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日向透子との出会い ~マリノside~

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 トーコを紹介されたとき、困惑したのを覚えている。



 国家間の移動は、飛行機が主だ。だが、飛行機を飛ばすには大きな危険が伴う。シールド間を移動することより、遙かに難易度が上がる。空にもキメラや獰猛な野生生物がいる。それらを回避出来る腕を持つパイロットが少ないこともそうだが、空を護衛出来る者が圧倒的に少ない。そのため、どれだけ金を積んでも自家用のジェット機などは持つことが出来ない。大国への移動は月に二回の定期便を使うしかない。小国へは月に一回ないし二月に一回。そのため、帰りの便も考えてのスケジュール管理がなかなか大変だ。

 一度のフライトで必要な護衛は二十名。二人一組で戦闘機に乗り、キメラなどに遭遇すると、後ろに乗った者が戦闘機から出て討伐する。つまり、戦える者は最大十名。護衛として出動した戦闘機は、あくまでも飛行機を護るためのもので、余程の場合以外は戦闘をしない。

 「ねえ、パパ。あの子ももしかして護衛なの?」

 随分幼く見えた。東の国の方の人は、幼く見える顔立ちが多い。自分よりもずっと幼く思える、護衛の服を着た少女に目が行く。驚く私に、父はフッと笑った。

 「ああ、マリノは会うの初めてだったね。トーコ!」

 そう言って父は少女の名を呼んだ。少女は小走りで私たちのもとへ来た。

 「お呼びでしょうか、アスカーノ様」

 落ち着きのある声だ。幼く見えるが、自分と同い年くらいかもしれない。身長の低さも、余計に幼く感じさせた。

 「トーコ、私の娘だ。今後も付き合いがあるだろうから、よろしく頼む」

 父に紹介された私は、手を差し出す。

 「マリノ・アスカーノです。よろしくね、トーコ」

 トーコは手袋を外し、私の手を握った。

 「よろしくお願いします、アスカーノ令嬢様」

 幼い顔に似つかわしくない、小さな硬い手だった。



 「パパ、あの子が戦うの?」

 飛行機の座席から見えた光景に、父の袖を引く。後ろに乗り込むトーコを見て、信じられない思いでそう聞くと、父は頷いた。

 「トーコは戦闘機を操る腕も確かだが、空の装備を操る腕は誰よりも抜きん出ている」

 空中戦に使う装備は、陸と違って扱いがかなり難しい。海上戦で使用する背負うタイプのエアーも難しいと聞くが、空はシューズタイプのエアー。まず、バランスが保てないという。それを履いて縦横無尽に動けるのはもちろん、一番難しいのは静止だ。背負うタイプもシューズタイプも共通しているが、戦いながらエアーの空気を調整して動きに変化をつけるので、並大抵のことでは出来ない。そして、戦う場所も考えなくてはならない。倒したものの処理だ。陸であれば焼却したり埋めたり出来るし、海は海中に沈めてしまえば海底の生物が処理をしてくれる。空は、周囲に何もないことが確認出来た海を下に、とどめを刺さなくてはならない。ゴーグルに備わるGPSで、海上の船の動きまで把握しながらの戦闘になる。気にすることが多すぎるのだ。空の護衛育成が進まないことも、仕方がないと言えた。

 「凄いんだね」

 そんな会話をしている内に、戦闘機と共に離陸した。

 トーコが乗っている機体が偶然にも窓から見える位置にいて、何となく気になってチラチラと窓の外を見てしまう。そんな私を見て、父が苦笑していることを私は知らない。

 「あ」

 思わず声が出た。

 トーコの乗る戦闘機が、前方へ行ってしまった。窓に張り付いても、トーコの乗る戦闘機は見えない。五分ほどで、トーコと他二人の姿が、戦闘機に乗り込む姿が見えた。僅かな時間で何かを討伐したらしい。トーコたちの戦闘機が再び定位置に着く。戦闘装備に身を包むトーコの顔は見えないが、懸命にその横顔を見つめ続けていると、父から声がかかる。

 「トーコはおまえのひとつ下だ。それであれ程の腕。これから世界は、こぞって彼女を専属にしたがることだろう」

 彼女が誰かの専属に。

 父の言葉に、何か黒くて苦いものが、胸に広がったように感じた。




*つづく*
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