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ここぞという時

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リリーさんと私は、目の前にうじゃうじゃといるアルゲドンを退治しながら前へと進んでいるうちに、城の門より外へとやって来ていた。

「キリがない。どっからか湧いて出て来てるんじゃないの?」

リリーさんはブラウスの前ボタンをいくつか開け放ち、たわわな胸の谷間を露わにしながらバズーカーを肩から下ろし石垣に座り込んだ。

「確かにそうですね。リリーさん、そのバズーカーは魔力を弾にしてるんですよね?」

「えぇ、そうです。」

「魔力量は?」

「そうですねぇ、あと半分ってところでしょうか?アイリス様は?」

「私は分かりません、、。魔力が抜けて行く感覚はあるのですが、、。」

「私達の魔力を全て使い切った所で殲滅は難しいかもしれません。やはりクリスティーナ様達が戻ってくれなければ片は付かないでしょうね。」

「、、クリスティーナ様。」

その時向こうの方でゴーレムと戦う騎士達の中に少し小さな少年がいる事に気が付いた。
私は笑顔になり大きく手を振ったところでハタと気がついた。これはマズイと。
向こうに小さく見える少年はこちらを凝視するかの様に身体をこちらに固定し動かなくなった。そしてしばらくすると早足でこちらへとやって来るのだった。

「、、リリーさんマズイ。友達に戦闘に加わってるのにバレました。」

私が青い顔でそう言うと、リリーさんはニヤリと笑った。

「アイリス様、あなた隅に置けませんね。恋人がいるのですね?」

「違う違う違う!違います。私は向こうの世界に夫が、、彼は学校の友達でっていうかサバト君ですよ!!リリーさん気になるって言ってたじゃないですか、この場を何とかして下さいよ!」

「あんれまぁ!サバト様が来るのですか!?それはいけませんわ。こんな化粧もハゲハゲの時に、、でもこれはチャンスですわね。えぇ、アイリス様私に任せて下さいませ。」

明らかに怒っている歩き方でやって来たサバト君の前にリリーさんが立ちはだかった。アイリスと言おうとしたアの口のままサバト君の口が固まってしまう。

「初めましてん、サバト様。私、アイリス様に支えさせて貰っております、リリー・フロランスと申しますのん。あら、あらあらあらあら、遠くから見た時も素敵だと思いましたが、近くで見ればもう何なのこのけしからん見た目は。」

そう言いながらリリーさんはサバト君の事を舐め回すように眺めて舌舐めずりした。
怒っていたはずのサバト君が青い顔で私に助けを求める目で見てきたので、私は密やかに心の中でガッツポーズをする。もう怒られそうにない。

「リリーさん、ゴーレムがコッチにやって来ましたよ!」

そして私はここで助け舟を用意した。いや、本当にヤバい。巨大な岩の塊の魔物が直ぐそばまでやって来ているのだ。

「これはサバト様に良い所を見せるチャンスですわ!!さてやりますわよ!!」

リリーさんは下ろしていたバズーカーを肩に乗せるとゴーレムにぶっ放した。目の前のゴーレムは見事粉々に吹っ飛んだが、後ろからまたどんどんやって来る。

「サバト君、私は戦えるから心配しないで。それにもう城内だってきっと安全じゃない。」

それを証拠に城内からも煙が上がっている。

「そうだな。それにしてもこれいつまで続くんだ?さすがに皆魔力が尽きるぞ。」

私は第一騎士団の人達を眺めてみたが、魔法で退治している人は少なく皆力技のように見える。

「ま、魔力関係あるかな?」

私の問いにサバト君が自分で言っておいて苦笑いした。

「体力が尽きるの間違いかな?」

サバト君は言い直すと剣を構えた。ゴーレム達が襲いかかってきたからだ。
私も薙刀を握り走り始めた。

「皆の者!!!良く耐えてくれた!!!」

皆が待ち望んでいた人の声がその場に響き渡った。
頭上を見ると強烈な白い光が魔竜の体を取り囲んだ。その光が治ると魔竜の体は2つに分かれて落ちて、、来なかった。
結界内で切られたのか、2つに切れた体も流れ出した血も空中で止まっている。
その後同じように他の魔竜が切られた後、クリスティーナ様とイサキオス様が姿を見せた。
皆が歓喜の声を上げた。

その後マグリットとアルルーノが騎士を連れ戻って来た事により、魔物退治が急速に進み事態は収束するはずだった。

「あぁ、アイリス、あなたも戦ってくれていたのね。」

私は目の前に立ちはだかったゴーレムを倒したところで後ろから声をかけられた。振り返り声の主を見る。

「クリスティーナ様、ご無事で何よりです。」

「アイリスも。さてここも片付いたみたいね。国民の無事を確認して、城内も状況も把握しないと。」

「そうは行きません!!!」

クリスティーナ様の言葉を誰かが遮った。驚いて、私とクリスティーナ様は声の主を見た。
ちょうどイサキオス様やマグリット様達も集まって来たところだったのだが、皆異変を感じ臨戦体制に入る。

