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村娘編
世紀の悪女
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チャールズは城を飛び出した。
こうしている間にもマリーがまた居なくなるのではと思うと彼は恐ろしくて仕方なかった。
街は人がごった返している状態だ。
チャールズは人を押し除けながら必死で進んで行く。
国王と気付かない人達がチャールズを睨んだが、次の瞬間その恐ろしい形相を見て皆青ざめて行く。
「クソッ!!マリー、お願いだ待っててくれ…」
そんなチャールズの少し後ろをウェスタンと兵が続けば、何ごとだと少しずつ騒ぎになっていった。
「陛下!!待って下さい!!」
ウェスタンが叫んだが、チャールズは振り向かない。
そして、先程までマリーが居た宿へとチャールズはようやくたどり着いた。
「誰か!!誰かベージュのローブを着た娘を見ませんでしたか!?瞳の色はピンクがかった紫で、背は僕ぐらいなんです!!誰か!!」
そこには大声で叫びながら通行人を止める青年が居た。
特に特徴の無い人畜無害そうな青年が、必死に誰かを探している。
チャールズはすぐに気が付いた。
探しているその娘こそマリーなのだと。
「そこの青年!!詳しく話しを聞かせてくれ!!」
必死にマリーを探していたロイだったが、自分よりもさらに大きな声で急に呼び止められ身体がビクリと震えた。
そして、呼び止めた相手を見ればさらに身体が震える。
「チャールズ陛下…」
一度見た事があるだけだが、間違えるはずがない。
高い身長、鍛えられた肉体、太陽の様に輝く髪に黄金の瞳、その猛々しさを一度見れば目に焼き付いて離れない。
「どうして…」
ロイは狼狽ながらも頭を下げた。
心は焦っていたが、ここで目を付けられてしまえばマリーを探す事が困難になってしまう。
「君はマリーの事を知っているのか!?」
「!!!」
頭を下げたロイが聞いた言葉は、彼が思ってもみなかった質問だった。
驚いて顔を上げれば、恐ろしいほど鋭い瞳に捕まった。
「君の知るマリーの特徴を手短に教えてくれ。どうやって出会った!?」
「あ?あ、え…はい。4ヶ月程前に、マリーが森で血だらけになって倒れている所を僕が助けて村へ連れ帰りました…」
「森とはフォレスターの森だな!?」
「えっ?何で知って?あっ、はいそうです。」
「君の知るマリーは雷魔法の使い手か?」
「はっ、はい。」
ロイは呆然としながら頷いた。
一体なぜマッキンダム王国の国王がマリーの事を知っているのか、彼にはさっぱり分からなかったのだ。
「良いか。君の知るマリーは、マリーアンジュ・メイ・アベロン。アベロン王国の姫だ。」
「!!??」
ロイはあまりの驚きに声も出なかった。
衝撃が大き過ぎその場に尻もちをついて倒れ込む。
「マリーが…姫様!!??」
チャールズはロイの様子を見て、彼が何も知らなかったのだと確信した。
倒れていたマリーを本当に純粋に介抱する為に村へ連れ帰ったのだろう。
「しかし、なぜマリーはその事を君に話さなかったんだ…?」」
まだ驚き過ぎてボンヤリしていたロイがヨロヨロと立ち上がる。
「陛下…それは、マリーが記憶を無くしているからです。」
「記憶を!?いや、そうか…そうだな。それならば辻褄が合う。それでマリーはどこに!?」
「そうだ!!宿で交渉をしている間に、マリーが居なくなってて…一瞬目を離しただけなんだ!!マリーは記憶を取り戻していない、この街のことだって何も知らないのに…一体どこへ。」
ロイはチャールズに訴えた。
その必死さや、彼の瞳に涙が光っている事に気が付けば、ロイがマリーを愛しているのだろうとその場にいる者は皆そう思った。
