221 / 288
221 ファミリーの前で我慢しなくていい
しおりを挟む
勇太は間門嘉菜、吉田真子の嫁ズカップルとお昼ご飯を食べている。
真子は1回だけ1対1のデートしたが、嘉菜はゼロ。
パラレル勇太が原因だった嘉菜の間門家と勇太のトラブルに、法律的に決着が付いたのは11月9日。
けれど、そこから法的手続きなどがあり、本当の足かせがなくなったのが1か月後。
その時には嘉菜が一番仲良しな姉妹の由乃が病気になっていて、嘉菜は浮かれている場合ではなくなった。
クリスマスイブのチャリティーイベントも由乃の容体次第では嘉菜は断るつもりだった。
大きく回復した由乃に背中を押されて、嘉菜は初めて勇太ファミリーの活動に参加したという訳だ。
『マカド』の次期当主として家や家族のために我慢をしてきた嘉菜。
勇太の嫁になるという大きな希望は叶えられる。
しかし調停から間がなかった11月18日の自分の誕生日祝いも断った。その後も他の嫁ズのように勇太から尽くされることを自重している。
やっぱり我慢の生活は継続中だった。
12月28日の今、色々と失念していた勇太は反省した。
11月の17日までは、調停等が完全解決したら12月19日の真子の誕生日に、嘉菜のプレゼントも一緒に買いに行こうと思っていた。
だけど梓、由乃が続けて倒れ、それを2人に言うことさえ忘れていた。
勇太はご飯を食べながら、それを謝った。
嘉菜は笑った。
「いえ、問題ありません。真子ちゃんの誕生日の時点では由乃の容体も大丈夫とは言えませんでした。だから、誘ってもらってもお断りしていたと思います」
「それでも、忘れちゃいけないことだった。ごめんね」
「真子ちゃんが自分の誕生日に私も一緒にって気遣ってくれましたが、断りましたしね」
「・・そうなんだ。我慢させたのか・・」
「違います。ふふふ」
嘉菜は右手を伸ばした。中指には勇太にもらった恋人リングがはまっている。
「姉妹に色んなものをあげてきたり、譲ったりしたけど・・」
嘉菜の笑顔から嘘偽りを感じない。
「これだけは私のもの。欲しいと言われても断れます。だから今は、すごく満たされてます」
嘉菜は9月3日に勇太の歌を聞いてファンになった。
ただ知り合いになれたらと思っていたら、紆余曲折の末に吉田真子と一緒に勇太と結婚することになった。
「情熱的な恋愛はできないけど、勇太さん、見捨てないで下さいね」
話しながらご飯を食べ終わって、3人で外を歩いている。
再び図書館に行く2人を送っていっている。
図書館の前に来たとき、真子が先を歩き出した。
「嘉菜さん勇太君、私、嘉菜さんの車から荷物取ってくるね」
嘉菜は自分の車で来るから、真子が一緒のとき昼食前に車に荷物を置いている。返事も聞かず真子が走って行った。
たまたま図書館の前には誰もいない。
雪がちらついてきた。
「嘉菜さん、寒くない?」
「かなり・・」
けれど嘉菜は真っ直ぐ立っている。彼女の生き方そのもの。
寒いけど我慢する嘉菜。
そんな嘉菜に勇太があげられるものはひとつだけ。
勇太は嘉菜を引き寄せた。そして抱き締めた。
「あっ・・」
「嫌だった?」
「・・いえ、ぜんぜん」
「それなら、これからは俺に我が儘言いなよ」
「・・あの」
「俺がバカで、また誕生祝いを忘れてたら、怒っていい」
「そ、そんなつもりは」
「由乃さんのことで気持ちも不安定だったでしょ」
「・・そ、それは、こちらの問題で」
「委員長も支えになってくれるだろうけど、俺らにも甘えてよ」
「けれど、私は間門の家があり、その次期当主としての立場があります。だからファミリーの中での役割は・・」
「役割なんて気にしなくていいよ」
「え?」
「カオルは柔道が何より優先。それに俺らが合わせる。嘉菜さんも、自分のスタンスでみんなと接すればいいんだよ」
「それでは妻のひとりとして・・」
「嘉菜さんは自分のペースでいい。仕事優先でもいい。会いたいと思ったら連絡ちょうだい。俺達が会いに行く」
えっ、と嘉菜は勇太を見上げた。優しい目で見てくれる。
緊張するのは変わらないけど、知らない安らぎが心の中に沸いてきた。勇太の声が心地よく響く。
知らない間に張り詰めていた。
由乃の病気治療が困難かも知れないと思ったときも、大泣きする姉妹を慰めて気持ちを出せなかった。
その前には1度、家のために勇太を諦めようとした。
我慢した。我慢に慣れていた。
いや、慣れている自分を演じていた。
今、勇太の腕の中。取り繕うにも逃げ場がない。
逃げ場がないから素直になるしかない。
なんというか、勇太は嘉菜の肩から力が抜けるのを感じた。
「私・・」
「うん」
