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ファブリティッシュ王国 前編

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 今回、空の護衛をして到着した場所は、ファブリティッシュ王国。次に向かうリタイア国への空の護衛をするのは一週間後。それまで透子はキメラ討伐に向かう。体を休める暇などない。

 「わかってはいたけどね。これでは口説く暇もないね」

 エドガーの言葉に、他の三人も神妙に頷いた。

 「専属に出来ないならって、せめてもの抵抗で、自分の国に向かうフライトをトーコの護衛にしてもらってはいるけどさあ」

 ブスッと頬を膨らませ、面白くなさそうにマリノは言った。護衛指名は別料金がかかる。特S階級の者なら尚更で、スケジュール調整だって一苦労故、指名料はハンパない。どうしてもスケジュール調整がつかない場合は断られることだってある。それほど、特S階級は忙しい。

 ファブリティッシュ王国は、王族による君主制の国。代々の国王から現国王に至るまで美しい庭園を好むことから、国の至る所で、それは見事な庭園を見ることが出来た。

 本日この四人が集まっているところは、国で一番美しいと言われる庭園が望める場所。一般開放されている王宮庭園のカフェテラスだ。一般開放されているとは言え、お値段は可愛くない。必然、セレブ御用達となってしまっている。

 「トーコと見たかったなあ」

 エドガーが庭園を見ながらそう呟くと、他の三人も頷く。

 「何が悲しくてこの面子メンツ

 マリノが溜め息と共にそう言うと、ノーマも溜め息をく。折角の美しい庭園に、天候にも恵まれているというのに、四人はお通夜のような面持ちだ。

 「ところでみんなはこれからどうするのかな」

 お気に入りの紅茶、アッサムを口にしながらエドガーがそう尋ねると、ノーマがスコーンにクロテッドクリームをつけながら言った。

 「そうですね。私はリタイア国に行くまで仕事です」

 ミュゲルの当主として、国外に出たついでにやれることはやっておく。透子に空き時間が出来たら、もちろん何を差し置いても優先するが。

 「私はトーコへのプレゼントを見つけながら観光をする」

 ジーンは豪快な面が多々あるが、意外と風景を好む。美しい庭園に美味しいお茶があると、たとえ不機嫌でも気分は上昇するくらいに。ファブリティッシュに来ると、よく庭園巡りをするのだ。王宮庭園は本当に美しい。だが、ジーンの特別は他にあった。透子に空き時間が出来たら、そこに連れて行って、一緒にその庭園を眺めたいと思っている。

 「私はトーコとお揃いの物買うよ。任務の邪魔にならない物探すんだ」

 マリノの“お揃い”の言葉に、三人は反応する。

 「お揃い。いいですね、お揃い」
 「結婚指輪か」
 「それはキミからではなく私からだから考えなくていいよ」

 ノーマ、ジーン、エドガーがバチバチと火花を散らす中、マリノは一人ウキウキとお揃いの品物を考えていた。



*~*~*~*~*



 ファブリティッシュ王国に着いて四日目の夜、透子が討伐から戻ると知らせを受けていた四人は、護衛の基地に来ていた。四大財閥が勢揃いしていることに、基地の者たちは恐縮していた。透子と四人の関係は知られている。公の場での熱烈な告白は、誰もが知るところだ。

 見た目も極上、財力も極上。そんな四人に想われる透子が戻って来た。

 「「「「トーコ!」」」」

 四人の姿に、透子は少し驚いた後、会釈をした。

 「みなさんお揃いでどうしましたか」
 「トーコに会いたくて来てしまった。疲れているのにごめんね」

 エドガーにそう言われ、告白されていたことを思い出した透子は苦笑した。

 「なるほど。みなさんとの時間が取れずに申し訳ありません」
 「違うよ、トーコ。私たちはトーコに負担をかけたくないの。今まで通りの生活をしてね。私たちが勝手にトーコに会いに来るから」
 「その時だけ、少し、時間をくれないか、トーコ」

 マリノとジーンがそう言うと、透子は頷いた。

 「そうですか。それでよろしいのでしたら」
 「もちろんです。嬉しいです、トーコ。ありがとう」

 ノーマに続き、三人も満面の笑みで礼を言った。




*つづく*
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