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神の采配としか思えない
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洗面所から悲鳴が聞こえた。
「る、ルゥ!ルゥ!」
バタバタと焦った様子で寝室に戻ってくるローセントに、ルゥルゥは微笑ましいものを見るように穏やかな顔で言った。
「どうなさったのですか、ロー様。そんなに慌てて可愛らしい」
「傷、傷がっ、傷が、なくなっているんだっ」
右手で傷のあった場所を押さえながらあわあわしている姿が尊い。
「ああ、そうでしょうねぇ。不思議ではありませんわ、ロー様」
のんびりと言うルゥルゥに、ローセントは混乱しつつ首を傾げる。
「え、え、どうして?」
ルゥルゥは説明をする。
「わたくしと魔力で繋がっているのです。魔力は、あらゆるものを万全に整えるのです」
「万、全?」
「はい。わたくしの見た目は若々しいでしょう。魔力が、一番いい状態を保たせるのです。ですからほら、傷にばかり気を取られて気付かなかったのですね。ロー様も若返っていらっしゃいます」
「え」
それはそれは、盛大なお祝いだった。
祝うことは叶わなかったはずの、三十六を迎えた誕生日。家人は、今までの鬱憤を晴らすかのような騒ぎようだった。
もしも呪いが解けたなら、とこっそり用意していたパーティーのためのあれやこれ。寝ずに用意をして、目覚めた主人が部屋から出て来たと同時に盛大なパーティーが開幕した。家人全員が泣きながら笑う、幸せな風景。心の底から喜んでもらえていることに、ローセントも泣いた。それは夜まで続き、尚も名残惜しそうに、解散の運びとなった。
その日の夜。寝室にて。
ローセントが、とても可愛らしいことを大真面目に言った。
「あの、ルゥが、か、可愛いって言ってくれた、目では、なくなってしまったんだけど、その」
顔の右側を、心許なさそうに手で摩っている姿に、ルゥルゥは頬を染めて目を逸らす。
尊いが過ぎるだろ。
暴走しそうな自分を何とか抑え込んで、ルゥルゥは答える。
「確かに残念ではありますが、それはきっかけなのだと申しましたでしょう。ロー様を知って、後戻り出来ないほどに惹かれたとお伝えしましたよ。ロー様がいれば、見た目などどうでも良いのです。それに、可愛さで言ったら、ロー様の性格が一番可愛いと思っておりますの」
「る、ルゥ」
「あらゆる手段でなかせてあげるから困らないし」
ポソリと呟かれた言葉は、ローセントには届かない。
照れて赤くなるローセントに、ルゥルゥは微笑む。
「ああ、言い忘れておりましたが、ロー様はわたくしが死ぬまでずっと一緒ですのよ」
「へ?」
突然の話に、ローセントは間の抜けた声を出してしまう。ルゥルゥはニッコリと話を続けた。
縛られる、という話の中で、ローセントの代わりになると伝えた。しかし、死に関しては、違う理が働く。ルゥルゥと繋がっている限り、ローセントが死ぬことはない。どんなに酷い状態になっても、ルゥルゥがそれを受け、ルゥルゥの高魔力が立ち所に傷を癒す。だがルゥルゥが死ぬと、繋がっていた魔力が切れ、ローセントも死ぬ。生命の維持が魔力によって成される体へと変貌しているためだ。そのため、死は、必ず一緒。それだけが、絶対。
「お嫌、ですか」
「違う。ルゥは、し、死んで、しまうのか?」
青ざめるローセントに、ルゥルゥは苦笑する。
「いつかは死ぬでしょう。あとどのくらい先かはわかりませんが」
「ああ、そうか。すぐにどうこうという話ではないんだね。良かった」
ホッとするローセントが可愛い。
「ルゥと、ずっと、一緒にいられるんだね。そうか。そうか」
安堵の息と共に紡がれる言葉に、ルゥルゥは微笑んだ。
「まだまだ死ぬ予定はありません。永い時を生きるのです。浮気は、許しましょう。ですが、本気は許しませんよ、ロー様」
ローセントの表情が抜け落ちた。
「ルゥ、取り消せ」
「え?」
先程までのほわほわとした空気が一変する。
「冗談でも、言うな」
「ロー様?どう」
ルゥルゥの言葉を遮るように、ローセントはルゥルゥの頬を両手で挟む。
「浮気も本気も赦すな。私はルゥ、おまえ以外欲しくない。おまえは違うのか。私以外欲しくないと言ったのは、偽りか」
ぐい、とローセントの顔が、鼻先が触れ合う程近付く。
「ほ、本気に決まっているではありませんか」
「ならば私だけを見ろ。よそ見をするな」
いつもの穏やかな目ではない。肉食獣のような、獣の目。
「この体、誰にも許すな」
左手が頬から滑り落ち、首筋を撫でる。
「ロー、様」
ルゥルゥの体が震えた。全身が、熱い。
「私が誰を見て、誰を愛しているか」
首筋からさらに下がり、柔らかな膨らみをなぞる。
ルゥルゥは、熱い吐息を漏らす。
「疑う余地もない程、その体に教え込んでやる」
噛みつくように、唇を塞がれた。
「ごめん、ごめんね、ルゥ。体、つらくない?本当にごめん。抑えが、きかなかった」
叱られた犬のように、しょげた耳とシッポの幻覚が見える。愛しのロー様は、危険な二面性を持っているらしい。
