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19.真相 中編
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「十八年前、一人の少女が儚くなりました。少女の名はアルテイル」
アルテイルの名に、会場のざわめきが一層大きくなる。
「王妃の女官として勤めていたアルテイル。その立場を利用して影ではやりたい放題。ついには王妃の座まで欲しくなり、王に近付き、袖にされたことに屈辱と怒りを燃やす。時期を見て毒殺せんと企むも、失敗に終わり、処刑された稀代の悪女、だったかな」
ジュラヴァルタまであと数メートルのところで、仮面の男は立ち止まった。護衛と側近が最大の警戒をしている。
「アルテイルが処刑されたときの年齢、知っているか、ジュラヴァルタ」
不敬にも王を呼び捨てる。だが誰もそんなこと気にもしていない。話の内容が、最近市井を賑わせている噂を彷彿とさせるからだ。
国王は国民を奸計で処刑する。
「十八。アルテイルは、十八だった」
仮面の男は、プレゼントの箱のリボンを解き、箱から中を取り出す。映像を保存する魔道具だ。
「即位して十八年。王の椅子に座れた期間は長かったか、短かったか」
「やめろ!やめてくれ!」
叫ぶジュラヴァルタを全員が見る。
「懺悔の時間だ」
映像には、王太子だった頃のジュラヴァルタ。そして、美しい少女、アルテイルが映っていた。
仮面の男は再び語る。
「ひとりの美しい娘がいました。王妃付きの女官です。艶めく黄金の髪に、とろりと溶けそうな蜂蜜色の瞳。粉砂糖をまぶしたような真っ白な肌に、ふっくらと桜色の頬。誰の目にも美しい女性でした。名前はアルテイル。その容姿に相応しく、その心根もとても穏やかで優しい娘でした。そんなアルテイルにも、恋人がいました。平々凡々な男です。何がアルテイルの琴線に触れたのでしょう。不思議なくらい釣り合わないふたり。けれど、アルテイルはその恋人を愛していたのです」
流れる映像には、何度も言い寄るジュラヴァルタ。それを懸命に頭を下げて断るアルテイル。
なんだ、これは。
全員が仮面の男の言葉と映像に目を見張る。
「そんなふたりに転機が訪れます。なんとアルテイルが王太子に見初められたのです。王族の誘いを断ることは出来ない。それでもアルテイルは抵抗しました。愛する人がいるのです。もうすぐ結婚するのです。けれど、そんなこと王太子には関係ありません。正妃はすでにいる。子どもだって二人の男児と一人の女児。側妃など不要。ただの愛妾とするべく、王太子はアルテイルに執着したのです」
無理矢理抱き締め、強引に迫るジュラヴァルタ。泣きながら、必死に止めるよう懇願するアルテイル。
「嘘だ!こんなの嘘だ!私を陥れようとしているんだ!」
喚くジュラヴァルタをチラリと見るが、みんなすぐに映像へと視線を戻す。
「どんなに誘っても一向に靡かないアルテイル。ついに王太子は我慢の限界を迎えます。「手に入らないならもういい。私に恥をかかせた罰だ。おまえはこの世で最も重い罪を犯した罪人として処刑されろ」」
怒りに染まった顔のジュラヴァルタが、アルテイルを指しながら言った。その言葉と仮面の男の言葉がユニゾンする。誰もがジュラヴァルタを見た。
「やめろ、やめろやめろやめてくれ!もうやめろおおおぉぉ!」
「ああ、可哀相なアルテイル。ありもしない罪を着せられ、王太子の溜飲を下げるためだけに使われた命。こうしてアルテイルは市中引き回しの上公開処刑。落とされた首は三ヶ月晒し者にされ、火炙り。決して生まれ変われないよう、その体は骨まで焼き尽くされ、永劫常世の住人に」
誰も、言葉がなかった。
そんなことのために、そこまで重い罪を着せるその神経が信じ難い。
「アルテイルのありもしない罪により、シンディニア伯爵夫妻は毒杯を呷り、シンディニア家はお取り潰し。最後まで愛娘を信じ、謝罪の言葉を口にすることなく、潔く散った夫妻の冥福を祈ろう」
仮面の男は魔道具をしまった。
「無実の罪で首を切られ、たった十八という若さで儚くなったアルテイル。おまえの子どもたちも同じ。何の罪もない。ただおまえの子どもに生まれたというだけで、十八で儚くならねばならなかった」
コツコツと仮面の男はジュラヴァルタに向かって歩き出す。尚も愚王を護ろうとする護衛と側近を、無詠唱の風魔法で吹き飛ばす。
コツリ。
蹲るジュラヴァルタの前に立った。
「どんな気持ちだ、ジュラヴァルタ。子どもたちの死の真相を知って、今おまえは、何を思う」
ジュラヴァルタを浮遊魔法で持ち上げ、自分の視線と合わせる。
「それとも、そんなことより自分のことが心配か、ジュラヴァルタ」
仮面の男は、その仮面に手をかける。ゆっくりと、ジュラヴァルタにだけ、その素顔が晒される。
