5 / 19
出会い編
この世界は
しおりを挟む
貴族名鑑を開きながら私は愕然としていた。
「何で気が付かなかったの?」
アリスに一度部屋を出て貰い、前世の記憶と照らし合わす為に世界地図や貴族名鑑等あらゆる資料を引っ張り出していた。
「ここは…ここはシンデレラの世界だったのね。」
ノイシュバンシュタイン城、キット王子、シンデレラの本名エラ、それに義理の姉達2人の名前も見つけていた。
細かい設定を覚えていない所ももちろんあったが、偶然にしてはでき過ぎている。
「でも…そうだったら。」
アリスがあんなにも喜んでくれていたのに、王子様と結ばれるのはシンデレラだ。
ロンドバース伯爵との結婚を取りやめるには、伯爵家より位が上で、しかもその結婚に旨味がなくてはならない。
ロンドバース伯爵の噂を知っていれば、わざわざそんな面倒な男から私をかっさらうような物好きはいないだろう。
いるとすればキット王子ただ1人。
王家が絶対的権力を持つこのクランドル王国で、その舞踏会に感情の赴くままに出会いを求めるのは王子様だけなのだ。
「でも、彼の相手は…。」
そう王子様の相手はシンデレラただ1人。
「やっぱり私は選ばれないのね。」
前世、小さい頃にシンデレラに憧れて絵本や映画を何度も繰り返して見た。
いつか王子様が迎えに来てくれると純粋に信じていた頃が、私にも確かにあった。
私は冷めた紅茶を一口吹むとため息をついた。
「ハァー、仕方がない事だと思ったのに。少し夢を見てしまったわ。」
この家から出て行けるのなら何だって良いと思ったはずなのに。
かつてお母様が言った。
貴族に生まれたからには義務を果たしなさいと。
領民の為に節約を心がけ、自分の物はほとんど買わなかったお母様。
お父様は領主の仕事をお母様に全て押し付けた。
領民の為に汗水を流し働いて欲しいとお母様は何度も願い出たが、お父様は聞く耳など持たなかった。
そうして過労から夏風邪を拗らせお母様はあっけなく死んでしまったのだ。
何でお母様は出て行かないの?
幼い頃お母様にそう聞いたことがあった。
お母様は疲れた笑顔を見せながらこう答えた。
貴族に生まれたのなら、貴族の義務を果たさなければ。
領民達が稼いだお金で暮らしている私達は感情を殺し、領民の為に心を砕いて生きて行かなくてはならない。
それがお母様の芯となっていたのだ。
それは脈々と私に受け継がれた。
「嫌だと言うだけで逃げ出す事は出来ないわ。」
貴族名鑑をパタリと閉めると、希望を抱きかけた心もパタンと固く閉じたのだった。
「何で気が付かなかったの?」
アリスに一度部屋を出て貰い、前世の記憶と照らし合わす為に世界地図や貴族名鑑等あらゆる資料を引っ張り出していた。
「ここは…ここはシンデレラの世界だったのね。」
ノイシュバンシュタイン城、キット王子、シンデレラの本名エラ、それに義理の姉達2人の名前も見つけていた。
細かい設定を覚えていない所ももちろんあったが、偶然にしてはでき過ぎている。
「でも…そうだったら。」
アリスがあんなにも喜んでくれていたのに、王子様と結ばれるのはシンデレラだ。
ロンドバース伯爵との結婚を取りやめるには、伯爵家より位が上で、しかもその結婚に旨味がなくてはならない。
ロンドバース伯爵の噂を知っていれば、わざわざそんな面倒な男から私をかっさらうような物好きはいないだろう。
いるとすればキット王子ただ1人。
王家が絶対的権力を持つこのクランドル王国で、その舞踏会に感情の赴くままに出会いを求めるのは王子様だけなのだ。
「でも、彼の相手は…。」
そう王子様の相手はシンデレラただ1人。
「やっぱり私は選ばれないのね。」
前世、小さい頃にシンデレラに憧れて絵本や映画を何度も繰り返して見た。
いつか王子様が迎えに来てくれると純粋に信じていた頃が、私にも確かにあった。
私は冷めた紅茶を一口吹むとため息をついた。
「ハァー、仕方がない事だと思ったのに。少し夢を見てしまったわ。」
この家から出て行けるのなら何だって良いと思ったはずなのに。
かつてお母様が言った。
貴族に生まれたからには義務を果たしなさいと。
領民の為に節約を心がけ、自分の物はほとんど買わなかったお母様。
お父様は領主の仕事をお母様に全て押し付けた。
領民の為に汗水を流し働いて欲しいとお母様は何度も願い出たが、お父様は聞く耳など持たなかった。
そうして過労から夏風邪を拗らせお母様はあっけなく死んでしまったのだ。
何でお母様は出て行かないの?
幼い頃お母様にそう聞いたことがあった。
お母様は疲れた笑顔を見せながらこう答えた。
貴族に生まれたのなら、貴族の義務を果たさなければ。
領民達が稼いだお金で暮らしている私達は感情を殺し、領民の為に心を砕いて生きて行かなくてはならない。
それがお母様の芯となっていたのだ。
それは脈々と私に受け継がれた。
「嫌だと言うだけで逃げ出す事は出来ないわ。」
貴族名鑑をパタリと閉めると、希望を抱きかけた心もパタンと固く閉じたのだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
凶器は透明な優しさ
楓
恋愛
入社5年目の岩倉紗希は、新卒の女の子である姫野香代の教育担当に選ばれる。
初めての後輩に戸惑いつつも、姫野さんとは良好な先輩後輩の関係を築いていけている
・・・そう思っていたのは岩倉紗希だけであった。
姫野の思いは岩倉の思いとは全く異なり
2人の思いの違いが徐々に大きくなり・・・
そして心を殺された
悪役令嬢に転生したので、やりたい放題やって派手に散るつもりでしたが、なぜか溺愛されています
平山和人
恋愛
伯爵令嬢であるオフィーリアは、ある日、前世の記憶を思い出す、前世の自分は平凡なOLでトラックに轢かれて死んだことを。
自分が転生したのは散財が趣味の悪役令嬢で、王太子と婚約破棄の上、断罪される運命にある。オフィーリアは運命を受け入れ、どうせ断罪されるなら好きに生きようとするが、なぜか周囲から溺愛されてしまう。
転生したらチートすぎて逆に怖い
至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん
愛されることを望んでいた…
神様のミスで刺されて転生!
運命の番と出会って…?
貰った能力は努力次第でスーパーチート!
番と幸せになるために無双します!
溺愛する家族もだいすき!
恋愛です!
無事1章完結しました!
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
軽い気持ちで超絶美少年(ヤンデレ)に告白したら
夕立悠理
恋愛
容姿平凡、頭脳平凡、なリノアにはひとつだけ、普通とちがうところがある。
それは極度の面食いということ。
そんなリノアは冷徹と名高い公爵子息(イケメン)に嫁ぐことに。
「初夜放置? ぜーんぜん、問題ないわ!
だって旦那さまってば顔がいいもの!!!」
朝食をたまに一緒にとるだけで、満足だ。寝室別でも、他の女の香水の香りがしてもぜーんぜん平気。……なーんて、思っていたら、旦那さまの様子がおかしい?
「他の誰でもない君が! 僕がいいっていったんだ。……そうでしょ?」
あれ、旦那さまってば、どうして手錠をお持ちなのでしょうか?
それをわたしにつける??
じょ、冗談ですよね──!?!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる