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番外編
それぞれの婚約者話 ガイアス×ルルーナ
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「ガイ、明日の御前試合、差し入れは何が良いかしら」
「ルナが大変ではないなら、はちみつが嬉しい」
ガイアスの言う“はちみつ”とは、レモンのはちみつ漬けのことだ。
「まったく大変ではないわ。寧ろ簡単すぎるものよ」
「嬉しい。ルナのはちみつ、家のものと違う。世界一」
ルルーナの無口な婚約者殿は、こうしてルルーナには饒舌(?)だ。そして強面なのに、笑うととても可愛い。
ほんわりと笑うガイアスに、ルルーナはいつもメロメロだった。
*~*~*~*~*
ガイアスは甘い物が苦手である。
だが、何かしらの試合の時は、「戦いは頭脳戦!体力勝負!汗だくだく!はい、レモンのはちみつ漬け!」と、母親と姉が大量に持たせてくれる。家族の心遣いを無碍に出来るはずもなく、同僚たちといただいてはいたのだが、三枚食べることが限界だった。
甘い物が苦手だと知らなかった頃、ルルーナも差し入れをした。試合の時はご家族がご用意なさるのですよね、と普段の訓練時に持っていったのだ。僅かに固まったガイアスに、ルルーナは失敗を悟る。
「ごめんなさい。ご迷惑、でしたわね」
努めて明るく振る舞い、仕舞おうとするルルーナの手を掴んだ。
「すまない、ルルーナ嬢。ルルーナ嬢の気遣い、すごく嬉しい。言わなかった私が悪い。本当は、甘い物が、苦手、だ」
ルルーナは目をぱちくりさせた。
婚約者を傷つけてしまった申し訳なさから、自分の恥を晒してルルーナの心を守ってくれたガイアス。口元を手で覆い、好き嫌いがあることを恥ずかしそうに目を逸らしながらそう伝えるガイアスに、ルルーナは心から嬉しそうに笑った。
「わたくしの至らなさを責めもせず、ご自身を晒してくださったガイアス様に、心より感謝いたします。次の機会を下さるなら、ガイアス様のお好きなものをご用意させていただいても?」
「いや、こちらが、悪い。傷つけて、申し訳ない。気遣いに、感謝する」
ペコリと頭を下げるガイアスに、ルルーナは慌てた。
「ガイアス様、お止めくださいませっ」
「あの、ルルーナ嬢、その、良かったら、ルルーナ嬢の差し入れ、いただける、だろうか」
頭を上げるよう懇願するルルーナに、尚も頭を下げたままガイアスはそう言った。
「え?いえ、ご無理をなさらなくても」
今度はおろおろと狼狽えるルルーナ。
「あんな態度をとっておいて、何を、と思うだろうけど、本当に、嬉しいんだ」
顔を上げないガイアスの耳や首が真っ赤になっていることに気付いたルルーナは、じんわりと頬が熱を持っていくのを感じた。
「食べても、いいか?」
顔だけチラリと上げた真っ赤な顔のガイアスに、ルルーナの心拍数は、かつてないほど跳ね上がる。
「も、もちろんですわ。あの、本当に、ムリをなさらないでくださいね」
おずおずと差し出された容器を、ガイアスは嬉しそうに受け取ると、いただきます、とパクリ。固唾をのんで見守るルルーナ。
ガイアスが、ピタリと止まった。
「ガ、ガイアス様、出して大丈夫ですっ。さあ、吐き出しぅえ?」
いきなりもの凄い勢いで食べ始めたガイアスに、ルルーナは唖然とする。あっという間に容器は空になり、それでも名残惜しそうにジッと空の容器を見つめるガイアス。
「ガイアス、様?」
お預けをくらった子犬、いや、大型犬のような目で、ルルーナを見て、ガイアスは言った。
「もっと、食べたい」
ルルーナの心臓は撃ち抜かれた。
*~*~*~*~*
「はい、これ。くれぐれも怪我だけは気を付けてね、ガイ」
ルルーナからはちみつを受け取ると、嬉しそうな大型犬からお花が飛び散る。
「ルナ、いつもありがとう」
ガイアスは、そっとルルーナの頬にくちづけを落とす。
「頑張る姿、見てて、ルナ」
真っ赤になりながら、全力でしっぽを振る大型犬が、手を振って去って行く。
ルルーナは、ガイアスの唇が触れた頬を押さえながら、頭から湯気を大量に放出していた。
*おしまい*
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
これにて番外編終了となります。
HOTランキング入りもいたしまして、たくさんの方の目に触れる機会をいただけたことに、感謝いたします。
