箱庭の楽園

らがまふぃん

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5 手記

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 ~ある男の手記~

 奇跡の一族と呼ばれる一族は、一体何なのか。まったく不可解な一族である。
 いつか何かの役に立つかも知れない。そう思い、この手記を残す。
 彼女たちの能力、とでもいうのか、それはまさに奇跡だ。彼女たちは自分の命を他人に半分だけ分け与えることが出来る。だが、その能力は一度きり。そして誰にでも分けることが出来る訳ではないようだ。彼女たちがあるじと認めた者に、出来るらしい。それも、彼女たちの意志で主を決めるものではないようだ。魂に何かが刻まれている、という表現しかしようがない。一目会えば、必ず自分の命を分け与える存在だとわかるという。
 ここでひとつ、疑問に感じたことに触れてみたいと思う。
 なぜ私が、彼女たち、と記すのか。
 それは、奇跡の一族は、女性しかいないからだ。
 奇跡の一族。
 この名前すら、不可解だ。多くの者は、命を分け与えることを奇跡と感じることだろう。しかし私は、その存在こそが、奇跡ではないかと思う。
 なぜそう思うのか。
 彼女たち自身のことを、少し知って欲しい。
 彼女たちは、みな、一様に美しい。全員が黒い髪に黒い目だ。そして不思議な音の名前を持つ。なにより、彼女たちは、知性が乏しい。美しく、深く考えることの出来ない存在など、すぐに滅んでしまいそうなものだと思わないだろうか。
 しかし、彼女たちの歴史は、さかのぼれるだけでも千二百年は優に超える。彼女たちは確実に、脈々と、その血を繋いでいるのだ。
 彼女たちが主と定めるのは、必ず男であることにも注目したい。
 その血を残すため、主の子どもを宿す。
 ここでも謎が残る。
 彼女たちは、生涯一人しか子どもを産まない。それも、必ず奇跡の一族を産む。男がどんな色彩を持っていても、必ず黒髪黒目の女児。たった一人しか産まない、あるいは産めないのであれば、主を見つけられなかった人数分だけ、減っていくはずなのだ。それが、千年以上も存在し続けるとは、どういうことか。悠久の昔には、奇跡の一族はありふれた存在だったとでも言うのだろうか。それとも、美しい故、行きずりにはらまされてしまうのか。知性が乏しいため、抵抗もせず、何をされているかもわからないまま。そう考えるが、どうも違うようだ。主以外の子どもを孕めないらしい。ますます謎が深まる。
 彼女たちは一体何なのか。何のために存在するのか。
 私の仮説を記そうと思う。これを見た人は、荒唐無稽こうとうむけいに思うかも知れない。仮説ですらないと思うだろう。それでもいい。私の考えを知って欲しい。
 彼女たちは、神が贈ったものだとしたら。
 彼女たちが花だとしたら、我々は虫。花に群がる虫を見て楽しんでいる。花に意志など不要。神が望むままに、花とつがえる虫が選ばれる。
 彼女たちは淋しがり。だから、愛しい主が先に逝くことを良しとしない。だから自分に残った寿命の半分を分ける。一緒に逝くために。その能力は、意志を与えなかった神の慈悲。彼女たちが淋しくないよう、与えた慈悲。
 人のためではない。彼女たちのための、能力。神々が楽しんだ礼なのかも知れない。
 そして乏しい知性は、自分の死を恐れさせないためではないだろうか。愛しい人と生きて死ぬ。その喜びだけを感じられるように。
 なんて悲しい生き物をつくったのだろう。
 なぜ、その役割を人の形にしたのか。生き物ではない何かで良かったのではないか。
 神とはなんと残酷なのだろう。
 仮説というには乱暴だろう。妄想と言われても仕方がない。けれど、私はそう考えてしまうのだ。


 *つづく*
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