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学園編

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私は授業を受けながら、目の前に座るライズの美しい黒髪を見つめていた。
窓から入る風がサラサラと彼の髪を揺らしている。

「ハフッ、眼福。」

幸せの絶頂とはこの事だろうか。
エミリアに聞かれれば、11年間も好きなのに付き合ってもいないくせにと馬鹿にされそうだが。

(付き合いたい訳じゃないのよ。そりゃぁ、付き合えるなら付き合いたいけど…でも…。)

私は窓に映った自分の顔を見てため息をついた。そこには色香を放つ絶世の美女がいる。背も高く無駄に乳も育ち、本当なら何の文句も無い。
でも、ライズの横に並ぶとなればこの顔も身体も無意味だ。
可愛さと美しさを兼ね備えた彼に、私はあまりにも似合わない。
彼に合うのはエミリアの様な華奢で可憐な女性だという事は分かっている。
そして私はと言えば、ザック先輩の様な長身で筋肉隆々の男が似合うのだ。
絶対嫌だけど。

2人と出会ったのは入学式の日だった。
2人ともそれはそれは目立っていた。
国唯一の聖女エミリアは、死んだ人を生き返らす事が出来るという噂があるほど優秀な人である。それだけでも十分凄い事なのに、彼女は見た目まで可愛い。
ホワホワピンクのウサギちゃんの様な姿に、その場にいた男性達は一瞬で恋に落ちた事だろう。

ザックは2歳年上の先輩なのだが、まだ在学中にも関わらず、既に近衛騎士団に入団する事が決まっているほど優秀な男だ。
そして彼も見た目が良過ぎる。
この国で1番モテる姿を具現化したのがザック先輩だ。 

その2人が同じ日にライズに話しかけてきたのだから、私は面食らった。
私のライズをどうする気!?と彼らに吠えてしまったのも致し方ないだろう。
だってライズは目立つタイプでもないし、確かに優秀でその上可愛いけど。

「仲良くしようぜ!」
「友達になりましょう?」

私の牽制を物ともせず、彼らはライズにそう言った。
ライズは明らかに嬉しくなさそうな顔と声で喜んでと答えた。

「喜んで??ライズが??彼らと友達に??」

私の驚きが分かるだろうか?あまり人に興味の無い彼は、自分から他人と関わったりしない。
私と過ごす時だけ表情を和らげるのだ。
それがとても嬉しくて誇らしくて、それは私だけの特権だったはずなのに。

「リリー??」

急に涙をポロポロとこぼし出した私を、ライズは珍しく困った顔で見つめてきた。
ぎこちない仕草で私の頭を優しく何度も撫でてくれる。

「悪いけど今日は帰ってくれる?」

ライズの有無を言わさない言葉に、2人は黙って頷くとそそくさとその場を後にした。

「リリー、彼らと友達になっても、僕とリリーの関係は変わらないだろ?」

「……。」

そう優しく諭されても、私は頷く事が出来なかった。
だってライズはずっと私に隠し事をしているから。
ライズはたまにお城へと出掛けて行く。
何度も理由を尋ねようと思ったけど、聞けなかった。聞いたら彼がいなくなってしまうような気がしたからだ。

「リリー?」

泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、私はライズの肩に顔を埋めた。
爽やかな柑橘系の匂いがする。

「ライズ…。」

「ん?何?」

優しく聞き返されて気を良くした私は、心にしまっていたものを思い切って口に出してみる事にした。

「ライズに秘密がある事は分かっているの…。」

「……。」

何も答えなかったけど、一瞬息が詰まった気配がした。
それで私は自分の考えが正しかった事を確信した。
国はライズを魔物の討伐隊に入れる気なのだと。
近々スタンピードが起こるのではないかと噂になっているのを聞いたのだ。
国唯一の聖女、在学中にもかかわらず既に騎士団へ入る事が決定している青年、その2人が入学初日に声をかけてきた。
後に一緒に戦うことになる相手と今から仲良くしておこうといったところなのだろうか。

「ライズ、私も入れて欲しいの。」

「…ッ!?」

グズグズとまだ涙を流しながら、私は彼の肩から顔を離すと間近にある黄金に輝く瞳を見つめた。

「リリー…。」

困った様に揺らぐ彼の瞳を見て私は決意を固めていた。

「強くなるから。足手まといにならないぐらい私強くなるから。」

「…リリー、俺は何も答えられない。でもそれじゃ納得しないだろうし、何もしないで良いって言ってもリリーは聞かないんだろ?」

「ライズ…。えぇ、そうね。何もせずにいるなんて嫌。…諦めたくないの。私頑張るから!」

目を真っ赤に腫らしながら輝く笑顔を見せた私に、ライズはやれやれといった様子で苦笑いした。
それから1か月、私はエミリアやザック先輩と仲良くなっていた。
彼らに認められる為にも私は頑張らなくてはいけない。

「ルルド!ルルド・リリアン!!」

「はい!」

「ここを答えてみろ!」

学園で1番厳しいと言われている魔法講師のタイル先生が私を指名した。
心配そうにライズが見つめてくる。

(大丈夫。私はあなたにいつか追い付いてみせるから!)

季節は春。
ライズが討伐に行くまであとどれほどの猶予があるだろうか?
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