上 下
21 / 23
学園編

その日から彼は姿を消した

しおりを挟む
爽やかな風が頬を撫でるのを感じ、私の意識が徐々に覚醒しかかっていた。

この気配。
ライズが側にいる事が一瞬で分かった。
匂い、魔力、間違えるはずがない。
眠い目を何とか無理やりこじ開けて、私は必死に起き上がろうとしてボフッとまた倒れてしまった。

「あぁ、リリー起きたんだね。心配したよ。」

「えっ?…お兄ちゃん?」

そこにいたのは私の2歳年の離れた兄、ルルド・ウィリアムだった。
母に全く似なかった私達兄妹は、父の血を引き美しく色っぽく育った。
長身で無駄に筋肉の付いていない猫のようにしなやかな身体、長いサラサラのブロンドを1つに束ねた兄はこの国のイケメン水準を満たしていないくせにやたらモテる。
今年卒業なのだが、将来も国が率いる魔術団に入団する事が決まっていて将来有望なのだ。
そんな事はどうでも良い。
兄の魔力とライズを間違えるはずなんてないのに。

「ねぇお兄ちゃん、ライズを見なかった?」

私の質問に、兄はあからさまに動揺していた。目を彷徨かせた後にわざとらしくニコリと笑いながら頬を掻いている。

「ライズは城へ戻ったよ。スタンピードの前兆が起こったのだから仕方ないだろ?」

「…お兄ちゃんはライズが討伐隊に選ばれた事を知っているのね。」

「うっ…あぁ。これはかなり内密な話しなんだから黙っておけよ?」

「…分かってる。」

結局ライズが前世魔王だと知らされてから彼に会えないままだった。
こんな事が起きたのだから仕方ないと思う一方で、このまま一生会えないのではないかと言う不安にかられてしまう。

そしてその悪い予感は当たることとなる。
そこから2ヶ月経った今も、ライズは学園に姿を現さないままだった。

「…限界だわ。」

初夏の風を感じながら私は悪態をついていた。

「リリー大丈夫?ついに頭がイカれたの?」

ランチを食べている途中で立ち上がった私をエミリアが心配そうな目で見つめていた。
大体エミリアがここにいるのにライズだけが姿を現さないのは絶対おかしいのだ。
きっと彼に何かあったに違いない。

「私、城へ行ってくるわ!!!」

「えっ?マジで?」

「えぇ、いたって真面目よ。もう限界。ライズの匂いを嗅がないともう無理よ。」

「…あっそう。でも城って、誰でも簡単に入れる訳じゃないわよ?ただでさえスタンピードの予兆があったせいでピリピリしてるのだから。」

「…分かってる。そこは何とかなると思うの。にしても何でエミリアは学園に来られてるわけ?グラムやレイ、ザック先輩だって見かけないわ。」

「…まぁね、私も色々あるのよ。あそこにいると顔を合わせたくない人と合わせなくちゃいけないし。まぁそれに、学園に来られたのだって久しぶりじゃない。今日ぐらい私の話しに付き合いなさいよ。」

「…そうね。ごめん。それでエミリアは最近何してたの?」

気を取り直してそう聞けば、エミリアは頬杖を付いてため息をついた。
どうやらよほど疲れているようだ。

「王子に追いかけられてたのよ。」

「王子に!?」

「バカッ!声がデカいわよ!」

「ご、ごめん。だって、お、王子様がねぇ…。エミリアはザック先輩が好きなのに…。」

「チョット!誰があんな男!!」

「…。」

真っ赤な顔で怒ったエミリアは私なんかより断然声がデカい。
そんなに動揺して可愛い奴ねとでも言えば暴れなねないので口を閉ざした。

「まぁ、王子に比べたらまだマシだけどね。マシってだけよ?マシ!」

「はいはい。それで、ライズは今何してるよ?」

「…私の話しはもう終わりな訳?まぁ良いけど。彼ね、彼なら…」

ライズは今各地を回っているらしい。
一度は討伐隊を派遣する話しが出たものの、その後禍々しい魔力は消え失せた。予兆はあったもののすぐに起こるわけではないと判断され、どこにどれだけの兵を送り込むか判断する為にライズが投入されたらしい。
元はと言えばライズの魔力なのだから、彼にだけは気配が分かるのだろう。

「じゃぁ、本当に忙しくて会えなかったのね?」

「えっ?えぇ、まぁそうね。」

「…エミリア、あなた本当に嘘が苦手ね。」

「うっ…。」

エミリアは本来嘘は得意なのだが、仲の良い人には嘘が付けないという可愛い一面があるのだ。
顔に嘘だと書いてある。
という事は私はどうやらライズにさけられているらしい。

「でも忙しいのは本当よ?一瞬だけでも顔を見にリリーの元へ来られなかったか?って言えばそうでもないだけで…。」

エミリアの言葉は段々小さくなって、可哀想なぐらい項垂れてしまった。
それほど私が悲壮な顔をしてしまっているのだろう。

「リリー、ライズはあなたの事を大切に想っていると思うわ。」

「…じゃぁ、何で!?いや、ごめん。エミリアにあたりたかったんじゃないの。」

「リリー…。」

「私行ってくる!こんな時にお父さんの権力を使わなくてどうするのよ。ライズに会ってちゃんと話してくるわ。」

「リリー…そうね。それが良いわ。行っておいで。」

「うん!!」

待ってろライズ!!私は簡単に諦めてあげたりしないのだから!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

悪役令嬢は王太子の妻~毎日溺愛と狂愛の狭間で~

一ノ瀬 彩音
恋愛
悪役令嬢は王太子の妻になると毎日溺愛と狂愛を捧げられ、 快楽漬けの日々を過ごすことになる! そしてその快感が忘れられなくなった彼女は自ら夫を求めるようになり……!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

【R18】聖女のお役目【完結済】

ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。 その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。 紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。 祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。 ※性描写有りは★マークです。 ※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。

本日をもって、魔術師団長の射精係を退職するになりました。ここでの経験や学んだことを大切にしながら、今後も頑張っていきたいと考えております。

シェルビビ
恋愛
 膨大な魔力の引き換えに、自慰をしてはいけない制約がある宮廷魔術師。他人の手で射精をして貰わないといけないが、彼らの精液を受け入れられる人間は限られていた。  平民であるユニスは、偶然の出来事で射精師として才能が目覚めてしまう。ある日、襲われそうになった同僚を助けるために、制限魔法を解除して右手を酷使した結果、気絶してしまい前世を思い出してしまう。ユニスが触れた性器は、尋常じゃない快楽とおびただしい量の射精をする事が出来る。  前世の記憶を思い出した事で、冷静さを取り戻し、射精させる事が出来なくなった。徐々に射精に対する情熱を失っていくユニス。  突然仕事を辞める事を責める魔術師団長のイースは、普通の恋愛をしたいと話すユニスを説得するために行動をする。 「ユニス、本気で射精師辞めるのか? 心の髄まで射精が好きだっただろう。俺を射精させるまで辞めさせない」  射精させる情熱を思い出し愛を知った時、ユニスが選ぶ運命は――。

騎士団長の欲望に今日も犯される

シェルビビ
恋愛
 ロレッタは小さい時から前世の記憶がある。元々伯爵令嬢だったが両親が投資話で大失敗し、没落してしまったため今は平民。前世の知識を使ってお金持ちになった結果、一家離散してしまったため前世の知識を使うことをしないと決意した。  就職先は騎士団内の治癒師でいい環境だったが、ルキウスが男に襲われそうになっている時に助けた結果纏わりつかれてうんざりする日々。  ある日、お地蔵様にお願いをした結果ルキウスが全裸に見えてしまった。  しかし、二日目にルキウスが分身して周囲から見えない分身にエッチな事をされる日々が始まった。  無視すればいつかは収まると思っていたが、分身は見えていないと分かると行動が大胆になっていく。  文章を付け足しています。すいません

婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。 だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。 そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。 全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。 気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。 そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。 すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。

処理中です...