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番外編
ノヴァ
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「スウィーディーは伯爵位だろう?ならば子爵だな。クルードでいいか」
「クルード子爵か。立地的にも良さそうだ」
ノヴァの言葉に、リスランは頷く。王家の持つ爵位の一つ、子爵位クルード。王都から離れ、スウィーディーの領地からも遠く離れている。
ちなみに王家直轄の地は、重要な領地は秘匿されている。そのため、王族とその領地を任されている者以外に、王家の地であると知る者がいない領地がいくつかある。また、跡継ぎがいなくなった、爵位を返上した、などの地も王家管理となるのだが、これは公表もしていないが隠してもいないので、知っている者もいないこともない。クルードは、何代も前のそんな後者の地だった。
「アレは興味を持たないだろう場所だね。万が一知っていても、まず交流はない。だから、ノヴァの身元が発覚することはないよ」
必要時以外、名前すら口にしたくないのだろう。リスランの一つ下の弟であり第二王子フィスランのその心情は理解出来るので、アレ呼びに対してノヴァは何も言わない。
「だが、やはり心配だ。おまえの見目は良すぎる。いくらアレより爵位を下にしても、狙われてしまう気がしてならない」
リスランはそう言って眉を寄せる。
「それはないだろう」
二人の心配を余所に、ノヴァはきっぱりとそう言った。
「何故言い切れるの?」
不思議そうなフィスランと、困惑気味なリスランに、ノヴァは少し考える素振りをして口を開く。
「その娘に狙われるのは、従兄上のように、あー、そうだな、どこか、儚い、印象のある者たちだ」
二人はキョトンとした。構うことなく、ノヴァは続ける。
「特に従兄上のように、一見厳しそうだが、垣間見せる表情や雰囲気に、儚さを纏う者に執着している」
「は?どこから手に入れたんだ、そんな情報」
この短期間で、どこから情報を仕入れたのか。この国に、ノヴァはほとんど知り合いがいない。頼れる者など皆無だというのに。
「その娘の対応の差での共通点を調べた」
「ええ?相変わらず探究心が凄いね」
自分たちより年下と思えないほどしっかりとしたノヴァを、二人は驚愕の思いで見る。
「だが、聞き捨てならんな。私はおまえたちから見ても、そんな、儚いなどと言う危うい空気を出しているのか?」
王族が弱さを晒すなどとんでもない。常に強くあらねば、民が不安になる。つけ入る隙など、誰にも見せてはならない、いや、あってはならない。
ギュッと眉を顰めるリスランに、フィスランは苦笑した。
「儚い、と言うより、うーん、何と言ったらいいのでしょうね」
エロい。
そんなこと言えない。妖艶などと言っても、性的なものを匂わせてしまう。苦肉の策で、ノヴァは“儚い”と言い換えたのだが。リスランはお気に召さなかったようだ。
「でははっきり言わせてもらう。従兄上は妖艶だ。それも魅力の一つだから問題ないが、その娘のように一部のものには垂涎ものなのだろう」
回りくどい説明を止めたノヴァの言葉に、二人は少し頬を染める。指摘されていることに対してではなく。
それも魅力の一つだから
女性だったら勘違いされてしまうような言葉を、さらっと自然に口にすることに対してだ。
しかしノヴァは気にすることなくさっさと話を進める。
「だから私にその娘が興味を向けるとしたら、恋人という立ち位置ではなく、精々アクセサリーだ」
その言葉に、今度は二人、顔を顰める。
人を、“自分を飾るための、優越感に浸るためだけの道具としか見ていない”、と暗に示されたことに、不快感を露わにする。
「調べた結果だけで判断するなら、従兄上がもしその娘より爵位が下だったら、性奴隷にされていたな」
とんでもないことを淡々と告げるノヴァに、二人の顔が引き攣った。
まだスウィーディーに接触はしていないが、調べるほどに、本当に理性があるのかと疑いたくなるものだった。だから余計に、ノヴァは彼女に接してみなくてはならない。上辺だけの判断をされているのかもしれない。彼女の深層では、何か意図しているのかもしれない。
それを見極めるため、ノヴァは彼女と行動しなくては。
自分で判断した結果であれば、彼女が本当のところどうであれ、自分の責任となるのだから。
*おしまい*
「クルード子爵か。立地的にも良さそうだ」
ノヴァの言葉に、リスランは頷く。王家の持つ爵位の一つ、子爵位クルード。王都から離れ、スウィーディーの領地からも遠く離れている。
ちなみに王家直轄の地は、重要な領地は秘匿されている。そのため、王族とその領地を任されている者以外に、王家の地であると知る者がいない領地がいくつかある。また、跡継ぎがいなくなった、爵位を返上した、などの地も王家管理となるのだが、これは公表もしていないが隠してもいないので、知っている者もいないこともない。クルードは、何代も前のそんな後者の地だった。
「アレは興味を持たないだろう場所だね。万が一知っていても、まず交流はない。だから、ノヴァの身元が発覚することはないよ」
必要時以外、名前すら口にしたくないのだろう。リスランの一つ下の弟であり第二王子フィスランのその心情は理解出来るので、アレ呼びに対してノヴァは何も言わない。
「だが、やはり心配だ。おまえの見目は良すぎる。いくらアレより爵位を下にしても、狙われてしまう気がしてならない」
リスランはそう言って眉を寄せる。
「それはないだろう」
二人の心配を余所に、ノヴァはきっぱりとそう言った。
「何故言い切れるの?」
不思議そうなフィスランと、困惑気味なリスランに、ノヴァは少し考える素振りをして口を開く。
「その娘に狙われるのは、従兄上のように、あー、そうだな、どこか、儚い、印象のある者たちだ」
二人はキョトンとした。構うことなく、ノヴァは続ける。
「特に従兄上のように、一見厳しそうだが、垣間見せる表情や雰囲気に、儚さを纏う者に執着している」
「は?どこから手に入れたんだ、そんな情報」
この短期間で、どこから情報を仕入れたのか。この国に、ノヴァはほとんど知り合いがいない。頼れる者など皆無だというのに。
「その娘の対応の差での共通点を調べた」
「ええ?相変わらず探究心が凄いね」
自分たちより年下と思えないほどしっかりとしたノヴァを、二人は驚愕の思いで見る。
「だが、聞き捨てならんな。私はおまえたちから見ても、そんな、儚いなどと言う危うい空気を出しているのか?」
王族が弱さを晒すなどとんでもない。常に強くあらねば、民が不安になる。つけ入る隙など、誰にも見せてはならない、いや、あってはならない。
ギュッと眉を顰めるリスランに、フィスランは苦笑した。
「儚い、と言うより、うーん、何と言ったらいいのでしょうね」
エロい。
そんなこと言えない。妖艶などと言っても、性的なものを匂わせてしまう。苦肉の策で、ノヴァは“儚い”と言い換えたのだが。リスランはお気に召さなかったようだ。
「でははっきり言わせてもらう。従兄上は妖艶だ。それも魅力の一つだから問題ないが、その娘のように一部のものには垂涎ものなのだろう」
回りくどい説明を止めたノヴァの言葉に、二人は少し頬を染める。指摘されていることに対してではなく。
それも魅力の一つだから
女性だったら勘違いされてしまうような言葉を、さらっと自然に口にすることに対してだ。
しかしノヴァは気にすることなくさっさと話を進める。
「だから私にその娘が興味を向けるとしたら、恋人という立ち位置ではなく、精々アクセサリーだ」
その言葉に、今度は二人、顔を顰める。
人を、“自分を飾るための、優越感に浸るためだけの道具としか見ていない”、と暗に示されたことに、不快感を露わにする。
「調べた結果だけで判断するなら、従兄上がもしその娘より爵位が下だったら、性奴隷にされていたな」
とんでもないことを淡々と告げるノヴァに、二人の顔が引き攣った。
まだスウィーディーに接触はしていないが、調べるほどに、本当に理性があるのかと疑いたくなるものだった。だから余計に、ノヴァは彼女に接してみなくてはならない。上辺だけの判断をされているのかもしれない。彼女の深層では、何か意図しているのかもしれない。
それを見極めるため、ノヴァは彼女と行動しなくては。
自分で判断した結果であれば、彼女が本当のところどうであれ、自分の責任となるのだから。
*おしまい*
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