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王妃マリーアンジュへ

朗報

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イングディニア帝国で聖女降臨の儀が行われていた頃、マッキンダム国ではマリーに朗報が届いていた。

「えっ!?ロイが!?」

チャールズからその報告を聞いたマリーは、顔を輝かせた。

「ロイだけじゃない。他の者達も来ている。おいでマリー。」

「えぇ。」

チャールズが差し出した手をマリーは掴んだ。
足早に大広間まで行くと、そこにはオペット村の面々がいた。

「モナ!ゼフさん!マイク!カリナ!ルイズ!」

マリーは皆の名前を叫びながら、1人1人と抱き合い喜びあった。

「サリさん。」

「あぁ、マリー久しぶりだね。」

そしてそこにはマリーの師匠サリの姿まであった。
怪しげな黒いローブを羽織り、皺皺の顔をくしゃりと歪めて笑う姿は魔女そのものだ。

「良かった!皆元気そう!」

「あんたもねマリー。まさか本当のお姫様だったなんてビックリだよ!」

喜ぶマリーにモナがもう一度両手を広げてやって来た。
マリーは迷わずモナの胸に飛び込むと、力一杯抱きしめ合い、無事を喜び合った。

「それにしても皆で会いに来てくれたの?」

オペット村はマッキンダムの王城までは距離がかなりある。
モナの子供達まで一緒に来ているのだ。
きっと大変だっただろうと思いマリーが聞けば、皆がいたずら小僧のような顔で笑った。

「???」

マリーが首を傾げていると、後ろで控えていたロイがゆっくりとやって来た。

「ロイ…ありがとう。あなたのお陰で私は…。」

「マリー、あの時はマリーを置いて村へ戻ってごめん。」

「そんな!村の人達は一刻の猶予もなかったのよ!当たり前の事だわ!」

マリーがそう言ったにも関わらず、ロイは頭をさげた。

「いや、謝らせてくれ。会ったら謝ろうと決めていたんだ。」

「…ロイ。」

「マリー、聞いて欲しいことがある。」

頭を上げたロイは爽やかな顔で笑った。

「えっ?えぇ。」

ロイだけではない。
皆もずっと笑っているのだ。

「マリー、いや、マリーアンジュ・メイ・アベロン姫様!」

「えっ?あっ、はい!」

マリーは大きな声でロイに名前を呼ばれ、背筋を伸ばし自分も大きな声で返事を返した。

「私はあなたの騎士になるべく、マッキンダム近衛騎士団に入団する事になりました!」

「えっ!?えー!?」

驚くマリーをよそに、次にモナの家族が口を開いた。

「私達もマッキンダムの王都に引っ越して来る事にしたんだよ。村の皆も一緒さ。」
「「「イシシシシッ。」」」

モナの言葉に嬉しそうにモナの子供達も笑っている。

「えー!?皆で引っ越し!?」

さらに驚くマリーの前に今度はサリがやって来た。

「ワシもこっちに来る事にしたよ。」

「サリさんも!?」

「ここで薬師として働くんじゃ。」

「えー!?」

さらにさらに驚くマリーの頭をサリがいつもの杖で殴った。
後ろでチャールズが慌てている。

「痛ッ!!サリさん何するんですか。」

「えー!?じゃないわ!どうせ勉強もサボっとるんじゃろ?明日からビシビシ指導するから覚悟せいよ!」

「…はい。」

涙目でサリを見るマリーの頭を、後ろでチャールズが優しく撫でている。

「皆…何て言って良いのか分からないけど、本当にありがとうございます!皆のお陰で私、今生きていられるんだとそう思うから…。」

痛いのか嬉しいのか分からなかったが、マリーの瞳に涙が溢れていた。
嬉しい気持ちを言葉にすれば、皆がゲラゲラと笑い始める。

「「「それはこっちのセリフだよ!!」」」

「マリー、チャールズ陛下が褒美をくれるって言ったから、あんたの近くに来たいって言ったんだよ。村は住みやすかったけど、何かあった時子供達を守れないって分かったしね。」

モナがそう言うと、モナの肩をゼフが優しく抱いた。
その2人の姿を見て、疫病が本当に皆を苦しめたのだとマリーは改めて思った。

「良かった。本当に…。」

この日から、近衛騎士団にロイが加わった。
新人生として日々励んでいるようだ。
そして、王城の薬師にサリが加わった事により、薬師達にタンコブがある者が増えたらしい。

マッキンダムの王都の一角は、チャールズのはからいでオペット村の住人がごっそりと移住した。

マリーは城のテラスから城下を見下ろし嬉しそうに微笑んだ。

「チャールズ、私知らなかったわ。あなたは先に知っていたのね。」

チャールズは後ろからマリーを抱きしめながら笑った。

「マリーが世話になったからね。褒美を取らせると言ったんだ。そしたら皆、コッチに来たいと言いだした。マリーの世話になった人達は面白い人ばかりだね。」

「えぇ、面白くて優しくて、温かい人ばかりよ。でも…オペット村が無くなるのは何だか寂しいわ。」

マリーがそう言うと、チャールズが笑った。

「???」

なぜ笑うのか分からず首を傾げれば、チャールズはマリーのつむじに口付けを落とした。

「夏の避暑地として使うらしいよ。結婚式を挙げて落ち着けば、夏に一緒に行ってみるかい?」

「えっ?避暑地に?」

マリーは少し驚いてチャールズの顔を見た。

「アグレッシブな人達だね。」

「フフッ。そうね。皆に会えて本当に良かったわ。」

「俺はマリーが居なくならない方が良かったけど。」

ズイッと顔を近づけられ、マリーは頬を赤らめた。
チャールズに山ほど心配をかけた事を思えば心苦しかったが、それでもマリーにはかけがえの無い人達なのだ。

「ごめんなさい。」

チャールズの煌めく黄金の瞳に吸い込まれそうになりながら、マリーは謝罪の言葉を口にしていた。
彼の唇が降りて来たのを見て、マリーは瞳を閉じる。

チュッと触れるだけの口付けをすると、マリーの身体が浮いた。

「へっ!?」

慌てて目を開けば、マリーは米俵のように担がれていた。

「チャールズ?」

「マリー、俺に心配をかけたのは良くない事だろう?」

「…えぇ、そうね。」

不穏な空気を感じながら、マリーは怖々と答える。

「それならば対価を払わねばなるまい。」

「対価?」

何だか答えが見えて来たので、マリーはチャールズの腕の中で逃れようと暴れてみた。
しかし、簡単に封じられ、さらに動けなくなってしまう。

「マリー、結婚式までの間にもう少しいやらしい身体になっておこうな?」

「なっ?って、チャールズ、まだ昼間よ?待って、あっ!!ターニャ、ユリ助けて!!」

マリーは2人の姿を見つけて叫んだ。

「マリー姫様、お風呂の準備をしておきます。」
「いってらっしゃいませ。」

しかし、チャールズに従順な2人は頭を下げた後マリーに手を振った。

「ハハッ、諦めろ。」

「ウゥッ…。」

2人のメイドに裏切られたマリーは、煌々と陽の入るベッドの上に転がされたのだった。
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