「初めまして、国王陛下。おまえは私を知らないだろう」
*つづく*
アルテイルの名に、会場のざわめきが一層大きくなる。
「王妃の女官として勤めていたアルテイル。その立場を利用して影ではやりたい放題。ついには王妃の座まで欲しくなり、王に近付き、袖にされたことに屈辱と怒りを燃やす。時期を見て毒殺せんと企むも、失敗に終わり、処刑された稀代の悪女、だったかな」
ジュラヴァルタまであと数メートルのところで、仮面の男は立ち止まった。護衛と側近が最大の警戒をしている。
「アルテイルが処刑されたときの年齢、知っているか、ジュラヴァルタ」
不敬にも王を呼び捨てる。だが誰もそんなこと気にもしていない。話の内容が、最近市井を賑わせている噂を彷彿とさせるからだ。
国王は国民を奸計で処刑する。
「十八。アルテイルは、十八だった」
仮面の男は、プレゼントの箱のリボンを解き、箱から中を取り出す。映像を保存する魔道具だ。
「即位して十八年。王の椅子に座れた期間は長かったか、短かったか」
「やめろ!やめてくれ!」
叫ぶジュラヴァルタを全員が見る。
「懺悔の時間だ」
映像には、王太子だった頃のジュラヴァルタ。そして、美しい少女、アルテイルが映っていた。
仮面の男は再び語る。
「ひとりの美しい娘がいました。王妃付きの女官です。艶めく黄金の髪に、とろりと溶けそうな蜂蜜色の瞳。粉砂糖をまぶしたような真っ白な肌に、ふっくらと桜色の頬。誰の目にも美しい女性でした。名前はアルテイル。その容姿に相応しく、その心根もとても穏やかで優しい娘でした。そんなアルテイルにも、恋人がいました。平々凡々な男です。何がアルテイルの琴線に触れたのでしょう。不思議なくらい釣り合わないふたり。けれど、アルテイルはその恋人を愛していたのです」
流れる映像には、何度も言い寄るジュラヴァルタ。それを懸命に頭を下げて断るアルテイル。
なんだ、これは。
全員が仮面の男の言葉と映像に目を見張る。
「そんなふたりに転機が訪れます。なんとアルテイルが王太子に見初められたのです。王族の誘いを断ることは出来ない。それでもアルテイルは抵抗しました。愛する人がいるのです。もうすぐ結婚するのです。けれど、そんなこと王太子には関係ありません。正妃はすでにいる。子どもだって二人の男児と一人の女児。側妃など不要。ただの愛妾とするべく、王太子はアルテイルに執着したのです」
無理矢理抱き締め、強引に迫るジュラヴァルタ。泣きながら、必死に止めるよう懇願するアルテイル。
「嘘だ!こんなの嘘だ!私を陥れようとしているんだ!」
喚くジュラヴァルタをチラリと見るが、みんなすぐに映像へと視線を戻す。
「どんなに誘っても一向に靡かないアルテイル。ついに王太子は我慢の限界を迎えます。「手に入らないならもういい。私に恥をかかせた罰だ。おまえはこの世で最も重い罪を犯した罪人として処刑されろ」」
怒りに染まった顔のジュラヴァルタが、アルテイルを指しながら言った。その言葉と仮面の男の言葉がユニゾンする。誰もがジュラヴァルタを見た。
「やめろ、やめろやめろやめてくれ!もうやめろおおおぉぉ!」
「ああ、可哀相なアルテイル。ありもしない罪を着せられ、王太子の溜飲を下げるためだけに使われた命。こうしてアルテイルは市中引き回しの上公開処刑。落とされた首は三ヶ月晒し者にされ、火炙り。決して生まれ変われないよう、その体は骨まで焼き尽くされ、永劫常世の住人に」
誰も、言葉がなかった。
そんなことのために、そこまで重い罪を着せるその神経が信じ難い。
「アルテイルのありもしない罪により、シンディニア伯爵夫妻は毒杯を呷り、シンディニア家はお取り潰し。最後まで愛娘を信じ、謝罪の言葉を口にすることなく、潔く散った夫妻の冥福を祈ろう」
仮面の男は魔道具をしまった。
「無実の罪で首を切られ、たった十八という若さで儚くなったアルテイル。おまえの子どもたちも同じ。何の罪もない。ただおまえの子どもに生まれたというだけで、十八で儚くならねばならなかった」
コツコツと仮面の男はジュラヴァルタに向かって歩き出す。尚も愚王を護ろうとする護衛と側近を、無詠唱の風魔法で吹き飛ばす。
コツリ。
蹲るジュラヴァルタの前に立った。
「どんな気持ちだ、ジュラヴァルタ。子どもたちの死の真相を知って、今おまえは、何を思う」
ジュラヴァルタを浮遊魔法で持ち上げ、自分の視線と合わせる。
「それとも、そんなことより自分のことが心配か、ジュラヴァルタ」
仮面の男は、その仮面に手をかける。ゆっくりと、ジュラヴァルタにだけ、その素顔が晒される。
「初めまして、国王陛下。おまえは私を知らないだろう」
*つづく*
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