良き。
*最終話へつづく*
「る、ルゥ!ルゥ!」
バタバタと焦った様子で寝室に戻ってくるローセントに、ルゥルゥは微笑ましいものを見るように穏やかな顔で言った。
「どうなさったのですか、ロー様。そんなに慌てて可愛らしい」
「傷、傷がっ、傷が、なくなっているんだっ」
右手で傷のあった場所を押さえながらあわあわしている姿が尊い。
「ああ、そうでしょうねぇ。不思議ではありませんわ、ロー様」
のんびりと言うルゥルゥに、ローセントは混乱しつつ首を傾げる。
「え、え、どうして?」
ルゥルゥは説明をする。
「わたくしと魔力で繋がっているのです。魔力は、あらゆるものを万全に整えるのです」
「万、全?」
「はい。わたくしの見た目は若々しいでしょう。魔力が、一番いい状態を保たせるのです。ですからほら、傷にばかり気を取られて気付かなかったのですね。ロー様も若返っていらっしゃいます」
「え」
それはそれは、盛大なお祝いだった。
祝うことは叶わなかったはずの、三十六を迎えた誕生日。家人は、今までの鬱憤を晴らすかのような騒ぎようだった。
もしも呪いが解けたなら、とこっそり用意していたパーティーのためのあれやこれ。寝ずに用意をして、目覚めた主人が部屋から出て来たと同時に盛大なパーティーが開幕した。家人全員が泣きながら笑う、幸せな風景。心の底から喜んでもらえていることに、ローセントも泣いた。それは夜まで続き、尚も名残惜しそうに、解散の運びとなった。
その日の夜。寝室にて。
ローセントが、とても可愛らしいことを大真面目に言った。
「あの、ルゥが、か、可愛いって言ってくれた、目では、なくなってしまったんだけど、その」
顔の右側を、心許なさそうに手で摩っている姿に、ルゥルゥは頬を染めて目を逸らす。
尊いが過ぎるだろ。
暴走しそうな自分を何とか抑え込んで、ルゥルゥは答える。
「確かに残念ではありますが、それはきっかけなのだと申しましたでしょう。ロー様を知って、後戻り出来ないほどに惹かれたとお伝えしましたよ。ロー様がいれば、見た目などどうでも良いのです。それに、可愛さで言ったら、ロー様の性格が一番可愛いと思っておりますの」
「る、ルゥ」
「あらゆる手段でなかせてあげるから困らないし」
ポソリと呟かれた言葉は、ローセントには届かない。
照れて赤くなるローセントに、ルゥルゥは微笑む。
「ああ、言い忘れておりましたが、ロー様はわたくしが死ぬまでずっと一緒ですのよ」
「へ?」
突然の話に、ローセントは間の抜けた声を出してしまう。ルゥルゥはニッコリと話を続けた。
縛られる、という話の中で、ローセントの代わりになると伝えた。しかし、死に関しては、違う理が働く。ルゥルゥと繋がっている限り、ローセントが死ぬことはない。どんなに酷い状態になっても、ルゥルゥがそれを受け、ルゥルゥの高魔力が立ち所に傷を癒す。だがルゥルゥが死ぬと、繋がっていた魔力が切れ、ローセントも死ぬ。生命の維持が魔力によって成される体へと変貌しているためだ。そのため、死は、必ず一緒。それだけが、絶対。
「お嫌、ですか」
「違う。ルゥは、し、死んで、しまうのか?」
青ざめるローセントに、ルゥルゥは苦笑する。
「いつかは死ぬでしょう。あとどのくらい先かはわかりませんが」
「ああ、そうか。すぐにどうこうという話ではないんだね。良かった」
ホッとするローセントが可愛い。
「ルゥと、ずっと、一緒にいられるんだね。そうか。そうか」
安堵の息と共に紡がれる言葉に、ルゥルゥは微笑んだ。
「まだまだ死ぬ予定はありません。永い時を生きるのです。浮気は、許しましょう。ですが、本気は許しませんよ、ロー様」
ローセントの表情が抜け落ちた。
「ルゥ、取り消せ」
「え?」
先程までのほわほわとした空気が一変する。
「冗談でも、言うな」
「ロー様?どう」
ルゥルゥの言葉を遮るように、ローセントはルゥルゥの頬を両手で挟む。
「浮気も本気も赦すな。私はルゥ、おまえ以外欲しくない。おまえは違うのか。私以外欲しくないと言ったのは、偽りか」
ぐい、とローセントの顔が、鼻先が触れ合う程近付く。
「ほ、本気に決まっているではありませんか」
「ならば私だけを見ろ。よそ見をするな」
いつもの穏やかな目ではない。肉食獣のような、獣の目。
「この体、誰にも許すな」
左手が頬から滑り落ち、首筋を撫でる。
「ロー、様」
ルゥルゥの体が震えた。全身が、熱い。
「私が誰を見て、誰を愛しているか」
首筋からさらに下がり、柔らかな膨らみをなぞる。
ルゥルゥは、熱い吐息を漏らす。
「疑う余地もない程、その体に教え込んでやる」
噛みつくように、唇を塞がれた。
「ごめん、ごめんね、ルゥ。体、つらくない?本当にごめん。抑えが、きかなかった」
叱られた犬のように、しょげた耳とシッポの幻覚が見える。愛しのロー様は、危険な二面性を持っているらしい。
良き。
*最終話へつづく*
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