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本当の始まり

校外学習1日目

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イザベルとヘンリーが仲直りせぬまま、校外学習の日を迎えてしまった。
イザベルの気の強さはあれからなりを潜め、幾分か痩せた気もする。
私もヘンリーに何度かイザベルと仲直りして欲しいと掛け合ってみたが、彼女が王族として正しい行動が取れるようになるまで話したくないと言って取り合ってくれなかった。

殿下の妻になるという難しさを垣間見た気がした。
学園が保有する山へ向かう為、大規模な魔法陣が描かれたグランドへ3年生全員が移動する。
そこには4年生のゴードンさんの姿もあった。
生徒会の一員として、今回3年生の校外学習に彼も参加する事になったのだ。
彼はヘンリーの側で過ごすようだ。

「ティーナ。」

イサキオスが私を呼ぶ。
イザベルが元気を無くしてから、私も元気が無いので、彼はずっと心配してくれていた。
彼がそっと私の手を取る。

「イサキオス、ありがとう。」

イザベルがヘンリーと仲違いしている今、彼と仲良くするのは心苦しくはあるが、彼を悲しませない。私はそう心に決めている。
彼の優しい眼差しを見つめ、私も微笑み返した。

「皆揃ったな!!今からAクラスより移動する。遅れるなよ!!」

カルロス先生が叫んだ。
私達はカルロス先生の後ろに続き、魔法陣の中に入って行く。
眩い光に包まれたと思ったら、次の瞬間景色が変わっていた。

木々が生い茂り、木漏れ日が優しく降り注ぐ。鳥のさえずり、優しく穏やかな風。
私達はこれから4日間お世話になる、コングール山へ降り立っていた。
先生に連れられ少し歩くと、私達がお世話になる宿舎が見えて来た。
学園の寮に似た建物と、その横にかなり大規模な講堂があり。建物の前で集まるよう指示があった。

クラスごとに並び、皆が揃うのを座って待つ。
1日目は班ごとに分かれ寮に入り、明日の準備をする。
2日目は山の中での魔法実技訓練が行われる。
そして3日目、午前中に魔法の実技テストが行われ、午後からミスコン、キャンプファイヤーで締めくくられる。
4日目は片付けした後学園に帰るだけなので、実質3日間の工程である。

皆が揃ったので、先生が山での危険について話し始める。

「ゴブリンが出たという方向がある。あまり強い魔物ではないが、決して弱くもない。集団で行動する特性があるのでくれぐれも気をつけるように。勝手な行動を慎み、単独行動は絶対しない事。あと、何かあればすぐ先生方に報告する事!」

「「「はーい。」」」

ゴブリンか、、見た事無いな。どんな魔物なのだろうか。
その後クラスごとに分かれ、カルロス先生が班分けを発表した。
この前の騒動を先生も知っているので、イザベルとマリアは分けてくれたようだ。
ホッと胸を撫で下ろした。

寮の相部屋が、私とシャルロットとイザベル、そして班になるとこれにカイトとマグリット、アルが加わる。
イサキオスとは分かれてしまった。
班の力を同じぐらいにしたと先生が言っていたので仕方がない。
彼は強いので、私とは組ませてはくれないのだ。
お父様いわく最強カップルだから、、そんな2人は絶対別々にされる。
分かっていた事だ。

荷物を持って寮へ移動した。
シャルロットと私がイザベルを挟み、色々話しかけてみるが、あまり反応が無い。
彼女にとってこの校外学習が気分転換になってくれれば良いのだが。

今は10時、持って来た荷物を取り出し整理して行く。
1時間後に厨房へ集まるよう先生より指示があった。
今回ばかりは王族でさえメイドや従者を連れては来られない。
護衛として、先生方が増員されているのだが、念のために寮と講堂には強固な結界が張られているようだ。

「終わったよぉ。皆行こうか。」

私は2人に声をかけた。
シャルロットは返事をして寄って来たが、イザベルは椅子に座りボーッとしている。
私とシャルロットはイザベルの腕を取り、無理やり立たせて歩き始めた。
いつになったら彼女は元に戻るのか、、。

