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本当の始まり

内緒の話し

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マリアの葬式から帰って来て、私は自分の家でボーッとしていた。
メイドのリサが何度か心配して来てくれたが、笑顔を見せる気にはなれなかった。
泣き疲れたせいか、私は少し眠ってしまったようだ。
今私の目の前にはマリアがいる。あり得ないと驚き、夢だと気が付いた。
答えてなどくれないと分かっているが聞かずにはいられない。

「ねぇ、何で死んだの?」

マリアはフフフッと笑った。いつもの華やかな彼女の笑い方に私は目頭が熱くなる。

「もうすぐ分かるわ。」

「もうすぐ?」

マリアは微笑み頷く。

「クリスティーナ、、私神様がくれた願い事使わなかったの。だから、あんたにあげる。」

「何で願わなかったの?幸せになりたいって願えば良かったでしょ?」

マリアは首を振る。

「私の幸せは彼の側にしかないもの。私、願えば彼を助けれたのに、、間抜けね、、願えば毒を消せたのに気が付かなかったの。彼を生き返らせないなら、この世界に私の幸せはないわ。」

「そんな、、。」

「クリスティーナ悲しまないでよ。あなたに悲しまれるほど私達仲良くないじゃない。」

マリアはケラケラと笑った。

「じゃぁね。会えて良かったわ。」

マリアは踵を返すと軽やかに走って行った。彼女が走って行く先に、ハニーブロンドの青年が立っている事に気付く。
彼は彼女をエスコートする為に腕を差し出している。マリアは走った勢いのままその腕に抱きつくように引っ付いた。

そこで目が覚める。
私の瞳から涙が溢れたが、これは悲しいからではない。自分の勝手な妄想が彼女の幸せな夢を見させただけなのかもしれないが、それでも心は暖かかった。

「主人、夢ではありません。」

すぐ側で声がする。

「ペペロ?どういう事?」

「主人の身体に聖なる光が宿っています。神から貰った願いの力とやらでしょう。私にとっては嫌な力ですが、、きっと主人に必要になるから届いたものでしょう。諦めます。」

ペペロは嫌そうに目を閉じている。私は身体を起こして、自分の胸に手を当ててみる。確かに自分のものとは違う何かが身体に宿っている感覚があった。

「あぁ、、それじゃぁ、あれ夢じゃないんだ。良かった。本当に良かった。」

マリアは大好きな人と幸せになれたようだ。
本当はこの世界で幸せになって欲しかった。それでも彼女が、ヘンリーが幸せになったなら私達は救われる。
私達はどんなに悲しみを背負おうとも、これからもこの世界で生きていかなくてはいけないから。
皆に今の事を話そう。私は立ち上がった。
その時だ、

「主人お気を付け下さい。何か来ますぞ。」

ペペロが閉じていた目を見開き私に言った。

「何かって!?」

そう聞いた途端私は誰かの結界の中に入った。しかし誰の気配も無い。ペペロは私の肩に乗りキョロキョロしている。

「クリスティーナ隠密ゼロを少し広い範囲で使え。」

頭の中で直接言葉が聞こえる。あぁ、お父様だ。私は安心した。言われた通り、少し範囲を広げ隠密ゼロを使う。この魔法は、一度使ってからは思いのままに使えるようになった。
お父様の隠密ゼロと私の隠密ゼロが重なって行くのが分かった。一体何が起こるのか、、。
全てが重なった時に、お父様の姿が現れた。そしてもう1人、陛下がお父様の横に立っている。

「陛下!?お父様これは一体!?」

「上手くいったようだな。我々の姿は我々には見えているが、他の者には見えない。私とクリスティーナの隠密ゼロが重なった範囲はどんな者にも把握する事は出来ないだろう。」

