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ファブリティッシュ王国 後編
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リタイア国へ向かう前日。
ファブリティッシュ屈指の商家主催パーティーにて。
「ロベロニア様!」
突如、真剣な眼差しになった透子が走り近付いてくる。その目に射貫かれ、戸惑い、エドガーは動けない。
銃を構えたときの、あの、目だ。
足から力が抜け、床に座り込んでしまう。エドガーを囲んでいた者たちが悲鳴を上げる。急ぎ透子はエドガーの側に膝をつくと、エドガーの顎を透子は捉えた。クイ、とエドガーの顔を少し上向かせると、透子の顔が近付いてくる。エドガーの顔は紅潮し、信じられないほどの速さで心臓が脈打つ。唇が触れてしまいそうなほど近付かれ、エドガーはあまりの恥ずかしさから、ギュッと目を瞑った。
しかし、期待していた感触は訪れない。薄く目を開けると、困ったような怒ったような安心したような、透子はそんな複雑な表情を浮かべていた。
「ロベロニア様、如何されましたか。いつもならきちんとグラスやカトラリーに口をつける前に、銀糸のハンカチで拭いていらっしゃるでしょう」
それをしなかったから、毒を警戒して急いで来てくれたのだろう。顔を近付けたのは、毒のニオイを確かめるため。
「あ、ああ、そう、だった。ごめん。考え事を、していた」
周囲と談笑しつつ、折角透子と同じ空間にいるのだ、何とか二人きりになれないかと思案していた。
「そうですか。失礼しますね」
透子はエドガーの顎に添えたまま、その親指でエドガーの唇をなぞる。その行為に、エドガーは全身が歓喜に震え、首まで赤くなったのがわかった。声にならない声が、吐息と共に零れる。
透子は唇をなぞると、エドガーから手を離す。あ、と、エドガーは名残惜しい声を漏らすが、透子の次の行為に息が止まった。
舐めたのだ。
透子は、エドガーの唇をなぞった指を、躊躇いなく舐めた。
「毒の味はしませんが、すぐに医師が来ます」
座り込んだエドガーが、毒の影響からだと思っている透子。部下に医師を呼ぶようインカムで指示をしていた。医師が来るまでに何の毒か判断しておこうと思ったのだが。
「ロベロニア様、すぐに医者が来ますから、それまでの辛抱です。その赤さも尋常ではありません」
「いい、いい、違う、トーコ、これはそういうのではない、違うからっ」
まさに尋常ではないレベルで真っ赤になったエドガーを、自分の行為が原因とは知らず毒のせいだと判断した透子に、エドガーは医師が来るまでずっと体中を観察されまくった。
「何、アレ。ずるい。ずるいよぅ」
マリノが嫉妬の炎というか、業火を宿した目をエドガーが出て行った扉に向ける。透子がエドガーの名を呼んで動いたとき、他の三人も急ぎエドガーの元へ駆け寄っていた。そうして見てしまった光景に、三人は悔しさに唇を噛んだ。
「ワザとではなかったからこその、と言うことですよね」
ノーマの言う通り、ワザとであれば、透子は瞬時に見破り、放っておいたはずだ。そんな自分の命を粗末に扱う者を、透子は護衛対象として見ない。それで何かあったとしても、透子が状況を把握している限り、護衛たちの責任にはならない。
「なんという運の良さだ、ロベロニアめ」
ジーンが苦々しく舌打ちをした。
こうしてすべての飲食物と食器類が検められ、パーティーが一時中断してしまったことは、仕方がないことと言えた。
こうして騒がせつつ、ファブリティッシュ王国での最後の夜は更けていく。
*つづく*
ファブリティッシュ屈指の商家主催パーティーにて。
「ロベロニア様!」
突如、真剣な眼差しになった透子が走り近付いてくる。その目に射貫かれ、戸惑い、エドガーは動けない。
銃を構えたときの、あの、目だ。
足から力が抜け、床に座り込んでしまう。エドガーを囲んでいた者たちが悲鳴を上げる。急ぎ透子はエドガーの側に膝をつくと、エドガーの顎を透子は捉えた。クイ、とエドガーの顔を少し上向かせると、透子の顔が近付いてくる。エドガーの顔は紅潮し、信じられないほどの速さで心臓が脈打つ。唇が触れてしまいそうなほど近付かれ、エドガーはあまりの恥ずかしさから、ギュッと目を瞑った。
しかし、期待していた感触は訪れない。薄く目を開けると、困ったような怒ったような安心したような、透子はそんな複雑な表情を浮かべていた。
「ロベロニア様、如何されましたか。いつもならきちんとグラスやカトラリーに口をつける前に、銀糸のハンカチで拭いていらっしゃるでしょう」
それをしなかったから、毒を警戒して急いで来てくれたのだろう。顔を近付けたのは、毒のニオイを確かめるため。
「あ、ああ、そう、だった。ごめん。考え事を、していた」
周囲と談笑しつつ、折角透子と同じ空間にいるのだ、何とか二人きりになれないかと思案していた。
「そうですか。失礼しますね」
透子はエドガーの顎に添えたまま、その親指でエドガーの唇をなぞる。その行為に、エドガーは全身が歓喜に震え、首まで赤くなったのがわかった。声にならない声が、吐息と共に零れる。
透子は唇をなぞると、エドガーから手を離す。あ、と、エドガーは名残惜しい声を漏らすが、透子の次の行為に息が止まった。
舐めたのだ。
透子は、エドガーの唇をなぞった指を、躊躇いなく舐めた。
「毒の味はしませんが、すぐに医師が来ます」
座り込んだエドガーが、毒の影響からだと思っている透子。部下に医師を呼ぶようインカムで指示をしていた。医師が来るまでに何の毒か判断しておこうと思ったのだが。
「ロベロニア様、すぐに医者が来ますから、それまでの辛抱です。その赤さも尋常ではありません」
「いい、いい、違う、トーコ、これはそういうのではない、違うからっ」
まさに尋常ではないレベルで真っ赤になったエドガーを、自分の行為が原因とは知らず毒のせいだと判断した透子に、エドガーは医師が来るまでずっと体中を観察されまくった。
「何、アレ。ずるい。ずるいよぅ」
マリノが嫉妬の炎というか、業火を宿した目をエドガーが出て行った扉に向ける。透子がエドガーの名を呼んで動いたとき、他の三人も急ぎエドガーの元へ駆け寄っていた。そうして見てしまった光景に、三人は悔しさに唇を噛んだ。
「ワザとではなかったからこその、と言うことですよね」
ノーマの言う通り、ワザとであれば、透子は瞬時に見破り、放っておいたはずだ。そんな自分の命を粗末に扱う者を、透子は護衛対象として見ない。それで何かあったとしても、透子が状況を把握している限り、護衛たちの責任にはならない。
「なんという運の良さだ、ロベロニアめ」
ジーンが苦々しく舌打ちをした。
こうしてすべての飲食物と食器類が検められ、パーティーが一時中断してしまったことは、仕方がないことと言えた。
こうして騒がせつつ、ファブリティッシュ王国での最後の夜は更けていく。
*つづく*
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