厨房へ着くと、カルロス先生がもう来ていた。
マグリット達がいたので合流する。
まだ時間があるので、先生にこの班がどのように決まったのか聞いてみる。

「イサキオスは強いからな、魔力の弱い者達と組んだ。ニコラスは学園に来たばかりだからな、ヘンリーと同じ班にしたし、後お前の班は問題児が多いからな。マグリットとアルは暴走しやすいからクリスティーナお前が管理しろ。」

「、、、、。」

聞かなければ良かった。
後は適当だと先生が笑った。
班が揃ったので、メンバーを見てみると、ヘンリーの班にニコラス、サーキス君、マリアとその取り巻きが収まっていた。
ヘンリーとマリア、、イベント発生の予感がす。

「皆揃ったな!!今から調理学習を始める。班ごとに冷蔵庫が1つあるから、それで昼ご飯を作れ!これから4日間ご飯は自分で作る事!」

「「「「はーい。」」」」

皆揃って返事をしたものの動き出す者はいない。Aクラスは貴族が多い。貴族は自分でご飯を作る習慣がないので、調理をするなど生まれて初めてなのだ。
しかし、しばらくして動き出した班があった。
元平民のマリアと、現平民のニコラスのいる班だ。
2人が皆を引っ張りどんどん調理を進めているようだ。
しかし、サーキス君だけは引っ張られていないようだが。

「どうしようか。ご飯作った事ある人?」 

私は皆に聞いてみた。
誰とも目が合わない。

「とりあえず、班長を決めないか?」

カイトが提案する。
マグリットが頷いた。

「そうだな、その方が色々動きやすいだろう。多数決が妥当だな。」

アルが引き継ぐ。

「じゃぁ、班長に相応しいと思う人を指差して。せーの!」

私はカイトを指差したが、皆は私を指差していた。

「えっ?私?私は無理でしょ。だってマグリットとアルが私の言う事なんか聞いてくれないじゃん。」

私は慌てた。こいつらをまとめるなんてゴメンだ。
そんな私に意見したのは、アルでもマグリットでもなくイザベルだった。

「多数決に賛成したんでしょ?往生際が悪いわね。あんたしなさいよ。」

いつもの彼女の口調だった。
私は班長になりたくないという気持ちをすっかり忘れ、彼女に抱き付く。

「おかえりイザベル。」

彼女は真っ赤になって私の背中を叩いていた。

「大げさね。離しなさいよ!」

アルが苦笑いしながら、

「はいはい、いつまでもご飯食べられないよ!班長さん支持して下さいね。」

それから私は料理の知識を振り絞って、ポトフとサラダを作る事にした。ポトフなら具材が大きいままで良いし、沢山作れば晩ご飯もそれを食べれば良い。
皆に野菜を割り当てて、いざ調理が始まった。
この調理実習のどこが魔法訓練なのかというと、コンロの火を魔力で付けなければいけないのだ。
魔力に反応して火が付く仕組みなので、火の魔法を使えなくても付くのだが、火の魔法を使える方が有利ではある。
私のグループには火の魔法を使うイザベルがいるので簡単なのだが、他の魔法を使う者達では火力の調整が本当に難しいらしい。

私は人参の皮を包丁で剥いていた。
乙女ゲームの中にではピーラーが存在していたのに、ここには無いようだ。
初めての皮剥きに悪戦苦闘する。

「あっ、、。」

包丁の先が指にかすり、プクッと血が滲む。

「何やってるんだ。」

私の指を持ったのはマグリットだった。
そのまま自分の口へ持って行き血を吸う。

「なっ、なっ、何するの!?私ヒール使えるからね!ちょっと離してよ!」

私は慌てて彼の手を振り払おうとしたが、ギュッと握られ離せない。

「何だ?意識しているのか?」

彼が意地悪い顔で笑う。
これは乙女ゲームのイベント!!攻略対象者が手を切ったヒロインの指を舐めるはずなのに、何で私なんだぁぁぁ!!

