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本当の始まり

デスマッチ

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ドッチボール大会は地獄絵図となった。私の腫れた頬と唇から流れた血で、恐怖心を煽られた一部の生徒達が錯乱したからだ。
何が何でも当たるまいと目が血走った者達が走り回っている。
そして、ボールが当たる時に断末魔の叫びを上げるのだ。

「ギャァァァァァア!!!」

また1人減った。
しかし実際ボールはフワッと当たる。
結界を壊そうとしているボールは異常な力でガンガン結界に当たってくるが、壊してしまうとフワッと人に当たるのだ。
だからボールが当たった者達はキョトンとする。
そして私の顔を見て首をかしげるのだ。

あぁ、もういたたまれない。
私はさらに小さくなって体育座りをする。
横にはアルが来ていた。

「ねぇ、これいつ終わるの?」

アルは私の顔が腫れているのは気にならないようだ。

「さぁ、そう言えば終わる時の事は何も言ってなかったね。最後の1人までやるのかな?」

こんな事を話している間にも、私達の結界にボールがガンガン当たっている。
ブーメランの様に戻って来るので、カルロス先生が私達に狙いを定めているのかもしれないな?と思った。
かなり人数は減ったみたいだが、まだ3クラス分ぐらいの人数はいそうだ。

遠くでイサキオスが見える。
彼はただただボールを避けていた。
あれでは魔力は全く使わないので、魔法能力の判定は出来ない。
ただの最強だ。

イザベルとマリアも残っているようだ。
しかし、マリアは聖剣を手に入れているわけでない。攻撃能力が無いので、私同様結界を張りつつ逃げているようだ。
イザベルは、迫り来るボールをことごとく炎でチリにしていた。
皆それぞれ強いので、魔力量勝負になりそうだ。

私はずっと座っていたので、眠たくなって来た。
緊迫した雰囲気は何処へやら、私は今にも寝こけそうだ。
アルが私を叩いて起こそうとしたが、結界に阻まれる。

「おーい、クリス、さすがに今寝たら後でカルロス先生に怒られるよ!」

アルの声が聞こえる。何か言っている。
私は彼の方を向いて笑顔を見せる。

「うわっ、話し絶対聞いてないじゃん。」

しばらくすると、残った皆が寄って来た。
イザベルにヘンリー、マグリット、シャルロット、カイト、そしてイサキオスだ。

「ティーナ?眠たいのか?」

イサキオスが私に優しく話しかける。
あぁ、ダメだ。彼の声を聞いたらもう眠って、、、スー。

「あっ、寝た。信じられないわ。最後まで残るぞって私の事睨んできたのに。」

イザベルが心底呆れた声で言った。

「それにしても凄いね。寝たのに結界が揺らぐ様子がない。力で言えばイサキオスに敵う者はいないだろうけど、魔法のセンスや魔力量で言えばクリスを超える者はいないだろうな。」

ヘンリーが私を褒めた。
しかし寝ていたので知らない。
こんな緊迫感の無い状態だが、人数はどんどん減っている。
あと30人ぐらいかと言う所で笛が鳴った。

「終わりー!!!」

学園長先生が叫んだ。
私はその声に驚き立ち上がる。

「ティーナおはよう。」

気付くと側にイサキオスがいた。
私は結界を解き、彼の元へ寄って行く。

「ヘヘッ。」

「あんたヘヘッじゃないわよ。あんだけ私に説教しといて、途中で寝るだなんてあり得ないわよ。」

イザベルが横でブリブリ怒る。

「、、、ヘヘッ。」

私は再度笑って誤魔化した。
怒ると疲れるのだ。人間怒らないに越した事はない。

「さて行くぞ。」

マグリットがそう言った時、カルロス先生が叫んだ。

「一旦そこで止まれ!せっかくなのでそのまま残った奴らでドッチボールやれ!1番決めるぞ!」

1番はイサキオスです。まともにやれば死人が出ますよ?

