32 / 33
番外編
それぞれの婚約者話 ガイアス×ルルーナ
しおりを挟む
「ガイ、明日の御前試合、差し入れは何が良いかしら」
「ルナが大変ではないなら、はちみつが嬉しい」
ガイアスの言う“はちみつ”とは、レモンのはちみつ漬けのことだ。
「まったく大変ではないわ。寧ろ簡単すぎるものよ」
「嬉しい。ルナのはちみつ、家のものと違う。世界一」
ルルーナの無口な婚約者殿は、こうしてルルーナには饒舌(?)だ。そして強面なのに、笑うととても可愛い。
ほんわりと笑うガイアスに、ルルーナはいつもメロメロだった。
*~*~*~*~*
ガイアスは甘い物が苦手である。
だが、何かしらの試合の時は、「戦いは頭脳戦!体力勝負!汗だくだく!はい、レモンのはちみつ漬け!」と、母親と姉が大量に持たせてくれる。家族の心遣いを無碍に出来るはずもなく、同僚たちといただいてはいたのだが、三枚食べることが限界だった。
甘い物が苦手だと知らなかった頃、ルルーナも差し入れをした。試合の時はご家族がご用意なさるのですよね、と普段の訓練時に持っていったのだ。僅かに固まったガイアスに、ルルーナは失敗を悟る。
「ごめんなさい。ご迷惑、でしたわね」
努めて明るく振る舞い、仕舞おうとするルルーナの手を掴んだ。
「すまない、ルルーナ嬢。ルルーナ嬢の気遣い、すごく嬉しい。言わなかった私が悪い。本当は、甘い物が、苦手、だ」
ルルーナは目をぱちくりさせた。
婚約者を傷つけてしまった申し訳なさから、自分の恥を晒してルルーナの心を守ってくれたガイアス。口元を手で覆い、好き嫌いがあることを恥ずかしそうに目を逸らしながらそう伝えるガイアスに、ルルーナは心から嬉しそうに笑った。
「わたくしの至らなさを責めもせず、ご自身を晒してくださったガイアス様に、心より感謝いたします。次の機会を下さるなら、ガイアス様のお好きなものをご用意させていただいても?」
「いや、こちらが、悪い。傷つけて、申し訳ない。気遣いに、感謝する」
ペコリと頭を下げるガイアスに、ルルーナは慌てた。
「ガイアス様、お止めくださいませっ」
「あの、ルルーナ嬢、その、良かったら、ルルーナ嬢の差し入れ、いただける、だろうか」
頭を上げるよう懇願するルルーナに、尚も頭を下げたままガイアスはそう言った。
「え?いえ、ご無理をなさらなくても」
今度はおろおろと狼狽えるルルーナ。
「あんな態度をとっておいて、何を、と思うだろうけど、本当に、嬉しいんだ」
顔を上げないガイアスの耳や首が真っ赤になっていることに気付いたルルーナは、じんわりと頬が熱を持っていくのを感じた。
「食べても、いいか?」
顔だけチラリと上げた真っ赤な顔のガイアスに、ルルーナの心拍数は、かつてないほど跳ね上がる。
「も、もちろんですわ。あの、本当に、ムリをなさらないでくださいね」
おずおずと差し出された容器を、ガイアスは嬉しそうに受け取ると、いただきます、とパクリ。固唾をのんで見守るルルーナ。
ガイアスが、ピタリと止まった。
「ガ、ガイアス様、出して大丈夫ですっ。さあ、吐き出しぅえ?」
いきなりもの凄い勢いで食べ始めたガイアスに、ルルーナは唖然とする。あっという間に容器は空になり、それでも名残惜しそうにジッと空の容器を見つめるガイアス。
「ガイアス、様?」
お預けをくらった子犬、いや、大型犬のような目で、ルルーナを見て、ガイアスは言った。
「もっと、食べたい」
ルルーナの心臓は撃ち抜かれた。
*~*~*~*~*
「はい、これ。くれぐれも怪我だけは気を付けてね、ガイ」
ルルーナからはちみつを受け取ると、嬉しそうな大型犬からお花が飛び散る。
「ルナ、いつもありがとう」
ガイアスは、そっとルルーナの頬にくちづけを落とす。
「頑張る姿、見てて、ルナ」
真っ赤になりながら、全力でしっぽを振る大型犬が、手を振って去って行く。
ルルーナは、ガイアスの唇が触れた頬を押さえながら、頭から湯気を大量に放出していた。
*おしまい*
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
これにて番外編終了となります。
HOTランキング入りもいたしまして、たくさんの方の目に触れる機会をいただけたことに、感謝いたします。
たくさんのお気に入り登録、しおり、エールにいいねを、本当にありがとうございました。
また思い出してお読みいただけると作者冥利につきます。
それではまた、別の作品でもお会い出来ることを願って。
「ルナが大変ではないなら、はちみつが嬉しい」
ガイアスの言う“はちみつ”とは、レモンのはちみつ漬けのことだ。
「まったく大変ではないわ。寧ろ簡単すぎるものよ」
「嬉しい。ルナのはちみつ、家のものと違う。世界一」
ルルーナの無口な婚約者殿は、こうしてルルーナには饒舌(?)だ。そして強面なのに、笑うととても可愛い。
ほんわりと笑うガイアスに、ルルーナはいつもメロメロだった。
*~*~*~*~*
ガイアスは甘い物が苦手である。
だが、何かしらの試合の時は、「戦いは頭脳戦!体力勝負!汗だくだく!はい、レモンのはちみつ漬け!」と、母親と姉が大量に持たせてくれる。家族の心遣いを無碍に出来るはずもなく、同僚たちといただいてはいたのだが、三枚食べることが限界だった。
甘い物が苦手だと知らなかった頃、ルルーナも差し入れをした。試合の時はご家族がご用意なさるのですよね、と普段の訓練時に持っていったのだ。僅かに固まったガイアスに、ルルーナは失敗を悟る。
