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 かさねにとって、気に入った者を自らの手で殺すことが、最大の愛情表現だった。そうすれば、お気に入りはそれ以上誰も見ないし、誰にも見られない。
 闘技場での殺しは仕事でしかない。金を稼ぐための手段。
 ある日、子どもが二人やって来た。戦闘のセンスはかなりいい。
 そして閃く。
 この子どもを自らの手で育ててみよう。
 襲は子どもに稽古をつけることにした。誰よりも強く、何よりも残酷で、狂おしいほど美しく。そう育てた子どもに、殺されることを夢見て。
 時が来たら離れよう。独自に進化した強さを見せて欲しい。
 早くおいで。早くボクを、殺しにおいで。



 ジョザイアは、襲をぐちゃぐちゃにしたい欲望がある。それが、闘技場での戦いに表れていた。文字通り、ぐちゃぐちゃだ。自分の触れていないところがあることが、我慢できない。外側だけではない。内側も全部、全部全部、触れたい。すべてを自分のものにしたい。
 早く襲を殺して、自分だけのものにするんだ。



 ベロニカは、襲の苦痛に歪む顔が見たい。急所を外してその体にゆっくりナイフを埋めていく。一秒でも長く、苦痛を味わわせてあげたいから。そして襲が最期に願う。殺してくれ、と。そうしたら、慈悲深い笑みを湛え、その首を切り落としてあげよう。そして祈る。その首を高く掲げ、自分のかさねに祈るのだ。
 愛しています、と。


 
 確かに興奮していた。
 目の前で繰り広げられる圧倒的な戦いに、すべての者が興奮していた。
 魔法が使えない中での肉弾戦。攻撃が繰り出される度に、空気が爆ぜる。
 息をすることも忘れ、酔い痴れる。立っていることもままならないほどの高揚感。訳もなく叫び出したい衝動が襲う。
 敵も味方もない。そこにいる者たちすべてが、その戦いから目を離せない。
 黒髪がゆらめく。あかが舞う。白い肌が傷に染まり、青白い床が血に染まる。
 命のやり取りが、こんなにも美しい。
 その時だ。
 はらり。
 襲の目元から、マスクが落ちた。
 隙とも言えない刹那の隙。ベロニカの握るナイフがマスクを落とす。
 二人は襲と目が合った。二人は動けなかった。美しい。あまりにも美しい。その目は何ものにも例えようのない、極上のあか。そして悟る。魔力制御と言っていたが、違う。いや、それもあるだろう。
 隠したのだ。類い稀なるその美しさを。
 「ああ、素晴らしい」
 襲は笑った。
 「よくやった。ボクのマスクを落とすなんて。素晴らしいよ、ベロニカ」
 そう言って左手で両目を覆う。
 「隙を作ったジョザイアも褒めてあげよう」
 襲は口元に笑みを浮かべていた。
 「一段階上げるよ」
 そう言うと、襲は右手にボロボロの剣を握った。襲は二人を相手取る時、いつも素手だった。それが今、初めて武器を手にした。宣言通り、一段階強さを上げたのだ。左手は目を覆ったままだが、素手の両手より、片手の武器の方が強いことを知っている。
 「さあ、おいで」
 襲の愉悦が滲んだ声に、二人は同時に反応して飛び出した。
 自分を殺せるのは、殺して欲しいのは、この二人だ。早く、早くおいで。ボクの所まで。ほら、おまえたちも笑っている。ボクを殺したいって叫んでる。ああ、たまらない。愛しているよ、ジョザイア、ベロニカ。
 早くボクをあいして。


 *つづく*
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