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学園の問題

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学園入学まであと少しという日の朝、ヴェル様に手紙が届いた。
差出人はイルネーゼ様、ヴェル様が手紙を読んでいると、段々と彼の眉間にシワが寄っていく。

「ヴェル様どうかしましたか?」

恐る恐る私は聞いた。

「あぁ、姉さんからなんだが、今日話しがあるから晩餐に招待しろと勝手な手紙を寄こして来た。」

「フフフッ、イルネーゼ様らしいですね。それでは晩御飯1人分増やしますね。」

「ありがとう。それにしても、用事があるのは私ではなくアイリスにらしい。嫌な予感がする、、。」

「私にですか、、何でしょう?あっ、ヴェル様お仕事の時間ですよ!」

気が付けばいつも出発している時間を少し過ぎてしまっている。

「あぁ、そうだね。行ってくる。」

ヴェル様は私の額にそっと優しいキスをした。

「いってらっしゃいませ。」

私は頬を少し赤くして手を振ったのだった。
ヴェル様を見送ってから私は腕まくりのような仕草をした。実際は半袖の服を着ているので袖は無いのだが、気合いの表れである。

「さて、掃除に買い出し!今日は忙しいぞ!」

第1王妃のイルネーゼ様に一体どんなご飯を出せば良いのか、私は自分のレパートリーを書き留めたノートを開いたのだった。

外に出ると夏の暑さで空気が熱せられ、ユラユラと世界が揺らいで見えた。
一瞬で汗が全身から噴き出たのが分かる。
こんなにも暑い日に、カメロさんが畑でウロウロしているのが見えた。

「カメロさーん!!」

私が大きな声を出すと、カメロさんがキョロキョロと辺りを見渡した。

「あぁ、アイリスかいな!今日は暑い日やねぇ!」

カメロさんの元へ行くとカメロさんは汗をびっしょりとかいている。

「うわぁ、汗びっしょり!!大丈夫ですか?」

「ハハッ、さすがにフラフラしてきたわい。そろそろやめるかな。アイリスこそこんな暑い日に何してるんや??」

「それが、第1王妃のイルネーゼ様が今晩我が家にいらっしゃるんです。何のご飯を出そうかと悩んでて、、。」

「んー、、洒落た物など私は作らんからねぇ。あっ、今日知り合いから岩牡蠣を貰ったんだったわ。持って行きなぁ。」

「えっ!?良いんですか?」

私は目を煌めかせた。牡蠣など見た事はあるが食べ事など無い。あのプリッとしたキラキラと輝く食べ物は一体どんな味なのか?想像しただけでヨダレが出そうになった。

「野菜も持って帰りな。今は茄子にオクラ、ピーマンにししとう、あと胡瓜にトマト、あとスイカもあるで。」

「うわぁ!!もう買い物行かなくて良いや!!ありがとうございます。またお礼に手伝いに来ますね。」

「あぁ、ありがとう。気にせんで良えんだが助かるわ。」

カメロさんは嬉しそうに笑った。
沢山の野菜を持って私は家へと戻っていた。今日は下ごしらえを早めに始めた方が良さそうだ。
またも無い袖を持ち上げる真似をして、エプロンを付けた。
この前ヴェル様がエプロンを買ってくれたのだが、赤に白い水玉のエプロンでフルフリが付いてある。
最初見た時はその派手さに驚き、そして付けてみるととても恥ずかしかった。
しかし今は何とも思わない。私はどうやら慣れてしまったようだ。習慣とは恐ろしい、、。

野菜と睨めっこしながら、今日の晩御飯を決めていく。

「今日は晩御飯というより晩餐かぁ、難しいなぁ~。」

下ごしらえと家の用事をしていると、あっという間に時間が過ぎていく。
気付けばいつもヴェル様が買って来る時間となっていた。
玄関が開く音がしたので慌てて出迎えに行くと、そこにはイルネーゼ様を連れたヴェル様とヘドリックが立っていた。

「いらっしゃいませイルネーゼ様、おかえりなさいヴェル様、ヘドリック」

私がそう言うとヴェル様が私の手を取ろうと手を伸ばしたのだが、それよりも早くイルネーゼ様が私を抱きしめた。

「アイリスちゃん久しぶり!会いたかったわぁ!!」

イルネーゼ様の豊満な胸に顔がはまってしまい、私は息が出来ないでいた。苦しくなってイルネーゼ様の肩をトントンと叩いたところで、ヴェル様に救出された。

「プハァー!!ハァ、ハァ、ハァ、、、イルネーゼ様、、お、お久しぶりです。」

「あら、ごめんなさい。フフフッ、相変わらず可愛らしいわね。」

イルネーゼ様は私の頬にキスをしてきた。

「姉さん、アイリスをからかうのはやめて下さい。」

「はぁーい。」

「では、皆様こちらへ。ご飯にしましょう。」

解放された私は皆を食堂に残し、前菜の準備から始めた。
今回はヴェル様もお客様扱いさせて欲しいと頼んであったので、ヴェル様はキッチンには入って来ず素直に座っている。
ヘドリックに食前のシャンパンを注ぐのを頼み、私はお皿を手に2人の元へ向かった。

突き出しは岩牡蠣に大根おろしを乗せたものである。お皿の上に、洗った牡蠣の殻を2つ乗せ、その上にレモンの汁に一瞬くぐらせた生の牡蠣を乗せ、大根おろしを。
塩をパラパラと振っただけのシンプルな味付けだ。

