4 / 23
学園編
春
しおりを挟む
私は授業を受けながら、目の前に座るライズの美しい黒髪を見つめていた。
窓から入る風がサラサラと彼の髪を揺らしている。
「ハフッ、眼福。」
幸せの絶頂とはこの事だろうか。
エミリアに聞かれれば、11年間も好きなのに付き合ってもいないくせにと馬鹿にされそうだが。
(付き合いたい訳じゃないのよ。そりゃぁ、付き合えるなら付き合いたいけど…でも…。)
私は窓に映った自分の顔を見てため息をついた。そこには色香を放つ絶世の美女がいる。背も高く無駄に乳も育ち、本当なら何の文句も無い。
でも、ライズの横に並ぶとなればこの顔も身体も無意味だ。
可愛さと美しさを兼ね備えた彼に、私はあまりにも似合わない。
彼に合うのはエミリアの様な華奢で可憐な女性だという事は分かっている。
そして私はと言えば、ザック先輩の様な長身で筋肉隆々の男が似合うのだ。
絶対嫌だけど。
2人と出会ったのは入学式の日だった。
2人ともそれはそれは目立っていた。
国唯一の聖女エミリアは、死んだ人を生き返らす事が出来るという噂があるほど優秀な人である。それだけでも十分凄い事なのに、彼女は見た目まで可愛い。
ホワホワピンクのウサギちゃんの様な姿に、その場にいた男性達は一瞬で恋に落ちた事だろう。
ザックは2歳年上の先輩なのだが、まだ在学中にも関わらず、既に近衛騎士団に入団する事が決まっているほど優秀な男だ。
そして彼も見た目が良過ぎる。
この国で1番モテる姿を具現化したのがザック先輩だ。
その2人が同じ日にライズに話しかけてきたのだから、私は面食らった。
私のライズをどうする気!?と彼らに吠えてしまったのも致し方ないだろう。
だってライズは目立つタイプでもないし、確かに優秀でその上可愛いけど。
「仲良くしようぜ!」
「友達になりましょう?」
私の牽制を物ともせず、彼らはライズにそう言った。
ライズは明らかに嬉しくなさそうな顔と声で喜んでと答えた。
「喜んで??ライズが??彼らと友達に??」
私の驚きが分かるだろうか?あまり人に興味の無い彼は、自分から他人と関わったりしない。
私と過ごす時だけ表情を和らげるのだ。
それがとても嬉しくて誇らしくて、それは私だけの特権だったはずなのに。
「リリー??」
急に涙をポロポロとこぼし出した私を、ライズは珍しく困った顔で見つめてきた。
ぎこちない仕草で私の頭を優しく何度も撫でてくれる。
「悪いけど今日は帰ってくれる?」
ライズの有無を言わさない言葉に、2人は黙って頷くとそそくさとその場を後にした。
「リリー、彼らと友達になっても、僕とリリーの関係は変わらないだろ?」
「……。」
そう優しく諭されても、私は頷く事が出来なかった。
だってライズはずっと私に隠し事をしているから。
ライズはたまにお城へと出掛けて行く。
何度も理由を尋ねようと思ったけど、聞けなかった。聞いたら彼がいなくなってしまうような気がしたからだ。
「リリー?」
泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、私はライズの肩に顔を埋めた。
爽やかな柑橘系の匂いがする。
「ライズ…。」
「ん?何?」
優しく聞き返されて気を良くした私は、心にしまっていたものを思い切って口に出してみる事にした。
「ライズに秘密がある事は分かっているの…。」
「……。」
何も答えなかったけど、一瞬息が詰まった気配がした。
それで私は自分の考えが正しかった事を確信した。
国はライズを魔物の討伐隊に入れる気なのだと。
近々スタンピードが起こるのではないかと噂になっているのを聞いたのだ。
国唯一の聖女、在学中にもかかわらず既に騎士団へ入る事が決定している青年、その2人が入学初日に声をかけてきた。
後に一緒に戦うことになる相手と今から仲良くしておこうといったところなのだろうか。
「ライズ、私も入れて欲しいの。」
「…ッ!?」
グズグズとまだ涙を流しながら、私は彼の肩から顔を離すと間近にある黄金に輝く瞳を見つめた。
「リリー…。」
困った様に揺らぐ彼の瞳を見て私は決意を固めていた。
「強くなるから。足手まといにならないぐらい私強くなるから。」
「…リリー、俺は何も答えられない。でもそれじゃ納得しないだろうし、何もしないで良いって言ってもリリーは聞かないんだろ?」
「ライズ…。えぇ、そうね。何もせずにいるなんて嫌。…諦めたくないの。私頑張るから!」
目を真っ赤に腫らしながら輝く笑顔を見せた私に、ライズはやれやれといった様子で苦笑いした。
それから1か月、私はエミリアやザック先輩と仲良くなっていた。
彼らに認められる為にも私は頑張らなくてはいけない。
「ルルド!ルルド・リリアン!!」
「はい!」
「ここを答えてみろ!」
学園で1番厳しいと言われている魔法講師のタイル先生が私を指名した。
心配そうにライズが見つめてくる。
(大丈夫。私はあなたにいつか追い付いてみせるから!)
季節は春。
ライズが討伐に行くまであとどれほどの猶予があるだろうか?
