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2.ミュールマーナ、容赦ない女
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ライムグリンは、急ぎ城へ戻った。
「ソル!ソル!ソルティオルガ!」
こうして王家からの釣書がミュールマーナに届く。
婚約が発表されるまでの間も、ミュールマーナが自衛している場面に遭遇する。いがぐりを投げていたり、漆の葉をハンカチでつまんで追いかけ回したり、靴下に砂利を詰めて振り回したり。
ライムグリンはミュールマーナのギャップにめろめろだった。
婚約が発表されてからは、ご令嬢たちからの嫌がらせが発生した。それを咎め、守るご令嬢たちも。だがもちろん黙って耐えるミュールマーナではない。一番絡んでくるご令嬢とその取り巻き三人の机を、彫刻刀で彫った。一人は龍虎相見える、一人は花見をする七福神、一人は天岩戸、ボスのご令嬢には曼荼羅を。ノートを書こうとする度、机がぼこぼこで紙に穴が空くがいい、という呪いだ。しかし、芸術品のような出来のそれに呆然とするご令嬢たちを押しのけ、美術の講師が感動のあまり、机の天板をもらい受け、美術室に飾られてしまった。ご令嬢たちには新しい机が提供される。目の下に隈を作ったミュールマーナは、ぼんにゃりした顔のまま舌打ちをした。
「素晴らしいものでしたわね。どなたのお仕事かしら」
「本当。でもミュールマーナ様に一番絡んできていた方たちですわ。少しは大人しくなるとよろしいのですが」
嫌がらせを受けるミュールマーナをよく守ってくれるようになった、クロイセン侯爵家とソレンダーク侯爵家のご令嬢。何かとミュールマーナの世話を焼いてくれる、お姉さん的存在だ。
「そうですわね。少しは静かな日々が送れると良いのですが」
正直、一人で撃退できるから特に必要としてはいないが、侯爵家が出てくると話が早いことが多いので楽ではあった。
そんな日々に、王太子からプレゼントが届く。
「まあ。お名前を伺っても?」
潜入中の二人に、ミュールマーナは声をかける。二人は何故バレたのか、と動揺しつつ挨拶をする。
「シュワルツェネーラと申します。あなた様を影に日向に見守るため潜入中ですので、接触はお控えください」
「シルヴェスターニャと申します。同じく潜入中です。ご容赦を」
ミュールマーナは二人を非常に気に入った。
「そう。でもお昼はご一緒できるのでしょう?」
「いえ、潜入中ですので」
シュワルツェネーラがそう言うと、ミュールマーナが明らかにしょげた。犬耳がぺたん、と寂しそうに寝てしまっている幻覚が見える。二人はたじろぐ。
「ぅぐっ、ご、ご令嬢、食事、ぜひご一緒させていただけたらと」
ミュールマーナのお耳がピン!と立ち、しっぽがブンブン振られている。幻覚が。
「あのあの、ミュウと、ミュウと呼んでくださいませっ」
きらっきらのおめめが、ものっそい期待に満ち満ちている。二人は戸惑う。返事に窮していると、またおみみがぺたん。
「ミュウ様、お昼、楽しみにしております」
「教室にお迎えに上がりますので、お待ちください、ミュウ様」
「はいっ」
ミュールマーナはとてもご機嫌にお昼の時間を迎える。ミュールマーナを迎えに来た二人。違和感が凄すぎて、違和感を感じない二人に、みんな慣れた様子でご機嫌よう、と挨拶を交わす。ある意味、潜入成功と言えた。
*つづく*
「ソル!ソル!ソルティオルガ!」
こうして王家からの釣書がミュールマーナに届く。
婚約が発表されるまでの間も、ミュールマーナが自衛している場面に遭遇する。いがぐりを投げていたり、漆の葉をハンカチでつまんで追いかけ回したり、靴下に砂利を詰めて振り回したり。
ライムグリンはミュールマーナのギャップにめろめろだった。
婚約が発表されてからは、ご令嬢たちからの嫌がらせが発生した。それを咎め、守るご令嬢たちも。だがもちろん黙って耐えるミュールマーナではない。一番絡んでくるご令嬢とその取り巻き三人の机を、彫刻刀で彫った。一人は龍虎相見える、一人は花見をする七福神、一人は天岩戸、ボスのご令嬢には曼荼羅を。ノートを書こうとする度、机がぼこぼこで紙に穴が空くがいい、という呪いだ。しかし、芸術品のような出来のそれに呆然とするご令嬢たちを押しのけ、美術の講師が感動のあまり、机の天板をもらい受け、美術室に飾られてしまった。ご令嬢たちには新しい机が提供される。目の下に隈を作ったミュールマーナは、ぼんにゃりした顔のまま舌打ちをした。
「素晴らしいものでしたわね。どなたのお仕事かしら」
「本当。でもミュールマーナ様に一番絡んできていた方たちですわ。少しは大人しくなるとよろしいのですが」
嫌がらせを受けるミュールマーナをよく守ってくれるようになった、クロイセン侯爵家とソレンダーク侯爵家のご令嬢。何かとミュールマーナの世話を焼いてくれる、お姉さん的存在だ。
「そうですわね。少しは静かな日々が送れると良いのですが」
正直、一人で撃退できるから特に必要としてはいないが、侯爵家が出てくると話が早いことが多いので楽ではあった。
そんな日々に、王太子からプレゼントが届く。
「まあ。お名前を伺っても?」
潜入中の二人に、ミュールマーナは声をかける。二人は何故バレたのか、と動揺しつつ挨拶をする。
「シュワルツェネーラと申します。あなた様を影に日向に見守るため潜入中ですので、接触はお控えください」
「シルヴェスターニャと申します。同じく潜入中です。ご容赦を」
ミュールマーナは二人を非常に気に入った。
「そう。でもお昼はご一緒できるのでしょう?」
「いえ、潜入中ですので」
シュワルツェネーラがそう言うと、ミュールマーナが明らかにしょげた。犬耳がぺたん、と寂しそうに寝てしまっている幻覚が見える。二人はたじろぐ。
「ぅぐっ、ご、ご令嬢、食事、ぜひご一緒させていただけたらと」
ミュールマーナのお耳がピン!と立ち、しっぽがブンブン振られている。幻覚が。
「あのあの、ミュウと、ミュウと呼んでくださいませっ」
きらっきらのおめめが、ものっそい期待に満ち満ちている。二人は戸惑う。返事に窮していると、またおみみがぺたん。
「ミュウ様、お昼、楽しみにしております」
「教室にお迎えに上がりますので、お待ちください、ミュウ様」
「はいっ」
ミュールマーナはとてもご機嫌にお昼の時間を迎える。ミュールマーナを迎えに来た二人。違和感が凄すぎて、違和感を感じない二人に、みんな慣れた様子でご機嫌よう、と挨拶を交わす。ある意味、潜入成功と言えた。
*つづく*
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