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学園編
その日から彼は姿を消した
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爽やかな風が頬を撫でるのを感じ、私の意識が徐々に覚醒しかかっていた。
この気配。
ライズが側にいる事が一瞬で分かった。
匂い、魔力、間違えるはずがない。
眠い目を何とか無理やりこじ開けて、私は必死に起き上がろうとしてボフッとまた倒れてしまった。
「あぁ、リリー起きたんだね。心配したよ。」
「えっ?…お兄ちゃん?」
そこにいたのは私の2歳年の離れた兄、ルルド・ウィリアムだった。
母に全く似なかった私達兄妹は、父の血を引き美しく色っぽく育った。
長身で無駄に筋肉の付いていない猫のようにしなやかな身体、長いサラサラのブロンドを1つに束ねた兄はこの国のイケメン水準を満たしていないくせにやたらモテる。
今年卒業なのだが、将来も国が率いる魔術団に入団する事が決まっていて将来有望なのだ。
そんな事はどうでも良い。
兄の魔力とライズを間違えるはずなんてないのに。
「ねぇお兄ちゃん、ライズを見なかった?」
私の質問に、兄はあからさまに動揺していた。目を彷徨かせた後にわざとらしくニコリと笑いながら頬を掻いている。
「ライズは城へ戻ったよ。スタンピードの前兆が起こったのだから仕方ないだろ?」
「…お兄ちゃんはライズが討伐隊に選ばれた事を知っているのね。」
「うっ…あぁ。これはかなり内密な話しなんだから黙っておけよ?」
「…分かってる。」
結局ライズが前世魔王だと知らされてから彼に会えないままだった。
こんな事が起きたのだから仕方ないと思う一方で、このまま一生会えないのではないかと言う不安にかられてしまう。
そしてその悪い予感は当たることとなる。
そこから2ヶ月経った今も、ライズは学園に姿を現さないままだった。
「…限界だわ。」
初夏の風を感じながら私は悪態をついていた。
「リリー大丈夫?ついに頭がイカれたの?」
ランチを食べている途中で立ち上がった私をエミリアが心配そうな目で見つめていた。
大体エミリアがここにいるのにライズだけが姿を現さないのは絶対おかしいのだ。
きっと彼に何かあったに違いない。
「私、城へ行ってくるわ!!!」
「えっ?マジで?」
「えぇ、いたって真面目よ。もう限界。ライズの匂いを嗅がないともう無理よ。」
「…あっそう。でも城って、誰でも簡単に入れる訳じゃないわよ?ただでさえスタンピードの予兆があったせいでピリピリしてるのだから。」
「…分かってる。そこは何とかなると思うの。にしても何でエミリアは学園に来られてるわけ?グラムやレイ、ザック先輩だって見かけないわ。」
「…まぁね、私も色々あるのよ。あそこにいると顔を合わせたくない人と合わせなくちゃいけないし。まぁそれに、学園に来られたのだって久しぶりじゃない。今日ぐらい私の話しに付き合いなさいよ。」
「…そうね。ごめん。それでエミリアは最近何してたの?」
気を取り直してそう聞けば、エミリアは頬杖を付いてため息をついた。
どうやらよほど疲れているようだ。
「王子に追いかけられてたのよ。」
「王子に!?」
「バカッ!声がデカいわよ!」
「ご、ごめん。だって、お、王子様がねぇ…。エミリアはザック先輩が好きなのに…。」
「チョット!誰があんな男!!」
「…。」
真っ赤な顔で怒ったエミリアは私なんかより断然声がデカい。
そんなに動揺して可愛い奴ねとでも言えば暴れなねないので口を閉ざした。
「まぁ、王子に比べたらまだマシだけどね。マシってだけよ?マシ!」
「はいはい。それで、ライズは今何してるよ?」
「…私の話しはもう終わりな訳?まぁ良いけど。彼ね、彼なら…」
ライズは今各地を回っているらしい。
一度は討伐隊を派遣する話しが出たものの、その後禍々しい魔力は消え失せた。予兆はあったもののすぐに起こるわけではないと判断され、どこにどれだけの兵を送り込むか判断する為にライズが投入されたらしい。
元はと言えばライズの魔力なのだから、彼にだけは気配が分かるのだろう。
「じゃぁ、本当に忙しくて会えなかったのね?」
「えっ?えぇ、まぁそうね。」
「…エミリア、あなた本当に嘘が苦手ね。」
「うっ…。」
エミリアは本来嘘は得意なのだが、仲の良い人には嘘が付けないという可愛い一面があるのだ。
顔に嘘だと書いてある。
という事は私はどうやらライズにさけられているらしい。
「でも忙しいのは本当よ?一瞬だけでも顔を見にリリーの元へ来られなかったか?って言えばそうでもないだけで…。」
エミリアの言葉は段々小さくなって、可哀想なぐらい項垂れてしまった。
それほど私が悲壮な顔をしてしまっているのだろう。
「リリー、ライズはあなたの事を大切に想っていると思うわ。」
「…じゃぁ、何で!?いや、ごめん。エミリアにあたりたかったんじゃないの。」
「リリー…。」
「私行ってくる!こんな時にお父さんの権力を使わなくてどうするのよ。ライズに会ってちゃんと話してくるわ。」
「リリー…そうね。それが良いわ。行っておいで。」
「うん!!」
待ってろライズ!!私は簡単に諦めてあげたりしないのだから!!
