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学園編

押しかけて号泣

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お父様にごり押しして通行書をゲットした私は、意気揚々と魔車へと乗り込んだ。
はやる胸を押さえながら、もう目前に迫ってきた白城を睨み付ける。
そうでもしないともうすでに涙がこぼれ落ちそうなのだ。

「ライズ…。」

前世魔王だから何だと言うのだ。
そんな些細なことで諦めると思ったら大間違いだと怒鳴りつけてやる。
握り締め過ぎて真っ白になった手をそっと開くとじっとりと汗をかいていた。

「私、フラれるのかな。」

考えないようにしていた事が自然と言葉になっていた。
ずっと好きだった人にフラれるかもしれない。
望みがないなら仕方ない。
でも、誰よりも大切にされ、ブレスレットを渡された後、簡単に諦める事が出来るだろうか?

「お嬢さん着きましたよ?」

答えが出ないまま、無情にも城へ着いてしまった。
運転手の手を借り魔車から降りると、門番に通行書を見せて中へと入って行く。

「あら、リリアンちゃんじゃないの。どうかしたの?」

「あっ、マーシャさん。ご無沙汰してます。ちょっと友達に会いに…。」

お父様の催すお茶会に良く来ていた叔母さまがメイド姿で立っていた。
子育てが一段落してからお城の勤務に復帰したと言っていたのを思い出しながら、私はやんわりとそこから離れようとした。

「あぁ、ライズ君ね!あなたこんな頃から彼の事が大好きだったもんのね!!」

「お、叔母さま!?」

大声で恥ずかしい暴露をされ、私は意味もなく両手をあたふたと泳がせる。
だから早く離れたかったのだが、こうなってしまえばもうあとの祭だ。

「あら?真っ赤になっちゃって。リリアンちゃんは昔から分かりやすくて可愛らしいわね。」

「…叔母さま。」

コロコロと笑いながら私を優しく見つめる叔母さまにもう何も言えずぐったりと項垂れると、そっと手を握られた。

「最近ライズ君、死んだ人みたいな顔でウロウロしてるのよ。あなたに会えなくて寂しいんでしょ。早く行ってあげな。」

「…ライズが?」

「そうよ。あなた達昔から引っ付き虫みたいに一緒にいたじゃない?一緒にいたものを引き離したらそりゃ彼だって寂しいに決まってるじゃない。」

「…。」

「もう、なんて顔してるの。ライズ君ならきっと中央でいるわ。ほら、早く行きなさい。」

そうだろうか?
私は自惚れても良いのだろうか?
マーシャさんに丁寧にお辞儀をして別れると、私は言われた通り中央へ向かった。
中央というのは、議会が開かれる部屋が密集した、文字通り城の中央に位置する場所の事を言う。
普段城に来る機会などほとんど無い私は、迷いながらも何とかそこまでたどり着く事ができた。

忙しそうに行き交う人をすり抜けて、中庭をぐるりと囲んだ廊下へと出た私は一瞬息が止まりかけた。
廊下の端にずっと会いたかった人を見つけたからだ。

「ライズ…。」

恐怖と歓喜が入り混じって訳が分からなくなりそうな思考の中で、私が見たものは絶望だった。
ライズが私を見つけると、明らかに困ったような、むしろもう嫌そうな顔で目を逸らしたのだ。

「グッ…。」

そんな顔をされる事なんか想像が付いたはずなのに、実際自分の目でそれを見てしまえば限界だった。
ボロボロと恥ずかしいぐらい涙がこぼれ落ちてきた。

「リリー…。」

ライズの唇の形が私の名を呼んでいた。

(嫌いになったなら優しくしないでよ!!)

悲しみが怒りに変わって、でも悲しくて。私はどうしようもない気持ちを爆破させると走り始めていた。
大好きなライズの元へ。

「ライズのバカ!!!もう嫌い!!私の事が嫌ならそう言えばいい!!!」

たどり着いた私は号泣しながらライズの胸を何度も何度も叩いていた。
ライズは困った顔をしながら抵抗もせず、ただただそれを受け止めていた。
それが悔しくて、手を止めると涙でボロボロになった顔を隠しもせずにライズを睨みつけた。

「前世魔王だから何だっていうの!!私がそんな事でライズを嫌いになるとでも!?そんな訳ないじゃん!!もうずっとずーっと、あなただけを追いかけてきたんだから!!!」

喉が千切れるほど叫んだ時、私は力強い腕の中にいた。

「リリー、ごめん。」

「ライズ…。」

身体が軋むほど強く抱きしめられ、私はライズの想いの強さを知った。

「リリー、ごめん。愛してる。誰よりも。もう離せない…。」

涙に濡れた彼の声を聞いても、うまく返事ができなかった。
涙が後から後から溢れて、呼吸さえうまく出来ない。
でもこの気持ちが伝わって欲しくて、ただ彼の身体を強く強く抱きしめた。
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