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村娘編

マリーの目覚めと逃亡

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マリーが次に目覚めた時、世界があまりにもキラキラしていたので、まだ夢の中でいるのかと思った。
ギュッと目をつぶり、もう一度まぶたを開けてみたがやはり光景は変わらない。

「ここは…?」

呟いた声がかすれている事、そして全身に痛みを感じた事で昨日の記憶が蘇って来る。

「私…あの人と…」

薬を嗅がされたにもかかわらず、しっかりと残った記憶が憎たらしかった。

「もう…こんなの…あの人に会えない…」

マリーはフワフワの布団を頭からガバリとかぶった。
そうした事で恥ずかしさが消える訳ではないが、いてもたってもいられない気持ちだったのだ。

「フワフワ…」

文句を言うつもりは毛頭ないが、モナの家では質が良いとは言い難い布団で寝ていた。
こんな羽の様に軽い布団など、マリーの記憶の中には無かった。

「一体ここは?」

ガバリと起き上がれば身体が悲鳴を上げる。

「ッ…」

ヌファサに痛め付けられた事を最初に思い出さなかったのは、チャールズとの行為の方が強く記憶に残ったからなのだろう。
マリーは痛む身体に目をやった。

「…治療してくれてる。」

薄いネグリジェの下はグルグルとまかれた包帯だらけ、しかも全身から何だか薬の匂いが漂っていた。

「マリーアンジュ様、お目覚めになられましたか?」

マリーが自分の身体をしげしげと見つめていると、少し離れた所から声がした。
驚き前を見ればマリーは衝撃を受けた。

そこは絵本の中に出て来る様なメルヘンチックな世界だった。
色とりどりの花が溢れ、壁紙まで花で統一されており、部屋の中にも関わらず花畑にいるようだった。
それに、金の装飾を施された美しい家具や柱、壁にかけらた絵画は天使や女神の美しい絵で統一されていた。

ホゥッ

マリーはあまりの美しさにため息を吐いた。
もしかしたら自分は死んで天国へ来たのかと思った程だ。

「お好みに合いましたか?マリーアンジュ様との婚約が決まってから、陛下が自ら指揮をとって準備したマリーアンジュ様の部屋なんですよ。」

気付けば先程の声の主がマリーの真横まで来ていた。

「あなたは?」

「申し遅れました。私、マリーアンジュ様付きのメイドとなるべく現在ここで見習いメイドをしております、百合ゆりと申します。よろしくお願い致します。」

「ユリさん…」

ユリと名乗ったその娘は、マリーよりずっと若く見えた。
14歳か、もしかしたらもっと下かもしれない。
良く焼けた肌に、肩までの黒髪、一重の細い目には黒い瞳が収まり、こちらでは珍しい外見をしている。

「ごめんなさい。私、記憶が無くて…。私が姫だというのは本当なの?」

「はい。マリーアンジュ様はアベロン王国の姫君でございます。バイルツン国王とクレア王妃の間に出来たただ1人の。何か思い出せそうですか?」

「バイルツン…クレア…あぁ、ダメだは。何にも思い出せない。」

マリーが頭を振りながら項垂れれば、ユリが大慌てで両手を振った。

「そんな、落ち込む事ありません!!もう救出されたのですから、ゆっくり思い出せば良いのですし、それにアベロン王国へ早馬が出ましたから、程なくしてバイルツン国王がお越しになるでしょう。今は身体を治す事に集中して下さい!ねっ!?ねっ!?ねっ!?」

ねっと言いながら、ユリの顔がどんどん近付いて来る。
視界いっぱいユリの顔になった時、マリーは堪らず笑い始めた。

「プッ!プフフッ…アハハッ…アーハハハハハッ!!」

涙を流しながら笑い始めたマリーに、ユリは驚いて口をポカンと開けていた。

「ごめんなさい。フフフフッ、ユリさんは面白い人なのね。」

「へっ?ヘヘッ…やたら綺麗なお人形みたいな人と思ったけど、優しい人そうで良かった。あの話し通り悪役姫様って訳じゃないのね。」

笑うマリーにユリが何か早口でいったが、マリーの耳には聞こえなかった。
マリーが首を傾げていると、ユリは誤魔化すようにニッコリ笑う。

「マリーアンジュ様、朝ご飯に致しましょう。こちらへ運ばせますから、その間にドレスにお着替えになりますか?」

「朝ご飯?ドレス?」

マリーはお腹がグーッと鳴ったので顔を真っ赤にした。
そう言えばずっと食べてなかったのを思い出す。

「ユリさん、今は何時なの?」

ベッドの淵に立ち、マリーはゆっくり立ち上がろうとしたが足が立たずベッドにポフッと座り直してしまう。

「大丈夫ですか?今日はベッドの上でゆっくりお過ごし下さい。それでしたらドレスでは無く、眠りやすい軽い服装の方が良さそうですね。」

「えぇ、ありがとう。でも、私オペット村へ帰らなければいけないの。ねえ、ユリさん、私どれぐらい眠っていたの?」

マリーが帰ると言うと、途端にユリが真っ青になった。

「マリーアンジュ様、ま、ま、ま、待って下さい。あ、あの…陛下が…い、いらっしゃるまで…絶対ここでいて下さい!!」

急に挙動不審になるユリを不思議そうに見ながら、マリーはコクリと頷いた。

それから柔らかい綿のワンピースに着替え、朝ご飯を食べ、マリーは人心地付いてからもう一度ユリに聞いてみる。

「ねえ、ユリさん、私どれぐらい寝ていたの?倒れてからどれ程経っているのか知りたいの。」

「あっ、はい。倒れてからはさほど経っておりません。昨日の夜中にこちらへ運び込まれてから、朝9時にお目覚めになりましたから。」

「そうなのね。良かった。それなら予定通りぐらいだわ。今なら電力会社も開いてるだろうし。ユリさん、やっぱり私行く!早くロイと合流しないと!」

マリーが諦めホッとしていたユリはまた青ざめ慌て始める。
さすがに二度目になるとマリーは違和感を感じていた。

「マリーアンジュ様…ええっと…あ、あの、陛下よりロイ様にお金と兵を渡し、さ、先に、村へ帰らせたと…き、聞いております。ど、どうか…ここにいて下さい。陛下がも、もう時期参ります。」

冷や汗を拭いながらユリが苦笑いで告げて来る。
マリーは明らかに可笑しい彼女の態度を見て、自分が軟禁されているのではないかと言う疑問を持った。

「そう。そうなのね。じゃぁ、電力会社には行かなくて良いのね。あっ、ユリさん、私トイレに行きたいの。」

「えっ?あっ、はい。それではこちらへ。」

ユリはマリーの側へ来ると腕を差し出した。
足がふらつくマリーを支えようとしているのだが、マリーがベッドから降り彼女の横に立つと、それが明らかに無理な事に気が付いた。

ユリは150㎝ぐらいでとても小さいのだ。
マリーは170㎝と背が高いので、支えて貰おうとすればユリが潰されているようにしか見えない。

「ありがとうユリさん。自分で立てれそうだわ。トイレはあのドアね。すぐ戻って来るからここで待っててくれる?」

マリーが満面の笑みでユリを見れば、ユリは頬を染めてコクコクと頷いた。
ユリを置いてトイレに入ったマリーは辺りを見渡しながら呟いた。

「さて…どうしようかしら。」
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