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結婚に向けて

チャールズの性教育

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チャールズがアベロンを出て1週間後、彼は無事にマッキンダムへと帰国していた。

「チャールズ!良く帰った!!」

出迎えたのはチャールズの叔父ウィリアム・バードン公爵。
チャールズがこの国で1番信頼する人物だ。

「あぁ、ウィリアム。」

チャールズは彼に歩み寄るとガシリと抱き合いお互いの背中をポンポンと叩き合った。

ウィリアムはチャールズに良く似ており、190㎝あるチャールズよりもさらに背が高く肩幅もデカい。
日本で言うところの弁慶の様な男だ。

「どうしたんだチャールズ?えらく機嫌が良いな。お前のそんな晴れやかな顔なんか生まれて初めて見るぞ。」

ウィリアムは自分に会えた事がそんなに嬉しかったのだろうか?と思ったのだが、どうも違うようだ。

彼の浮かれようは、何かおかしな物でも食べたのではと心配になる程だった。
1ヶ月会えなかった叔父との再会を喜ぶテンションではない。

仕事の溜まっているチャールズは、帰国してすぐに執務室へと向かった。

ウィリアムもそれについて行っているのだが、アベロンで何があったのだとチャールズに捲し立てるように聞いた。

「おい!隠し事をするな!そのニヤけた顔は何だ!」

執務室の中はチャールズ、ウェスタン、ウィリアムの3人。
チャールズはウィリアムの質問には答えずに、シャツのボタンをいくつか外すと、溜まりに溜まった書類が乗っている机へと腰掛けた。

留守中ウィリアムがチャールズの代わりに仕事をしてくれていたのだが、国王でなければ通せない書類は多く存在する。1ヶ月の間こうやってモリモリと溜まっていったのだ。

「交渉が上手くいったのか?」

机に座り黙々と書類に目を通すチャールズにお構い無しにウィリアムはさらに聞いた。
チャールズもそんな叔父に慣れているのか、目線は書類から外さずに答えた。

「いや、交渉は最悪だ。まぁ、元々値切るつもりは無かったからそれは良い。関税、通行税もアベロンに有利な法を結ばされたし、国境がハッキリしていなかった山間部の町もあちらに取り込まれた。」

「なっ!?そんなにか!?」

「あぁ、それに借りたお金も結局全額返還する事になったし、それに怪我をした兵に補償金を出す分が上乗せされる。」

「…そうか。まぁ仕方ないな。兵も借りたのだ。彼らの中には死んだ者もいる。」

「あぁ。」

ウィリアムももちろんそんな事は分かっていた。
貰った恩が大き過ぎるのだ。
それを値切れない事ぐらい考えれば分かる。
それでも交渉が上手くいったのかと聞いたのは、あまりにもチャールズの機嫌が良いからだ。
それではなぜと首を傾げた。

「チャールズ、向こうで何があったんだ?」

色々考えてみたが分からず、ウィリアムは眉毛を下げて心配そうにしている。
政治的な関わりだけでなく、ウィリアムは甥のチャールズをとても可愛がっていたのだ。

「…運命…ボソ…ボソボソ」

「はぁ?」

「だから…運命…ボソ、ボソボソ」

「はぁ?何だってそんなに声が小さいんだ?一体コイツどうしちまったんだよウェスタン?」

ボソボソと話すだけで全く聞き取る事が出来ず、ウィリアムはついに痺れを切らし一緒に出かけたウェスタンに話しを振った。
どうやらウェスタンは全て知っているようで、肩を震わし笑っている。

「ウィリアム殿、チャールズ陛下は結婚相手を見つけてきたんですよ。」   

「!!!」

それを聞いた時のウィリアムの顔は、目や鼻そして口が全部カパッと大きく開かれ、どうやら息もしていない様子だった。
予想通りの反応にウェスタンは笑い出し、チャールズは苦虫を噛み潰したような顔になった。

「なっ…なっ…何だと!!!!」

しばらくして再起動したウィリアムは叫んだ。
それは城を揺るがすほどの大きな声で、チャールズとウェスタンは耳がキーン状態だ。

「何という事だ!女嫌いで有名なチャールズに嫁だと!!!あぁ、何て素晴らしい日なんだ!!!あぁ神様!!ありがとうございます!!」

そうして興奮したウィリアムはオイオイと泣き始めた。

「ウィリアム…大袈裟だ。恥ずかしいからやめてくれ。」

これにはさすがのチャールズも書類を置き、手のひらで恥ずかしそうに顔を隠していた。

「何が大袈裟なもんだ!皆がお前の結婚などとうの昔に諦めたというのに。」

そうやって何か言っては豪快に泣くを繰り返していたウィリアムだったが、何か思い出したようにチャールズに詰め寄った。

「お前ここで何してる!?」

「はぁ?」

「こんな所で仕事などしとる場合か!?」

涙を止めて急に興奮しながらウィリアムが囃し立ててくる。
チャールズは心底面倒くさそうにウェスタンにどうにかしろと目配せしたが、ウェスタンは細い目で首を振っている。

「薄情な奴だ…」

チャールズは諦めてウィリアムと向き合った。放っておいても落ち着く相手ではない事は重々承知しているのだ。

「それで俺は何をしている場合なんだ?」

チャールズが面倒くさそうにそう聞くと、ウィリアムは顔を輝かせてこう言った。

「性教育だ!!お前まだ童貞だろ!!相手の方を傷付ける訳にはいかんからな!!おいウェスタン!!!」

この話しの流れで自分の名前が呼ばれた事にウェスタンは身体を震わせた。
嫌な予感しかしなかった。

「…はい。」

「お前なら女の2人や3人すぐ用意出来るだろう?コイツに女の抱き方を教えてやってくれ!!」

「「はぁ?」」

「チャールズ、相手とベッドに入ったは良いが何にも分からんではお互いにツラいし相手にも恥をかかす。ここは俺の言うことを聞いて勉強してこい!!」

「…。」

チャールズは深い深いため息を吐いたが、ウィリアムの言う事は一理あった。チャールズは極度の女嫌いの為に、26年間女の裸を見た事も無いのだ。
マリーを傷付けたらどうしようと不安の種が芽を出す。

「ちょっとチャールズ陛下、何ですかその顔は?あなただけが頼りです。嫌ですよ私は、上司に性教育など…」

チャールズも自分と同じ気持ちだと思っていたのに、どうやらウィリアム側に傾いていると感じたウェスタンは多いに焦った。
しかし、ここには彼より身分の高い人間しかいない。
彼に拒む権利などないのだ。

「悪い。頼む。」

チャールズにそう言われ、ウェスタンは項垂れた。

『何が悲しく自分が上司に性教育などと…。『』

そう思い腐るウェスタンの肩をウィリアムが叩いた。

「大丈夫!お前は変態だ!人の目が合ってもお前自身も楽しめるさ!」

そう言って二カッと笑うウィリアムを、ウェスタンは本気で殺してやろうかと思った。
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