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6.ニホンジンの価値
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メーオの話は続く。
「戦後ティーノーンの神々から神託を賜った者が世界中で沢山現れたんだ。信仰している宗教は違うのに、その言葉はほぼ同じだった。『異世界転移者はこれからもやってくる。必ず保護するように。その能力は計り知れない富と恩恵をもたらす』と……。現在、各国は積極的に転移者を受け入れている。戦後の二年間で約百人がティーノーンに転移してきたと言われている。神殿で把握している分だけでも、実際はもっと多いかもしれない。大陸で二番目に大きい国であるバンジュートには現在三十三人いる。そのうち、十六人はナ・シングワンチャーの荘園に住んでいるよ。どういうわけか時代や人種もバラバラなんだ。ニホンジンは大陸で一番大きい皇国にいたんじゃないかな」
「その皇国の日本人は奴隷なの?」
「いや。魔力は多いが下級の魔法兵士程しか魔法が使えないので、結界魔法の魔石の魔力補給係だそうだよ」
「ナ・シングワンチャーの転移者は何してるの?」
葉月は、転移者や転移後の処遇など疑問が次々と湧いてきた。遠慮なく聞いてみることにした。自分の今後がかかっているのだから、どうせ奴隷なのだし、これ以下にはならないだろうと考えた。
「九人は魔力補給係として、主に転移者を呼ぶ魔力を魔石に溜めてもらっている。新たに転移者を呼ぶには大量の魔力が必要だからね。あと七人はあんまり魔力量も多くなかったから、神殿の診療所で治療に当たってもらっている。それでも一般の人族より魔力は随分多いんだよ。ターオルングのニホンジン程の魔力量の転移者はまだいないね。だからハヅキ、君には期待しているよ」
いつの間にか魔力判定は終わり、印刷も終わっていたようだ。次に葉月は医師の健康診断を受ける。これは更衣室の様な所に入り、スキャンされるだけなので簡単だった。葉月は、どんなことが判るのだろうと考えた。病気までわかるのだったら日本の文明より高度だと感じた。
葉月が更衣室から出ると、メーオと医師が難しい顔をして葉月の結果が書かれているだろう羊皮紙を見ていた。葉月の魔力判定と健康診断の結果が予想と違ったのだろうか。
「まあ、バーリック様のご判断に任せよう」
「私達では判断しかねますからね」
葉月は、何かまずい事になったのかと考えた。自分の魔力が膨大過ぎて魔王になるとか、魔力が多すぎて幽閉されて一生魔石に魔力を注入する係になるのかもしれない。あ、もしかしてこの荘園の発展のためにと無理やり領主さまの妻にされてしまうかも……。正妻にいじめれれたら嫌だな……。
「ハヅキ、何ボーっとしてるの? バーリック様は短気だから、殺されたくなかったらちゃんと大人しく言うことを聞くんだよ」
何か恐ろしい事を聞いたが考えたくなくて、言われるように動く。
メーオと医師に連れられ、長い廊下を移動すると重厚な扉の前に着いた。扉の前でもう一度メーオに余計な事をしない様くぎを刺されて入室する。周りを見渡すと天井の高い豪華な部屋だ。目の前の一段高くなった所に、いかにも高価そうな金色の装飾過多な椅子に誰かが座っている。いわゆる謁見の間なのだろうか。葉月の周りには森で出会った兵士の他にも文官風の様々な獣人が揃って整列している。
豪華な椅子に座っているのは獅子獣人だろう。二十代前半位だろうか。顔周りには豊かな濃い金髪が波打っていて、目付きの悪い三白眼は葉月を舐めるように見ている。ゴールドのピッタリした詰め襟のシャツに濃い茶色のゆったりした膝丈のパンツを着ていて、長い尻尾を不機嫌そうに床に叩きつけている。きっとあれが領主のバーリック・シングワンチャー様だろう。
「バーリック様、ニホンジンのハヅキを連れてまいりました。こちらが鑑定結果と健康診断書でございます」
メーオからバーリックに巻物が手渡される。バーリックは声に出して読み始める。
「ふむ。名前は、ハヅキ・マツオ。人族でチキュウ産二ホン製造」
バーリックが葉月を頭からつま先までねっとりと眺めながら巻物を広げていく。
「さて……なにっ。四十三歳だと。おいおい。もう少し若くみえるが、もう婆さんじゃないか! おい! 医官! 我が国の女は大体何歳位まで生きるのだ」
急いで先ほどのサモエドの医師が返答する。
「お答えいたします。我が国の平均寿命は男が四十歳。女は三十八歳となっております。出産は命がけですからな。ただ、終戦後はジワジワと寿命を延ばしております。男女ともに平均寿命は四十歳位と思っていただければ良いかと」
「そうか。それではこの女は棺桶に片足どころか二本目も足を上げて入れてる年ではないか。これではニホンジンの正確な記録が出ないのではないか?」
バーリックは明らかに落胆した声で巻物を読み進める。
「そして未婚で清い乙女だと。巫女か? 年を取っていると言っても魔力量に期待できるな。死ぬまで存分に能力を発揮してもらおう」
とたんに、ニヤリと悪い笑みを浮かべ再度葉月を見遣る。そしてまた巻物に目を戻す。
「むっ。魔力極小だと? 生活魔法のみ使用可。日本神話支局・息長足姫より制限あり……だと? 全く役立たずではないか! 今すぐ放逐せよ!」
獣人の国で拾われたと思ったら奴隷になって、その後は放逐? ところで放逐って何だろう。いらないって言われたことはわかるんだけど、この後私はどうなるんだろう。
葉月は不安気に周りを見渡す事しか出来ない。領主であるバーリックはもうこれ以上言うことは無いと、さっさと立ち去って行った。残った文官やメーオ達は困り顔でそのまま話し合いを始めた。五分程で案外簡単に葉月の今後の行き先が決まったようだ。
「ハヅキ。お前は奴隷から解放される」
先ほどのサモエドから告げられる。もうバーリック様はいないから、聞いても良いよね?
