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第四十二話 仇討 その十

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「大体、覚えました。方向は判るんですが階段とか坂にぶつかってみないと……」

「ノイ様は、見覚えあります――」

「ないない。あまりにも昔すぎる。今まで通った道もぜんぜん覚えていない」
 ありえないとばかりに首をふった。

「そうですか、道中、何か思い出すかもしれません」

 二人は赤い小鬼がつけた道をたどり始めた。

 道は平坦で赤い子鬼たちのつけた足跡を追うのは容易いものだった。


 しばらくすると単調なことが苦手なノイは愚痴を言いはじめた。

「なあまだか? あと、どの位歩けば良いんだ?」

「なんとも言えませんね。途中でノイ様が喜ぶ相手が現れてくれるといいですね」
 ノイをなだめながらの道中になることを覚悟していた公一は機嫌を損ねないように言葉を選んだ。

 いきなりノイは叫び声をあげた

「公一、良いこと思いついたぞ!」
「――敵が多く来る方に行けば良いんじゃないか。わざわざ時間をかけることはないぞ」

「ええっ! まさか、ここで大暴れして敵を呼び寄せるつもりじゃないですよね?」

 ノイは舌打ちをした。
「私だって暴れたいよ。力さえ出せれば、今すぐにでも天井をぶち破って空を見せてやるよ」

「……」
「だが今は無理だ…… この忌々しい呪いのせいだ」

「でもノイ様は呪いが消えたとしても、ここを吹き飛ばさないでしょう?」

「当たり前だ。他にも生きている奴がいるんだし、私は作る方だからな」

「まあ言い換えれば壊すのではない。作り変える方だな」

 力のない生き物にとって天変地異なのだから、巻き込まれたものには災難には代わりにはない。
 なんの気負いもなくサラリと言ってのけたノイに、公一は一瞬だけ目をやった。

「仕事ですものね……」 

「ああ、大事な仕事だ」
  屈託のない笑顔と返事だった。

「ここを吹き飛ばす代わりに、毛皮を担いだ小鬼を見つけましょう」

「おお、そうだな。一番の悪がいる場所の見当がつくな」

「しっ、何か来ます。小鬼みたいですよ。やり過ごしましょう」

 通路の奥からやって来たのは赤い小鬼で二人には見向きもしない。

「こいつら何も考えてないんだな」

「命令されたことしか出来ないみたいですね。恐れを知らないから一斉に攻めかかられると厄介ですよ」

「小鬼ごときを心配してどうする。お前は自分が前とは違うことを意識しろ。考えなしだと、この鬼と変わらんぞ」

「とっ、とにかく小鬼が来た方に道を取りましょう」

「ああ、わかったよ。上手く誤魔化したつもりでも。絶対に忘れるなよ」

 公一は修行中に聞いた師匠の言葉を思い出して思わず苦笑いしてしまった。

 心がけ次第で全ては変わると。耳にタコができるぐらいに聞かされた言葉を、違う世界にまで来て聞かされるとは夢にも思わなかったからだ。

「なにが可笑しい?」

「すいません。しっかりしますから、お小言はこの辺で勘弁を……」
 
「ホントだろうな。ダメだったら、お仕置きだぞ」噴出してしまった

 ノイは公一を一瞬、睨めつけたが吹き出てしまった。
「さてと冗談はここまでにして、上手く行き先がわかると良いな」

「そうですね。今のところは、まず第一に大龍の眠る場所に行く。そして毛皮を集めている奴を探すですね。

「公一、少し違うぞ。探し出してぶん殴るだ」
 ノイは笑って歩き出した。

 道は曲がりくねっていたり通路から分かれる横道も多かったが道に迷うことはなかった。
 二人は赤い小鬼達がつけた道を急いだ。途中で何匹かの小鬼とすれ違うが先を進む小鬼に追い付くことはなかった。

「いざ探すとなかなか居ないものだな」

「もしかして俺のせいかもしれません。毛皮集めしてた奴らを随分と巻き添えにしました」

「お前、最初に言えよ。真剣に探したじゃないか」

「すいません。力の加減がわからなかたので。助っ人が余りに強かったんです」

「まあ、いいか。ここに巣くっている連中には良い挨拶になったかもな」

「どんな挨拶ですか?」

「奴らが昔のままなら疑り深いはずさ。きっと手下が死んだ理由を調べているさ」

「少しは驚きますかね?」

「そりゃ驚くだろうよ。死んだ者を消す力と力自慢を皮一枚にする奴がいるんだぞ」

 ノイはこれから起こる相手側の混乱を期待して目を光らせた。
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