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村娘編

ドナドナ 胸糞悪め 嫌な人はとばして下さい

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「離して!!離しなさいよ!!バイルツン!どこへ連れて行く気なの!!」

喚き散らすマーガレットを無視し、バイルツンは城の前へと歩いて行く。

着いた場所は馬車を停める駐車場だった。
なぜかそこに大勢の家臣達も集まっている。

「なっ、何でこんな所に…」

マーガレットは異様な様子に喚き散らすのをやめ、素直に引きずられている。

「あぁ、お前との別れを惜しむ為に皆も集まったんだ。」

「…別れ。」

マーガレットは皆を見渡し身体を震わした。
その場にいる者全てがマーガレットの事を冷たい目で見つめていたのだ。
こんなにも沢山の人間に露骨な嫌悪の視線を向けらる事など初めてだった。

「何なの…一体何なのよ。」

徐々に声が小さくなって行く。
そこでようやくマーガレットの身体は解放された。

「マーガレット、お前の新しい主人になる人がここへ来ているんだ。」

「主人?何言ってるの?」

マーガレットが理解していない事など気にもせずに、バイルツンは上機嫌で歩き始めた。
一番手前に停まっている馬車の扉をコンコンと叩くと、ガチャリと音がして扉が開いた。

「こちらの方だ。」

皆が見つめる中、馬車の中からある男が出てきた。

「ヒイッ…」

マーガレットの叫び声が聞こえた。
それもそのはず、中から出てきたのは辺境伯ラマンスト・トルコイ。

彼はとても有名な人間だ。

25歳ととても若く、金持ち、頭脳明晰、人望もある。
それだけでも優良物件なのに、マーガレットが40歳近い事を考えれば尚更だ。

しかし、彼は独身、恋人の1人もいなかった。
それもそのはず、彼はのしのしと巨体を引きずるように歩いていた。
肌は油でギトリと光り、吹き出物が頬やオデコに浮き、すでに息が上がりハァーハァーと肩で息をしている。

「陛下…お久しぶりです。」

トルコイはお腹が出過ぎて邪魔なせいか、角度15度ぐらいのお辞儀をした。

「あぁ、トルコイ殿、遠方からおよびたてして悪かった。マーガレットの事を快くお受けしてくれありがとう。このバイルツン決してこの事忘れはしない。」

バイルツンは丁寧に頭を下げる。
マーガレットはその姿をぽかんとした顔で見つめていた。

「な…一体…何…?」

トルコイはマーガレットの方へ歩いて行くと、急に彼女の前髪を掴みかかった。
縦にも横にもデカい男に急にそんな事をされれば、さすがのマーガレットにも怯えの色が見える。

「ヒイッ!!何…何なの…!?」

「初めまして。今日から私があなたの夫です。私が飽きるまでは可愛がってあげますからね。」

「…あ…飽きる…まで?」

マーガレットは怒ることも忘れ、彼の言葉を繰り返す。
トルコイはニヤリと笑うと彼女の前髪から手を離し今度は腕を掴んだ。

「さて、もう連れて行きます。陛下、良き出会いに感謝します。」

「いや、こちらこそありがとう。あっ、忘れておった。あなたの事を例のやつに書かせて貰っても良いのかな?」

「あぁ、あれですか。構いませんよ。まぁ、箔がつくというものですからね。」

「感謝します。」

マーガレットが何も理解出来ぬまま話がトントン拍子で進んで行く。
オロオロと2人の顔を見ながら涙を浮かべ始めた。

「お願い…何なの…これは何なのか聞かせて…」

彼女は初めてバイルツンに対し可愛らしい態度でものを言った。
そのマーガレットの姿にバイルツンはどうしようかと意地悪げな顔を見せたが、実は最初から全て説明するつもりだったのだ。
勿体ぶりながらゆっくりと話し始める。

「最初はお前を極刑に処するつもりだったんだ。しかし、それでは王家の醜聞として未来永劫ずっと残る事になる。お前1人の恥なら構わんが、王家の恥はダメだ。」

そこでバイルツンは考えた。
マーガレットが王家に嫌気がさし、駆け落ち同然でトルコイの元は嫁に行った事にすると。
トルコイの住んでいる辺境地であれば、真相が外に漏れずらいだろうし、トルコイには申し訳ないが彼に嫁ぐ事自体が罰になるのだ。

