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 精霊王。

 すべての精霊の頂点に君臨する、精霊の王。
 あらゆる属性を従え、あらゆる恩恵をもたらす至高の存在。

 それが、精霊王という存在だった。この存在を確認出来た者はない。しかし確かに古い文献では、精霊王の存在は記されていた。そして精霊が近くにある精霊の使いたちには、その存在を確かに感じるのだ。故に、その存在を見たことがなくても、
 あまりに遠い存在のため、世界は精霊の使いと一部の人間くらいしかその存在を覚えていない。先も述べた通り、遠すぎる存在なのだ。そのため、滅多に人の口にのぼらない。

 それこそが、もう、殆どの人が忘れてしまった、古い古い昔話。


 ”その精霊は、探している。”
 ”たったひとりを、探している。”


 そんな存在が、加護を与えているだけではなく、その姿を顕現させた。
 それは、”その精霊”が、”たったひとり”に辿り着いたということ。

 「ティア、システィア、我が伴侶。やっと、こちらに迎えられる」
 あまりにも作り物めいたシスティアのその美貌が、誰の目にもわかるほど幸せそうな笑顔を見せた。その表情を見て、察する。
 ああ、精霊王様がお迎えにいらっしゃることをご存知だったのだ。
 だから、淡く微笑んでいたのだ。
 と。
 「ケイ、ふふ。迎えに来てくれたのですね。でも、気が早いのではなくて?」
 そう言うや否や、システィアは精霊王の腕の中にいた。
 「早くない。待った。すごく待った。早く行こう」
 七歳で精神が精霊界へ行ける。十四で肉体ごと。契りを結べば、ゆっくり精霊へと肉体が変化する。変化をしている間は、どちらの世界も行き来することになる。それは、その世界の空気に体が慣れていないためだ。人間の要素が強い間は人間界にいることが多いが、精霊の要素が強まれば、精霊界にいることが多くなる。その体が完全に精霊となった時、人間界に姿を見せることはなくなる。
 「ふふ、ええ、参りましょう。それでは皆さま、本日はわたくしのためにありがとう。わたくしはこれにて失礼いたしますわ。皆さま、ごゆっくり楽しまれてくださいませ」

 こうして王女システィアは、精霊王の加護を持っていたことが知られ、世界に類を見ない尊い存在となった。


*~*~*~*~*


 「王女殿下が精霊王様の加護をお持ちだと、国中、いえ、世界中が大騒ぎです」
 王都から離れたアビアントの地にも、その吉報は即座に届いた。
 その日、季節に関係なく世界中で花が咲き乱れたことで、どうしたことかと世界中が大騒ぎとなっていたところへ、数日の間に世界中が知ることとなったこの吉報。パニックに近いほどのお祭り騒ぎとなった。
 シーナの好きなブレンドティーに、たっぷりのミルクを注ぎながら、リイザは嬉しそうに言った。
 「そう。王家も鼻が高いわね」
 嬉しそうにミルクティーに口をつけるシーナを見つめて、リイザは首を傾げた。
 「どうしたの、リイザ」
 「いえ、わたくし、シーナ様が精霊王様の加護をお持ちだと思っておりましたので」
 その言葉に、即座にシーナは眉を寄せる。
 「私が?やだ、やめてよ。あんな嫉妬剥き出しの重~い愛、私に合わないわ」
 「シーナ様は、精霊王様に会われたことがあるのですね」
 凄すぎる存在が知り合いだというのに、相変わらずのシーナの口調に驚きつつ、やはりシーナ様は凄い、とリイザは尊敬の眼差しを向けていると、とんでもないことを言われた。
 「あら?言わなかったかしら?いつも話をしているクロスケよ、精霊王って」
 おーう。
 リイザは遠い目をした。

 精霊界から戻ると、いつもシスティア王女殿下の奪い合いをしている話は聞いていた。奪い合いをしている相手は“クロスケ”という精霊。精霊は自身の名前を教えることはないと言う。そのため、シーナ様が適当に呼んでいると思っていたが、名前の感じから闇の精霊かと思っていたのだが。
 まさかの精霊王様でした。

 気を取り直して、再び疑問に思う。では、シーナ様の強すぎる力は何なのだろう、とリイザは美味しそうにプリンを頬張るシーナを見つめるのだった。



*つづく*

次話、現在に戻ります。話が過去だったり現在だったりちょっと過去だったりとわかりづらくて申し訳ありません。
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