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帰省

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「何とかなりましたねぇ。」

「えぇ、アイリス様のお陰です。」

リリーさんが叩いて作ったペースト肉は、大量のパン粉で混ぜる事によって成形出来た。

「それにしても、、これだけパン粉が入ったら、ハンバーグというよりパンバーグなのでは?」

「アイリス様、上手い!一本!」

「、、一本?」

「いえいえ、さぁ焼きましょう焼きましょう。」

フライパンにパンバーグを入れ終わったところで、後ろからそっと抱きしめられた。
フワリとヴェルがいつも付けている香水の匂いが漂い、胸が熱くなる。

「アイリス、ごめんね。」

顔を見なくともヴェルが今どんな顔をしているのか、何となく想像する事が出来た。

「いえ、私こそ。ヴェルは心配してくれていたんですよね?」

「アイリス、、」

さらにギュッと抱きしめられ、顔まで熱くなるのが分かった。
しかし、気まずそうにしているリリーさんとヘドリックの視線を感じて私は慌てる。

「ヴェル、ご飯にしましょう?」

「あぁ、そうだね。」

ヴェルは私がフライ返しを持っている手に自分の手を添えた。

「???」

一緒にパンバーグをひっくり返そうという事なのだろうが、何ともやりにくい。二人羽織のような気分である。
何とか4個ひっくり返した所でヴェルの気が済んだのか手が離れた。
私がホッと息を吐いてヴェルの方を見るとヴェルは声を出さずに笑っていた。

「もう!!ヴェル!!」

「ハハッ、ハァー、、アッハッハ!」

「、、もう、、フフッ、、。」

私達はそのままもう一度ギュッと抱き合い、本当の仲直りをした。

ご飯を食べた後、そのまま皆食堂に残った。
私の手には小さなティアラが乗っている。

「付けます。」

「あぁ。」

今度はしっかりとヴェルが頷いてくれる。
私はそっと頭にティアラを乗せた、、




次の日の昼、ミカエル様は12時ちょうどに我が家を訪れていた。
今日は訪問を知らされていたので、朝から仕込みをし豪華な昼ご飯でもてなしが出来た。

「アイテール様!!美味しいです!!」

美しい顔が歪むほど大口でバクバクと食べ進めるミカエル様に、その場にいる者皆苦笑いである。

「ミカエル様、アイリスと呼んで下さい。」

「あぁ、しょうでしちゃね。アイリシュしゃま。」

「、、、食べてからで良いです。」

散々食べ散らかした後でミカエル様はお腹をさすりながら溜め息を吐いた。

「はぁー、、これは地上にたまに来たくなりますねぇ。」

「、、そうですね。天界では飲んだり食べたりする必要も無いから、、その分楽しみは減りますもんね。」

「ん?その様子ではアイリス様記憶を戻したんですね?ティアラを付けて無かったので、てっきり天界行きは断られるかと思っていました。」

「あぁ、ティアラを付けたままではヴェルに触れられないようだったので、なるべく昔の記憶を今の自分の記憶にとどめてから外しました。これはお返しします。」

私は小さなきらめくティアラをミカエル様に返した。

「分かりました。アイテール様になって戻ってくるまで私が保管しておきます。」

「お願いします。」

「それで本題に入っても?」

ミカエル様がそう言うと、先にヴェルがいくつか質問したいと切り出した。
ミカエル様の顔が少し険しくなったのは気のせいだろうか?

「それで質問とは?」

「アイリスでないと問題は解決出来ないのだな?」

「はい。」

「世界の均衡が崩れるとは?」

「実際に起こってみないと正確な事は分かりませんが、貴方達が住んでいるこの世界が、元から無かったものとされ跡形も無く消えてしまう、、。かもしれません。」

ヴェル、私、ヘドリック、リリーさん、皆の息を飲む音がした。世界が消えてしまう、、事態は思っていたより悪いようだ。

「質問は終わりですか?」

「いや。これが一番大事だ。アイリスに危険は?私は付いて行けないから、、」

「それはそうでしょう。あなたは魔界の住人だ。魔王みたいにヒョイヒョイこちらへ来る者が増えたら困ります。」

「ミカエル!!」

あまりの言いように私は叫んだ。ミカエル様を呼び捨てにしたのは、アイテールの記憶に引っ張られたからかもしれない。

「これは失礼しました。アイリス様に危険が無いかでしたね?天使達が皆でアイリス様を守るつもりですし、ガブリエル様もアイリス様の顔を見れば落ち着くんでは無いかと思っています。しかし、絶対安全とは言い切れません。」

「そうか、、」

ヴェルは苦々しい顔をした。

「でも私が行かなければ、この世界が無くなるかもしれないんですよね?」

「はい。この世界どころか、魔界、そして他にも世界はありますから、そちらにも影響があるやもしれません。」

「そうですか、、。」
 
私は横に座っているヴェルの顔を見つめた。彼は私が言いたい事を察し目をそらそうとしたが、私は彼の手を握りそれを許さない。

「ヴェル、、」

「あぁ、、分かってる。」

「ちゃんと戻って来ます。」

「あぁ、、待ってる。」

ヴェルが了承してくれた事にホッと胸をなでおろす。

「ミカエル様、出発は?」

「早ければ早い方が。天界では特に必要なものもありませんし、今から行きますか?」

「、、そうですね。皆の住んでいる世界が大変なことになってしまう前に。」

「では行きましょう!それでは皆さん、アイリス様を少しお借りしますね。」

ミカエル様は私の腕を掴むと無理やり立たせて歩かせようとしてくる。それをヴェルが奪うようにして私を抱き寄せた。

「乱暴はよせ。」

ヴェルの言葉に、今まで涼しい顔をしていたミカエル様の顔が真っ赤になり、怒りを爆発させた。

「乱暴だと!!魔界に住むヴァンパイア風情が、天使の私に指図するのか!」

今までの美しく穏やかな彼が全て嘘だったかのような激しさだ。しかし、私は恐れよりも怒りが先に立った。

「ミカエル!!失礼です!!」

怒りに震える私の瞳は、青空のような透き通った水色から、輝く金の瞳へと変わっていた。

「アイテール様、申し訳ありませんでした。」

私の変化を察したミカエルは、片膝をつきうなだれる。

「ヴェル、、ごめんなさい。」

「それは良いんだが、、アイリス、、君はアイテールに戻ったのか?」

ヴェルの不安に揺れる瞳を安心付けるように私は彼の胸にコツンと頭を預けた。

「いえ、力を解放出来ただけのように思います。私は私です。でも、、」

「でも?」

「今、天界に行かねばならないと、、自分の奥底からそんな声が聞こえてくるんです。私、、行ってきます。」

「あぁ、、行ってらっしゃい。」

私達はもう一度抱き合い、そして今度こそ私達の住む家を離れたのだった。

「アイテール様、、お手を。ここからは人間の身にはツライ道です。私があなたの身体を守ります。」

「お願いします。」

私はミカエルと手を繋ぎ、天界へと帰ったのだった。
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