隣の席の、あなた

双子のたまご

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第二章

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彼女と会わなくなって何度目かの冬が終わろうとしていた。

僕の生活は特に変わらない。
彼女と会えなくなった。
ただ、それだけ。

でも僕はあの時の、恋もどきの気持ちをずっと握ったままだった。
これは恋であると気づいたのは、龍海が近所の薬剤師のことが気になる、と言い出したときだった。





『いや~私の足、千秋楽までよく耐えた~
もうストックしてた湿布もないよ。』

『市販のやつ?
僕が買っておくよ。薬局にあるでしょ。』

琥珀を労っていると、龍海が

『…そういえば、昼間にうちの近くの薬局の薬剤師に会った。カフェで。』

そう言った。
僕も琥珀も、一瞬何のことかと体が止まる。

『…そうなんだ?仲良しなの?』

『いや』

『顔見知り?』

『一年前に一度会っただけだ。』

その日は珍しく、普段飲まない龍海もそこそこ飲んでいた。
突拍子もなくよく分からない話をするなんて、酒で気が緩んでいるのか。

『一年前に一回?
たっくん、よくその人が近所の薬剤師さんって分かったね。
なに、めっちゃ美人なの?』

『綺麗な人だとは思うが…』

『えっ…』

琥珀が驚いていた。
無理もない。
僕も驚いている。
仕事人間で、家族以外に興味がない弟が、今日で会うのがニ度目の女性のことを綺麗だと言う。

『…龍海の好みの顔だったんだ?』

『いや…瞳が』

龍海は、ぼーっとグラスを眺めながら

『彼女は恐らく妹と一緒にいたんだが…
彼女の妹を見る目が、綺麗だった。
心底愛おしそうにしていて、なんというか…
…正面から、いつかあの目を見てみたい。』




『それはお前、恋じゃないの。』




無意識に、言葉が口からこぼれた。
その瞬間、奏ちゃんのことを思い出した。

彼女も、いつもキラキラとした目をしていた。
夢を追う人間はこんなにも綺麗なんだなと思っていた。
いつか、僕自身を見て欲しいと…


…恋じゃ、ないの?


龍海に投げ掛けた言葉が、自分へ帰ってくる。

二人と会話を続ける。
でも頭のなかは奏ちゃんのことでいっぱいだった。








握りしめ続けていた気持ちが恋だと気づいてから、それは日に日に大きく重くなっていった。
でも彼女に会わなくなってもう数年。
あの時恋心に気づいていれば、と、思わない日はない。
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