上 下
17 / 24

16.最終話

しおりを挟む
 「あんなの放っておいて良かったのに」

 王宮の第一庭園。
 アビアント家に鉄槌を下した翌日、シーナはそこでシスティアとお茶を楽しんでいた。
 体ごと精霊界へ行けるようになり、そこからどこにでも行けるようになった。そうしてシスティアだけでなく、王家の人たちとも交流をし続けていたシーナ。
 元々システィアからシーナの話を聞いていた王家の人たちは、お忍びでシーナに会いに行ったりもしていた。アビアント家に知られたくないので、あくまでも通過するときや近くに行ったときに会う程度であったが。
 シーナと実際会って、シーナを知るほど王家のアビアント家への怒りは蓄積されていった。当の本人は然程気にしていないことが、余計に王家の怒りを買った。
 こんなにいい子を蔑ろにしやがって!
 こうして、アビアント家は破滅へのカウントダウンは始まっていた。

 そもそもシスティアに出会う前のアビアント家での出来事を、何故システィアが知ったのか。
 もちろん精霊たちだ。精霊たちが、システィアにアビアント家あの家を何とかしろと騒いだのだ。シーナはもう関わらないから放っておけと言っていたが、システィアは赦せなかった。王家家族にご協力いただくほどに。
 「わたくしのシーナを蔑ろにされて、黙ってなんていられないでしょう」
 ぷい、とそっぽを向くシスティアに、シーナは抱きついた。
 「あー、可愛い可愛い可愛い可愛いっ」
 「離れろ」
 システィアにくっついているケイに、引き剥がされる。
 「何よ、クロスケ。いい加減ティアを独り占めしすぎるのは止めなさい。ティアはあなただけのティアではないの」
 同席する二人の王子も、最初こそシーナと精霊王であるケイとのやり取りに肝を冷やしていたが、今ではその光景を微笑ましく見つめている。
 「まあ、アビアント家あの人たちのことでクロスケにも迷惑かけていたみたいだし、お礼は言っておくわ。ありがとうね、クロスケ」
 顕現してシスティアの背後に取り憑抱きついていただけだが、最強の護衛であったことは間違いない。シーナの礼に、素直に頷く。
 「リュクス様もリュセス様も、ありがとうございました。後で、陛下と王妃陛下にもお礼をさせていただきたいです」
 そう言ってシーナが微笑むと、リュクスもリュセスも、淡く頬を染めながら笑って頷いた。
 「でも、ティアに危ないことをして欲しくはないから、もうアビアント家あの人たちに関わってはダメよ?」
 「もう関わることも出来ないでしょうけれど、またシーナに何かしようものなら容赦しなくてよ」
 そう言ってまたもそっぽを向くと、ポソリと言葉を続けた。
 「わたくしがもし同じ目に遭ったら」
 「磨り潰す」
 「…………ボソボソ
 システィアが言い終わる前に、シーナはとっても真っ黒な笑顔で一言のたまい、ケイは聞いてはいけないことを宣っておりました。
 「ああ、なるほど、こういう気持ちかぁ。これは嫌だな。ずっとティアに嫌な思いをさせていたのね。ごめんなさい、ティア。私、自分の事しか考えていなかったわ」
 シーナは裏表が殆どない。自分の気持ちをストレートに伝えてくる。これは、大人になるにつれ、誰もが難しくなってくるもの。特に自身に非がある場合。悪いと素直に認められず、謝罪が出来ない。
 精霊の加護云々よりも、この素直さを、王家の人たちはいたく気に入っていた。

 「さて、それではアビアント家あの家にもう用はないかしら?」

 精霊たちと花冠を作っていた精霊女王レアが、四人に花冠を乗せながらそう尋ねる。
 「ありがとうございます、精霊女王様。そうですね。システィーの加護を知った後も変わることのなかったあの家のことは諦め、宰相は別の者に水面下で引き継ぎを行っておりました」
 「ありがとうございます、精霊女王様。国王の側近にしても、同様ですので、問題ありません」
 花冠の礼と共に現状を伝えるリュクスとリュセスに、レアは満足そうに笑った。

