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国王&冷酷公爵VSマリー&チャールズ

グアニムの声援

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夜会が終わってからもマリーの謹慎生活は続いていた。
5階フロア以外に行ってはいけないという言い付けをマリーはあれからもしっかり守っていたのだ。

「ハァー。」

朝の勉強の時間が終わり、マリーは愛犬チャールズを膝に置くと虚ろな顔で窓の外を眺めていた。
すぐにどこかへ行ってしまうチャールズも、ご主人様の異常事態を察知してか数日マリーの周りをウロウロとまとわり付いている。

「姫様、紅茶でも飲みますか?」

それを心配そうに見ていたグアニムはそっとマリーに声をかけた。
グアニムは隣国の王チャールズがマリーを見染めた事を知っていた。

そしてそれを邪魔する為に子爵家の令嬢ターニャを替え玉にし、2人を引き離す作戦に自分も加担してしまったのだ。

グアニムはその事を深く後悔していたが、マリー狂いの陛下に逆らえば自分だけでは無く自分の家族にも罰が与えられるだろう。

グアニムはマリーへの忠誠心と陛下への恐怖心の間でずっと揺れ動いていたのだ。

温かい紅茶を淹れた後、グアニムは意を決しマリーに頭を下げた。

「グアニム?」

なぜ急にグアニムが頭を下げたのか理解出来ず、マリーは首を傾げキョトンとしていた。

「姫様、私は罪を犯しました。」

「罪?グアニムが?」

マリーは先程よりもさらに首を傾げる。
誰よりも正義感の強いグアニムが罪を犯すはずなどない。

そんなバカなと言いかけて、彼女の真剣な眼差しに捕まった。
それは命がけで何かを打ち明けようとしている真剣な眼差しだった。

「分かったわ。話して。」

マリーは自分も真剣な顔になるとグアニムの話しに耳を傾けた。

「まず初めに、姫様を欺いておいて真実を全て話せない事をお詫び申し上げます。」

グアニムは罪を犯したがその内容については話せないことを告げた。

あまりにも理不尽な謝罪だが、そう言われた事により、グアニムが父バイルツンから何かしら任を受けたのだろうとマリーは容易に推測する事が出来た。

「チャールズ陛下は姫様の事を気に入っておいでです。」

「!!!」

マリーは思いがけないグアニムの告白に、驚き過ぎて一瞬声が出なかった。

「でも…チャールズ様は夜会で…」

ファーストダンスを知らない女性と踊っていたと言おうとして、マリーは考え込んだ。
バイルツンがグアニムに何かさせたのなら、あの女性も関わっているのではないだろうかと。

「姫様…バイルツン陛下は姫様の事を大切に思っております。」

それは異常な程にという言葉をグアニムは飲み込んだ。

「分かっているわ。」

「姫様の母君が健在であれば今の陛下を止めれたでしょうが、今の陛下を止めれる者はいません。」

マリーは難しい顔で頷く。

「でも、姫様なら。姫様自身が陛下を止めるのであればそれは叶うでしょう。」

「私が?」

「そうです。」

マリーは呆然とした。
それもそのはずだ。他者からは自由奔放に見えるマリーだが、物心付いてから父親の意見に反いた事など一度も無かった。

「チャールズ陛下はもう数日のうちに帰国するでしょう。お互い想い合っているのに良いのですか?今ならまだ間に合うのですよ?」

「チャールズ陛下が帰ってしまう…?」

「そうです。」

「私がお父様に…?」

上の空で呟いたマリーの言葉にグアニムはしっかりと頷いた。

「あなたは民に愛された王妃クレア様の娘なのです!そして私が育てた大切な姫様です!あなたに出来ない事などない!あなたに必要なのは自分で考え行動する事!今のあなたなら必ず出来ます!」

グアニムは必死で訴えた。
もしかしたら彼女は、マリーに悪知恵を与えたのは誰だと後に陛下に罰せられるかもしれない。
それでも、マリーを裏切った罪悪感を抱えているより良い。

マリーの背中を押しながら、もしこれで自分の家族が巻き込まれるなら、主人と離縁をしようと彼女はそこまで決意を固めていた。

「私…行ってきます。」

そして、マリーもまた親離れする為の初めの一歩を踏み出したのだった。
マリーが出て行く姿を見るグアニムの温かい視線は母そのものだった。
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