先生方は新しく白い枠を書き、それを2つに区切った。
適当に名前が呼ばれてチームに分かれる。
外野は先生がやるらしく、当たったらただ抜けて行くというルールだ。
私は何とイサキオスと分かれてしまった。
いや、今まで彼に何も勝ってきていない。今回は勝ってやる!!
私にやる気がみなぎった。
ちなみに、ヘンリーとマリアはイサキオスのチームだ。
こちらは、イザベル、シャルロット、カイトにマグリットとアル。
他にもAクラスの人が何人か残っていたようだ。
15人ずつに分かれている。

「じゃぁ、始めるぞ!」

代表がジャンケンをし、勝ったイサキオスのチームがボールを先に持った。
ボールを持っているのはイサキオス、皆に緊張が走る。
私は身体強化と結界を張った。
結界を張ればボールは取れないのだが、身体強化だけではボールを弾いてしまった時アウトになってしまう。
イサキオスのボールを取れる気などしない。私は結界を張るのが苦手なチームメイトも中に囲い込む。

イサキオスのボールは、アルの結界に当たった。
ガラスが割れる様に結界が砕けた。
しかしボールの衝撃は弱まったのでアルはボールを取る。

「ヤバイでしょ!?殺す気なの?」

アルは青い顔で腕をさする。
そしてボールに魔力を込めて彼も思い切り投げた。
投げた先はマリアだ。
魔力がもう残り少なかったのか、結界は砕けボールは彼女に当たった。

「やりぃ~。」

アルは呑気に喜んでいたが、彼女は射殺さんとするほどの目つきで睨んできていた。
怖や怖や。
しばらくボールのやり取りがあり、人数は絞られた。

残るのは、私、マグリット、イサキオス、ヘンリーだ。
2対2、、この白熱した試合に皆魅入られていた。
誰が一体残るのか、、。

私は結界を身体ギリギリに張るという技を身につけていた。
これによってボールには当たらないが、ボールを掴んで投げる事が出来るのだ。何てせこい技だろうか、しかし残る女子は私だけ、、少々の事は目をつぶってくれ。
私はボールを掴み、ボールを魔力の勢いで発射させる。
ヘンリーがそのボールを受け損なって落とした。

「よしっ!」

私はマグリットと手を合わせる。
残りはイサキオス、、でも彼に隙はない。
どうしたら彼に勝てる?
私の悲願なのだ。
きっとこれかも彼はどんどん強くなる。今勝たねばもうきっと勝てない。
私は考える。

イサキオスはマグリットにボールを投げた。
ドッチボールとは?と思わせるほどの弾丸が飛んでくる。
マグリットは間一髪で避けたつもりだったが、少しカスッたらしい。
先生が笛を吹いたので、彼は退場となった。

そして私達2人が残される。
イサキオスは心底嫌そうな顔をしている。私は殺気で溢れているのに。

その場は静寂に包まれていた。
動けば殺される、、そんな錯覚に私は陥っていた。
どうしても勝ちたい!!
よし、ズルをしよう!!
私は悪知恵を思い付いた。
ボールは今私の手にある。
彼に気付かれないように、地下より魔力の蔦を伸ばす。
その際、蔦に隠密の魔法を重ねる。
私は大量の魔力をボールに込め、投げると同時に地下に伸ばした蔦で彼を絡め取った。
彼の力を考えて、もうなりふり構わず全力を出し切る。
さすがにこれには彼も驚いた。
蔦を引きちぎる前にボールが彼の元へ届く。
蔦に絡まれたままボールを受けようとしてボールを弾いてしまう。
そのボールが地面に着けば私の勝ちだ。
しかし、彼が蔦を引きちぎりボールへ飛んだ。
私はそこで威圧を発動した。
大人気ない?良いじゃないか、私はまだまだ子供だぁぁ!!!

ポトリッ。

ボールが転がった。

「ヤッタァァァ!!」

この日私は彼にようやく勝つ事が出来た。
自分的には大満足だったのだが、皆には褒めて貰えなかった。
しかし、化け物に勝とうと思えばなりふり構ってなどいられないでしょ?と言うと、皆確かにと言って頷いてくれた。

「ティーナおいで。」

私は彼に呼ばれる。
彼は笑っていたのだが、何だか恐ろしい。
残り少ない魔力を使い隠密で逃げ出した。
彼は普段優しいが、怒れば怖いのだ。
肝に命じておこう。
私はまだ死にたくない。
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