たくさんのお気に入り登録、しおり、エールにいいねを、本当にありがとうございました。
また思い出してお読みいただけると作者冥利につきます。
それではまた、別の作品でもお会い出来ることを願って。
「ルナが大変ではないなら、はちみつが嬉しい」
ガイアスの言う“はちみつ”とは、レモンのはちみつ漬けのことだ。
「まったく大変ではないわ。寧ろ簡単すぎるものよ」
「嬉しい。ルナのはちみつ、家のものと違う。世界一」
ルルーナの無口な婚約者殿は、こうしてルルーナには饒舌(?)だ。そして強面なのに、笑うととても可愛い。
ほんわりと笑うガイアスに、ルルーナはいつもメロメロだった。
*~*~*~*~*
ガイアスは甘い物が苦手である。
だが、何かしらの試合の時は、「戦いは頭脳戦!体力勝負!汗だくだく!はい、レモンのはちみつ漬け!」と、母親と姉が大量に持たせてくれる。家族の心遣いを無碍に出来るはずもなく、同僚たちといただいてはいたのだが、三枚食べることが限界だった。
甘い物が苦手だと知らなかった頃、ルルーナも差し入れをした。試合の時はご家族がご用意なさるのですよね、と普段の訓練時に持っていったのだ。僅かに固まったガイアスに、ルルーナは失敗を悟る。
「ごめんなさい。ご迷惑、でしたわね」
努めて明るく振る舞い、仕舞おうとするルルーナの手を掴んだ。
「すまない、ルルーナ嬢。ルルーナ嬢の気遣い、すごく嬉しい。言わなかった私が悪い。本当は、甘い物が、苦手、だ」
ルルーナは目をぱちくりさせた。
婚約者を傷つけてしまった申し訳なさから、自分の恥を晒してルルーナの心を守ってくれたガイアス。口元を手で覆い、好き嫌いがあることを恥ずかしそうに目を逸らしながらそう伝えるガイアスに、ルルーナは心から嬉しそうに笑った。
「わたくしの至らなさを責めもせず、ご自身を晒してくださったガイアス様に、心より感謝いたします。次の機会を下さるなら、ガイアス様のお好きなものをご用意させていただいても?」
「いや、こちらが、悪い。傷つけて、申し訳ない。気遣いに、感謝する」
ペコリと頭を下げるガイアスに、ルルーナは慌てた。
「ガイアス様、お止めくださいませっ」
「あの、ルルーナ嬢、その、良かったら、ルルーナ嬢の差し入れ、いただける、だろうか」
頭を上げるよう懇願するルルーナに、尚も頭を下げたままガイアスはそう言った。
「え?いえ、ご無理をなさらなくても」
今度はおろおろと狼狽えるルルーナ。
「あんな態度をとっておいて、何を、と思うだろうけど、本当に、嬉しいんだ」
顔を上げないガイアスの耳や首が真っ赤になっていることに気付いたルルーナは、じんわりと頬が熱を持っていくのを感じた。
「食べても、いいか?」
顔だけチラリと上げた真っ赤な顔のガイアスに、ルルーナの心拍数は、かつてないほど跳ね上がる。
「も、もちろんですわ。あの、本当に、ムリをなさらないでくださいね」
おずおずと差し出された容器を、ガイアスは嬉しそうに受け取ると、いただきます、とパクリ。固唾をのんで見守るルルーナ。
ガイアスが、ピタリと止まった。
「ガ、ガイアス様、出して大丈夫ですっ。さあ、吐き出しぅえ?」
いきなりもの凄い勢いで食べ始めたガイアスに、ルルーナは唖然とする。あっという間に容器は空になり、それでも名残惜しそうにジッと空の容器を見つめるガイアス。
「ガイアス、様?」
お預けをくらった子犬、いや、大型犬のような目で、ルルーナを見て、ガイアスは言った。
「もっと、食べたい」
ルルーナの心臓は撃ち抜かれた。
*~*~*~*~*
「はい、これ。くれぐれも怪我だけは気を付けてね、ガイ」
ルルーナからはちみつを受け取ると、嬉しそうな大型犬からお花が飛び散る。
「ルナ、いつもありがとう」
ガイアスは、そっとルルーナの頬にくちづけを落とす。
「頑張る姿、見てて、ルナ」
真っ赤になりながら、全力でしっぽを振る大型犬が、手を振って去って行く。
ルルーナは、ガイアスの唇が触れた頬を押さえながら、頭から湯気を大量に放出していた。
*おしまい*
最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。
これにて番外編終了となります。
HOTランキング入りもいたしまして、たくさんの方の目に触れる機会をいただけたことに、感謝いたします。
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