お父様は近くの椅子に座るよう言った。皆が座ると、陛下が話し始めた。

「クリスティーナ、巻き込んですまない。」

私は何かに巻き込まれたらしい。謝られても何の事だかさっぱり分からない。

「チャールズ、それでは何の事かさっぱり分からん。」

お父様が突っ込みを入れた。

「あぁ、すまない。何から説明するべきか、、。クリスティーナ、今回のヘンリーの死をそなたはどのように聞いた?」

私は陛下を目の前に居心地悪そうに答えた。

「ヘンリーが陛下の後を継げなくなった事を苦に自殺し、マリアが後を追って自殺したと、、。」

陛下の目を見ては言えなかった。

「そうか、、。皆そう思っているが、実際は違う。ヘンリーは魔女に殺された。」

「魔女?」

陛下は頷く。

「大昔から城の1番上に住まう魔女だ。彼女は不老不死の力、人を操る魔法を持っている。今回の件は彼女が使える駒を使い、自分の手を汚さずヘンリーを殺した。」

陛下は握りしめた拳を自分の太ももに打ち付ける。

「彼女の力は絶大だ。不老不死の力で殺す事も出来ない。私はヘンリーを守る事が出来なかった。」

お父様も今初めて聞いたいるのだろう。真剣に耳を傾けている。

「それで魔女とは何なんだ?」

涙を流した陛下に何の容赦もないお父様の声が鋭く響く。陛下は涙を拭き、口を開いた。

「魔女の名は、ハナモリ  カナエ。フロランティル王国初代王妃にして、聖剣を取り出した伝説の王妃だ。」

「はぁあ!?」

私はあまりの事に素っ頓狂な声を出した。

「隠密ゼロとは凄いのだな。これまで一度もこの事実を皆に口にする事が出来なかったのに、、。」

陛下と私の会話は噛み合っていない。
私は王妃が日本語で日記を書いていた事を思い出した。そして、その名前、、

「王妃は、転生した訳ではなく、召喚されたのですね?」

私は答えにたどり着く。

「そうだ。その昔、フロランティル国は魔物が溢れていた。しかし、聖剣を生み出す者が現れず初代国王は困り果てていた。そこで禁忌の術を使い、違う世界より聖剣を生み出す事の出来る物を召喚したのだ。彼女はこちらの世界に渡る際に、3つ願い事が出来るよう神から計らいを受けたと言っていたそうだ。そして彼女は聖剣を、永遠の命を、絶対的な力を手に入れた。国王は国の為に尽くしてくれる彼女を王妃として迎え、彼女を溺愛したらしい。」

私は物語を聞いているようなそんな感覚になった。マリアの事が無ければ到底真実だと思う事が出来なかっただろう。
マリアは1つだけしか与えられなかった願い事が王妃は3つも与えられた。

「それから王妃はどうなったのですか?」

陛下は苦々しい顔をする。

「彼女は不老不死の力を得て歳を取らなくなったそうだ。聖剣を持った者が現れるまで自分は生き延びなければと思って願った願いだったが、王妃が不老不死と知られる訳にはいけないと、彼女は子供を産んでしばらくして死んだ事にされた。しかし、彼女は影ながらずっと国を守っていた。国王が死んでからもずっと、、。今、彼女の存在を知っているのは2人だけ。私とコーリアス家の当主。コーリアス家は代々王妃を守って来た。彼女の駒にするには都合が良かったのだろう。他にも彼女の身の回りをする者が数名いるが、ある程度すれば記憶を消し去り、違う者と交代させる。」

「コーリアス家、、サーキス君の家だ!!」

サーキス君、、そんな立派な人間だったのか、、。白蛇なのに、、。

「それなら、サーキス君のお父さんが王妃の命でヘンリーを殺したということ!?」

「いや、サーキスの父親は私の妻ソフィーの護衛をしていた。ソフィーが死んでからは、任を解かれしばらくしてタイマリス学園の学園長の職に就いた。王妃となるはずだったイザベル・ラウエニアを守っていたのは、サーキス・コーリアス。ヘンリーを殺したのも彼だ。」

「、、そんな、、サーキス君が?」

白蛇の様な見た目なので、外見は恐ろしい彼だが、私から見た彼は大人しく人懐っこい、、人には懐かないか、、私にだけ懐っこい犬の様な人だ。ヘンリーを毒殺したなど信じがたい。

「正確には殺さされただがな。彼に断るという選択肢は無かった。断れば一族は皆殺しにされただろう。そして、私は息子と同い年の少年に何もしてやれなかった。勿論自分の息子にもだ。皆から陛下と呼ばれる身にありながら、今までどうする事も出来なかったのだ。」

陛下は顔を伏せた。

「サーキス君、、。」

ただの根暗で変態な可愛い犬だと思っていた彼は、そんなにも重い物を背負っているのか、、。

「でも、王妃は国の為に働いて来た人だったんでしょう?なぜこんな事に、、。」

日本からやって来た普通の女性がなぜそんな恐ろしい魔女になってしまったのか、私は疑問に思った。歴代の王妃の中で絶対的存在の彼女、一体何が、、。

「彼女は長く生き過ぎた。何百年と生きる中で、彼女は少しずつ狂って行ったのだろう。フロランティル王国は豊かで良い国だ。それを築き上げたのは他ならぬ彼女の力なのだから。しかし、同時に人の死を弄ぶようになった。人の心を傷付ければ人はどう死ぬのか、実験を繰り返すようになったと書かれていた。」

「書かれていた?」

お父様が聞いた。

「彼女の部屋にはそんな事が書かれた紙が散らばっている。自分が死ねないから、人の死に興味があるとそう言っていた。」

「人の死に興味がある、、。」

ペペロが口を挟む。

「魔王様も同じ様な事を言っていました。だからたまに人の世界へ出向き、人に生まれ変わり短い生を体験するのだと。そうしなければ、魔界で永遠に過ごすうちに頭がおかしくなってくるそう言っていました。」

「長い生は人を壊す、、。陛下、それで私は何をすれば良いのですか?」

私にとって1番重要な質問をした。
陛下は申し訳そうに、しかし私の目を見据えて答えた。

「倒して欲しい。ハナモリ カナエを。」

話しを聞きながら予感はしていた。
それでも私は絶句して固まるのであった。
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