「良くもまぁ私の可愛い魔物達を殺してくれましたね。」

私達が見たものは、ピエロのような仮面を付けた背の高いヒョロッとした男の姿だった。

「あなたは?」

クリスティーナ様がそう聞くと、ピエロ男は笑い始めた。

「クックックッ、初めまして。私は赤の魔術師団団長のローレインと申します。以後お見知り置きを。」

「あなたが、、良くも我が国の民を危険に晒してくれたわね。」

「ハッ!!あんなもの!!あんなもの序の口ですよ。本番はこれから、、皆やれ!!」

ピエロ男、ローレインの言葉で同じ姿の男達がワラワラと現れ私達と対峙した。
しかしワラワラと言っても10数名程である。形勢が変わったようには見えない。

「それで、その人数で私達と戦うと言うの?よっぽど腕に自信があるのね。」

クリスティーナ様は斜め右を見やりイサキオス様を隣へと呼び寄せる。いつでも相手を捕まえれる体制を整えいるようだ。

「おやおや、私に手を出しても良いのですか?」

「どういう意味?」

「皆さん、少し左右に分かれて女王様に私達の切り札を見せてあげて下さい。」

ローレインの言葉で他のピエロの男達は左右均等に分かれたのだった。そして彼らが退いた後に現れたのは、、

「エリーゼ、、」

「フッフッフッフッアハハハハハッ!!はーい形勢逆転ですね!!あっ、エリーゼ様にあなたの結界を施そうとしても無駄ですからね?魔法除けの魔術具を付けさせて貰ってますから。」

「、、卑怯者、、。」

「卑怯者?そんなの当たり前でしょ?私達がまともにやり合って勝てるはず無いのですから。あっ、エリーゼ様だけではあなたの立場上、エリーゼ様を見捨ててでも国を守らなければならないでしょうから、街の子供達を数名人質に取らせて貰ってます。」

縄で縛られたエリーゼ様の後ろに、小さい男の子や女の子が縛られ転がされていた。そして良く見ればアーデルハイト殿下も縛られているでは無いか。

アーデルハイト殿下、、あなたここぞという時に何捕まってるんですか。

私は心の中でため息を吐いた。アーデルハイト殿下が悪いのでは無いが、彼の見せ場はここであっただろうにと思うと残念でならなかった。

「それで、どうしろというの?」

「おや物分かりの良い女王様でいらっしゃる。助かりますね。私達はここを私達の拠点にしたいのです。赤の魔術師団から赤の魔術師帝国へと進化させる為、ここが必要なのです。」

「勝手な事を、、。そんなのあなた達だけで国が回せるとでも?国の情勢を安定させる事がどれ程大変な事かも分からずに、勝手な事言わないで!」

クリスティーナ様の激しい言葉にローレインは面白くなさそうに肩をすくめた。そしてしばらくグルグルと歩き回った後で閃いたとばかりに飛び上がる。

「ではあなた達も今の地位で残して差し上げましょう。とは言ってもクリスティーナ様には女王を退いてもらいますが。私はエリーゼ様と結婚して王様になります。人質を周りにはべらしながら嫌な仕事はあなた達にして貰って、私は理想の国創りに専念させて貰いましょうかね。」

「なっ、、、」

「あぁ、良い考えです。クリスティーナ様あなたのお陰で良い考えが思い浮かびましたね。ありがとうございます。さて、それではエリーゼ様、早速私の妻となる為に子作りでも始めますかな?」

その言葉で毅然とした表情で座っていたエリーゼ様の顔色が悪くなる。アーデルハイト殿下は縄から出ようとウニョウニョ動いているが無駄なあがきのようだ。

「ハーッハッハッハッ!愉快、愉快。皆の者人質を城内へ運び込め、ここにいる連中は地下牢へ連れて行け。」

人質を取られているせいで皆反撃する事も出来ず素直に従うしかなかった。ピエロの男達に追い立てられ城へと歩かされる。

「エリーゼ様、後で可愛がってあげますからね。」

ローレインは下を向いて歩くエリーゼ様の顔を無理やり上へ向かせた。屈辱で歪む彼女の顔を仮面越しに眺めた後、彼女の胸を掴んだ。驚きで目を見開いたエリーゼ様の顔を見てまた愉快そうに笑う。

「まだ小ぶりですね。あまり小さいのは好みではありませんが、まぁ仕方ないので我慢します。」

もう1つの胸も掴みそれを皆に見せつけるように揉んだ後、仮面を取り払いエリーゼ様にディープなキスをした。ネチョリと音がする程深いキスをして男は満足そうに微笑んだ。
仮面から現れた顔は何度見ても覚えられないようなボンヤリした顔だった。
キスの後エリーゼ様の瞳から涙が溢れるのが見え皆胸が締め付けられた。
誰かこの男を殺してくれ、皆の心の声が聞こえてくるようだった。

「ヴェル、、、」

私も何も出来ず皆の後をトボトボと付いて行くしかなかった。
私の後ろにはリリーさん、サバト君と続く。皆とりあえず地下牢へと入れられるようだ。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!!

すると轟音が鳴り響いた後で空がまたピカピカと瞬き始めた。

「「「何だ!?」」」

皆驚き空を眺めた。
空が割れ轟音と共に現れたのは大きな大きな目玉だった。

「「「目玉!!!」」」

この目玉を知らない赤の魔術師団の者達だけ驚愕の顔で固まるのだった。
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