上 下
3 / 9
本編

003

しおりを挟む


背後を振り返ると、そこには見た目からしてお花畑な頭の持ち主だろう女が立っていた。

ふわっと緩く巻かれた茶色い髪に清楚なワンピースにあまりヒールの高くないパンプス。化粧はナチュラルに仕上げられてるけど、多分今までそんなに化粧はしたことなかったんじゃないかなぁって感じの出来栄え。言うなれば、大学デビューしましたって感じの雰囲気が漂う感じ。

たぶん、あまり恋愛したことなかったタイプ。このバカが適当に口説いてそれでその気になっちゃって、お洒落を頑張ったんじゃないかな。

まぁ、とりあえず、面倒くさいから無視の方向で。

わたしは、叫んだ女を一通り眺めると、視線を幼馴染みの方へと戻した。またか、みたいな表情で女を見た幼馴染は、次はわたしへと視線を向けてどんまい、みたいな表情を作った。

いや、なんでわたしが巻き込まれる前提みたいな表情してんの。絶対、こんな面倒くさそうなことに巻き込まれたくないわ。
わたしは完全無視の方向で。こういうのは当人方で解決してください。

わたしにへばりついたままのバカへと視線を向けると、へらりと笑いながらなんともないことのように女へと言葉を投げかけた。


「何してるのって、高校の同級生たちと飲んでるだけじゃん?」

「なっ⋯⋯飲んでるだけなら抱き合う必要ないじゃない!!」


いや、ご尤もな意見だわ。
ただお酒飲むだけなら、こんなベタベタ引っ付かなくてもいいものね。
てか、抱き合ってないし。一方的にわたしが抱き着かれてるだけなんだけど。


「必要か必要じゃないかは俺が決めることじゃん?久々に会ったんだから癒されたいじゃん?だから、こうやって充電してんのー」


みたいな感じに言いながら、わたしの肩にグリグリと額を押し当てるのやめい。彼女(仮)の顔が般若みたいになってんじゃん。あと、お前と会うの久しぶりじゃないからね。先週末うちに来てゲームしてただろ。


「なんで!癒しならわたしがいるじゃない!!!てか、いつまでくっついてんのよ離れさなさいよ!?!!」


いや、彼女じゃ癒しにはなんないでしょう。重そう。好意が重そう。嫉妬深くていつも会ってないとダメみたいな??相変わらず、女見る目ないんだか、何なんだか。なんで、メンがヘラってるようなのばっか引っかけてくるかなぁ。もっと後腐れの無いようなのつかまえてくればいいのに。

なんて、ぼーうっと考えていると、後ろからかつかつヒールの音を鳴らして近寄ってきた女に、巻き髪にしていた長い髪をぐいっと引っ張られた。振り向くと女は物凄い顔をしてた。それなりに可愛らしい顔してんのにね。台無しだわ。


「痛い⋯⋯」

「あんたは、さっきからなんで人の彼氏にずっとくっついてんのよ!!?人の彼氏に色目使ってんじゃないわよ!」


いや、くっついてんのわたしじゃなくてあんたの彼氏(仮)だから。つか、こいつに色目使う意味。こんなバカになんでそんなの使わなきゃなんないの意味不明なんだけど、頭沸いてんじゃないのこの女。


「何よ!その目!!!ばかにしてんの?」

「⋯⋯いや?」

「ぶはっ⋯⋯、っ」


バカにはしてないけど考えていたことが表情に出てしまったのか、女が余計に激怒してる、わたしの横で女の言葉でわたしの顔を覗き込んだバカは笑った。
余裕綽々な感じが本当にむかつく。この流れ、全部わたしに片付けさせようとしてるんじゃないのこいつ。


「ばかにしてるじゃない!!!このクソ女!!!」


そう言って女は、カウンターの上にあったカクテルグラスを引っ掴むとわたしの顔面目掛けて中身を掛けてきた。

ぱしゃっ⋯⋯という音とともにわたしの顔は甘ったるいカクテルで濡れる。
わたしの前には、ざまぁみろと言った感じで口角をあげてる女。横にはカクテルがかかる寸前にわたしから離れてこれから起こることを楽しんでいるようなバカ。カウンターを挟んだ背後からは、あちゃーっと言った感じに色々察して諦めてる幼馴染。







——ぷつん、と何かが切れる音がした。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

誰にも信じてもらえなかった公爵令嬢は、もう誰も信じません。

salt
恋愛
王都で罪を犯した悪役令嬢との婚姻を結んだ、東の辺境伯地ディオグーン領を治める、フェイドリンド辺境伯子息、アルバスの懺悔と後悔の記録。 6000文字くらいで摂取するお手軽絶望バッドエンドです。 *なろう・pixivにも掲載しています。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

使えないと言われ続けた悪役令嬢のその後

有木珠乃
恋愛
アベリア・ハイドフェルド公爵令嬢は「使えない」悪役令嬢である。 乙女ゲームの悪役令嬢に転生したのに、最低限の義務である、王子の婚約者にすらなれなったほどの。 だから簡単に、ヒロインは王子の婚約者の座を得る。 それを見た父、ハイドフェルド公爵は怒り心頭でアベリアを修道院へ行くように命じる。 王子の婚約者にもなれず、断罪やざまぁもされていないのに、修道院!? けれど、そこには……。 ※この作品は小説家になろう、カクヨム、エブリスタにも投稿しています。

【完結】時を戻った私は別の人生を歩みたい

まるねこ
恋愛
震えながら殿下の腕にしがみついている赤髪の女。 怯えているように見せながら私を見てニヤニヤと笑っている。 あぁ、私は彼女に完全に嵌められたのだと。その瞬間理解した。 口には布を噛まされているため声も出せない。 ただランドルフ殿下を睨みつける。 瞬きもせずに。 そして、私はこの世を去った。 目覚めたら小さな手。 私は一体どうしてしまったの……? 暴行、流血場面が何度かありますのでR15にしております。 Copyright©︎2024-まるねこ

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

【完結】「父に毒殺され母の葬儀までタイムリープしたので、親戚の集まる前で父にやり返してやった」

まほりろ
恋愛
十八歳の私は異母妹に婚約者を奪われ、父と継母に毒殺された。 気がついたら十歳まで時間が巻き戻っていて、母の葬儀の最中だった。 私に毒を飲ませた父と継母が、虫の息の私の耳元で得意げに母を毒殺した経緯を話していたことを思い出した。 母の葬儀が終われば私は屋敷に幽閉され、外部との連絡手段を失ってしまう。 父を断罪できるチャンスは今しかない。 「お父様は悪くないの!  お父様は愛する人と一緒になりたかっただけなの!  だからお父様はお母様に毒をもったの!  お願いお父様を捕まえないで!」 私は声の限りに叫んでいた。 心の奥にほんの少し芽生えた父への殺意とともに。 ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 ※「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※タイトル変更しました。 旧タイトル「父に殺されタイムリープしたので『お父様は悪くないの!お父様は愛する人と一緒になりたくてお母様の食事に毒をもっただけなの!』と叫んでみた」

処理中です...