箱庭の楽園

らがまふぃん

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3 報復

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 ある日。
 いつもならフォスガイアの執務室に来ている時間だというのに、優和ゆうわの姿がない。しばらく待っても現れない優和にしびれを切らし、フォスガイアは席を立つ。いつも、邪魔だ、向こうへ行け、と突き放しているフォスガイアが、まさか迎えに行くとは思わない側近は、どこに行くか声をかける。それにフォスガイアは答えず、そのまま仕事を続けるよう言って部屋を出る。優和の部屋にノックもせずに入ると、ベッドの側の床に座って後ろを向く優和の姿があった。肩が震えているように見える。
 「おい、なぜ執務室に来ない」
 フォスガイアの声に、優和は振り向いた。フォスガイアはギョッとする。
 「おまえ、その顔はどうした」
 左の頬が真っ赤に腫れ上がっている。声を殺して涙を懸命にこらえていたようだ。
 「おぅ、しゃま」
 フォスガイアの姿に安堵したのか、くしゃりと顔を歪ませ、ボロボロと涙を落とした。
 「ふっ、うぅっく、ふえ」
 ごしごしと目をこすりながら泣く優和に、フォスガイアは駆け寄る。
 「バカ、擦るな」
 優和の顔を自分の胸に押し当て、その頭を包むように抱き締める。
 「おうしゃま、ゆうわ、わるいこで、ごめんなしゃい。なにが、わるいのでしょうか。なおします。がんばって、なおします、おうしゃま」
 フォスガイアの胸に黒いものが広がる。誰にそんなことを、と聞いても優和にはわからない。もどかしくて舌打ちをする。それを、優和は自分に対して苛立っていると思った。
 「ごめんなしゃい、おうしゃま、ごめんなしゃい。なきません、もう、なかないです」
 健気けなげな優和。何もわからない優和。一生懸命涙を堪える。フォスガイアは、何も言わずに抱き締め続けた。
 泣き疲れて眠る優和を、ベッドにそっと横たえる。
 「優和」
 泣いて腫れた瞼を哀れむ。赤く腫れた頬が痛々しい。
 「早く私から離れろ、優和」
 どんなに冷たくしても、どんなに酷い扱いをしても、健気に慕ってくる優和。
 「早く、離れろ」
 苦しそうに、フォスガイアは呟いた。
 こうなっているのは、自分が原因だとわかっている。
 「だからと言って、赦しはせん。誰のものに手を出したか、身をもって知らしめてやろう」
 三人のメイドが、川に浮かんでいるのが発見された。その体には、至る所に傷があったという。



 「見た目は極上。頭は空っぽ。最高じゃねぇか」
 「殿下のものだぜ。勝手をしたらマズイんじゃ」
 「その殿下がコイツをどう扱っているか知ってるだろ。気にも止めねぇさ」
 騎士は優和の首筋に顔をうずめ、服に手をかける。何の反応も示さず、されるままの優和に、騎士はわらう。
 「ははっ、コイツ本当に何もわからないんだな。いいぜ、楽しもう」
 「何で楽しもうって?」
 二人の騎士は止まった。
 「もう一度聞こう。何で楽しむんだ、なあ」
 冷たく嗤うフォスガイアがいた。
 「で、殿下っ。失礼いたしましたっ」
 慌てて二人の騎士は膝をついて頭を下げる。なぜ、騎士宿舎裏こんなところにフォスガイアがいるのか。
 「私のものに、何をしていた」
 二人の全身にダラダラと汗が流れる。言葉が出てこない。凄まじい威圧感に、二人の全身が震える。二人の返事を聞くことなく、フォスガイアは躊躇ためらいもせず剣を抜いた。二人の首が転がる。
 「愚か者が」
 優和はフォスガイアの前にひざまづく。
 「王様、ごめんなさい。優和、王様が怒っているの、わからないです。わからなくて、ごめんなさい。優和、何がいけませんか?」
 フォスガイアに怒られていると思い、優和は潤んだ目で見上げる。いや、怒られるのは構わない。捨てられたら、どうしたらいいかわからない。フォスガイアの側にいられないことは、耐えられない。
 「あの騎士に、何をされた」
 低く冷たい声で問われ、優和は首を指した。
 「ここ、なめてました。服を、取られそうになりました」
 フォスガイアは、首のない騎士の体に剣を突き刺した。
 「来い。消毒をしてやる」
 優和の腕を掴んで立たせると、その首に舌を這わせた。
 「くすぐったいです、王様」
 無邪気に笑う優和。
 「私以外の男に、この体を触らせるな。いいな。わかったな」
 首筋にかかる吐息にぞわぞわしながら、優和は頷く。
 「はい、王様。わかりました。だから、優和のこと、捨てないでください」
 フォスガイアの首にぎゅうぎゅうとしがみつく。フォスガイアはその行為に、ひっそりと笑った。


 *つづく*
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