 「そう。ではもういいわね」

 シーナは今後、王宮で過ごす。
 精霊女王の加護のことは言わず、精霊王の加護を持つシスティアの願いでシーナは王宮にいる、というていで学園に通う。加護持ちであることは、必要であれば公開することにして欲しいと、シーナの願いだ。

 もう、アビアント家は、必要ない。

 「シーナ、止めてもムダよ?というより、もう止めないでちょうだいね?」
 精霊たちもそうだが、レアだって我慢をしてきたのだ。ずっとずっと、我慢を。
 「はい。えっと、あの、き、気を付けて?」
 もう、それしか言えなかった。



*おしまい*

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
これにて本編は終了となります。
その後のアビアント家や学園での話、前世の話など、気まぐれに番外編で投稿していきたいと思っております。その際はお付き合いくださいますと、嬉しいです。
またお会い出来ることを願って。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

契約勇者は自由を求める 〜勝手に認定された勇者なんて国王様に全てお返しいたします〜

夢幻の翼
ファンタジー
【権力を振りかざす悪徳国王にはこの結末がお似合いだろう】  悪徳国王から強制的に契約勇者とされた『マーカス・レッジ』は討伐対象の魔神王に出会い契約魔法の解除に成功し王国の追手から逃れるために最北の街へと身を隠す。  そこで大切な仲間と出会い幸せな時間を過ごすがやがて王国も彼が死んだと判断し、次の契約勇者を作るべく悪徳国王の愚行が牙を向く。  大切な人を守るためにレッジは愚かな国王を止めるためにあることを決断する。

とりかえばや聖女は成功しない

猫乃真鶴
ファンタジー
キステナス王国のサレバントーレ侯爵家に生まれたエクレールは、ミルクティー色の髪を持つという以外には、特別これといった特徴を持たない平凡な少女だ。 ごく普通の貴族の娘として育ったが、五歳の時、女神から神託があった事でそれが一変してしまう。 『亜麻色の乙女が、聖なる力でこの国に繁栄をもたらすでしょう』 その色を持つのは、国内ではエクレールだけ。神託にある乙女とはエクレールの事だろうと、慣れ親しんだ家を離れ、神殿での生活を強制される。 エクレールは言われるがまま厳しい教育と修行を始めるが、十六歳の成人を迎えてもエクレールに聖なる力は発現しなかった。 それどころか成人の祝いの場でエクレールと同じ特徴を持つ少女が現れる。しかもエクレールと同じエクレール・サレバントーレと名乗った少女は、聖なる力を自在に操れると言うのだ。 それを知った周囲は、その少女こそを〝エクレール〟として扱うようになり——。 ※小説家になろう様にも投稿しています

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

側妃ですか!? ありがとうございます!!

Ryo-k
ファンタジー
『側妃制度』 それは陛下のためにある制度では決してなかった。 ではだれのためにあるのか…… 「――ありがとうございます!!」

異世界生活研修所~その後の世界で暮らす事になりました~

まきノ助
ファンタジー
 清水悠里は先輩に苛められ会社を辞めてしまう。異世界生活研修所の広告を見て10日間の研修に参加したが、女子率が高くテンションが上がっていた所、異世界に連れて行かれてしまう。現地実習する普通の研修生のつもりだったが事故で帰れなくなり、北欧神話の中の人に巻き込まれて強くなっていく。ただ無事に帰りたいだけなのだが。

(完)実の妹が私を嵌めようとするので義理の弟と仕返しをしてみます

青空一夏
ファンタジー
題名そのままの内容です。コメディです(多分)

絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました

toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。 残酷シーンが多く含まれます。 誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。 両親に 「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」 と宣言した彼女は有言実行をするのだった。 一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。 4/5 21時完結予定。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...