マリーとの関係は!?チャールズはそう問いただしたかったが、今はそれどころではない事を彼も十分分かっている。
「今ならまだマリーの魔力を追える。君も付いて来い!!」
「えっ?魔力を?えっ?えぇ?」
驚くロイを置いてチャールズは走り始めた。
「あっ、待って下さい!!」
慌てて付いて行くロイの横に知らない男が並んだ。
驚いて横を見れば狐の様な顔をした男に微笑まれる。
「うちの国王は気持ち悪いでしょう?マリーアンジュ様の魔力を追える程彼女を愛しているのですよ。」
「あの人とマリーの関係は…?」
ロイは自分の声が震えている事に気が付いた。
それは走りながら話しているせいではない。まだ自分の心がマリーにあるからだと彼は分かっていた。
「婚約者です。」
「…。」
ロイは返事が出来なかった。
好きになった人は大国の姫で、その国に並ぶ程の国の王の婚約者だったのだ。
「ハハッ…勝ち目なんか無いな。」
ロイの瞳から一筋の涙が溢れた。
自分が好きになった相手は、決して望んではいけない相手だったのだ。
「情けない。」
ロイはグイッと涙を拭くと、しっかり前を向いてチャールズの背中を見つめた。
一国の王がマリーの為になりふり構わず必死になっている。
「気持ち悪くなんか無いですよ。マリーを真剣に愛している。ただそれだけです。」
「…。」
今度はウェスタンが黙ってロイの横顔を見つめた。
マリーという女性に人生を翻弄された男達の姿を目に焼き付けるように。
そして誰にも聞こえぬよう呟いた。
「チャールズ陛下に、バイルツン陛下、マーガレット、エリック、ゾーイ殿にそして君に…あぁ、マグリッド殿もそうか。世紀の悪女と呼ばれても仕方ない程に人を狂わせますね。我が王の妻になる方は。まぁ、私も嫌いじゃないから良いんですけどね。」
それでも我が王が求めるのならば仕方ないのだと。彼は半ば諦めたようにチャールズを追いかけた。
こうしている間にもマリーがまた居なくなるのではと思うと彼は恐ろしくて仕方なかった。
街は人がごった返している状態だ。
チャールズは人を押し除けながら必死で進んで行く。
国王と気付かない人達がチャールズを睨んだが、次の瞬間その恐ろしい形相を見て皆青ざめて行く。
「クソッ!!マリー、お願いだ待っててくれ…」
そんなチャールズの少し後ろをウェスタンと兵が続けば、何ごとだと少しずつ騒ぎになっていった。
「陛下!!待って下さい!!」
ウェスタンが叫んだが、チャールズは振り向かない。
そして、先程までマリーが居た宿へとチャールズはようやくたどり着いた。
「誰か!!誰かベージュのローブを着た娘を見ませんでしたか!?瞳の色はピンクがかった紫で、背は僕ぐらいなんです!!誰か!!」
そこには大声で叫びながら通行人を止める青年が居た。
特に特徴の無い人畜無害そうな青年が、必死に誰かを探している。
チャールズはすぐに気が付いた。
探しているその娘こそマリーなのだと。
「そこの青年!!詳しく話しを聞かせてくれ!!」
必死にマリーを探していたロイだったが、自分よりもさらに大きな声で急に呼び止められ身体がビクリと震えた。
そして、呼び止めた相手を見ればさらに身体が震える。
「チャールズ陛下…」
一度見た事があるだけだが、間違えるはずがない。
高い身長、鍛えられた肉体、太陽の様に輝く髪に黄金の瞳、その猛々しさを一度見れば目に焼き付いて離れない。
「どうして…」
ロイは狼狽ながらも頭を下げた。
心は焦っていたが、ここで目を付けられてしまえばマリーを探す事が困難になってしまう。
「君はマリーの事を知っているのか!?」
「!!!」
頭を下げたロイが聞いた言葉は、彼が思ってもみなかった質問だった。
