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217 確かに、これも肉食女子

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12月25日。

梓はルナにも頼んで、勇太とのデート回数が少ないカオルを勇太と2人きりにした。

あえてクリスマスに。

ルナも快く応じ、根が不器用そうな2人のため、まずはパラレル駅ビル8階のパンケーキ屋を勧めた。

そこで嫁ズの中では糖度が少ないカオルの糖分を補給してくれと願って。

今現在の梓とルナ。勇太とカオルの目撃情報をチェックしているのだが何かおかしい。

リアルタイム映像もおかしい。

確かに駅ビルだ。梓も見覚えがある。

8階のパンケーキ屋ではない。勇太とカオルは9階の焼き肉食べ放題の店の前にいる。

看板もファンシーなミツバチではない。90分、3240円と書いた牛マークの看板である。

「なんじゃ、そりゃ!」梓は叫んだ。

「カオルらしすぎ・・」ルナは呟いた。



この焼き肉食べ放題の店は、肉だけ注文。あとはサラダバーなど。客席の間に大した仕切りもなく個室もない。

20ほどテーブルがある店で2人の席はど真ん中。

店内に入った瞬間から注目されている。

男女比1対12の世界で、まず男子が来ないお店。そこにカオルと勇太の2人だけで入った。


「勇太、水とサラダを適当にもらってくる」
「じゃあ、俺はご飯よそってくるよ」

「サンキュー」
「カオルのご飯はメガ盛りでいいか?」

「もちろん!」
「あははは」

なんと甘い空気がないことか。

男女比1対12。クリスマス。エロカワ男子と2人きり。

カオルと勇太は見ていないがネットは炎上している。

『今川カオルよ、今日は性なる夜だろ』
『可愛く女をアピールしろや』
『なぜお前は性欲でなく、食欲を優先するのだ』

おおむね正論だ。

とにかく2人して食べる。

焼き網の上には空きスペースがない。

「そこのカルビ焼けたぞカオル」
「ホルモンはもう大丈夫か?」

「肉追加だな」
「おう、なにがいい?」

いまだに甘い空気ゼロである。

70分後。

また違った部分で女性達が勇太に驚いている。

さすがのカオルも普通の人の4人前くらいで箸を置いた。

けれど勇太は止まらない。

女神印の回復力が燃費を悪くする。学校では放課後までに、ルナ弁当、差し入れ弁当で合わせて5個くらい食べたりする。

大食いなのは知られているけど、まとめて食べるところを撮影されるのは初めて。

網に乗せた肉が消えていく。

ほう~、おお~、と歓声も上がる。

何人かの女性がチラチラとカオルを見る。

カオルは勇太の食べっぷりを目を細めて見ている。

恋人っぽい空気は薄いけど、見ていて安らぐ。こんなのもいいな~と感じている。

勇太も箸を置いた。

「ふう~~~、満腹!」
「ははは、相変わらずすげえな」

「お、カオル」
「ん?」

「ご飯粒顔に付いてるぞ」

「どこだ?」
舌で唇をべろべろしている。色気ゼロ。

「場所が違うよ」
「ん?んん?」

「反対だよ。ほら」

「へ?」

テーブルの向かいにいた勇太が横に来て、右手親指を伸ばした。

ちょうど、カオルが舌を出している。勇太がカオルの唇の右端に付いたご飯粒に触れたとき、勇太の指がカオルの舌に絡まった。

ご飯粒は勇太の親指と一緒に、カオルの口の中に収まった。

「む、むるる?」
「カオル、食い意地張りすぎ。俺の指まで食べてるよ~」

「む?」

勇太が指を引き抜くとき、ちゅぽんっ、と音がしたようにカオルには聞こえた。

勇太とカオルのおかげで、ほぼ満員となった店内がどよめいている。

ざわざわざわ。
『あれ・・あーん、ぱくどころじゃないよね』
『進化形。ぱく、ちゅぽんだよ』

『カオルさん、食欲を満たしたからプレイ開始?』
『いやいや、仕掛けたのは勇太君でしょ。カオルさんって、ベッドの中では受けって噂だよ』

何でもセック●につなげる、肉食乙女で一杯だ。


カオルはパニックだ。

最近はあ~ん、ぱくに慣れてきた。けれど、その進化形があるとは思わなかった。

「カオル、出ようか」

声をかけられて、顔が赤くなるのが自分でも分かる。

勇太に手を引っ張られて歩き出した。

今日も日が落ちるのが早い。

駅前広場はイルミネーションで彩られ、家族連れ、女性カップル、ハーレムユニットと、たくさんの人がいる。

キラキラしている。

「きれいだな」
「だな。カオルも今日の格好は可愛いぞ」

「ばかやろ、褒められ慣れてねえんだから、やめろよ」

「ははは。カオルは明日から柔道漬けだな」
「おう。それが本来のアタイだ」

「カオル」

勇太が肩を抱いた。

往来だけど、横に8人のハーレムグループがいて、頬ッぺにチューの記念撮影とかやっている。今日は勇太も目立たない。

大きな柱の影。

「目、閉じてなよ」
「あ、あのな・・・うん」

1度目は頬にキスされた感覚。そして2度目は・・

「・・ん」

カオルは目を開けた。唇に確かな感触が残っている。

「・・元気出た」
「そりゃ良かった」

今日は人も多い。防犯の名目も立たないから、ここで動画を撮っている人間はいなかった。

けれど見ている知人はいた。

茶薔薇柔道部員もイルミネーションを見に来ていて、前を歩く勇太とカオルを見つけた。


2人のキスシーンは、ばっちり彼女らの脳裏に焼き付いている。


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