「殺すわけでもない、死ぬことが分かっている場所へ放り出す訳でもない。マーガレット、感謝して欲しいぐらいだ。トルコイ殿に幸せにして貰いなさい。」

「….ふっ…ふざけないで!!誰がこんな男と何か!!」

マーガレットはトルコイに掴まれた腕を振り払おうと暴れたが、びくともしなかった。
スッとトルコイの顔付きが変わり、彼の魔力が漏れ出す。

「ヒイッ…!?」

「マーガレット、怒らしてはいけないな。君は魔力がほとんど無いらしいね?そんな君がこんなか弱い力でどうやって私から逃げるというのだい?」

トルコイは優しくマーガレットに微笑むと、その首を手で掴み握りしめていく。

「やっ、やめ…グァッ…アガガガッ…」

涙と唾液が溢れ、白目を剥く寸前で彼は手を離した。

「ゴホッゴホッ…ゴホッゴホッ…」

マーガレットは咳き込み、そして酸素を求め喘いだ。
生まれて初めて受ける仕打ちに身体の震えは止まらない。

「あぁ、マーガレット、君に良い事を教えてあげるよ。」

トルコイはマーガレットの長い髪を掴むと無理やり上を向かせた。

「イヤッ…痛い…」

「私は女性の身体を見て興奮したりはしない。君に性的な暴力を与えたりはしないから心配しなくて良いよ。」

「…。」

マーガレットは何も答えずに涙を流しながらトルコイを睨み付けていた。
この様な仕打ちを受けて、何を安心すれば良いのか分からなかったのだ。

「返事もしないのか。困った妻だな。」

トルコイはさらに力を入れマーガレットの身体を持ち上げる。
強制的に立たされた彼女の頭から髪がブチブチと抜ける音がした。

「やめて、やめて下さい…ごめんなさい…もう…」

「何だ口が聞けるんじゃないか。やれやれ手のかかる事だ。さて行くよ。」

トルコイはまた優しい笑顔に戻るとマーガレットの腕をまた掴み引っ張り始めた。

「では皆様失礼致します。」

彼が馬車に乗る前に一礼したのを見て、バイルツンはまた思い出したとばかりに皆に話しかけた。

「皆聞いてくれ!マーガレットは城で甘やかされて過ごしていた。トルコイ殿の元へ行っても困る事も多いだろう!誰かマーガレットに付きそうものはいないか!?」

周りの者達は慌ててササっと目を逸らす。
騒ついていた声もピタッと止み、誰もがトルコイに早く行ってくれと願っていた。

「ウゥッ…ウゥッ…」

マーガレットがその現状を見てまた泣き始めた。

「お前は人望が無いのぅ。まぁ、仕方ない…」

では達者でと言いかけた時、その場に女の声が響いた。

「陛下!!私がマーガレット様に付き添います!!」

「「「「!!!!」」」」

皆が声の主を見た。
そこにいたのはマーガレット付きメイドのナナ。
彼女が立候補したのだ。
皆はナナがマーガレットに虐められていたことを知っていた。
驚き、彼女の顔を見たが、彼女の瞳は揺らぐ事なく真っ直ぐに前を向いている。

