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本編

009

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コンコンという控えめなノックの後、「失礼します」という声とともにメイド服を着た女の子が部屋に入ってきた。


「お嬢様!目を覚まされたんですね!!」


彼女は私と目が合った瞬間、目に涙をためて抱き着いてきた。


「えっと……アンナ?心配かけてごめんね?」

「いいえ……私の方こそ、あの時お嬢様のお側にいたのにお守りできず、申し訳ございませんでした」

「仕方ないわ。相手は王族だもの。あの時アンナが止めに入っていたら、あなたが何か罰を受けていたかもしれないわ」

「私が罰を受けるぐらいよいのです。お嬢様のお命にはけられません!!」

「それでも、私は今こうして生きているんだから気にしないで?」

「お嬢様……」


大丈夫だからと彼女の手を握り顔を覗き込みながら伝えると、とうとう彼女の瞳から涙が零れ落ちた。
彼女が落ち着くまで、彼女の頭を優しく撫でる。


しばらくそうしていると、落ち着いたアンナは私から離れると少し不思議そうな顔をした。


「お嬢様、このお眠りになっていた3日間でとても大人びられましたね。今までも同年代の方々より落ち着かれているとは思っていたのですが…」

「そうかしら?」

「はい、どことなく今まで以上に落ち着いた雰囲気になられたかと……もしや、溺れたせいでどこかお身体に不調があるのですか?」

「そんなことはないと思うけど?」

「いえ……旦那様も奥様もお嬢様がお目覚めになられた嬉しさのあまりお嬢様をお医者様に見せるのを忘れていたと言っておりました。すぐにお医者様を呼んでまいりますね!!」

「ちょっと、アンナ!?」


アンナは私の呼び止める声も聞こえないのか、急いで部屋を飛び出すとお医者様を呼びに行った。


「お医者様なんかより、私はお腹がすいてるんだけど!!!!」


それにしてもだ。
今更だけどエリザベートは8歳の女の子だ。
失念していた。
8年生きてきたエリザベートよりも20数年生きてきたわたしの方が記憶の量も多いわけで、どうしてもわたしの方に性格も雰囲気もよってしまう。

さすがに、8歳の子が20代の大人ような対応はおかしいよね。


彼女……アンナは、エリザベートが3歳の時から私付のメイドとして働いてくれている子だ。
今年、16歳になる茶色い瞳と髪の美人さんである。
さすがに、小さい時から下手した父と母よりも一緒にいる人だからやはりすぐに気づいたんだろうな。

どうしたものか。
……適当にごまかそう。
もうお腹すきすぎて考えるのが面倒くさい。
なるようになるわ。


――コンコン。


「どうぞ」

「お嬢様、失礼いたします。お医者様をお連れしました」


ノックの音に答えるとアンナと白髪の優しそうなおじいちゃんが入ってきた。







「お嬢様、どこか具合の悪いところはありませんかな?」


心音を聞いたり一応の触診を終えたおじいちゃんはそう尋ねてきた。


「ええ、どこも具合の悪いところはありません。しいて言うならば、お腹が減って死にそうです」


私がそう答えると同時に私のお腹も鳴った。


「うむ、私が見た限りどこも具合の悪いところはありませんな」

「お医者様!本当ですか!?」

「ああ、本当じゃ。だが、最初の食事は胃に優しい物にするように」

「そこは問題ありません!料理長がお嬢様のためにリゾットを作ってくれてます」

「そうですか、なら安心ですな。それではお嬢様、お身体に悪いところはないですが、今日と明日は安静にお過ごしください」

「ええ、わかったわ。ありがとうございます」

「では、私は公爵様と奥方様にご報告しておきます。何かあったらいつでもお呼びくださいな」


一通りの診察と問診を終えて、おじいちゃんは部屋を出て行った。


アンナは少し納得のいかないような顔で私を見つめている。


「アンナが違和感を感じているのは、私が眠っている間にみた夢のせいだと思うわ」

「夢ですか?」


私の言葉に怪訝そうな顔をするアンナ。
そんなアンナには悪いけど……


「ええ、そうよ。その話はあとでするからそれよりも先に、お腹がすいたわ」

「あ、申し訳ありません。そうですよね。お嬢様は3日間何もお食べになれてないですし……失念しておりました。すぐに用意いたしますね」

「ええ、よろしくお願い。夢の話はご飯が終わったら話すわ」


お腹がすいたと訴える私に、しまったというような顔をしたアンナは、夢の話が気になるのだろうが急いでご飯の準備をすると言い部屋を出て行った。


ようやく、ようやく食べ物にありつける!!
夢の話はご飯を食べながら適当に考えよう。


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