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本当の始まり

私が死んだ理由 マリア目線

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城へは裏門から入った。私は招待されて来ることしかなかったので、裏から入ったのは初めてだった。
だから分からない。ヘンリー様のいる部屋に着くまでの間、誰にも会わなかったが、それが普通の事なのか、異常な事なのか、、。
ただ、ヘンリー様とそう関係があるとも思えないサーキスが、ヘンリー様がどこの部屋で謹慎させられているのか知っていたのかが不可解だった。

私達が中に入ると、ヘンリー様は椅子に腰掛け読書をしているところだった。
彼は幾分か痩せた気がするが、穏やかないつもの優しい雰囲気をしている。
私は彼が口を開くより先に頭を下げた。早く謝りたかった。
彼は嬉しそうに笑った。

「怒ってなどいない。私は少しおかしくなっていたが、自分を取り戻す事が出来た。マリア、頭を上げてくれ。それに謝るのは私の方だ。自分が殿下として正しい事をしているからと言って、相手にとって正しかったかどうか、それは別だと私は気付いた。あの時あなたを最優先出来なかった事を、私も謝らせて欲しい。」

私は千切れるほど首を振った。あの時に感じた黒いオーラの彼はどこにもいなかった。優しく抱きしめられ、私は彼の腕の中でしばらく泣いた。
私が落ち着いてから、私達はソファーに座りたわいも無い話しをした。
とは言っても、サーキスは喋らない。一体コイツは何しに来たのだと思うぐらい微動だにもしない。
そして、それを全くといって気にしないヘンリー様も不可解だ。
沢山の不可解が溜まっていく。
するとここに来て初めて私達以外の人を見た。
メイドが扉より入って来て、私達に紅茶を出してくれた。
その時一瞬変な匂いがして目の前が暗くなる。しかしすぐに視界は戻り、匂いもしなかった。泣いたせいかと思い私は深く考えなかった。
この時私が気付いていれば、、。
紅茶を飲み出してすぐにヘンリー様に異変が起こった。口から血を流し苦しそうに悶え出した。
私は驚き、すぐ彼の元へと向かう。

「ヘンリー様!!ヘンリー様!!」

彼を抱きとめ名前を必死で呼ぶ。光魔法のヒールを使ったが効果は無い。

「、、マリア、、お前なのか、、。」

彼の最期の言葉だった。私は思い出し、願い事をした。

「お願いです。彼を助けて下さい。お願いです。彼を死なせないで!!!」

私は大声で叫んだが、彼は帰って来なかった。涙がポロポロと頬を伝う。彼が死んだ事実を受け入れる事など出来るはずもなかった。

「さて、出るぞ。」

サーキスが冷たく言い放つ。

「なっ!!何なの!!何なのよあんた!!!」

私は涙に濡れた目で彼を睨み付ける。

「答えられないと言ったはずだ。ここに残れば殺害を疑われるぞ。可哀想だと思って死に目に会わせてやっただけだ。早くしろ。」

「何それ?死に目に会わせる?何なの、、。」

私は気付いた。あぁ、サーキスがヘンリー様を殺したのだと。

「、、何で、、?」

「頭が悪いのか?答えられないそう何度も言っている。」

「何よ、、人殺し、、。私あんたのせいでヘンリー様に、、。」

彼は死に際に、マリアお前なのか。確かにそう言った。私の心に絶望感が広がっていく。涙が後から後から湧き出て来るが、頭は冷静になっていった。

「ねぇ、彼は何で死んだの?」

サーキスは扉の方まで行っていたが、振り返り答えた。

「毒だ。」

「そう、、。ねぇ、その毒余ってない?私も彼と一緒に死にたいの。」

私は微笑んだ。サーキスは胸元から紙包みを取り出し私に渡した。

「本当に死ぬ気なら俺に聞きたい事を聞いてみろ。死に行く人間には効かない魔法だ。答えられるかもしれない。」

私は彼から毒を受け取った。どうやら彼の話す事が出来ないとは、強制されたものだったようだ。私は頷いた。今日死ぬなど思っていなかったが、嫌な予感はしていた。それに彼の側でいられないなら生きる意味などない、そう心に決めたところだった。私に生きる意味などもう無い。
私は頷き彼に聞いた。

「彼を殺した理由は?」

「あるお方にとって必要無くなったから。その人の事は答えられない。」

「あなたは何者なの?」

「俺の家は代々王子の婚約者を護衛して来た家系だ。」

私は目を見開いた。

「あなたの主人は?」

「イザベル・ラウエニア様だ。」

驚き過ぎて声も出なかった。そしてしばらくして笑った。

「あの女がヘンリー様を殺したの?ハハッ。とんだ女優ね。私にあれだけ色々言っておいて。」

「それは違う。イザベル様は今回の事を知っているだけだ。止めたいが止められない立場にある。」

「止められない立場?彼が死ぬかも知らないのに?そんなのどんな立場よ!!」

私は怒鳴り付けたが、サーキスの顔色は変わらなかった。

「イザベル様も魔法により誰にも話す事が出来ない。もし、あの方の目をかいくぐり話せたとしても、バレればイザベル様に関わった全ての者が殺される。」

私は言葉を失った。サーキスは説明を始めた。

「俺の父は学園長になる前、ソフィー様の専属護衛をしていた。しかし、ソフィー様は病で亡くなり、父は任を解かれた。その後ヘンリーに婚約者が出来、今度は息子の俺がイザベル様を護衛する事になった。」

「、、イザベルは、、ヘンリー様に熱を上げ、勉強もせずウロウロと彼の周りを、、、そんな、、暗い影を背負った雰囲気など、、」

私はブツブツと言葉を紡いだ。

「イザベル様は婚約者になった時に、俺が護衛に付く事だけ知らされた。その時に書いた誓約書の力を知ったのは今回が初めてだ。あの方の存在すら知らない。今回イザベル様が知っているのは、俺がヘンリーを毒殺する事。それを止める術がイザベル様には無い事。そして、大きな力を持った誰かがいるという事それだけだ。」

「、、そんな、、。」

ヘンリー様が死ぬ事を知っていたのに止められなかった。彼女は今どんな気持ちでいるのだろうか、、。

「他に聞きたい事は?」

私は首を振る。私は死に行く自分の為ではなく、家で小さくなり声を枯らして泣いているだろう悪役令嬢を思い涙を流した。
手にした紙の包みを開く。白い粉が中に入っていた。

「そう言えば、サーキス、あんた私に惚れてるのかと思ったけど違うのね?」

サーキスは頷いた。

「クリスティーナ様のお陰で、お前の愛が偽物だと分かった。だからお前が憎くかった、、でも、、今は、、。」

「いいの。私はあんたに好かれたくなんかないわ。」

私はケラケラと笑った。そして、私は叫んだ。

「神様!!私願い事使わなかったから、この願い事クリスティーナにあげてよ!!あの子ならきっと人の為に願い事を使うから!!」

私はその後白い粉を口に含み紅茶で飲み干した。喉が、胃が、焼けるように熱くなり、口から血が吹き出る。
朦朧とする意識の中でヘンリー様を探した。彼に重なるように倒れた私はヘンリー様の手を握った。
彼に会いに行こう。
私はあなたを殺してなどいない。
早く弁解したい。
私は微笑みながら目を閉じた。
こうして私の3度目の人生が終わった。
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