「あっ…あなた…私、あなたにひどい事をしたのに…」

マーガレットは声の主がナナだと気付くと歓喜の涙を流した。
どんなに虐めようともマーガレットはナナの事を気に入っていたのだ。

ナナは真っ直ぐバイルツンの元へ行くと頭を下げた。

「今までお世話になりました。ありがとうございました。」

「マーガレットを頼むの。」

「はい。」

挨拶が終わるとナナは次にトルコイの方を見た。
ナナはずっと自分に視線を送ってくるマーガレットには目を合わせなかった。

「ナナと申します。トルコイ様、私も一緒に連れて行って貰って良いでしょうか?」

そう尋ねれば、トルコイは満足そうに頷いた。

「マーガレットの事を知っている者が付いてくるのはありがたい。これからよろしくお願いしますね、ナナ。」

「はい。ありがとうございます。」

「では、君にこれを渡しておこう。」

そう言ってトルコイがナナに渡したのは魔法のステッキの様な棒だった。
取手の少し上に赤いボタンがある。

「…これは?」

そう言って不思議そうにナナが赤いボタンを押すと、棒の先から電気が飛んだ。

バチバチバチッ

けたたましい音がし、ナナは驚いてその棒を落としてしまう。

「アッ!!申し訳ございません!!」

ナナが慌てて拾うと、トルコイは優しくナナの頭を撫でた。

「大丈夫。これからはそんなに顔色を伺いながら生きていかなくて良いんだよ。」

「…トルコイ様。」

「これはこうやって使う物だ。」

トルコイはナナからその棒を受け取るとマーガレットに向けてそれを使った。

バチバチバチッ!!!

「ギャァァァァァァァァア!!」

その瞬間マーガレットはカエルが潰れたような声を出し飛び上がった。
その姿を見てトルコイとナナが見つめ合い揃って笑い始めた。

「アハハハハッ、私の妻は面白いな。」

「本当ですね。マーガレット様がこんなに面白い人だとは知りませんでした。」

マーガレットは衝撃で呆然としていたが、ナナに笑われたと気付くと彼女は激昂した。

「ふざけるな!!お前が、お前が私を笑うなどと!!」

飛びかかろうとするマーガレットを見て、トルコイはその棒をナナに渡した。

自分で切り抜けろと彼の目は語っている。

「はい。トルコイ様。」

ナナはにこりと笑うと、迷いなくそれをマーガレットに振りかざした。

バチバチバチッ!!!

「ギャァァァァァァァァア!!」

マーガレットの身体にまた激しい電流が流れ、今度はひっくり返って倒れた。

「おやおや、失禁したみたいだね。ダメだね、私の妻は。これからちゃんと躾けないといけないね。」

「私も微力ながらお手伝いさせて頂きます。」

「あぁ、ありがとうナナ。それじゃぁ、この家畜まがいの妻にはこんな豪華な服は要らないから取っ払っておいてくれ。それにオシッコを漏らしたみたいだしね。このままだと臭くてたまらない。」

「はい。トルコイ様。」

ナナはいつも着せているドレスをあれよあれよと脱がして行く。
何ひとつ纏わぬ姿になった時にマーガレットは目を覚ました。

「うぅっ…えっ…!?な…何で?」

「あぁ、マーガレット様お気付きになられましたか?申し訳ございません。初めてこの棒を使ったので、手加減が分からずに。オシッコを漏らされたので、今拭いておりました。目覚めましたのなら、皆様に頭を下げ、出発致しましょう。」

「ナナ…あんた…」

マーガレットは目まぐるしく変わる現状について行けなかった。
しかし、自分がバカにしていたメイドが、自分に屈辱を与え嘲笑っている事は理解出来た。

「今まで誰のおかげで…」

そう言おうとしてマーガレットは言葉を引っ込めた。
ナナがいやらしく笑いながら棒を手の平で弄んでいるからだ。

「マーガレット様、あなたは立場が分かっていらっしゃらないようですね。まぁ、良いです。先は長いですからゆっくり参りましょう。あまり私を怒らせないで下さい。うっかり殺してしまいますから。」 

「ナナ…」

マーガレットは呆然とした顔でナナを見つめていた。
これが今まで自分が虐めていた女だろうか?別のもっと恐ろしい得体の知れない何かに思えた。

「ナナ、うっかり殺してしまっても構いませんよ。揉み消しますから。さぁ、2人とも行きましょう。」

トルコイはナナを丁寧に馬車の中へエスコートすると、マーガレットを摘み上げ押し込めた。

皆が見送る中、馬車の中から絶えず悲鳴が聞こえていた。

しばらくしてアベロンの街に、マーガレット王妃、大恋愛の末に逃亡というビラが撒かれた。

そこには普段からメイドを虐め、公務もせず散財ばかりするマーガレットに陛下が頭を痛めていた事。
そして、王妃という立場を忘れ辺境伯と大恋愛の末逃亡した事が面白おかしく書かれていた。

城の者以外真実は誰も知らない。
マーガレットがその後どうなったのかも誰も知らない。
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