前菜はトマトのカプレーゼを。

そして次はアスパラとジャガイモの冷製スープ。丁寧に裏ごしして、舌触りを良くしてある。
本当ならここで魚料理と続くのだが、それをやめてパスタを選んだ。
ナスと海老のトマトパスタを出したのは、カメロさんの野菜をたっぷり食べて欲しいから。パスタと言ってもショートパスタを使っている。パスタの量も半量にしており、その分野菜をたっぷりと入れた。

その後、スイカのシャーベットを口直しに挟み、質の良いお肉を少しだけステーキにしたものを出した。
最後のデザートは紅茶とフルーツポンチにした。スイカやサクランボ、パイナップル、そして果汁を寒天で固めゼリーにしたものを混ぜてある。

「アイリスちゃん、とーっても美味しかったわ!!でも一緒に食べられないのが悲しいわ、、今度はシェフを連れてくるから一緒に食べましょうね!!」

デザートを食べ始めた時に私もようやく座り、皆と一緒にデザートを食べた。
イルネーゼ様が紅茶を一口含んだ後、話しを始めた。

「美味しいご飯を食べたので帰りますというのが一番幸せなのだけれど、仕事をしてから帰らないとね、、。」

イルネーゼ様がため息を吐きながらそう言うと、ヴェル様の眉間にシワが入ったのが見えた。

「ねぇ、ヴェル、アイリスちゃん9月からプロレッツ学園に入学するんでしょ?」

「あぁ。3年間通わせるつもりだが、、それが?」

「私の義理の息子が1年生にいるのは知っているでしょ?」

「あぁ、アーデルハイト・エステルジアだったか?」

「そう。アーデルハイトはジョアンナ・ティライトフ公爵令嬢と婚約しているのだけど、どうやら不仲らしくてね。」

「不仲?」

「ええ、正確にはジョアンナはアーデルハイトの事を好いているみたいなのだけれど、アーデルハイトはジョアンナの事をむしろ嫌っているのよ。」

「それは何だか可哀想ですね。」

私はクリスティーナ様から、近付くなと言われた人の名前が出て内心驚いていた。しかし今それを話すのははばかれて、差し障りのないコメントをしてみる。

「えぇ、それだけ聞いたら可哀想かもしれないけれど、ジョアンナは性格に難があるのよ。見た目は綺麗な子なんだけれどね。」

「それで、それとアイリスが入学する事と関係するように思えないが?」

ヴェル様が苛立っているような話し方をしている。

「それがね、その2人と同じクラスメイトのメアリー・バルコート男爵令嬢にどうやらアーデルハイトが恋をしているみたいで。」

「ハッ、婚約者がいるのに王子が恋だと?その王子は大丈夫なのか?」

ヴェル様が眉間にしわを入れて毒づいた。こんな苛立ったヴェル様は珍しい。私は、そのアーデルハイトという人の事をヴェル様が嫌っているのかな?と思った。
実際は私に厄介ごとを押し付けられないようにヴェル様が話しを切り上げようとしているため、機嫌が悪いのだが私はそれに気付かなかった。

「私は元々は王家など関係無いでしょ?恋も自由に出来ないのかと思うと、私は同情するのだけれど。でもそうもいかないらしいじゃない?」

ヴェル様が、当たり前だと呆れた声を出した。

「その事でどうもジョアンナがメアリーを虐めているみたいなの、、。ねぇ、アイリスちゃん、あなた見た目は可愛らしい女の子だけれど、実年齢はおばあちゃんぐらいじゃない?」

私は固まった。人におばあちゃんと言われると何だか複雑だ。

「、、はい。」

「だからね、若造達の恋のいざこざを解決してくれないかしら?」

「えっ!?私がですか?」

「そう、あなたが。」

私はイルネーゼ様に指を刺され更に固まる。

「姉さんそれは無茶苦茶です。そんな身分の高い人達に意見して、アイリスが何らかの処分にあったらどうするつもりですか?」

「あら、それは大丈夫よ。もう学園側にも話しを通したし、何かあれば第1王妃の権限で私が助けるわ。」

イルネーゼ様にニコニコと見つめられるが、恋愛経験なんてほとんど無い私に一体何のアドレスが出来るというのか、、。思っている事が顔に出ていたのか、私の顔を見てイルネーゼ様が励ますように言った。

「大丈夫、アイリスちゃん!恋愛経験が無くても、人生経験が豊かなのだからそれでカバー出来るわ!」

「姉さん、、」
「イルネーゼ様、、」

ヴェル様と私が揃って抗議しようとすると、

「あら、もうこんな時間!怒られちゃうわ!アイリスちゃん、あなたが3人と同じクラスに入れるように手配したからよろしくね!」

「えっ!?」

「大丈夫!とりあえず3人の様子を報告してくれるだけでも良いから。では、皆様御機嫌よう。見送りはよろしくてよ、どうかそのままで。」

「イルネーゼ様!!」

私は小走りで玄関へと向かうイルネーゼ様を追いかけたのだが、玄関へ向かったはずのイルネーゼ様は忽然と姿を消していた。

「姉さん、、逃げたな。」

後ろから追いかけて来たヴェル様が半眼で玄関の方を見つめる。

「城の方達は用事を言うと逃げる癖があるんですかね?」

私はこの前同じ様にいそいそと帰って行ったトーマスさんの事を思い出した。

「「はぁー。」」

私達は揃ってため息を吐いたのだった。
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