窓から入る風がサラサラと彼の髪を揺らしている。
「ハフッ、眼福。」
幸せの絶頂とはこの事だろうか。
エミリアに聞かれれば、11年間も好きなのに付き合ってもいないくせにと馬鹿にされそうだが。
(付き合いたい訳じゃないのよ。そりゃぁ、付き合えるなら付き合いたいけど…でも…。)
私は窓に映った自分の顔を見てため息をついた。そこには色香を放つ絶世の美女がいる。背も高く無駄に乳も育ち、本当なら何の文句も無い。
でも、ライズの横に並ぶとなればこの顔も身体も無意味だ。
可愛さと美しさを兼ね備えた彼に、私はあまりにも似合わない。
彼に合うのはエミリアの様な華奢で可憐な女性だという事は分かっている。
そして私はと言えば、ザック先輩の様な長身で筋肉隆々の男が似合うのだ。
絶対嫌だけど。
2人と出会ったのは入学式の日だった。
2人ともそれはそれは目立っていた。
国唯一の聖女エミリアは、死んだ人を生き返らす事が出来るという噂があるほど優秀な人である。それだけでも十分凄い事なのに、彼女は見た目まで可愛い。
ホワホワピンクのウサギちゃんの様な姿に、その場にいた男性達は一瞬で恋に落ちた事だろう。
ザックは2歳年上の先輩なのだが、まだ在学中にも関わらず、既に近衛騎士団に入団する事が決まっているほど優秀な男だ。
そして彼も見た目が良過ぎる。
この国で1番モテる姿を具現化したのがザック先輩だ。
その2人が同じ日にライズに話しかけてきたのだから、私は面食らった。
私のライズをどうする気!?と彼らに吠えてしまったのも致し方ないだろう。
だってライズは目立つタイプでもないし、確かに優秀でその上可愛いけど。
「仲良くしようぜ!」
「友達になりましょう?」
私の牽制を物ともせず、彼らはライズにそう言った。
ライズは明らかに嬉しくなさそうな顔と声で喜んでと答えた。
「喜んで??ライズが??彼らと友達に??」
私の驚きが分かるだろうか?あまり人に興味の無い彼は、自分から他人と関わったりしない。
私と過ごす時だけ表情を和らげるのだ。
それがとても嬉しくて誇らしくて、それは私だけの特権だったはずなのに。
「リリー??」
急に涙をポロポロとこぼし出した私を、ライズは珍しく困った顔で見つめてきた。
ぎこちない仕草で私の頭を優しく何度も撫でてくれる。
「悪いけど今日は帰ってくれる?」
ライズの有無を言わさない言葉に、2人は黙って頷くとそそくさとその場を後にした。
「リリー、彼らと友達になっても、僕とリリーの関係は変わらないだろ?」
「……。」
そう優しく諭されても、私は頷く事が出来なかった。
だってライズはずっと私に隠し事をしているから。
ライズはたまにお城へと出掛けて行く。
何度も理由を尋ねようと思ったけど、聞けなかった。聞いたら彼がいなくなってしまうような気がしたからだ。
「リリー?」
泣き顔を見られるのが恥ずかしくて、私はライズの肩に顔を埋めた。
爽やかな柑橘系の匂いがする。
「ライズ…。」
「ん?何?」
優しく聞き返されて気を良くした私は、心にしまっていたものを思い切って口に出してみる事にした。
「ライズに秘密がある事は分かっているの…。」
「……。」
何も答えなかったけど、一瞬息が詰まった気配がした。
それで私は自分の考えが正しかった事を確信した。
国はライズを魔物の討伐隊に入れる気なのだと。
近々スタンピードが起こるのではないかと噂になっているのを聞いたのだ。
国唯一の聖女、在学中にもかかわらず既に騎士団へ入る事が決定している青年、その2人が入学初日に声をかけてきた。
後に一緒に戦うことになる相手と今から仲良くしておこうといったところなのだろうか。
「ライズ、私も入れて欲しいの。」
「…ッ!?」
グズグズとまだ涙を流しながら、私は彼の肩から顔を離すと間近にある黄金に輝く瞳を見つめた。
「リリー…。」
困った様に揺らぐ彼の瞳を見て私は決意を固めていた。
「強くなるから。足手まといにならないぐらい私強くなるから。」
「…リリー、俺は何も答えられない。でもそれじゃ納得しないだろうし、何もしないで良いって言ってもリリーは聞かないんだろ?」
「ライズ…。えぇ、そうね。何もせずにいるなんて嫌。…諦めたくないの。私頑張るから!」
目を真っ赤に腫らしながら輝く笑顔を見せた私に、ライズはやれやれといった様子で苦笑いした。
それから1か月、私はエミリアやザック先輩と仲良くなっていた。
彼らに認められる為にも私は頑張らなくてはいけない。
「ルルド!ルルド・リリアン!!」
「はい!」
「ここを答えてみろ!」
学園で1番厳しいと言われている魔法講師のタイル先生が私を指名した。
心配そうにライズが見つめてくる。
(大丈夫。私はあなたにいつか追い付いてみせるから!)
季節は春。
ライズが討伐に行くまであとどれほどの猶予があるだろうか?
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
【R-18】悪役令嬢ですが、罠に嵌まって張型つき木馬に跨がる事になりました!
臣桜
恋愛
悪役令嬢エトラは、王女と聖女とお茶会をしたあと、真っ白な空間にいた。
そこには張型のついた木馬があり『ご自由に跨がってください。絶頂すれば元の世界に戻れます』の文字が……。
※ムーンライトノベルズ様にも重複投稿しています
※表紙はニジジャーニーで生成しました
【R18】聖女のお役目【完結済】
ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。
その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。
紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。
祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。
※性描写有りは★マークです。
※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話
もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。
詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。
え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか?
え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか?
え? 私、アースさん専用の聖女なんですか?
魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。
※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。
※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。
※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。
R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる