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 アビアント家は、シーナについて、何の解決策も見つけられないままだった。受け入れ難いが、シーナを学園に通わせるしかない。苦肉の策として、庭師の住居のほど近くにもう一棟、同等の家を建てることにした。家族を本邸以外に住まわせる場合、本邸より規模は劣るが、貴族らしい邸として大規模な工事が必要となる。そうでなければ、金回りが良くないと噂され、家名に傷が付く。要するに、貴族の見栄だ。だが、使用人の家であれば、小屋のような家でもおかしくはない。これなら庭師を増やすというていで建てれば、面目は保たれる。そこにシーナを住まわせればいい、と全員が頷いた。学園入学の三日前に完成させるよう、大工には伝えてある。シーナをギリギリまで呼ばない口実だ。
 学園に通うに必要最低限の物だけを用意し、体裁は調えた。
 入学まであと二週間もない、そんなある日。アビアント家に王家から手紙が届く。
 「旦那様、王家は何と?」
 晩餐の席で、夫人が侯爵に声をかける。
 「ああ、三日後に登城するようにと。おまえたちも来るようにと仰せだ」
 侯爵の言葉に、嫡男ユーリと長女ラーナが顔を見合わせる。
 「全員ですか?何かありましたか?」
 いぶかしむユーリに、侯爵は首を振る。
 「わからん。だが、準備はしておいてくれ」
 わからないながらも、三人は頷いた。

………
……


 「もう入学まで二週間もないというのに、未だにシーナが王都に来たという報せがないのは何故かしら」
 登城して通された部屋には、王家が揃っていた。
 挨拶を済ませると、王女システィアが開口一番、そう言った。
 「外遊から戻れば、シーナが王都に来たという連絡が来ているだろうと思っていたの」
 アビアント家は、ドッと冷や汗が流れる。
 「けれど、連絡はなかったと言われたわ。戻って一週間以上経つけれど、未だに連絡がないの」
 「あ、え、と」
 表情はない。けれど、その怒りがヒシヒシと伝わってくる。予想外の呼び出し理由に、アビアント侯爵は、言葉が上手く出て来ない。
 「わたくし、言ったわよね、アビアント侯爵。“学園に通えば、毎日一緒よ。今から楽しみだわ。領地から戻ったら報せてね”、と。これを聞いて、おまえはどう思ったのかしら。シーナに会えることを楽しみにしていると、伝わらなかったのかしら。だから、未だにシーナを王都にということなのかしらね」
 何とか怒りを静めなくては。精霊王の加護を持つ世界の至宝を、敵に回すようなことをしてはならない。
 「は、あの、シーナは、体が」
 「アビアント侯爵」
 “体が弱く、王都の空気があまり合わないため、ギリギリまで領地にいさせてあげようとした。”
 焦る頭でそう切り抜けようとして、第一王子リュクスに遮られた。
 「言葉には気を付けよ。虚偽を口にした時点で、おまえの、首と胴体は別れる。心して話されよ」
 牽制された。それはつまり、シーナがどういう状態か知っているということ。アビアント侯爵家の誰もの顔色は悪い。
 まさかシーナのことで呼び出されたなんて、思いもしない。
 シーナは領地から出ていないはずだというのに、何故システィアと知り合いなのか。それが解決していなかったが、学園には通わせるのだからいいだろうと判断してしまっていた。
 システィアから、領地から戻ったら報せるよう言われていたのに。
 「システィーからお願いされていましたよね。忘れていましたか?」
 いつも丁寧な口調の第二王子リュセスであるが、今はその丁寧さが恐ろしい。
 「忘れてしまうことは誰にでもあるもの、今回は不問としましょう」
 アビアント家は安堵から、肩の力が抜けた。が。
 「それで?シーナは学園には通うのでしょう?王都にはいつ?」
 ビクリと体を震わせ、大量に汗を流しながら、しどろもどろに答える。
 「にゅ、入学式、み、っか、前、に、ごさい、ます」
 王家は溜め息をいた。
 「そう。嘘をかなかったことは認めましょう。そんなにシーナを蔑ろにして、何がしたいの、おまえたちは」
 嘘ではないと知っていることに、アビアント家は冷や汗が止まらない。
 「嘘ではないとわかることが不思議かしら」
 システィアは笑った。



*つづく*
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