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透子の常識セレブの常識

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 特S階級の護衛は多忙だ。世界に十一人しかいないため、任務が途切れない。だが、休息は大事だ。二週間に一日は必ず休むことを義務付けられている。出来れば一週間に一回。火の本国ひのもとこくを出発する前日、透子は休息日だった。

 「ええ?何もないよ、トーコ」

 四人は透子が借りていた部屋を訪れた。部屋を見て、マリノが困惑の声を上げる。最低限の物しかなくて殺風景、どころではない。本当に何もないのだ。

 「明日発ちますから、何も不思議ではありませんよ」

 驚かれたことに不思議そうにする透子。

 「だって、それならトーコはどこで眠るの?」
 「ああ、それは問題ありません。キメラ討伐とうばつの時など野営です。ここは雨風しのげるので快適ですよ」

 二、三日眠らなくても何の問題もありませんし、と平然と答える透子に、四人は眉をひそめた。わかっているようでわかっていない、護衛たちの苦労。透子は、そんなことは苦労ではない、護衛として当然のことだ、とやはり不思議そうに答えた。

 「どうしよう。トーコの常識が常識じゃないよ」

 マリノがオロオロとこっそり発言する。三人もショックを受けたように頷く。

 「大変だとは思っていたが、過酷すぎではないか?」

 ジーンが首を捻る。

 「これではトーコが過労死してしまいます。はっ。法律、変えます?」
 「ミュゲルの当主もたまにはいいこと言うね」

 ノーマの言葉にエドガーが乗り、ジーンとマリノも悪い顔をした。すると。

 「おかしなことを言うのは止めてください」

 呆れた透子の顔があった。

 「ひとつ法を歪めると、別のところに矛盾が生じる。私たちはわかっていてこの職に就いているのです。環境や待遇を改善したいなら、自分たちで動きますよ」

 それこそ、世界を盾にして。

 四人は頬を染め、透子を見る。自分たちが惚れた相手の、伸びた背筋が眩しい。真っ直ぐな視線に射貫かれ、上手く息が出来ない。

 「ああ、トーコ。ホント、なんでそんなにカッコイイの」

 マリノが透子を抱き締める。額に、瞼に、鼻に、頬に、キスの雨を降らせる。

 「トーコ。明日行くところはファブリティッシュでしょ。私も一緒に行くからね」
 「私も行くぞ、トーコ」
 「もちろん私も行きますよ、トーコ」

 マリノ、ジーン、ノーマがそう言うと、エドガーは笑った。

 「我が国へ来ていただけるなら、相応のもてなしをいたしますよ。どうぞ心ゆくまで堪能してください」

 エドガーがわざとらしい口調でそう言うと、

 「もちろん、トーコに構う暇がないくらいもてなしてもらうよ」
 「ああ、是非満足いくまでもてなしてもらおう」
 「存分にもてなしていただきましょう。楽しみですねぇ」

 マリノ、ジーン、ノーマがからかうようにそう言った。




*つづく*
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