「冷静なふりしてたけど、由乃が死ぬんじゃないかって怖かった」
「うん」
「みんなに祈ろうって言ったけど、本当は叫びたかった」
平坦に聞こえる声。辛いときも作ってきた喋り方。
この人は不器用だと勇太は思った。
「子供の頃は、もっとお父さんの膝に乗りたかった・・」
「うん」
「もう、笑い方も分からないときがある・・」
「無理に笑わなくてもいいよ」
「ごめんなさい。せっかく気を使ってくれるのに、こんか可愛げがない態度で・・」
「いいんだ・・。俺達が嘉菜さんが笑えるように頑張るからさ」
嘉菜が勇太の胸に顔をうずめている。
張り詰めたものは、少しずつ溶かしていくしかない。
いつの間にか、通りかかる人も出てきた。
勇太は嘉菜との仲をアピールしようとか余計なことを考えていたことを忘れた。
上を向いた嘉菜に、勇太は唇を合わせた。
しばらく、そのままでいた。
雪が静かに降っている。
真子は1回だけ1対1のデートしたが、嘉菜はゼロ。
パラレル勇太が原因だった嘉菜の間門家と勇太のトラブルに、法律的に決着が付いたのは11月9日。
けれど、そこから法的手続きなどがあり、本当の足かせがなくなったのが1か月後。
その時には嘉菜が一番仲良しな姉妹の由乃が病気になっていて、嘉菜は浮かれている場合ではなくなった。
クリスマスイブのチャリティーイベントも由乃の容体次第では嘉菜は断るつもりだった。
大きく回復した由乃に背中を押されて、嘉菜は初めて勇太ファミリーの活動に参加したという訳だ。
『マカド』の次期当主として家や家族のために我慢をしてきた嘉菜。
勇太の嫁になるという大きな希望は叶えられる。
しかし調停から間がなかった11月18日の自分の誕生日祝いも断った。その後も他の嫁ズのように勇太から尽くされることを自重している。
やっぱり我慢の生活は継続中だった。
12月28日の今、色々と失念していた勇太は反省した。
11月の17日までは、調停等が完全解決したら12月19日の真子の誕生日に、嘉菜のプレゼントも一緒に買いに行こうと思っていた。
だけど梓、由乃が続けて倒れ、それを2人に言うことさえ忘れていた。
勇太はご飯を食べながら、それを謝った。
嘉菜は笑った。
「いえ、問題ありません。真子ちゃんの誕生日の時点では由乃の容体も大丈夫とは言えませんでした。だから、誘ってもらってもお断りしていたと思います」
「それでも、忘れちゃいけないことだった。ごめんね」
「真子ちゃんが自分の誕生日に私も一緒にって気遣ってくれましたが、断りましたしね」
「・・そうなんだ。我慢させたのか・・」
「違います。ふふふ」
嘉菜は右手を伸ばした。中指には勇太にもらった恋人リングがはまっている。
「姉妹に色んなものをあげてきたり、譲ったりしたけど・・」
嘉菜の笑顔から嘘偽りを感じない。
「これだけは私のもの。欲しいと言われても断れます。だから今は、すごく満たされてます」
嘉菜は9月3日に勇太の歌を聞いてファンになった。
ただ知り合いになれたらと思っていたら、紆余曲折の末に吉田真子と一緒に勇太と結婚することになった。
「情熱的な恋愛はできないけど、勇太さん、見捨てないで下さいね」
話しながらご飯を食べ終わって、3人で外を歩いている。
再び図書館に行く2人を送っていっている。
図書館の前に来たとき、真子が先を歩き出した。
「嘉菜さん勇太君、私、嘉菜さんの車から荷物取ってくるね」
嘉菜は自分の車で来るから、真子が一緒のとき昼食前に車に荷物を置いている。返事も聞かず真子が走って行った。
たまたま図書館の前には誰もいない。
雪がちらついてきた。
「嘉菜さん、寒くない?」
「かなり・・」
けれど嘉菜は真っ直ぐ立っている。彼女の生き方そのもの。
寒いけど我慢する嘉菜。
そんな嘉菜に勇太があげられるものはひとつだけ。
勇太は嘉菜を引き寄せた。そして抱き締めた。
「あっ・・」
「嫌だった?」
「・・いえ、ぜんぜん」
「それなら、これからは俺に我が儘言いなよ」
「・・あの」
「俺がバカで、また誕生祝いを忘れてたら、怒っていい」
「そ、そんなつもりは」
「由乃さんのことで気持ちも不安定だったでしょ」
「・・そ、それは、こちらの問題で」
「委員長も支えになってくれるだろうけど、俺らにも甘えてよ」
「けれど、私は間門の家があり、その次期当主としての立場があります。だからファミリーの中での役割は・・」
「役割なんて気にしなくていいよ」
「え?」
「カオルは柔道が何より優先。それに俺らが合わせる。嘉菜さんも、自分のスタンスでみんなと接すればいいんだよ」
「それでは妻のひとりとして・・」
「嘉菜さんは自分のペースでいい。仕事優先でもいい。会いたいと思ったら連絡ちょうだい。俺達が会いに行く」