「私は自由って事ですか?」
メーオは意地悪そうに言った。
「ハヅキは全ての役割から解放されて自由になったんだよ」
葉月はその説明では全く分からなかったが、文官に急かされ退室した。廊下に待機していた女中に連れられ再度風呂場に連れて行かれる。そこでギラギラしたアクセサリーは外された。
「似合ってたのにね」
メーオがニヤニヤした笑みを向けた後、歌う様に小さく呟くと隷属の首輪が外れた。ハヅキは何回も首の周りを撫でて確認する。
「はー、良かった! 外してくれてありがとう」
笑顔で礼を言う葉月を、そこにいたメーオや監視役の兵士が可哀想な人を見る目で見ていた。葉月は、隷属の首輪を付けた本人に礼を言うなんてお人よしにも程があると反省した。普通の人みたいにしなければ、異世界に来てもやっぱり自分は異物のままだと感じた。せっかく人生をリセットして「変な人」から「普通の人」になるために異世界転移したのだからと考えた。
「戦後ティーノーンの神々から神託を賜った者が世界中で沢山現れたんだ。信仰している宗教は違うのに、その言葉はほぼ同じだった。『異世界転移者はこれからもやってくる。必ず保護するように。その能力は計り知れない富と恩恵をもたらす』と……。現在、各国は積極的に転移者を受け入れている。戦後の二年間で約百人がティーノーンに転移してきたと言われている。神殿で把握している分だけでも、実際はもっと多いかもしれない。大陸で二番目に大きい国であるバンジュートには現在三十三人いる。そのうち、十六人はナ・シングワンチャーの荘園に住んでいるよ。どういうわけか時代や人種もバラバラなんだ。ニホンジンは大陸で一番大きい皇国にいたんじゃないかな」
「その皇国の日本人は奴隷なの?」
「いや。魔力は多いが下級の魔法兵士程しか魔法が使えないので、結界魔法の魔石の魔力補給係だそうだよ」
「ナ・シングワンチャーの転移者は何してるの?」
葉月は、転移者や転移後の処遇など疑問が次々と湧いてきた。遠慮なく聞いてみることにした。自分の今後がかかっているのだから、どうせ奴隷なのだし、これ以下にはならないだろうと考えた。
「九人は魔力補給係として、主に転移者を呼ぶ魔力を魔石に溜めてもらっている。新たに転移者を呼ぶには大量の魔力が必要だからね。あと七人はあんまり魔力量も多くなかったから、神殿の診療所で治療に当たってもらっている。それでも一般の人族より魔力は随分多いんだよ。ターオルングのニホンジン程の魔力量の転移者はまだいないね。だからハヅキ、君には期待しているよ」
いつの間にか魔力判定は終わり、印刷も終わっていたようだ。次に葉月は医師の健康診断を受ける。これは更衣室の様な所に入り、スキャンされるだけなので簡単だった。葉月は、どんなことが判るのだろうと考えた。病気までわかるのだったら日本の文明より高度だと感じた。
葉月が更衣室から出ると、メーオと医師が難しい顔をして葉月の結果が書かれているだろう羊皮紙を見ていた。葉月の魔力判定と健康診断の結果が予想と違ったのだろうか。
「まあ、バーリック様のご判断に任せよう」
「私達では判断しかねますからね」
葉月は、何かまずい事になったのかと考えた。自分の魔力が膨大過ぎて魔王になるとか、魔力が多すぎて幽閉されて一生魔石に魔力を注入する係になるのかもしれない。あ、もしかしてこの荘園の発展のためにと無理やり領主さまの妻にされてしまうかも……。正妻にいじめれれたら嫌だな……。
「ハヅキ、何ボーっとしてるの? バーリック様は短気だから、殺されたくなかったらちゃんと大人しく言うことを聞くんだよ」
何か恐ろしい事を聞いたが考えたくなくて、言われるように動く。