「してないよ!する訳ないでしょ!」

私は今度こそ彼の手から逃れた。
何なんだ一体、これは誰得なんだ!!
それから30分でポトフとサラダは出来上がった。
生徒が何も食べれないという状況を防ぐために、ご飯とパンは用意してくれていた。

私達はパンを貰って来て、食べ始めた。
ご飯を食べていると、ヘンリーの声が聞こえてきた。
マリアとニコラスが作ったご飯を彼が褒め称えているようだった。
ヘンリーがマリアの手を握っているのが見えた気がしたが、見て見ぬ振りをした。
ちょうどイザベルは彼らに背中を向けていたのでホッとする。
彼女のこめかみに青筋が見える気がするが、それも見て見ぬ振りをした。

お昼を食べて片付けが終わると、先生が地図を配り出した。
明日の魔法訓練の道順が書かれた地図だった。
皆の手元に行き渡ったところで先生が話し始める。

「明日は各班ごとにタイムを競い合って貰う。地図を見ろ!森の中に先生方が立って、結界を張り道を作ってくれる。ここの赤いラインだ。ここより外へは出られなくなっている。この寮の前を出発して、一周ぐるっと回ってゴールだ。」

私は魔力体力測定の事を思い出し、嫌な予感がした。

「もちろん、ただ走るだけではない。トラップや攻撃があるから、それを魔法で回避しながら進め。コースが6つに分けられているだろう?先頭の者が基本的に攻撃に対応するのだが、この区間ごとで交代して全員が先頭になるように。以上、質問は?」

マグリットが発言する。

「1位にメリットはありますか?」

「1位の班はその日晩ご飯を作らなくて良い。シェフが作る豪華ディナーが食べれるぞ。」

昼ご飯が上手に出来ずマズイご飯を食べた班が沸き立つ。

「それでは明日に向け作戦会議を行え。その後3時より、このコースを各々一度走るように。4時まで先生方が結界を張っている。それ以降ここを走るのは禁止だ!」

では始めろと言って先生はいなくなった。
先生の側で立っていたゴードンさんが連れて行かれたので、ゴードンさんは先生の助手になっているらしい。

「明日は絶対勝つわよ!」

私の横でイザベルが燃えている。
マリアに闘志を燃やしているのだろうが、マリアに勝てば必然的にヘンリーにも勝ってしまうのだが、、。
まぁそこは突っ込むまい。

私達は明日の作戦を練った後、コースを走りに行った。

辺りを見回しながら走っていると、アルが話しかけてくる。
彼は息も上がっておらず余裕そうだ。
ここ2年で彼も成長したのだなと分かる。

「クリス、この前の先生の写真の事だけど。」

「、、、聞きたくないんだけど。」

例のきな臭いフラグの件だ。私は関係したくない。

「詳しい話しはしないから。上手くいったって報告だけ。」

「上手くいった?」

私は聞き返してしまう。この辺りがうっかり者なのだ。

「カルロス先生が変装の名人だって知ってた?」

「初めて聞いた。」

「すごいんだよ。まぁ背丈が似てる人じゃないとダメなんだけど、本当に本人にしか思えないほどそっくりになれるの!でね、先生って婚約者がいるんだけど、先生その人にベタ惚れで、、」

ん?話しがそれてないか?

「この前の写真を婚約者に見せるぞって脅したら快く協力してくれたわけ。あぁ、これ以上は言えないけどね。何せ上手くいったから、ありがとう。」

アルはニコニコ笑った。

「いや、、良いけど、それ後でヤバくないの?写真返した後でお咎めないわけ?」

「そこは大丈夫だと思うよ。」

何を根拠にと思ったが、これ以上の深入りはやめよう。きっと損するだけだ。
この日は下見が終わると、晩ご飯の支度をし、部屋に戻りお風呂に入り、9時には就寝となった。
次の日は朝6時より厨房に集合なのだ。
皆慌ててベッドに入った。
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