驚いて顔を上げれば、恐ろしいほど鋭い瞳に捕まった。
「君の知るマリーの特徴を手短に教えてくれ。どうやって出会った!?」
「あ?あ、え…はい。4ヶ月程前に、マリーが森で血だらけになって倒れている所を僕が助けて村へ連れ帰りました…」
「森とはフォレスターの森だな!?」
「えっ?何で知って?あっ、はいそうです。」
「君の知るマリーは雷魔法の使い手か?」
「はっ、はい。」
ロイは呆然としながら頷いた。
一体なぜマッキンダム王国の国王がマリーの事を知っているのか、彼にはさっぱり分からなかったのだ。
「良いか。君の知るマリーは、マリーアンジュ・メイ・アベロン。アベロン王国の姫だ。」
「!!??」
ロイはあまりの驚きに声も出なかった。
衝撃が大き過ぎその場に尻もちをついて倒れ込む。
「マリーが…姫様!!??」
チャールズはロイの様子を見て、彼が何も知らなかったのだと確信した。
倒れていたマリーを本当に純粋に介抱する為に村へ連れ帰ったのだろう。
「しかし、なぜマリーはその事を君に話さなかったんだ…?」」
まだ驚き過ぎてボンヤリしていたロイがヨロヨロと立ち上がる。
「陛下…それは、マリーが記憶を無くしているからです。」
「記憶を!?いや、そうか…そうだな。それならば辻褄が合う。それでマリーはどこに!?」
「そうだ!!宿で交渉をしている間に、マリーが居なくなってて…一瞬目を離しただけなんだ!!マリーは記憶を取り戻していない、この街のことだって何も知らないのに…一体どこへ。」
ロイはチャールズに訴えた。
その必死さや、彼の瞳に涙が光っている事に気が付けば、ロイがマリーを愛しているのだろうとその場にいる者は皆そう思った。
マリーとの関係は!?チャールズはそう問いただしたかったが、今はそれどころではない事を彼も十分分かっている。
「今ならまだマリーの魔力を追える。君も付いて来い!!」
「えっ?魔力を?えっ?えぇ?」
驚くロイを置いてチャールズは走り始めた。
「あっ、待って下さい!!」
慌てて付いて行くロイの横に知らない男が並んだ。
驚いて横を見れば狐の様な顔をした男に微笑まれる。
「うちの国王は気持ち悪いでしょう?マリーアンジュ様の魔力を追える程彼女を愛しているのですよ。」
「あの人とマリーの関係は…?」
ロイは自分の声が震えている事に気が付いた。
それは走りながら話しているせいではない。まだ自分の心がマリーにあるからだと彼は分かっていた。
「婚約者です。」
「…。」
ロイは返事が出来なかった。
好きになった人は大国の姫で、その国に並ぶ程の国の王の婚約者だったのだ。
「ハハッ…勝ち目なんか無いな。」
ロイの瞳から一筋の涙が溢れた。
自分が好きになった相手は、決して望んではいけない相手だったのだ。
「情けない。」
ロイはグイッと涙を拭くと、しっかり前を向いてチャールズの背中を見つめた。
一国の王がマリーの為になりふり構わず必死になっている。
「気持ち悪くなんか無いですよ。マリーを真剣に愛している。ただそれだけです。」
「…。」
今度はウェスタンが黙ってロイの横顔を見つめた。
マリーという女性に人生を翻弄された男達の姿を目に焼き付けるように。
そして誰にも聞こえぬよう呟いた。
「チャールズ陛下に、バイルツン陛下、マーガレット、エリック、ゾーイ殿にそして君に…あぁ、マグリッド殿もそうか。世紀の悪女と呼ばれても仕方ない程に人を狂わせますね。我が王の妻になる方は。まぁ、私も嫌いじゃないから良いんですけどね。」
それでも我が王が求めるのならば仕方ないのだと。彼は半ば諦めたようにチャールズを追いかけた。
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