「ごめんなさい。ご迷惑、でしたわね」
努めて明るく振る舞い、仕舞おうとするルルーナの手を掴んだ。
「すまない、ルルーナ嬢。ルルーナ嬢の気遣い、すごく嬉しい。言わなかった私が悪い。本当は、甘い物が、苦手、だ」
ルルーナは目をぱちくりさせた。
婚約者を傷つけてしまった申し訳なさから、自分の恥を晒してルルーナの心を守ってくれたガイアス。口元を手で覆い、好き嫌いがあることを恥ずかしそうに目を逸らしながらそう伝えるガイアスに、ルルーナは心から嬉しそうに笑った。
「わたくしの至らなさを責めもせず、ご自身を晒してくださったガイアス様に、心より感謝いたします。次の機会を下さるなら、ガイアス様のお好きなものをご用意させていただいても?」
「いや、こちらが、悪い。傷つけて、申し訳ない。気遣いに、感謝する」
ペコリと頭を下げるガイアスに、ルルーナは慌てた。
「ガイアス様、お止めくださいませっ」
「あの、ルルーナ嬢、その、良かったら、ルルーナ嬢の差し入れ、いただける、だろうか」
頭を上げるよう懇願するルルーナに、尚も頭を下げたままガイアスはそう言った。
「え?いえ、ご無理をなさらなくても」
今度はおろおろと狼狽えるルルーナ。
「あんな態度をとっておいて、何を、と思うだろうけど、本当に、嬉しいんだ」
顔を上げないガイアスの耳や首が真っ赤になっていることに気付いたルルーナは、じんわりと頬が熱を持っていくのを感じた。
「食べても、いいか?」
顔だけチラリと上げた真っ赤な顔のガイアスに、ルルーナの心拍数は、かつてないほど跳ね上がる。
「も、もちろんですわ。あの、本当に、ムリをなさらないでくださいね」
おずおずと差し出された容器を、ガイアスは嬉しそうに受け取ると、いただきます、とパクリ。固唾をのんで見守るルルーナ。
ガイアスが、ピタリと止まった。
「ガ、ガイアス様、出して大丈夫ですっ。さあ、吐き出しぅえ?」
いきなりもの凄い勢いで食べ始めたガイアスに、ルルーナは唖然とする。あっという間に容器は空になり、それでも名残惜しそうにジッと空の容器を見つめるガイアス。
「ガイアス、様?」
お預けをくらった子犬、いや、大型犬のような目で、ルルーナを見て、ガイアスは言った。
「もっと、食べたい」
ルルーナの心臓は撃ち抜かれた。
*~*~*~*~*
「はい、これ。くれぐれも怪我だけは気を付けてね、ガイ」
ルルーナからはちみつを受け取ると、嬉しそうな大型犬からお花が飛び散る。
「ルナ、いつもありがとう」
ガイアスは、そっとルルーナの頬にくちづけを落とす。
「頑張る姿、見てて、ルナ」
真っ赤になりながら、全力でしっぽを振る大型犬が、手を振って去って行く。
ルルーナは、ガイアスの唇が触れた頬を押さえながら、頭から湯気を大量に放出していた。
*おしまい*
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
これにて番外編終了となります。
HOTランキング入りもいたしまして、たくさんの方の目に触れる機会をいただけたことに、感謝いたします。
たくさんのお気に入り登録、しおり、エールにいいねを、本当にありがとうございました。
また思い出してお読みいただけると作者冥利につきます。
それではまた、別の作品でもお会い出来ることを願って。
338
お気に入りに追加
782
あなたにおすすめの小説
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
夫に離縁が切り出せません
えんどう
恋愛
初めて会った時から無口で無愛想な上に、夫婦となってからもまともな会話は無く身体を重ねてもそれは変わらない。挙げ句の果てに外に女までいるらしい。
妊娠した日にお腹の子供が産まれたら離縁して好きなことをしようと思っていたのだが──。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
旦那様、愛人を作ってもいいですか?
ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。
「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」
これ、旦那様から、初夜での言葉です。
んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと?
’18/10/21…おまけ小話追加
行き場を失った恋の終わらせ方
当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」
自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。
避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。
しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……
恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。
※他のサイトにも重複投稿しています。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる