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出会い編

この世界は

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貴族名鑑を開きながら私は愕然としていた。

「何で気が付かなかったの?」

アリスに一度部屋を出て貰い、前世の記憶と照らし合わす為に世界地図や貴族名鑑等あらゆる資料を引っ張り出していた。

「ここは…ここはシンデレラの世界だったのね。」

ノイシュバンシュタイン城、キット王子、シンデレラの本名エラ、それに義理の姉達2人の名前も見つけていた。
細かい設定を覚えていない所ももちろんあったが、偶然にしてはでき過ぎている。

「でも…そうだったら。」

アリスがあんなにも喜んでくれていたのに、王子様と結ばれるのはシンデレラだ。
ロンドバース伯爵との結婚を取りやめるには、伯爵家より位が上で、しかもその結婚に旨味がなくてはならない。
ロンドバース伯爵の噂を知っていれば、わざわざそんな面倒な男から私をかっさらうような物好きはいないだろう。
いるとすればキット王子ただ1人。

王家が絶対的権力を持つこのクランドル王国で、その舞踏会に感情の赴くままに出会いを求めるのは王子様だけなのだ。

「でも、彼の相手は…。」

そう王子様の相手はシンデレラただ1人。

「やっぱり私は選ばれないのね。」

前世、小さい頃にシンデレラに憧れて絵本や映画を何度も繰り返して見た。
いつか王子様が迎えに来てくれると純粋に信じていた頃が、私にも確かにあった。

私は冷めた紅茶を一口吹むとため息をついた。

「ハァー、仕方がない事だと思ったのに。少し夢を見てしまったわ。」

この家から出て行けるのなら何だって良いと思ったはずなのに。

かつてお母様が言った。
貴族に生まれたからには義務を果たしなさいと。
領民の為に節約を心がけ、自分の物はほとんど買わなかったお母様。
お父様は領主の仕事をお母様に全て押し付けた。
領民の為に汗水を流し働いて欲しいとお母様は何度も願い出たが、お父様は聞く耳など持たなかった。
そうして過労から夏風邪を拗らせお母様はあっけなく死んでしまったのだ。

何でお母様は出て行かないの?

幼い頃お母様にそう聞いたことがあった。
お母様は疲れた笑顔を見せながらこう答えた。

貴族に生まれたのなら、貴族の義務を果たさなければ。

領民達が稼いだお金で暮らしている私達は感情を殺し、領民の為に心を砕いて生きて行かなくてはならない。
それがお母様の芯となっていたのだ。
それは脈々と私に受け継がれた。

「嫌だと言うだけで逃げ出す事は出来ないわ。」

貴族名鑑をパタリと閉めると、希望を抱きかけた心もパタンと固く閉じたのだった。
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