この気配。
ライズが側にいる事が一瞬で分かった。
匂い、魔力、間違えるはずがない。
眠い目を何とか無理やりこじ開けて、私は必死に起き上がろうとしてボフッとまた倒れてしまった。
「あぁ、リリー起きたんだね。心配したよ。」
「えっ?…お兄ちゃん?」
そこにいたのは私の2歳年の離れた兄、ルルド・ウィリアムだった。
母に全く似なかった私達兄妹は、父の血を引き美しく色っぽく育った。
長身で無駄に筋肉の付いていない猫のようにしなやかな身体、長いサラサラのブロンドを1つに束ねた兄はこの国のイケメン水準を満たしていないくせにやたらモテる。
今年卒業なのだが、将来も国が率いる魔術団に入団する事が決まっていて将来有望なのだ。
そんな事はどうでも良い。
兄の魔力とライズを間違えるはずなんてないのに。
「ねぇお兄ちゃん、ライズを見なかった?」
私の質問に、兄はあからさまに動揺していた。目を彷徨かせた後にわざとらしくニコリと笑いながら頬を掻いている。
「ライズは城へ戻ったよ。スタンピードの前兆が起こったのだから仕方ないだろ?」
「…お兄ちゃんはライズが討伐隊に選ばれた事を知っているのね。」
「うっ…あぁ。これはかなり内密な話しなんだから黙っておけよ?」
「…分かってる。」
結局ライズが前世魔王だと知らされてから彼に会えないままだった。
こんな事が起きたのだから仕方ないと思う一方で、このまま一生会えないのではないかと言う不安にかられてしまう。
そしてその悪い予感は当たることとなる。
そこから2ヶ月経った今も、ライズは学園に姿を現さないままだった。
「…限界だわ。」
初夏の風を感じながら私は悪態をついていた。
「リリー大丈夫?ついに頭がイカれたの?」
ランチを食べている途中で立ち上がった私をエミリアが心配そうな目で見つめていた。
大体エミリアがここにいるのにライズだけが姿を現さないのは絶対おかしいのだ。
きっと彼に何かあったに違いない。
「私、城へ行ってくるわ!!!」
「えっ?マジで?」
「えぇ、いたって真面目よ。もう限界。ライズの匂いを嗅がないともう無理よ。」
「…あっそう。でも城って、誰でも簡単に入れる訳じゃないわよ?ただでさえスタンピードの予兆があったせいでピリピリしてるのだから。」
「…分かってる。そこは何とかなると思うの。にしても何でエミリアは学園に来られてるわけ?グラムやレイ、ザック先輩だって見かけないわ。」
「…まぁね、私も色々あるのよ。あそこにいると顔を合わせたくない人と合わせなくちゃいけないし。まぁそれに、学園に来られたのだって久しぶりじゃない。今日ぐらい私の話しに付き合いなさいよ。」
「…そうね。ごめん。それでエミリアは最近何してたの?」
気を取り直してそう聞けば、エミリアは頬杖を付いてため息をついた。
どうやらよほど疲れているようだ。
「王子に追いかけられてたのよ。」
「王子に!?」
「バカッ!声がデカいわよ!」
「ご、ごめん。だって、お、王子様がねぇ…。エミリアはザック先輩が好きなのに…。」
「チョット!誰があんな男!!」
「…。」
真っ赤な顔で怒ったエミリアは私なんかより断然声がデカい。
そんなに動揺して可愛い奴ねとでも言えば暴れなねないので口を閉ざした。
「まぁ、王子に比べたらまだマシだけどね。マシってだけよ?マシ!」
「はいはい。それで、ライズは今何してるよ?」
「…私の話しはもう終わりな訳?まぁ良いけど。彼ね、彼なら…」
ライズは今各地を回っているらしい。
一度は討伐隊を派遣する話しが出たものの、その後禍々しい魔力は消え失せた。予兆はあったもののすぐに起こるわけではないと判断され、どこにどれだけの兵を送り込むか判断する為にライズが投入されたらしい。
元はと言えばライズの魔力なのだから、彼にだけは気配が分かるのだろう。
「じゃぁ、本当に忙しくて会えなかったのね?」
「えっ?えぇ、まぁそうね。」
「…エミリア、あなた本当に嘘が苦手ね。」
「うっ…。」
エミリアは本来嘘は得意なのだが、仲の良い人には嘘が付けないという可愛い一面があるのだ。
顔に嘘だと書いてある。
という事は私はどうやらライズにさけられているらしい。
「でも忙しいのは本当よ?一瞬だけでも顔を見にリリーの元へ来られなかったか?って言えばそうでもないだけで…。」
エミリアの言葉は段々小さくなって、可哀想なぐらい項垂れてしまった。
それほど私が悲壮な顔をしてしまっているのだろう。
「リリー、ライズはあなたの事を大切に想っていると思うわ。」
「…じゃぁ、何で!?いや、ごめん。エミリアにあたりたかったんじゃないの。」
「リリー…。」
「私行ってくる!こんな時にお父さんの権力を使わなくてどうするのよ。ライズに会ってちゃんと話してくるわ。」
「リリー…そうね。それが良いわ。行っておいで。」
「うん!!」
待ってろライズ!!私は簡単に諦めてあげたりしないのだから!!
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