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5 嘘なのに感謝される女◇サクラ◇

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私は嘘コクしたくせに、リュウを好きになってしまった。

リュウの友人のマキに、リュウが元カノの話を知っているか聞かれ、思わず嘘をついた。

あんないいやつを捨てたくせに、まだ想われてる女の子に嫉妬した。

リュウの口から『冬美』にフラれた話なんて聞いてない。

「冬美って人のことでしょ、聞いてるよ『リュウ』から」

マキが本当に驚いた顔をしている。ダイチもだ。だけど2人に敵意はない。

「よ・・よかった」

しばらく沈黙したあと、マキがそう言った。

「リュウ、初めて私達以外の人に冬美のこと話せたんだね。よかった、本当によかったよね、ダイチ」

「・・だな。去年の夏前は平静を装って学校来てたけど、危なっかしかったもんな」
「そうだよ。夏ごろのリュウなんて、見てらんなかった」

私達3人は驚いてる。2人がこんなリアクションをするとは思ってなかった。

「・・あのさ、リュウって幼馴染みのことがあった直後って、そんなひどかったの?」

私が聞くと、ふたりが目配せして、ダイチが話し出した。

「そうだね。ちょっと前までボサボサ髪だっただろ。あれより、すごくひどかった。なあマキ」

「わ、私、リュウが自殺しちゃうんじゃないかと思ってた。ダイチと2人で毎日、生存確認して・・う、うう」

ダイチがマキの肩をぽんぽんしながら、ハンカチを差し出した。

「涙ふけよマキ。これでリュウも何とか乗り越えたってことだろ」

マキはしばらく泣いてた。

その姿見て、当時のリュウの落ち込みようが想像できた。

リュウと冬美さんって、どんな別れかたしたんだろ。

ひどい捨てられ方かな・・

だけど私は、この2人に内容を知ってる、って言ってしまった。

リュウが、心に大きな傷を負ったこと承知して、仲良くしていると思われた。

そして泣くほど喜ばれた。

今更、本当のこと、教えてくれと言えなくなった。

「秋庭さん」

「あ、はい」

「秋庭さんだけじゃないよね、3人とも本当にありがとう。リュウを立ち直らせてくれて。中学の同級生達も本当に心配してたの」

え、え、え、そんな広い範囲に波及してる話なの?

みんなリュウに同情・・・。てことは、幼馴染みって意外に悪女系?

「う、うん。リュウはいいやつだし、できる限りのことはやる・・」

「ありがとう、本当にお願いします・・」

マキに泣きながら感謝されたあと2人と別れた。

私とリュウの接点って、きっかけが嘘コクだ。胸がチクッとした。


メグミ、アンリと3人になった。

アンリ、メグミが同時に口を開いた。

「なあ、アタイ達のイタズラ、思ってなかった方向に向いたな」
「リュウって、自殺するかってくらいに落ち込んだんだ・・」

「結果、リュウともいい関係だし、現状維持しよか」
「だね。リュウっていいやつだし、イタズラのことは完全に封印しようぜ」

私は、2人の話に割り込んだ。そして思い切って言った。

「あのさ私、リュウときちんと付き合いたい・・」

「わお」「おおお」

「だから、お願い。あの告白が罰ゲームからの嘘コクだったこと、リュウには黙ってて」

「そりゃ、もちろん」
「なおさら結果オーライじゃね」
「むしろ応援するよ」

「う~ん。言われてみると、リュウって、そんな空気出してないんだよね。がっついてないって言うか」

「そうだ、偽っつっても、一回はサクラは告白してるし。もう1回言ったら不自然だな」
「あせらず、やってけばいいんじゃね?」

「かな~、なにかきっかけ欲しいなー」

「そういやサクラって、誕生日近くね?」
「あ、そうだぞ、そこ利用しろよ。来月の何日だったっけ」

「6月13日だよ」

「13日か・・。あれ、サクラがリュウに告白したのって、今月のそのへんじゃね」
「そうだよ、告白の日って5月13日だよ」

それ、使わない手はない。

「リュウに誕生日の話振って13日って教えれば、きっとお祝いしたいって言ってくれるよね」

「間違いねえよ。告白から1ヶ月で切りもいいよな」
「そんときに、改めて付き合いたいって言うんだな」
「ちょうどいいやん。どっか誘えよ」

「うん、それまでに、こっちのこと好きになってもらえるように頑張りたいな」

「あれサクラ、なんか素が出てきてるぞ」

「あ、いや、あの・・」

「いいさ、サクラって元々がアタイ達よりギャル寄りの性格じゃねえし」
「うん、今更ダチじゃないとか言わんから、リュウのこと頑張れ」

「サンキュー、2人とも」

こんな感じで、2人とも前より本音で話せるようになった気がする。


5時間目の5分前、教室に戻った。

リュウはオタ系の男子2人と話してた。アニメがどうとか、私の知らないのもあるけど楽しそうだ。

きっと、こっちの明るいのが本来のリュウ。

だけど私が変えたみたいに言われてる。


家族との関係も、ほんの少しだけ変化がある。父母とは相変わらず最低限の会話だけ。4歳上の兄は大学で他県。

だけど2歳上の姉とだけは、少し話をするようになった。

リュウから学び始めたことを思い出して、食事のあと姉に参考書を貸してくれって頼んでみた。

そしたら嬉しそうに応じてくれて、色々と貸してくれた。

私は化粧のやり方を強引に教えた。母から引き継いだ下地は私も姉も同じ。

悔しいけど、私より美人に仕上がった。

まだぎこちないけど、ちょっと距離が縮まった。


明日はリュウと水族館。そこで何か、本当に付き合うきっかけを作ろう。

やっぱ誕生日の話かな。

リュウがノってくれたらいいな。



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