メーオと医師に連れられ、長い廊下を移動すると重厚な扉の前に着いた。扉の前でもう一度メーオに余計な事をしない様くぎを刺されて入室する。周りを見渡すと天井の高い豪華な部屋だ。目の前の一段高くなった所に、いかにも高価そうな金色の装飾過多な椅子に誰かが座っている。いわゆる謁見の間なのだろうか。葉月の周りには森で出会った兵士の他にも文官風の様々な獣人が揃って整列している。
豪華な椅子に座っているのは獅子獣人だろう。二十代前半位だろうか。顔周りには豊かな濃い金髪が波打っていて、目付きの悪い三白眼は葉月を舐めるように見ている。ゴールドのピッタリした詰め襟のシャツに濃い茶色のゆったりした膝丈のパンツを着ていて、長い尻尾を不機嫌そうに床に叩きつけている。きっとあれが領主のバーリック・シングワンチャー様だろう。
「バーリック様、ニホンジンのハヅキを連れてまいりました。こちらが鑑定結果と健康診断書でございます」
メーオからバーリックに巻物が手渡される。バーリックは声に出して読み始める。
「ふむ。名前は、ハヅキ・マツオ。人族でチキュウ産二ホン製造」
バーリックが葉月を頭からつま先までねっとりと眺めながら巻物を広げていく。
「さて……なにっ。四十三歳だと。おいおい。もう少し若くみえるが、もう婆さんじゃないか! おい! 医官! 我が国の女は大体何歳位まで生きるのだ」
急いで先ほどのサモエドの医師が返答する。
「お答えいたします。我が国の平均寿命は男が四十歳。女は三十八歳となっております。出産は命がけですからな。ただ、終戦後はジワジワと寿命を延ばしております。男女ともに平均寿命は四十歳位と思っていただければ良いかと」
「そうか。それではこの女は棺桶に片足どころか二本目も足を上げて入れてる年ではないか。これではニホンジンの正確な記録が出ないのではないか?」
バーリックは明らかに落胆した声で巻物を読み進める。
「そして未婚で清い乙女だと。巫女か? 年を取っていると言っても魔力量に期待できるな。死ぬまで存分に能力を発揮してもらおう」
とたんに、ニヤリと悪い笑みを浮かべ再度葉月を見遣る。そしてまた巻物に目を戻す。
「むっ。魔力極小だと? 生活魔法のみ使用可。日本神話支局・息長足姫より制限あり……だと? 全く役立たずではないか! 今すぐ放逐せよ!」
獣人の国で拾われたと思ったら奴隷になって、その後は放逐? ところで放逐って何だろう。いらないって言われたことはわかるんだけど、この後私はどうなるんだろう。
葉月は不安気に周りを見渡す事しか出来ない。領主であるバーリックはもうこれ以上言うことは無いと、さっさと立ち去って行った。残った文官やメーオ達は困り顔でそのまま話し合いを始めた。五分程で案外簡単に葉月の今後の行き先が決まったようだ。
「ハヅキ。お前は奴隷から解放される」
先ほどのサモエドから告げられる。もうバーリック様はいないから、聞いても良いよね?
「私は自由って事ですか?」
メーオは意地悪そうに言った。
「ハヅキは全ての役割から解放されて自由になったんだよ」
葉月はその説明では全く分からなかったが、文官に急かされ退室した。廊下に待機していた女中に連れられ再度風呂場に連れて行かれる。そこでギラギラしたアクセサリーは外された。
「似合ってたのにね」
メーオがニヤニヤした笑みを向けた後、歌う様に小さく呟くと隷属の首輪が外れた。ハヅキは何回も首の周りを撫でて確認する。
「はー、良かった! 外してくれてありがとう」
笑顔で礼を言う葉月を、そこにいたメーオや監視役の兵士が可哀想な人を見る目で見ていた。葉月は、隷属の首輪を付けた本人に礼を言うなんてお人よしにも程があると反省した。普通の人みたいにしなければ、異世界に来てもやっぱり自分は異物のままだと感じた。せっかく人生をリセットして「変な人」から「普通の人」になるために異世界転移したのだからと考えた。
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