えっ、と嘉菜は勇太を見上げた。優しい目で見てくれる。
緊張するのは変わらないけど、知らない安らぎが心の中に沸いてきた。勇太の声が心地よく響く。
知らない間に張り詰めていた。
由乃の病気治療が困難かも知れないと思ったときも、大泣きする姉妹を慰めて気持ちを出せなかった。
その前には1度、家のために勇太を諦めようとした。
我慢した。我慢に慣れていた。
いや、慣れている自分を演じていた。
今、勇太の腕の中。取り繕うにも逃げ場がない。
逃げ場がないから素直になるしかない。
なんというか、勇太は嘉菜の肩から力が抜けるのを感じた。
「私・・」
「うん」
「冷静なふりしてたけど、由乃が死ぬんじゃないかって怖かった」
「うん」
「みんなに祈ろうって言ったけど、本当は叫びたかった」
平坦に聞こえる声。辛いときも作ってきた喋り方。
この人は不器用だと勇太は思った。
「子供の頃は、もっとお父さんの膝に乗りたかった・・」
「うん」
「もう、笑い方も分からないときがある・・」
「無理に笑わなくてもいいよ」
「ごめんなさい。せっかく気を使ってくれるのに、こんか可愛げがない態度で・・」
「いいんだ・・。俺達が嘉菜さんが笑えるように頑張るからさ」
嘉菜が勇太の胸に顔をうずめている。
張り詰めたものは、少しずつ溶かしていくしかない。
いつの間にか、通りかかる人も出てきた。
勇太は嘉菜との仲をアピールしようとか余計なことを考えていたことを忘れた。
上を向いた嘉菜に、勇太は唇を合わせた。
しばらく、そのままでいた。
雪が静かに降っている。
41
お気に入りに追加
260
あなたにおすすめの小説
男女比1/100の世界で《悪男》は大海を知る
イコ
ファンタジー
男女貞操逆転世界を舞台にして。
《悪男》としてのレッテルを貼られたマクシム・ブラックウッド。
彼は己が運命を嘆きながら、処刑されてしまう。
だが、彼が次に目覚めた時。
そこは十三歳の自分だった。
処刑されたことで、自分の行いを悔い改めて、人生をやり直す。
これは、本物の《悪男》として生きる決意をして女性が多い世界で生きる男の話である。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
けだものだもの~虎になった男の異世界酔夢譚~
ちょろぎ
ファンタジー
神の悪戯か悪魔の慈悲か――
アラフォー×1社畜のサラリーマン、何故か虎男として異世界に転移?する。
何の説明も助けもないまま、手探りで人里へ向かえば、言葉は通じず石を投げられ騎兵にまで追われる有様。
試行錯誤と幾ばくかの幸運の末になんとか人里に迎えられた虎男が、無駄に高い身体能力と、現代日本の無駄知識で、他人を巻き込んだり巻き込まれたりしながら、地盤を作って異世界で生きていく、日常描写多めのそんな物語。
第13章が終了しました。
申し訳ありませんが、第14話を区切りに長期(予定数か月)の休載に入ります。
再開の暁にはまたよろしくお願いいたします。
この作品は小説家になろうさんでも掲載しています。
同名のコミック、HP、曲がありますが、それらとは一切関係はありません。
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
策が咲く〜死刑囚の王女と騎士の生存戦略〜
鋸鎚のこ
ファンタジー
亡国の王女シロンは、死刑囚鉱山へと送り込まれるが、そこで出会ったのは隣国の英雄騎士デュフェルだった。二人は運命的な出会いを果たし、力を合わせて大胆な脱獄劇を成功させる。
だが、自由を手に入れたその先に待っていたのは、策略渦巻く戦場と王宮の陰謀。「生き抜くためなら手段を選ばない」智略の天才・シロンと、「一騎当千の強さで戦局を変える」勇猛な武将・デュフェル。異なる資質を持つ二人が協力し、国家の未来を左右する大逆転を仕掛ける。
これは、互いに背中を預けながら、戦乱の世を生き抜く王女と騎士の生存戦略譚である。
※この作品はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※本編完結・番外編を不定期投稿のため、完結とさせていただきます。
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた
楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。
この作品はハーメルン様でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる