上 下
17 / 75

王城からの仕事

しおりを挟む
ヴェル様と私は顔を見合わせた。

「最初からお話しさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

トーマスさんがアイスティーを一口飲んでから説明を始めた。

「他の世界にお住みの公爵家のご令嬢、クリスティーナ・バレンティア様と、同じく公爵家のご子息、イサキオス・ベルナドット様が半年後にご結婚されるのですが、婚前旅行にこちらへ来ることになったのです。結婚されれば、クリスティーナ様はその国の女王になるので、大変忙しくなります。その前にちょっと羽を伸ばしたいそんなとこでしょう。」

「公爵家の人間なのに、国王の後を継ぐのか?」

ヴェル様が眉間にシワを入れ、足を組み直しながら聞いた。

「陛下のご子息がお亡くなりになった為と聞いておりますが、詳しいことはクリスティーナ様に聞いてみないと分かりかねます。」

「そうか、それでなぜこの国に?しかも私の家に?」

「まずこの世界に来る経緯を。自分達の世界ではどこへ行っても注目されるので、自分達を知らない場所へ行きたかったとか。優秀な部下の方がいらっしゃって、空間を開きどこへでも行き来する事が出来るそうです。この国を選んだのは、言葉や文化が近かったからと聞いております。こちらに2人がお泊りになるのが決まったのはヴェルヘルム様のお知り合いだからです。」

「私の知り合いだと?」

「はい。」

「そんなはずは無い。異世界などと初耳なのだから。私の知ってる限りでは、魔界、そしてこの世界、行った事は無いが天界、この3つの世界で成り立っていると思っていたのだから。」

トーマスさんはゴホンッとわざとらしく咳をした。ヴェル様が何だと睨む。2人はどうやら仲があまり良く無いようだ。

「クリスティーナ様は魔王の魂をお持ちです。」

「何!?それは本当か!?」

ヴェル様は珍しく驚いた顔をしたので、私はヴェル様に聞いた。

「魔王って物語で聞くこんな人ですか?」

私は両指を立て鬼の様なポーズをして恐ろしい顔でヴェル様を見る。

「ハハハッ、それは鬼だろう?魔王の見た目は人間と変わらないよ。」

ヴェル様は私の頭を撫でた。

「私は魔界で産まれこちらの世界へやって来たのだが、魔王ヴェルドウェストとは親友だったんだ。」

「ヴェルドウェスト様、、。」

トーマスが話しを引き継いだ。

「しかし、クリスティーナ様は魔王だった頃の記憶はありません。正確にはクリスティーナ様の優秀な部下がヴェルヘルム様を指名したとか。」

「それに姉さんが後押ししたんだな?」

「、、、はい。」

「優秀な部下とはペペロの事か?」

「そうです。やはりお知り合いでしたか。最初見た時はその見た目に驚きましたが、礼儀正しい良い方ですね。」

ヴェル様は懐かしそうに目を細めた。

「期間は?」

「7月半ばから1ヶ月ほどです。」

「そうか、、。アイリス、2人が来る事になれば、君に負担がかかるが構わないだろうか?」

私はニッコリ微笑んだ。

「もちろんです。」

「ありがとう。トーマス、厄介ごとを押し付けられた気はするが、私の友人なのは本当だ。仕方あるまい。」

「ありがとうございます。詳しい事はこちらに、ではよろしくお願いします。」

トーマス様は書類をヴェル様に渡すと残っていたアイスティーを急いで飲み干し、いそいそと立ち上がる。

「あっ、お見送りします!」

私が立ち上がったのを制すと、彼は足早に帰って行った。

「、、ヴェル様、、トーマス様逃げましたよね?」

「あぁ、断られると困るから急いで帰ったのだろう。」

トーマス様が置いて帰った書類を持ち上げ、ヴェル様は目を通し始める。

「アイリス、この期間に彼らを招くのでは、君の学園入学が遅れそうだな。」

「???」

「学園は8月は夏休みになるんだ。彼らもその期間ずっと私の家でいる訳では無いと思うが、家に誰も居ない訳にもな。」

「そうですね。私は構いませんよ?」

本当のところ、学園へ行き始めれば家の事がおろそかになるだろうから、出来れば行きたくないのだ。

「出来るだけ早く精霊の力の制御方法を学んで欲しいんだがな、、。私は精霊の力を使う事は出来ないから、教える事が出来ないから。」

「そうなんですね。ヘドリックは?」

「ヘドリックも精霊の力には頼らない。そもそもウルフ族は魔力を使わずとも身体能力がずば抜けている。生活に必要な魔法ぐらいは精霊に力を借りて使うかもしれないが、教えれるほどでは無いだろう。」

