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本当の始まり

校外学習が終わりそして始まる

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私は夢を見ていた。
絵本の中に出てくるような美しい王子様とお姫様が仲睦まじく暮らしているという幸せな夢だ。
ヘンリーとイザベルに似ているのは気のせいだろうか?

だが私は、彼らの行く道が平坦で無く険しいものだと知っている。
それを証拠に、向こうから黒い雲がやって来ている。
私はお姫様に聞かずにはいられない。

「あなたは幸せ?」

私の声が聞こえたのか、お姫様が振り返る。

「ザーーーーーーーわ。」

ノイズで聞こえない。
彼女は幸せそうに笑っていた。
しかし次に聞こえた言葉にゾッとする。

「いつか私は彼を殺すわ。」

お姫様はまた幸せそうに笑った。

私は目を覚ました。
天井を見ただけで分かる。
ここは王城だ。
火竜を倒した時同様、連れて来られたのだろう。
次に右手に違和感を感じた。
暖かい手に握られているようだ。
右手はベッドの中、、、横を見るとイサキオスが寝ていた。
なぜ彼が?
一緒に寝てたの?
私がモゾモゾ動き出すと、イサキオスが目を覚ました。

「ティーナ?」

「、、はい。」

「あぁ、起きたのか。良かった。」

「、、ごめんなさい。」

彼の顔を見て心配をかけた事がすぐに分かった。
私は、泣きそうな顔をした彼の胸に飛び込んだ。
そうだ。私は魔剣を生み出し、人を殺したのだ。

「ティーナ、大丈夫なのか?」

私は頷く。

「私はイザベルを守る事を選んだ。悔いはないよ。」

彼は私を抱きしめた。
この腕の中では、不安も悩みも消えていく、、そんな事を思っていると、頭の上で咳払いが聞こえた。

「ん?」

そちらを見ると、お父様がいた。

「お、お、お父様!?どうして!?」

私はイサキオスから慌てて離れて起き上がる。
しかし目眩がして倒れた。

「あぁ、慌てるな。」

お父様が私の額に手を当てる。
魔力が流れ込んで来るのが分かる。
心地良かった。

「どうしてって、娘が倒れたと聞けば来るだろう。しかも魔剣を出したと聞けば尚更だ。どうしてそんなもの出しちゃったんだ?」

「どうしてって、、。出たものは仕方ないでしょう。気付いたら手にあったんです。」

お父様はため息を吐いた。

「チャールズがお前に会いたがってる。連れて来ても良いか?」

「陛下が?魔剣の事でですか?」

お父様は頷いた。

「はい。会います。」

イサキオスは心配そうに私の頭を撫でた後、ベッドから出て近くの椅子に座った。
彼もこの場にいてくれるようだ。

陛下は部屋の前にいたらしく、お父様がすぐに連れて来た。
しかし、やって来たのは陛下だけではなかった。
ヘンリー、イザベル、ニコラス、そしてマリアまで入って来る、
王族関係者勢揃いだ。
嫌な予感がした。

お父様がベッドの横に来て、起き上がった私を支えてくれた。
陛下も側へやって来て、私に頭を下げた。

「クリスティーナこの度は本当にありがとう。君がいなかったらもっと沢山の人が死んでいた事だろう。」

私は慌てる。

「そんな、頭を上げて下さい。」

ヘンリーとイザベルも頭を下げていた。

「クリス、お前があの時助けてくれていなかったら、イザベルは死んでいた。俺からもお礼を言わせてくれ。ありがとう。」

「、、ヘンリーまで、、頭を上げて。」

お父様が重い空気を変える為か、軽い調子で聞いて来た。

「ところでクリスティーナ、魔剣は今でも出せるのか?」

私は自分の手の平を見た。開いたり閉じたりしてみる。

「分かりません。今は身体に魔力もあまり無いみたいですし。あの時も勝手に手から出たので、出せと言われれば難しいかもしれません。」

それには、イサキオスがコツを掴めば出せるようになるさと言った。
陛下がようやく頭を上げて、私に話しかけた。

「クリスティーナ、何かお礼がしたい。欲が無いのは知っているが、私に何かさせてくれないか?」

陛下は相変わらずの甘いフェイスで私に優しく囁く。
好みじゃ無いんだけど、目のやり場に困るんだよね、、キラキラ輝く陛下に目を細めてしまう。
私は、何か、何か、、と思いながら首を傾げた。

