。
イアンの顔が真っ赤になり、青筋が立ち、それから2人は取っ組み合いの喧嘩になりかけた所を、ハデスがサイレーイスの首根っこを掴み部屋から放り出してしまう。
『ハァー、いい加減にしろ。お前達は本当に仲が悪いな。』
ハデスが心底疲れた顔でため息を吐いた。
『申し訳ございません。アイツの顔を見るとイラッとしてしまって。』
『今は魔族の者達で揉めて良い時ではないぞ?気を付けろ。』
静かに怒るハデスの顔を見て、イアンはもう一度頭を下げた。
『それで報告は以上か?』
『いえ、ナタリーが街へ行くと言って朝から出かけました。』
『街へ?1人でか?』
『はい。』
『監視は?』
『カラスを一匹付けておりますが、先程無事街へ着いたと報告がありました。』
カラスと言っても魔物のカラスだ。犬ほどの大きさに足が三本生えている。気配を断つことが出来るので、偵察にうってつけの魔物なのだ。
『そうか。まぁ、出入りは制限しなかったから構わないが、自由な令嬢だな。人質の自覚はあるのか?』
『考えはしっかりした娘だとは思いますが、謎の多い娘ではありますね。』
『と言うと?』
『ナタリーが街に行くのに乗って行った馬はヴォルフです。』
『ヴォルフだと!?あの馬が娘を乗せたのか!?』
『はい。』
ハデスは目を見張った。
それもそのはずだ。
カイエンが姿を消してから、ヴォルフは誰も乗せなくなった。主人を失い落ち込んでいたヴォルフが心を開いたのはマートンだけだった。
しかし、マートンはケンタウロス、ヴォルフには乗る事は出来ないのでヴォルフは主人を失ったまま10年以上も誰も乗せていなかった。
『一体何者なんだ、、。』
ハデスは呆然と天を仰いだ。
そして、イアンはもう一つ、ナタリーが魔族の言葉を話せる事を報告するつもりだったのだが、イアンは何故かそうしなかった。
イアンはハデスに背いた事など一度も無い。ハデスへの忠誠心は本物で、彼の為に死ねと言われれば喜んで死ねるほど彼を愛している。
しかし、サイレーイスの態度を見て、イアンはそれを隠していた方がナタリーにとって有益な情報を手に入れる事が出来るだろうと判断したのだ。
昨日会ったばかりの人間の令嬢に自分がこれほど肩入れしている事にイアンは心の中で驚くのだった。
『では、私は仕事に戻ります。』
『あぁ、頼む。また何かあれば知らせてくれ。』
「はい!」
大広間を出たイアンは、ナタリーが魔族の言葉を話す事を知ったであろうマートンの元へ足早へ向かうのだった。
目的はもちろん口止めの為。
『口止め料には何が必要かしら?』
ちなみにマートンの想い人は何を隠そうこのゴツイおかまである。それを知っているイアンは口止め料に何が良いかなど最初から分かっていた。
しばらく経って、マートンは鼻歌を歌いながら機嫌良く仕事に励んでいた。
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