「確かに、ヘドリックは何も使わなくても凄いですもんね!」

「何の話しをしてるんだ?」

振り返るとヘドリックが頬を染めて立っていた。尻尾を振っているのでどうやら喜んでいるようだ。

「ヘドリック、ちょうど良かった。1ヶ月ほど家に客人が来る事になった。アイリスを助けてくれるか?」

「はっ。もちろんです。」

ウルフ族は耳も良いので全て聞こえていたのだろう。何も質問する事なくヘドリックは承諾したのだった。

その日の昼、私はカメロさんと横の畑で居た。

「この前来てたご婦人との話し合いは大丈夫だったんかい?」

「あぁ、、一応、、皆さんに迷惑かけてしまったんですけど、もう大丈夫です。」

「そうか、それなら良かったなぁ。」

カメロさんはニコリと笑った。

「あんたは遠慮しそうな性格しとるし、心配やったんや。何かあったら私の家に来たってええ、1人で住んどるし部屋はようけある。」

「カメロさん、、はい、、ありがとうございます。」

カメロさんといると、昔からの友人といるような気持ちになり心が和んだ。
私が用意したお茶菓子で休憩しながら、空を見上げた。
もうすっかり夏の太陽になり、ギラギラと地面を照らしているが、木陰で座っていると風が通り涼しく感じる。

「あぁ、そうでした。今度ヴェル様のご友人が1ヶ月ほど滞在する事になったんです。」

「1ヶ月かいな。それはえらい長いなぁ。アイリスあんたまた忙しくなるんやないかい?」

「ええ。でも前に働いていたお宅より今の方がゆっくりさせて貰ってるんで、少し忙しくなるぐらいの方が良いんですよ。」

「そうかいな。まぁ何かあったら私やって手伝うし声かけくれたらええ。」

「はい。それでですね、美味しい野菜を分けて欲しいんです。その人達に美味しいご飯を出してあげたいから。」

「そんな事お安い御用や。いつでもおるから、いつでも言うてくれたら持っていくで。」

「ありがとうございます!じゃぁ、そろそろやりますか!」

「そうやね、もうひと頑張りや。オクラとナスと収穫して終わりかな。」

お尻の土を払い私達は収穫へと向かった。
その日のご飯は、ナスとオクラのトマトパスタに、ローストビーフ、それにトウモロコシや人参、玉ねぎなどの蒸し野菜を添えた。
玉ねぎを炒めて作ったお肉用のソースをかけ、それとは別にビネガーソースとオーロラソースの二種類の野菜用ソースを作った。
そしてデザートにトマトのアイスクリームに挑戦してみたのだ。
カメロさんにもおすそ分けする約束だったので、作り終わってからヘドリックに付き添って貰い、カメロさんの家まで持って行った。

皆に大絶賛され、私は照れたように笑ったのだった。

こんな風にして私の毎日は過ぎていき、あっという間に7月15日を向かえた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

ぽっちゃりな私は妹に婚約者を取られましたが、嫁ぎ先での溺愛がとまりません~冷酷な伯爵様とは誰のこと?~

柊木 ひなき
恋愛
「メリーナ、お前との婚約を破棄する!」夜会の最中に婚約者の第一王子から婚約破棄を告げられ、妹からは馬鹿にされ、貴族達の笑い者になった。 その時、思い出したのだ。(私の前世、美容部員だった!)この体型、ドレス、確かにやばい!  この世界の美の基準は、スリム体型が前提。まずはダイエットを……え、もう次の結婚? お相手は、超絶美形の伯爵様!? からの溺愛!? なんで!? ※シリアス展開もわりとあります。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

【完結】悪役令嬢エヴァンジェリンは静かに死にたい

小達出みかん
恋愛
私は、悪役令嬢。ヒロインの代わりに死ぬ役どころ。 エヴァンジェリンはそうわきまえて、冷たい婚約者のどんな扱いにも耐え、死ぬ日のためにもくもくとやるべき事をこなしていた。 しかし、ヒロインを虐めたと濡れ衣を着せられ、「やっていません」と初めて婚約者に歯向かったその日から、物語の歯車が狂いだす。 ――ヒロインの身代わりに死ぬ予定の悪役令嬢だったのに、愛されキャラにジョブチェンしちゃったみたい(無自覚)でなかなか死ねない! 幸薄令嬢のお話です。 安心してください、ハピエンです――

処理中です...