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追想
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性的倒錯表現あります。ご注意ください。
*∽*∽*∽*∽*
「マリー、ナ、さま?」
妙な胸騒ぎに、テレーゼは目が覚めた。まだ、真夜中。
心臓が早鐘を打っている。
唐突に、マリーナの顔が脳裏に浮かび、嫌な予感がした。
そしてなぜか、幼い頃に誘拐された時のことが蘇る。
*~*~*~*~*
「あっ」
二人の侍女と手を繋ぎ、庭を散歩していたときだ。
風で帽子が飛んだ。
「まあっ、お嬢様が大切になさっているお帽子が!」
一人の侍女が急ぎ帽子を追いかける。
遠くまで飛ばされた帽子にやっと追いつき、拾って戻ると、もう一人の侍女が倒れていた。
「お嬢、様?」
テレーゼの姿はなかった。
………
……
…
「は、は、は、テ、テレーゼ」
息を荒くした茶髪の男が、テレーゼを抱き締めていた。
「やあ、お母様あ、お父様あ、お兄様あぁ」
怖くて家族を呼ぶ。逃れようと手を伸ばすが、何もない空間を掴むだけ。
「ああ、可愛い、可愛いね、テレーゼ。そう、これからは僕がお兄様だよ。もっと呼んで、テレーゼ」
「ふええぇん、こわい、たすけて」
テレーゼの流す涙を舐めながら、茶髪の男が恍惚としている。
「大丈夫、大丈夫だよ、テレーゼ。怖いことは何もない。これからは、お兄様と、ずっと一緒に暮らそう」
互いの頬を擦り寄せる。
「お兄様が、ずぅっとテレーゼを愛してあげるからね」
胸元のリボンに手をかけようとすると、
「テレーゼ様に何をしているのですか」
茶髪の後ろから、その首に手が回った。
「ぐ、ぐ、ぅぁぅ」
「汚い手でテレーゼ様に触れるとは。いくら弟とはいえ殺しますよ」
ゴリ、と喉を握る手に力が込められ、弟はそのまま床に引き倒された。
「申し訳ありません、テレーゼ様。この者はテレーゼ様に近付けないようにいたしますので、どうぞご安心ください」
弟より薄い茶髪に、その髪と同じ色の目をした兄が、陶酔した顔でテレーゼを見つめる。
「おうちに、帰してぇ」
「ああ、なんてお可哀相なテレーゼ様。その尊い涙を止めて差し上げられたら、どんなにいいか」
胸の前で両手を組み、ますます頬を染める。
「あまりに尊いあなた様を、このような形でお連れしたことをお許し下さい」
床に膝をつき、深く頭を下げる。
「こんな場所で申し訳ありません。明日になれば、あなた様を私たちの隠れ家へとお連れいたします。そこであれば、何不自由なくお過ごしいただけますから」
この兄弟は、貴族だった。侯爵家の嫡男と次男。魔法の腕はかなりのもので、兄は風の属性、弟は水の属性だ。弟が水の膜で二人を包み、表面を鏡面のようにして風景と同化し、レム公爵邸へ侵入。兄の風魔法で帽子を飛ばして一人の侍女を離し、もう一人を昏倒させる。そうして薬でテレーゼを眠らせ、連れ去った。
テレーゼを側にというところまでは同じだったが、目的が違った。
兄はテレーゼを神聖視し、弟は欲に濡れた目で見ていた。
その違いが、惨劇を生む。
*つづく*
*∽*∽*∽*∽*
「マリー、ナ、さま?」
妙な胸騒ぎに、テレーゼは目が覚めた。まだ、真夜中。
心臓が早鐘を打っている。
唐突に、マリーナの顔が脳裏に浮かび、嫌な予感がした。
そしてなぜか、幼い頃に誘拐された時のことが蘇る。
*~*~*~*~*
「あっ」
二人の侍女と手を繋ぎ、庭を散歩していたときだ。
風で帽子が飛んだ。
「まあっ、お嬢様が大切になさっているお帽子が!」
一人の侍女が急ぎ帽子を追いかける。
遠くまで飛ばされた帽子にやっと追いつき、拾って戻ると、もう一人の侍女が倒れていた。
「お嬢、様?」
テレーゼの姿はなかった。
………
……
…
「は、は、は、テ、テレーゼ」
息を荒くした茶髪の男が、テレーゼを抱き締めていた。
「やあ、お母様あ、お父様あ、お兄様あぁ」
怖くて家族を呼ぶ。逃れようと手を伸ばすが、何もない空間を掴むだけ。
「ああ、可愛い、可愛いね、テレーゼ。そう、これからは僕がお兄様だよ。もっと呼んで、テレーゼ」
「ふええぇん、こわい、たすけて」
テレーゼの流す涙を舐めながら、茶髪の男が恍惚としている。
「大丈夫、大丈夫だよ、テレーゼ。怖いことは何もない。これからは、お兄様と、ずっと一緒に暮らそう」
互いの頬を擦り寄せる。
「お兄様が、ずぅっとテレーゼを愛してあげるからね」
胸元のリボンに手をかけようとすると、
「テレーゼ様に何をしているのですか」
茶髪の後ろから、その首に手が回った。
「ぐ、ぐ、ぅぁぅ」
「汚い手でテレーゼ様に触れるとは。いくら弟とはいえ殺しますよ」
ゴリ、と喉を握る手に力が込められ、弟はそのまま床に引き倒された。
「申し訳ありません、テレーゼ様。この者はテレーゼ様に近付けないようにいたしますので、どうぞご安心ください」
弟より薄い茶髪に、その髪と同じ色の目をした兄が、陶酔した顔でテレーゼを見つめる。
「おうちに、帰してぇ」
「ああ、なんてお可哀相なテレーゼ様。その尊い涙を止めて差し上げられたら、どんなにいいか」
胸の前で両手を組み、ますます頬を染める。
「あまりに尊いあなた様を、このような形でお連れしたことをお許し下さい」
床に膝をつき、深く頭を下げる。
「こんな場所で申し訳ありません。明日になれば、あなた様を私たちの隠れ家へとお連れいたします。そこであれば、何不自由なくお過ごしいただけますから」
この兄弟は、貴族だった。侯爵家の嫡男と次男。魔法の腕はかなりのもので、兄は風の属性、弟は水の属性だ。弟が水の膜で二人を包み、表面を鏡面のようにして風景と同化し、レム公爵邸へ侵入。兄の風魔法で帽子を飛ばして一人の侍女を離し、もう一人を昏倒させる。そうして薬でテレーゼを眠らせ、連れ去った。
テレーゼを側にというところまでは同じだったが、目的が違った。
兄はテレーゼを神聖視し、弟は欲に濡れた目で見ていた。
その違いが、惨劇を生む。
*つづく*
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