上 下
13 / 16

神の采配としか思えない

しおりを挟む
 洗面所から悲鳴が聞こえた。
 「る、ルゥ!ルゥ!」
 バタバタと焦った様子で寝室に戻ってくるローセントに、ルゥルゥは微笑ましいものを見るように穏やかな顔で言った。
 「どうなさったのですか、ロー様。そんなに慌てて可愛らしい」
 「傷、傷がっ、傷が、なくなっているんだっ」
 右手で傷のあった場所を押さえながらあわあわしている姿が尊い。
 「ああ、そうでしょうねぇ。不思議ではありませんわ、ロー様」
 のんびりと言うルゥルゥに、ローセントは混乱しつつ首をかしげる。
 「え、え、どうして?」
 ルゥルゥは説明をする。
 「わたくしと魔力で繋がっているのです。魔力は、あらゆるものを万全に整えるのです」
 「万、全?」
 「はい。わたくしの見た目は若々しいでしょう。魔力が、一番いい状態を保たせるのです。ですからほら、傷にばかり気を取られて気付かなかったのですね。ロー様も若返っていらっしゃいます」
 「え」


 それはそれは、盛大なお祝いだった。
 祝うことは叶わなかったはずの、三十六を迎えた誕生日。家人は、今までの鬱憤うっぷんを晴らすかのような騒ぎようだった。
 もしも呪いが解けたなら、とこっそり用意していたパーティーのためのあれやこれ。寝ずに用意をして、目覚めた主人が部屋から出て来たと同時に盛大なパーティーが開幕した。家人全員が泣きながら笑う、幸せな風景。心の底から喜んでもらえていることに、ローセントも泣いた。それは夜まで続き、尚も名残惜しそうに、解散の運びとなった。


 その日の夜。寝室にて。
 ローセントが、とても可愛らしいことを大真面目に言った。
 「あの、ルゥが、か、可愛いって言ってくれた、目では、なくなってしまったんだけど、その」
 顔の右側を、心許なさそうに手でさすっている姿に、ルゥルゥは頬を染めて目を逸らす。
 尊いが過ぎるだろ。
 暴走しそうな自分を何とか抑え込んで、ルゥルゥは答える。
 「確かに残念ではありますが、それはきっかけなのだと申しましたでしょう。ロー様を知って、後戻り出来ないほどに惹かれたとお伝えしましたよ。ロー様がいれば、見た目などどうでも良いのです。それに、可愛さで言ったら、ロー様の性格が一番可愛いと思っておりますの」
 「る、ルゥ」
 「あらゆる手段でなかせて・・・・あげるから困らないし」
 ポソリと呟かれた言葉は、ローセントには届かない。
 照れて赤くなるローセントに、ルゥルゥは微笑む。
 「ああ、言い忘れておりましたが、ロー様はわたくしが死ぬまでずっと一緒ですのよ」
 「へ?」
 突然の話に、ローセントは間の抜けた声を出してしまう。ルゥルゥはニッコリと話を続けた。
 縛られる、という話の中で、ローセントの代わりになると伝えた。しかし、死に関しては、違うことわりが働く。ルゥルゥと繋がっている限り、ローセントが死ぬことはない。どんなに酷い状態になっても、ルゥルゥがそれを受け、ルゥルゥの高魔力が立ち所に傷を癒す。だがルゥルゥが死ぬと、繋がっていた魔力が切れ、ローセントも死ぬ。生命の維持が魔力によって成される体へと変貌しているためだ。そのため、死は、必ず一緒。それだけが、絶対。
 「お嫌、ですか」
 「違う。ルゥは、し、死んで、しまうのか?」
 青ざめるローセントに、ルゥルゥは苦笑する。
 「いつかは死ぬでしょう。あとどのくらい先かはわかりませんが」
 「ああ、そうか。すぐにどうこうという話ではないんだね。良かった」
 ホッとするローセントが可愛い。
 「ルゥと、ずっと、一緒にいられるんだね。そうか。そうか」
 安堵の息と共に紡がれる言葉に、ルゥルゥは微笑んだ。
 「まだまだ死ぬ予定はありません。永い時を生きるのです。浮気は、許しましょう。ですが、本気は許しませんよ、ロー様」
 ローセントの表情が抜け落ちた。
 「ルゥ、取り消せ」
 「え?」
 先程までのほわほわとした空気が一変する。
 「冗談でも、言うな」
 「ロー様?どう」
 ルゥルゥの言葉を遮るように、ローセントはルゥルゥの頬を両手で挟む。
 「浮気も本気も赦すな。私はルゥ、おまえ以外欲しくない。おまえは違うのか。私以外欲しくないと言ったのは、偽りか」
 ぐい、とローセントの顔が、鼻先が触れ合う程近付く。
 「ほ、本気に決まっているではありませんか」
 「ならば私だけを見ろ。よそ見をするな」
 いつもの穏やかな目ではない。肉食獣のような、獣の目。
 「この体、誰にも許すな」
 左手が頬から滑り落ち、首筋を撫でる。
 「ロー、様」
 ルゥルゥの体が震えた。全身が、熱い。
 「私が誰を見て、誰を愛しているか」
 首筋からさらに下がり、柔らかな膨らみをなぞる。
 ルゥルゥは、熱い吐息を漏らす。
 「疑う余地もない程、その体に教え込んでやる」
 噛みつくように、唇を塞がれた。