「あぁ、それでは1つ。」

陛下が嬉しそうに近付く。

「ヘンリーがイザベルに怒っているんです。彼が怒る理由も分かるけど、彼女の立場は厳しいものです。せめて側にいるヘンリーだけはもう少し温かく見守ってあげて欲しい。」

私はヘンリーを見ながら言った。
イザベルが焦った顔をしていたが気にしない。
陛下はキョトンとしている。

「どうか、ヘンリーにイザベルと仲直りするよう言って貰えませんか?」

私の願いに笑い出したのは、ヘンリーだった。

「クリスは、、今なら何でも貰えるのに、、ハハッ。分かったよ。後で話し合う。」

ヘンリーはイザベルを見つめて言った。
彼女の瞳が濡れているのは気のせいでは無いだろう。

「そんな事なのか?」

陛下があからさまにガッカリして言った。

「はい。」

私は笑顔で答えた。
魔剣を自由に出せるようになれば教えてくれと陛下から言われ、話しは終わるはずだった。

しかし、ニコラスがその時話し始めた。

「俺もこの場で話したい事があります。」

彼は陛下の前へ行き、片膝をついた。
陛下は少し驚いた顔をしたが、すぐにいつもの穏やかな顔に戻る。

「申してみろ。」

ニコラスは頷いた。

「俺は権力に興味がありませんでした。将来は父の様に傭兵団で働くのだとそう思って生きてきたから。しかし、父にお前は王政を学びいつか国を導く立場の人間になれ、そう言われました。」

彼の発言でヘンリーの眉間にシワが入るのが見えた。

「俺はヘンリーと違い幼い頃より国の事を思いながら生きて来た訳ではありません。将来陛下になるのはヘンリーの方がきっと相応しい。でも、俺は平民として今まで、いえ今も生きています。だから、民の気持ちはここにいる誰よりも分かる。」

彼は真っ直ぐ陛下の目を見据えた。

「俺に、いえ、私にチャンスを下さい。私も国の事を思い、民を思い生きてみたい。これからここで色々な事を学んでみたい。お願いします。私にチャンスを下さい。」

陛下が口を開いた。

「私の子供になる気になったのか?」

後から聞けば、ジェファーソンより、ニコラスを陛下の養子にしてくれと頼まれていたらしい。

「はい!」

「分かった。頑張りなさい。」

陛下は優しく微笑み、彼の頭を撫でた。
ヘンリーが彼らしからぬ鋭い顔をしていたが、気付けばいつも通り優しい顔に戻っていた。
見間違いだったのか、、?

その後ニコラスは真っ直ぐイザベルの元へ向かった。
イザベルは首を傾げている。

「イザベル様、先日ヘンリーの命を守る為、敵の前に立ちはだかった姿を見て、この前よりあなたに抱いていた気持ちの正体に気付きました。」

彼はイザベルの手を取った。

「あなたを愛しています。あなたとならどんな困難も乗り越えられる。そう思えた。私を見ていて下さい。きっとあなたに相応しい男になってみせます。」

イザベルは言われた意味がしばらく分かっていなかったが、段々理解していき
それと共に顔が赤くなる。
口を開いたのはヘンリーだった。

「彼女は私の婚約者だ。分かって言っているのか!」

あまりの事に、ヘンリーは大声を出している。
ニコラスは冷静だった。

「あぁ、分かっている。しかし名ばかりの婚約者なのだろ?私なら彼女を放っておいて、他の女と仲良くなどしたりしない。」

校外学習でヘンリーとマリアがベタベタしていたのを彼は間近で見ていたのだ。吐き捨てるように言った。
ヘンリーは言葉に詰まる。

「とにかく、ニコラスはこれから沢山の事を学ばなくてはならない。忙しくなる故覚悟しておけ。」

2人の言い争いをやめさせたのは、陛下だった。彼はこの状況でも、面白いことになったという顔をしている。

「さて、クリスティーナ、まだ体調が戻ってないのに騒がしくして悪かったな。城から出る前に顔を出してくれ。」

陛下は部屋を出て行った。出て行く際、皆も部屋から連れ出す。
去り際マリアが私の耳元で、今度2人きりで話をしましょうと言った。

部屋から皆が出て行き、残されたのは私とイサキオスだけになった。
何だか疲れて私はベッドに突っ伏した。

「ティーナ大丈夫か?」

彼は駆け寄り私の顔を覗き込む。

「大丈夫。でも何だか疲れちゃった。大変な事になったね?」

彼は私の頭を撫でた。

「あぁ。ティーナが巻き込まれない事を願うよ。もうティーナが傷付くところを見るのはこりごりだ。」

「イサキオス。」

私は起き上がり、もう一度彼に抱き付いた。たくましくなっていく彼の身体に引っ付くと、心が落ち着く。
彼は私の背中を撫でた。

「ティーナ、魔剣を持った事できっと良く無い事に巻き込まれる。俺も聖剣を持ってから、自分の立場が変わった事を感じたから。」

だから俺の側を離れないでくれ。彼は私にそう言った。

この後、私のお父様とイサキオスのお父様により話し合いがもたれ、私達は婚約する事になった。
これからどうなるか分からない。
イザベルの幸せはどこに向へば見つかるのか、、。
ただ分かる事がある。
マリアが聖剣を出していない今、聖剣と魔剣を持つ私達が、ヘンリーかニコラス、どちらかを支持すると言えばそれだけで将来どちらが陛下になるか決まるかもしれない。

私達は考えなくてはいけない。
どちらが国を治めていくのに相応しいのか、、。
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