 「ごめん、ごめんね、ルゥ。体、つらくない?本当にごめん。抑えが、きかなかった」
 叱られた犬のように、しょげた耳とシッポの幻覚が見える。愛しのロー様は、危険な二面性を持っているらしい。
 良き。
 
 

*最終話へつづく*
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので初恋の人と添い遂げます!!~有難う! もう国を守らないけど頑張ってね!!~

琴葉悠
恋愛
  これは「国守り」と呼ばれる、特殊な存在がいる世界。  国守りは聖人数百人に匹敵する加護を持ち、結界で国を守り。  その近くに来た侵略しようとする億の敵をたった一人で打ち倒すことができる神からの愛を受けた存在。  これはそんな国守りの女性のブリュンヒルデが、王子から婚約破棄され、最愛の初恋の相手と幸せになる話──  国が一つ滅びるお話。

婚約破棄されたら人嫌いで有名な不老公爵に溺愛されました~元婚約者達は家から追放されたようです~

琴葉悠
恋愛
 かつて、国を救った英雄の娘エミリアは、婚約者から無表情が不気味だからと婚約破棄されてしまう。  エミリアはそれを父に伝えると英雄だった父バージルは大激怒、婚約者の父でありエミリアの親友の父クリストファーは謝るがバージルの気が収まらない。  結果、バージルは国王にエミリアの婚約者と婚約者を寝取った女の処遇を決定するために国王陛下の元に行き――  その結果、エミリアは王族であり、人嫌いで有名でもう一人の英雄である不老公爵アベルと新しく婚約することになった――

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

王宮勤めにも色々ありまして

あとさん♪
恋愛
スカーレット・フォン・ファルケは王太子の婚約者の専属護衛の近衛騎士だ。 そんな彼女の元婚約者が、園遊会で見知らぬ女性に絡んでる·····? おいおい、と思っていたら彼女の護衛対象である公爵令嬢が自らあの馬鹿野郎に近づいて····· 危険です!私の後ろに! ·····あ、あれぇ? ※シャティエル王国シリーズ2作目! ※拙作『相互理解は難しい(略)』の2人が出ます。 ※小説家になろうにも投稿しております。

脅迫して意中の相手と一夜を共にしたところ、逆にとっ捕まった挙げ句に逃げられなくなりました。

石河 翠
恋愛
失恋した女騎士のミリセントは、不眠症に陥っていた。 ある日彼女は、お気に入りの毛布によく似た大型犬を見かけ、偶然隠れ家的酒場を発見する。お目当てのわんこには出会えないものの、話の合う店長との時間は、彼女の心を少しずつ癒していく。 そんなある日、ミリセントは酒場からの帰り道、元カレから復縁を求められる。きっぱりと断るものの、引き下がらない元カレ。大好きな店長さんを巻き込むわけにはいかないと、ミリセントは覚悟を決める。実は店長さんにはとある秘密があって……。 真っ直ぐでちょっと思い込みの激しいヒロインと、わんこ系と見せかけて実は用意周到で腹黒なヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真のID:4274932)をお借りしております。

【完結】お見合いに現れたのは、昨日一緒に食事をした上司でした

楠結衣
恋愛
王立医務局の調剤師として働くローズ。自分の仕事にやりがいを持っているが、行き遅れになることを家族から心配されて休日はお見合いする日々を過ごしている。 仕事量が多い連休明けは、なぜか上司のレオナルド様と二人きりで仕事をすることを不思議に思ったローズはレオナルドに質問しようとするとはぐらかされてしまう。さらに夕食を一緒にしようと誘われて……。 ◇表紙のイラストは、ありま氷炎さまに描いていただきました♪ ◇全三話予約投稿済みです

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...